平和外交研究所

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2016.10.29

(短評)ドゥテルテ大統領訪中のフォローアップ

 フィリピンの排他的経済水域内にあるスカボロー礁で中国の艦船がフィリピンの漁船を妨害している問題について、今回のドゥテルテ大統領の訪中の効果がどのように表れるか注目されていたところ、10月28日、フィリピンのロレンザーナ国防相は、中国船が3日前から、つまり同大統領が中国訪問を終えた4日後から、姿を消していることを公表した。これはまさにドゥテルテ大統領訪中の効果であり、中国側がフィリピン側と交わした約束を実行していることを示すことだ。

 しかし、実情は複雑なようだ。28日付の多維新聞(米国にある中国語新聞)は、ドゥテルテ大統領に同行したフィリピンの議員(中国の表記では「羅可」)の説明としてつぎのような交渉経緯を伝えている。
 「今回の協議で中国側は、中国の漁民がスカボロー礁で漁業に従事することを「許可する」という文言が入った文書に双方が署名することを求め、フィリピン側はこれに回答しなかった。合意は公開されていない。正式に署名もされていない。フィリピン側はもちろん中国が「許可」することを受け入れられない。これは今回の仲裁判決に違反することだ。」

 中国が「許可」することになれば、権利は中国側にあり、フィリピン側はいわば「恩恵」として魚を取らせてもらうことになる。合意文書の文言については現在も中比双方で協議が行われているそうだが、フィリピン側がどこまで中国の圧力をかわせるかを試す試金石になりそうだ。
 協議が終わっても、南シナ海問題は引き続き注目が必要と思う
2016.10.28

ドゥテルテ大統領の訪中、訪日

 ドゥテルテ・フィリピン大統領は日本に来る数日前、中国を訪問し、大歓迎を受け、巨額の経済協力を取り付けた。米国とは距離を置く、あるいは「別れるseparation」などと言う一方、南シナ海問題については中国を刺激しないよう配慮して仲裁判決を持ち出さなかった。日本としては、それらのことはほとんどすべて懸念材料となっていた。
 しかし、日本へ来たドゥテルテ大統領は、過激な発言がなかったわけではないが、全体的に、きわめて自然に語り、行動し、日本側の懸念を巧みに払しょくしたと思う。
 対米関係については、同大統領はたしかに強く思うところがあるようだ。根に持っていると言うほうが適切かもしれない。フィリピンでも、中国でも、日本でも何回も語っているが、「ドゥテルテ大統領来日記念 フィリピン経済フォーラム」では、やや場違いな感じであったが、なぜ米国について厳しいのか長々と語ったそうだ。ドゥテルテ大統領の言いたいのは、フィリピンは米国によって粗末に、ひどく扱われてきたが、今後はフィリピンの尊厳を回復したい、ということらしい。
 米国としては、これまで多方面でフィリピンに協力してきたのに我慢のならない発言であり、ドゥテルテ大統領の真意を確かめる必要があると考えたのは当然だった。フィリピンをいじめたのは一部の米国人だし、それを国家の指導者として誇張すべきでないと思ったかもしれない。米国の気持ちはよくわかるが、ドゥテルテ大統領の言っていることもわかる。 
 ともかく、米比関係が悪化することは両国にとってのみならず、日本にとっても懸念されることだ。今回の訪日においてドゥテルテ大統領の気持ちは日本側によく伝わったと思う。

 日本との関係では、ドゥテルテ大統領の発言には疑問をおこさせる点ははく、むしろ配慮が目立った。中国との関係を緊密化する一方、日本との関係も重視することについて、中国との関係強化は「経済面のことだ」と明言しつつ、日本とは長年の友好関係があり、また特定の分野に限らず全面的に良好だと際立たせた。これだけズバリと言えるのはやはりドゥテルテ大統領の人柄なのだろう。中国は、多額の支援を約束したが、役割を限定され、不快視している可能性がある。
 ドゥテルテ大統領はさらに、「フィリピンはいつも日本の側に立つ」と述べた。尖閣諸島を念頭に置いて、東シナ海と南シナ海は類似した状況にある、とくに中国との関係で同じ立場にあることを指摘したのだ。日比両国の安全保障上の最大の懸念を的確に、しかも歯切れよくついている。なかなかの見識だ。
 同大統領は、仲裁裁判の判決を習近平主席と「棚上げ」することに合意したと報道されたことがあるが、そのような事実はない。かれらは南シナ海問題を平和的に解決することには合意した。またドゥテルテ大統領は判決を持ち出さなかったのは事実だ。しかし、それ以上のことでない。今回の訪中で判決を持ち出さなかったのは、そうすると習近平主席と友好的な会談ができなくなり、中国訪問が失敗に終わるからだ。ドゥテルテ大統領の表現を借りれば、経済重視で臨んだからだということなのだろう。
 判決については、「今は話したくない」と言っている。ドゥテルテ大統領は判決がフィリピンにとって極めて有利であり、大きな力となることを当然承知しているが、当面はそれを直接ぶつけるのではなく、背景として中国と向き合うのがよいと考えているのだと思う。ドゥテルテ大統領は考えずに発言する印象があるが、実際にはよく考えているようだ。
 
2016.10.24

(短評)台湾の脱原発方針決定

 台湾の政府は10月20日、2025年までに原発をゼロにすることを決定した。そのために台湾の電気事業法の改正が必要だが、与党民進党が多数を占める立法院では年内にも可決する可能性が高いそうだ。台湾で脱原発を求める声が強くなったのは福島原発の事故からだ。
 蔡英文総統は脱原発を公約に大統領選を戦ったが、脱原発を実際に実行するのは台湾経済にとって大きな負担となる。台湾だけでないが、経済状況は決してよくない。エネルギーの安定供給が重要であることは日本などと変わらないはずだ。その中での決定であり、反対論は当然強い。
 しかも、蔡英文総統は中国との関係で厳しい世論にさらされている。もっとも、この点で声高に蔡英文総統を批判しているのは中国と、台湾内の新中国派であり、全体の状況は違うかもしれないが、中国との関係は台湾にとって鬼門であり総統として精力を注がなければならないことに変わりはない。
 そのようなときに脱原発という新たな難題を背負い込むわけである。公約とは言え、どうしてそんなことが可能か不思議な気もするが、賢明な判断を果断に下しているようにも思える。ともかく今回の決定は、台湾がどのような国家であるかを知るためにも、また、蔡英文総統の指導力を測るためにも実に興味深い。
 蔡英文総統は政治の観点から論じられることが多いが、経済についても並々ならぬ関心を抱いている。『蔡英文 新時代の台湾へ』という自叙伝は3分の1が経済問題にあてられている。経済といっても大企業ではなく、中小企業を重視しており、女性らしい細やかさで企業や工場を観察し、論じている。蔡英文総統が経済を軽視しているとはとても思えない。。
 
 福島原発事故以来、かなりの年月が経ち、わが国では安全を確保する手立てができているような感じがあるが、肝心のところはあまり変わっていないと思う。とくに、事故は人間のミスで起こることと、地震は、研究が進んでいるが、分からないことがまだ多いことだ。放射能で我々の子孫を幾世代にもわたって苦しめる危険がある原発は完全にやめるべきだという気持ちは拭い去れない。

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