平和外交研究所

11月, 2014 - 平和外交研究所 - Page 5

2014.11.12

中国漁船によるサンゴ密漁

THEPAGEに11月8日掲載されたもの。

「中国漁船による小笠原諸島周辺海域でのサンゴ密猟が大問題になっています。その数は10月の23日には100隻くらいでしたが、それから急増し、30日には212隻になったと報道されています。中国漁船はさらに伊豆諸島付近にも数十隻現れたようです。あまりに船の数が多く、また、サンゴ採取方法が乱暴なために、直接的に被害を受ける小笠原諸島や伊豆諸島の漁民のみならず住民も強い不安を覚えています。サンゴ礁が破壊されると生態系に深刻な影響が生じます。
中国漁船は日本の領海内ではもちろん、排他的経済水域内でも操業できませんが、違法に赤サンゴなどを取っています。中国国内で非常に高値で売れることが理由のようですが、それにしても200隻以上もの漁船がこの海域に殺到するのは異常なことであり、これは漁船だけの判断でなく、何らかの政治的背景があるかもしれません。中国側は、この海域で豊富に埋蔵されている、将来のエネルギー源として有望なメタンハイドレードを狙って漁船をサンゴ漁の名目で派遣してきた、今回は一種の前哨戦であった可能性も考えられないではありません。
 政治的な背景はともかく、日本としては中国漁船による違法操業に対し法令に従って厳正に対処する必要があります。海上保安庁は11月に入ってすでに5人の中国人船長を逮捕しましたが、取り締まりの対象となる漁船の数は膨大です。太田国土交通相は4日の閣議後の記者会見で、海上保安庁の巡視船を小笠原諸島周辺の海域に追加派遣したことを明らかにしました。巡視船の数などの具体的な配備状況は警備上の理由から公表れていません。
かねてから海上保安庁は尖閣諸島付近海域の警備を重点的に実施してきましたが、今回の小笠原諸島海域での問題発生により、いわば2正面作戦を強いられる結果となっています。菅義偉官房長官は5日の記者会見で、「海上保安庁では大型巡視船、航空機を集中的に投入し、特別態勢を取っている。やりくりして対応しているが、非常に無理があるのは事実だ」「限られた中で懸命の努力をしている」とも語っています。
海上保安庁は現在全部で400隻余りの巡視船・巡視艇・特殊警備救難艇を保有していますが、それではとても対応できず、新しい巡視船を建造中です。しかし、船を建造するにはかなりの時間がかかります。この夏には新型の巡視船が2隻完成し海上保安庁に引き渡されましたが、残りの数隻についても早期の完成が待たれます。
一方、このよう多数の漁船によるサンゴ捕獲は法律が想定していないことであり、船長を逮捕しても軽い罰金で釈放されます。早急に罰則の強化、採取したサンゴの没収などのための立法を行なうことが必要です。
日本のメディアは現在この問題に強い関心を向け、大々的に報道していますが、今後も引き続き状況を密に報道してもらいたく思います。約30年前にも台湾漁船によるサンゴ密漁がありましたが、小笠原諸島海域で密漁している中国漁船の数は異常です。日本としては法令にしたがって対処すべきことは当然ですが、そのためにも海上の警備体制を早急に増強する必要があります。」

2014.11.11

米国の核非人道性会議への参加

米国は、12月にウィーンで開かれる核兵器使用の人道的影響に関する国際会議に参加すると発表した。この会議は、5年に1回の核兵器不拡散条約(NPT)の再検討会議を2015年に開催するために準備を進める過程で、核兵器の非人道性を確立しようとする運動がスイスやノルウェーを中心に起こったのがそもそもの始まりであった。2012年5月NPTの第1回準備委員会でのことであり、その時は核廃絶に熱心な16ヵ国が「核軍縮の人道的側面に関する共同声明」を発表した。それ以来、国連総会の第1委員会(軍縮を審議)や各国がホストする国際会議が開催されるたびに声明に参加する国が増加し、今年の国連総会第1委員会では過去最多の155カ国(昨年は125カ国)が賛成した。
日本は当初参加しなかった。米国の核の傘にありながら、核兵器は非人道的であることを確立する運動には参加できないと考えたからである。しかし、これに対しては、唯一の被爆国としてあまりにも消極的であり、なんとか工夫して声明に参加すべきであるという意見が強まり、政府も改めて検討した結果、2013年10月、第1委員会で初めて参加した。
一方同じ第1委員会で、オーストラリア政府は同じ題名の声明を17カ国連名で発表したが、こちらは「核兵器を禁止するだけでは廃絶できない」「人道の議論と安全保障の議論の両方が重要だ」といったことが強調されており、日本はこの声明にも署名したので両方に署名したこととなり、論議を呼んだ。
これはともかく、米国は今年の第1委員会に至るまで一貫して声明に参加しなかったが、今年末にウィーンで開かれる会議には参加することとしたのである。この新しい決定について米国務省のスポークスマンは11月7日、次の説明を行なっている。
○米国はウィーン会議の議題を注意深く検討し、またホスト国のオーストリアと議論した結果、会議の参加国と建設的な協力(engagement)ができる見通しがあると判断した。
○この会議は核軍縮の交渉、あるいは予備交渉を行なう場ではないと考える。米国はそのような試みには与しない
○ウィーンの会議では米国の考えを説明したい。この会議は米国が達成した重要な進歩と核兵器が2度と使用されないための条件を作り出すのに米国が払った努力に光をあてるよい機会になるであろう。

これまで米国の他ほとんどすべてのNATO諸国は核兵器の非人道性に関する会議に参加しなかった。そのなかにあってノルウェーはこの運動の先頭に立つ異色の存在であった。
一方、フランスはかねてより独自の核戦略理論を持ち、ある意味では米国よりも核兵器の有用性を重視する国であった。米国のウィーン会議参加表明で他のNATO諸国にどのような変化が生じるか、とくにフランスの対応いかんが注目される。

2014.11.09

日中11・7合意を再度論ず

7日に達成された日中合意について両国内部で批判する声も上がっているが、客観的にどのように評価すべきか。どちらが多く譲歩したか。比べる必要もないし、そうすべきでないが、留意しておくべきことがいくつかある。

○この合意により、約3年ぶりとなる日中首脳会談開催の道をつけた意義は大きい。
○中国はこれまで日本政府による尖閣諸島の国有化を目の敵のように攻撃してきたが、国有化問題に触れない内容で合意した。尖閣諸島を日本政府が所有しているという状態は今後も変わらない。
○尖閣諸島に関し「領有権問題は存在しない」という日本政府の立場について合意は何も言っていない。領有権問題について意見の相違があるとも言っていない。「日中両国は尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し」と言っているだけである。日本政府は今後も「領有権問題は存在しない」という立場を維持していくであろう。
○8日付の中国共産党機関紙・人民日報は「中日双方は初めて釣魚島問題について、文字として明確な合意に達した」と指摘した。これは事実上中国政府の公式見解である。「釣魚島問題について明確な合意に達した」と言うが、その合意がどのような内容かが問題であり、それについて合意文書は「両国は尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避すること」が合意内容だと言っている。それ以上のことではない。
○さらに人民日報は、「文字として合意した」と述べている。「文字として」は特に問題視する必要はない。結局重要なことは合意したことの内容である。
○合意文書は、尖閣諸島等東シナ海での緊張状態について、国際法に従って解決を図るべきであるという日本側のかねてからの主張に何も触れていない。双方は「対話と協議」および「危機管理メカニズム」により情勢の悪化を防ぐと言っているが、これに加えて「国際法に従って」と言う一言を挿入したほうがよかったのではないか。もっとも、中国側がそれに触れたくないのは明らかであり、日本側がこれにこだわると合意達成は困難だったかもしれない。実際に日本側からこの点を主張したかどうか知らないが。
○靖国神社参拝については、合意第2項の「双方は、歴史を直視し、未来に向かうという精神に従い、両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた」をどのように解釈するか。合意文書の中で「若干の認識の一致をみた」と言うのはめずらしいどころか、稀有なことである。「若干の認識の一致をみた」とは一致しなかったことがあることを意味している。そうすると、この2項はいわゆるagree to disagreeの一例か。ともかく、靖国神社参拝については、中国は今後も抗議の声を上げ続けるであろう。日本側がそれを完全に無視すると両国関係は再び落ち込むであろう。つまり、歴史問題については明確な合意に至らなかったが、日本側としても一定の配慮が必要である。

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