平和外交研究所

11月, 2014 - 平和外交研究所 - Page 3

2014.11.19

オバマ演説を中国はどのように受け止めたか

多維新聞(本稿では以下「多維」)は米国に本拠がある中国語の新聞であり、中国内部に人脈を持ち中国の政治によく通じている。中共中央宣伝部の統制下にはないので、比較的自由に報道できるので、中国でも台湾でも読まれている新聞である。11月16日付の多維はオバマ大統領の演説を、論評を交えつつ報道した。
オバマの「平和で、繁栄し、安定し、かつ世界において責任ある役割を演じる中国を歓迎する」というのは中国が聞きたいことであり、多維がこれを報道したのは当然であるが、それだけでなく、「アジアの安全保障は力や強制や大国による小国のいじめの上に立てられてはならない。相互の安全保障、国際法と確立されている国際規範、および紛争の平和的解決原則に基づかなければならない」「われわれは中国に、他の諸国と同じルールを尊重するよう促している」など中国として歓迎できないことも報道した。客観的であろうとする多維の姿勢を表している。
しかし、香港での民主化要求に関するオバマ大統領の発言については、多維は不快感をあからさまに示し、「オバマ大統領はAPECの際に約束(原文は「承諾」)したことをがらりと変え、香港の中心地の占拠について勝手な(大肆)議論を展開した」という刺激的な見出しにした。この問題は北京での米中首脳会談後の記者会見でも取り上げられ、その時オバマは「米国は香港のデモに関与していない。ただ、米国は表現の自由については主張し続ける。香港の(行政長官を選ぶ)選挙については透明、公平かつ人々の考えを反映したものであることを促す」と述べていた。この発言とブリスベンでの「「香港の人々は普遍的な権利を求めて声をあげている。このアジアでも、世界のどこでも米国は自由で公正な選挙を支持している」「われわれは、タイでもそうしているが、民主的な統治(civilian rule)に早く戻るべきだと促している(注 誰が戻るべきだと言っているかは明示していなかったが、言わずとも明らかであろう)。われわれは集会の自由、言論の自由、プレスの自由、自由でオープンなインターネットを支持している」という発言は、我々が聞くと趣旨は変わらないようにも思われるが、多維、したがってまた中国人からするとかなり違うらしい。多維はオバマが二枚舌を使っていると言わんばかりであった。
多維の報道ぶりは中国人の受け止め方を表していると単純に見るべきでない。多維は、中国外交部のスポークスマン秦剛が、「中国はオバマ大統領が平和で、安定し、発展する中国を歓迎すると述べたことを注目している。中米両首脳が北京会談で達成した合意によれば、両国は多方面にわたって努力を行ない、協調と共同を強化し、相違点と敏感な問題を適切に管理・コントロールし、相互に尊重し、共同でwin winの原則にのっとり、米中間の新型大国関係の建設を進めることに合意している」と述べたことも報道した。中国外交部はやはり、「新型大国関係」について合意がなくてもいかにも合意したかのように言いたいのは別としても、不満を漏らすのは北京会談の成果を自ら否定することになる恐れがあるので差し控えたのであろう。そうであれば、多維の報道ぶりと外交部スポークスマンの発言は矛盾しないものと思われる。

2014.11.18

米国の中国観

(続き)
中国は米国と日本に対し、まったく異なる態度で接した。これに対し、オバマ大統領は中南海で歴史についての会話を楽しんだことを口にするなど米中関係の積極的な面を表に出していたが、中国にとって肝心の「中国は大国である」については、従来同様肯定せず、米国としては「中国がその地位にふさわしい責任あるふるまいをすることを期待する」という以上のことは言わなかった。
その後豪ブリスベンでのG20首脳会議に出席したオバマ大統領が11月15日、クイーンズランド大学で行なった講演は、オブラートに包まれていた米中の違いを浮き彫りにした。オバマ大統領は北京ではホスト役の習近平主席に面と向かって批判的なことを述べるのは差し控えたが、オーストラリアではそのような外交的配慮は必要でなく、持論を存分に展開したのである。
オバマ大統領の演説を貫く主張は、アジア太平洋地域の重視と民主的な政治と自由な経済に対する米国の信念である。そしてオバマはまずこの地域において「米国の持てるあらゆる力を駆使して関与を深める」としつつ同盟の重要性を強調し、日本を真っ先にあげた。また、民主主義は欧米に限られたものでないことを強調するなかでも日本、台湾、韓国という順番で成功例を指摘した。両方とも日本を重視していることを強調する意図を感じさせる言及であった。
オバマはアジア太平洋地域の脅威を論じた際には「領土、離島、岩礁などに関する紛争は国際的な対立を惹起する恐れがある」と指摘した上、「どの国も人々も安全で平和に暮らす権利がある。アジアの安全保障は影響力や強制や大国による小国のいじめに基づいてはならない。相互の安全保障、国際法と確立されている国際規範、および紛争の平和的解決原則に基づかなければならない」と論じた。これは日本が主張している「国際法に基づく解決」をさらにレベルアップしたものであり、中国に向けられ、中国の恣意的な行動をけん制していることは明らかであった。
オバマはさらに、「世界の唯一の超大国として」米国が特別の責任を有していることを論じた。中国を大国と認めていないことを間接的に示したのである。その上で、米国はすべての同盟国の主権、独立および安全保障に鉄のコミットメント(ironclad commitment)をしており、また、われわれは同盟諸国間の協力を拡大する考えである」と述べた。実に力強い発言であった。
さらに、オバマは中国を論じ、「平和で、繁栄し、安定し、かつ世界において責任ある役割を演じる中国を歓迎する」と述べ、また、中国は実際そうしていることも付言しつつ、「われわれは中国に、他の諸国と同じルールを尊重するよう促している。相違があればわれわれは今後も率直に発言していく」「中国との関係、その他の国との関係であれ、われわれの価値や理想をないがしろにするようなことではわれわれのためにならない(We do not benefit from a relationship with China or any other country in which we put our values and our ideals aside)」と言い切った。
さらにオバマは、香港での民主化要求デモに言及し、「香港の人々は普遍的な権利を求めて声をあげている。このアジアでも、世界のどこでも米国は自由で公正な選挙を支持している」「われわれは、タイでもそうしているが、民主的な統治(civilian rule)に早く戻るべきだと促している(注 誰が戻るべきだと言っているかは明示していなかったが、言わずとも明らかであろう)。われわれは集会の自由、言論の自由、プレスの自由、自由でオープンなインターネットを支持している」と断言した。これは北京の記者会見での発言に比べ何段階かレベルアップしたものであり、中国はもちろん注意深くフォローしていた。(続く)
2014.11.17

中国の対米、対日姿勢

北京でのAPEC、それに引き続くオバマ大統領の中国訪問、オーストラリアのブリスベンで開催されたG20首脳会議は日米中3国間の関係でも興味深い出来事となった。
APECは中国が大国であることを誇示する絶好の機会であり、開会式をオリンピック並ににぎにぎしく演出し、各国首脳に強iい印象を植え付けようとした。米国に対しては、清朝以来中国の権力機構の中枢である中南海にオバマ大統領を案内し、そこを舞台にオバマ大統領と個人的な親密さを醸し出す会話をし、中米両国は「新しい大国関係」を築いていくべきだと力説する演出を行なった。歴史を背景としたのは、列強の侵略を受けて弱体化した中国を共産党が立て直したということと、当時米国は中国を助けたということを強調する狙いがあったかもしれない。米国に、中米両国はともに大国であることを認めさせたいという願望は、人民日報に、オバマ大統領がいかにも習近平主席の言葉に全面的に賛成したかのような印象の記事を書かせるおまけまでついた。
一方、習近平主席は日本の安倍首相を冷たくあしらった。「仏頂面」とはまさに両首脳が握手した時の習近平の表情を言い、習近平主席として安倍首相との会見は何の面白味もない、興味もわかないことを強調しているようであった。両首脳の会談が実現する前から、日本側が日中首脳会談を熱望していたということがプレスによって広く流布されていた。事実はそのように一方的なものではなく、中国側としても日本との首脳会談を望んでいたと思われるが、日本が強く要望していたということを中国側は巧みに利用した。とくに、中国内部の反日派、反習近平派などに対して、「日本側がしつこく言ってくるので会ってやったのだ」というメッセージを送るのに習近平の仏頂面は役立ったのであろう。
さらに、中国の新聞ではないが、中国に近い多維新聞などは、岸田外相が11・7合意に関して「尖閣諸島について領有権問題は存在しないという日本政府の立場に変化はない」とか「11・7合意は国際法的拘束力がない」と日本で述べたことを大きく取り上げ、いかにも岸田外相が久しぶりの重要な日中合意を否定し始めているような印象の記事を書いている。これは中国の新聞ではないが、従来からの傾向にかんがみれば中国での見方をかなり忠実に反映している可能性がある。台湾の新聞も岸田外相の発言には注目して報道している。
日本を矮小化し、米国には熱意をもって接するのが中国の方針であるかのような印象があるのである。以上の描写には少なからず推測が混じっており、また、情報が偏っている危険がないではないが、すくなくとも一つの仮説として、今後そのような見方が間違っていないか、時間をかけ検討するに値する。(続く)

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