オピニオン
2018.01.31
河野外相の訪中は、同外相が日本外務省の事務方に出した指示で中国側との話が始まり、実現したらしい。河野外相は昨年夏に王毅外相と会った後から、往来を積極的・機動的にしようと考えていたようだ。
在米の華字紙『多維新聞』1月30日付は、「河野外相は、形式的には、中国側から招待を受けて訪中したことになっているが、実質的には河野氏が望んで中国に来たのだ」との趣旨を述べている。同紙は河野氏の訪中を冷ややかな目で見ている。
しかし、中国政府は河野外相を歓待した。王毅外相のみならず、李克強首相も楊潔篪国務委員(王毅外相よりシニア、元外相)も会見なり表敬なりに応じた。河野外相は、「中国側から関係改善への強い意思を感じた」と手応えを語っている。
ただ、王毅外相は河野外相を待つ間不機嫌そうな顔つきだったと一部で報道された。中国の指導者は時折このような表情を示すが、王毅外相がこのような表情であった理由はよくわからない。王毅氏は日本通で知られ、また、合理的な考えの人物であり、それだけに日本人に甘い顔を見せるのではないかと中国内で警戒されている。そのため、メディアにはことさら厳しい表情を見せたのかもしれない。
両外相は両国政府の意見が違う問題についても話し合った。
東シナ海については、河野大臣から,東シナ海は「平和・協力・友好の海」とすべきであり,日中関係の改善を阻害しかねない事態を引き起こすべきではない旨述べ,また、1月11日に中国海軍の潜水艦及び水上艦艇が尖閣諸島周辺の接続水域に入域した事案についても改めて再発防止を強く求めた。
これに対し、王毅外相は強く反発したものと推測されるが、発表されていない。日本外務省の発表が河野大臣の発言だけでおわっているのは、王毅外相の発言がかなりひどかったからだろう。
「中国側の発表によると、王氏は会談で、中国大陸と台湾が一つの国に属するという「一つの中国」原則を維持するよう求め、歴史認識でもクギを刺した。さらに「日本は中国を競合相手ではなくパートナーとし、中国の発展を脅威ではなくチャンスとして見てほしい」と指摘。日本の出方を注視していく考えを示した」とも報道された。これだけであれば、日本外務省がこの点を発表しなかったのは不可解であるが、これは尖閣諸島に関する発言の一部であったために発表に入れられなかったのかもしれない。
一方、東シナ海に関係する防衛当局間の海空連絡メカニズムについては、早期運用開始に向けて日中双方で努力していくことを再確認した。
また,東シナ海の資源開発については、「2008年合意」に従い具体的進展を得るよう引き続き共に努力していくことを確認した。
この二つの問題については、両外相の意見が一致したのである。
全体を通して見て、重要な諸問題について積極的な話し合いが行われ、意見が一致した点も少なくない。今後の日中関係の改善に資する会談であったと思うが、王毅外相が「言葉で表したことを実際の行動に移すよう望む」と注文したことについては懸念がある。日中関係が悪化したのは日本側の責任だと直瀬的に批判する直前で止めているのだが、間接的に批判している。
しかし、そのような一方的な観念こそ日中関係の円滑な発展を妨げる要因になっているのではないか。中国のネットに「日本は信じられない」といった書き込みが続いているが、中国政府の立場を見ての言説ではないか。
売り言葉に買い言葉になってはいけないが、日本側としても巧みに反論することが期待される。
河野外相の訪中―発表と報道から読み取れること
河野外相は1月28日、北京で中国の王毅外相と会談した。日中両国間のハイレベル往来、経済関係の強化、国民交流の促進などを含め、日中関係の改善について有意義な話し合いが行われたのは、外務省の発表や報道で伝えられている通りであるが、いくつかさらに注目すべきことがある河野外相の訪中は、同外相が日本外務省の事務方に出した指示で中国側との話が始まり、実現したらしい。河野外相は昨年夏に王毅外相と会った後から、往来を積極的・機動的にしようと考えていたようだ。
在米の華字紙『多維新聞』1月30日付は、「河野外相は、形式的には、中国側から招待を受けて訪中したことになっているが、実質的には河野氏が望んで中国に来たのだ」との趣旨を述べている。同紙は河野氏の訪中を冷ややかな目で見ている。
しかし、中国政府は河野外相を歓待した。王毅外相のみならず、李克強首相も楊潔篪国務委員(王毅外相よりシニア、元外相)も会見なり表敬なりに応じた。河野外相は、「中国側から関係改善への強い意思を感じた」と手応えを語っている。
ただ、王毅外相は河野外相を待つ間不機嫌そうな顔つきだったと一部で報道された。中国の指導者は時折このような表情を示すが、王毅外相がこのような表情であった理由はよくわからない。王毅氏は日本通で知られ、また、合理的な考えの人物であり、それだけに日本人に甘い顔を見せるのではないかと中国内で警戒されている。そのため、メディアにはことさら厳しい表情を見せたのかもしれない。
両外相は両国政府の意見が違う問題についても話し合った。
東シナ海については、河野大臣から,東シナ海は「平和・協力・友好の海」とすべきであり,日中関係の改善を阻害しかねない事態を引き起こすべきではない旨述べ,また、1月11日に中国海軍の潜水艦及び水上艦艇が尖閣諸島周辺の接続水域に入域した事案についても改めて再発防止を強く求めた。
これに対し、王毅外相は強く反発したものと推測されるが、発表されていない。日本外務省の発表が河野大臣の発言だけでおわっているのは、王毅外相の発言がかなりひどかったからだろう。
「中国側の発表によると、王氏は会談で、中国大陸と台湾が一つの国に属するという「一つの中国」原則を維持するよう求め、歴史認識でもクギを刺した。さらに「日本は中国を競合相手ではなくパートナーとし、中国の発展を脅威ではなくチャンスとして見てほしい」と指摘。日本の出方を注視していく考えを示した」とも報道された。これだけであれば、日本外務省がこの点を発表しなかったのは不可解であるが、これは尖閣諸島に関する発言の一部であったために発表に入れられなかったのかもしれない。
一方、東シナ海に関係する防衛当局間の海空連絡メカニズムについては、早期運用開始に向けて日中双方で努力していくことを再確認した。
また,東シナ海の資源開発については、「2008年合意」に従い具体的進展を得るよう引き続き共に努力していくことを確認した。
この二つの問題については、両外相の意見が一致したのである。
全体を通して見て、重要な諸問題について積極的な話し合いが行われ、意見が一致した点も少なくない。今後の日中関係の改善に資する会談であったと思うが、王毅外相が「言葉で表したことを実際の行動に移すよう望む」と注文したことについては懸念がある。日中関係が悪化したのは日本側の責任だと直瀬的に批判する直前で止めているのだが、間接的に批判している。
しかし、そのような一方的な観念こそ日中関係の円滑な発展を妨げる要因になっているのではないか。中国のネットに「日本は信じられない」といった書き込みが続いているが、中国政府の立場を見ての言説ではないか。
売り言葉に買い言葉になってはいけないが、日本側としても巧みに反論することが期待される。
2017.12.29
日韓間では、この問題の「最終的かつ不可逆的」な解決をうたった2015年合意の交渉過程などを調べていた韓国の外相直属の検証チームが、27日、検証結果を発表した。その内容は、「元慰安婦の意見が十分反映されなかった」、「不均衡な合意が一層不均衡になった」、「政府間で最終的・不可逆的解決を宣言したとしても問題は再燃するしかない」などであった。
文在寅大統領は翌日、日韓合意は「手続き上も内容上も重大な欠陥があったと確認された」とし、「両首脳の追認を経た政府間の公式的な約束という重みはあるが、この合意では慰安婦問題は解決されない」などと表明した。
これに対し河野外相は、訪問先のトルコ・アンカラで、「韓国政府がすでに実施に移されている合意を変更しようとするなら、日韓関係が管理不能となり、断じて受け入れられない」と、検証結果と文氏の発言を明確に拒否するとともに、合意に従って解決を図ることの重要性を強調した。当然の反応だったと思う。
文在寅大統領の声明が日本に対し再交渉を求めていなかったことは評価できるが、そもそも文在寅政権の慰安婦問題についての対応は中途半端な印象が強い。
最大の問題は、日韓の合意を一方的に否定しても事態は改善しないことである。国家間の合意は尊重していかなければ、正常な関係は維持できない。韓国側は、日本側の国際法と国際常識に基づく立場は岩のように堅固であることを容易に予測できたはずだのに、あえて検証を始めたのは賢明でなかったのではないか。
日本の常識と韓国の常識がずれているという問題はあろう。韓国政府は、前政権がしたことを覆す。米国との間のTHAAD配備問題についても前政権が実行したことを覆そうとした。
しかし、それでは相手の国は困る。到底認められない。外交の常識から言えば、こちらの主張が100%正しいとは言えないかもしれない、相手方の主張もよく聞かなければならないが、慰安婦問題については、2年前の合意のほか、韓国から可能な具体策を聞いたことがない。安倍首相に謝罪を求めているが、日韓合意でも謝罪しているし、十数年前、橋本首相は謝罪の手紙を被害者に送っている。
一方、国際社会での慰安婦問題をめぐる状況も悪化している。この面では、国連だけで慰安婦問題に関係する委員会がいくつかあり、また、米国各地で慰安婦問題を取り上げようとする動きがあるので、メディアとしても報道しにくいのだろうが、ともかく日本国内にはわかりやすく伝えられていない。日韓間の状況の報道に比べると、数分の一程度である。
いずれにしても、2年前の「女子差別撤廃委員会」(1979年採択の条約の運用状況をモニターし、必要な措置について国別に勧告を行う場。条約の締約国数は現在189)での日本審査以降、国際社会の状況は日本にとって厳しさを増している。
「拷問禁止委員会」が2017年5月、慰安婦問題に関する日韓合意について「見直すべきだ」とする勧告を含む「最終見解」を公表したことはその表れであった。
サンフランシスコ市と大阪市との間のやり取りは、政府間のことでないが、慰安婦問題全体について日本側のイメージダウンを助長した恐れがある。
日本では、慰安婦問題というと日韓間のことに注意が向きがちであるが、国際社会の状況はある意味では日韓の問題より深刻である。今後、国連などでどのように対応すべきか、徹底した検討が必要である。
悪化しつつある慰安婦問題
慰安婦問題については、日韓間の動向と国際的な状況(国連や米国など)は関連がないわけではないが、区別して見ていく必要がある。日韓間では、この問題の「最終的かつ不可逆的」な解決をうたった2015年合意の交渉過程などを調べていた韓国の外相直属の検証チームが、27日、検証結果を発表した。その内容は、「元慰安婦の意見が十分反映されなかった」、「不均衡な合意が一層不均衡になった」、「政府間で最終的・不可逆的解決を宣言したとしても問題は再燃するしかない」などであった。
文在寅大統領は翌日、日韓合意は「手続き上も内容上も重大な欠陥があったと確認された」とし、「両首脳の追認を経た政府間の公式的な約束という重みはあるが、この合意では慰安婦問題は解決されない」などと表明した。
これに対し河野外相は、訪問先のトルコ・アンカラで、「韓国政府がすでに実施に移されている合意を変更しようとするなら、日韓関係が管理不能となり、断じて受け入れられない」と、検証結果と文氏の発言を明確に拒否するとともに、合意に従って解決を図ることの重要性を強調した。当然の反応だったと思う。
文在寅大統領の声明が日本に対し再交渉を求めていなかったことは評価できるが、そもそも文在寅政権の慰安婦問題についての対応は中途半端な印象が強い。
最大の問題は、日韓の合意を一方的に否定しても事態は改善しないことである。国家間の合意は尊重していかなければ、正常な関係は維持できない。韓国側は、日本側の国際法と国際常識に基づく立場は岩のように堅固であることを容易に予測できたはずだのに、あえて検証を始めたのは賢明でなかったのではないか。
日本の常識と韓国の常識がずれているという問題はあろう。韓国政府は、前政権がしたことを覆す。米国との間のTHAAD配備問題についても前政権が実行したことを覆そうとした。
しかし、それでは相手の国は困る。到底認められない。外交の常識から言えば、こちらの主張が100%正しいとは言えないかもしれない、相手方の主張もよく聞かなければならないが、慰安婦問題については、2年前の合意のほか、韓国から可能な具体策を聞いたことがない。安倍首相に謝罪を求めているが、日韓合意でも謝罪しているし、十数年前、橋本首相は謝罪の手紙を被害者に送っている。
一方、国際社会での慰安婦問題をめぐる状況も悪化している。この面では、国連だけで慰安婦問題に関係する委員会がいくつかあり、また、米国各地で慰安婦問題を取り上げようとする動きがあるので、メディアとしても報道しにくいのだろうが、ともかく日本国内にはわかりやすく伝えられていない。日韓間の状況の報道に比べると、数分の一程度である。
いずれにしても、2年前の「女子差別撤廃委員会」(1979年採択の条約の運用状況をモニターし、必要な措置について国別に勧告を行う場。条約の締約国数は現在189)での日本審査以降、国際社会の状況は日本にとって厳しさを増している。
「拷問禁止委員会」が2017年5月、慰安婦問題に関する日韓合意について「見直すべきだ」とする勧告を含む「最終見解」を公表したことはその表れであった。
サンフランシスコ市と大阪市との間のやり取りは、政府間のことでないが、慰安婦問題全体について日本側のイメージダウンを助長した恐れがある。
日本では、慰安婦問題というと日韓間のことに注意が向きがちであるが、国際社会の状況はある意味では日韓の問題より深刻である。今後、国連などでどのように対応すべきか、徹底した検討が必要である。
2017.12.22
■エルサレムをめぐる歴史的経緯
トランプ大統領は12月6日、ホワイトハウスで演説し、エルサレムをイスラエルの首都と公式に認め、テルアビブにあるアメリカ大使館をエルサレムに移転する手続きを始めるよう国務省に指示したと表明しました。
しかし、これに対し、イスラエルを除く大多数の国は強く批判的な態度を取っています。英仏独などはトランプ大統領の決定に「同意しない」ことを明確に述べました。「認めない」とか「支持しない」とか国によって表現の違いは若干ありますが、今回の決定を明確に批判している点では同じです。
エルサレムをイスラエルの首都とすることがこのように大きな問題になるのは、複雑な歴史と宗教的・民族的・政治的対立があるからです。
第二次大戦後の1947年11月、英国の委任統治下にあったパレスチナで、ユダヤ人とアラブ人の二国家が創設されること、両者の境にあるエルサレムについては、ユダヤ教、イスラム教、キリスト教の聖地であることから、いずれにも属さない「特別市」として国際管理下に置くことが国連で決定されました(パレスチナ分割決議)。
しかし、パレスチナの分割を認めないアラブ諸国はこの決議を受け入れず、1948年5月にイスラエルが建国宣言すると、パレスチナに侵攻(第一次中東戦争)。しかし翌年、イスラエルが国連の分割案より広い範囲を占領する形で戦争は終わりました。
さらに、イスラエルは1967年の第三次中東戦争の結果、それまで支配していなかった東エルサレムを占領し、1980年には東西両地区を含めた「統一エルサレム」をイスラエルの永遠の首都であるとする法律を制定しました。
これにアラブ人は強く反発しました。国連もイスラエルの行為を認めず、安保理は「イスラエル首都法は無効だとして破棄すべきものである」「国際連合加盟国はエルサレムに大使館を置いてはならない」「東エルサレムの統一は無効である」などと決議しました。
しかし、イスラエルは、アラブ人がイスラエルの存在を認めないので安全のためにエルサレム全域を支配する必要があると主張し、国連決議に従いません。この状態が今日まで続いているのです。
イスラエルを強く支持する米国のユダヤ人は不満で、議会で大使館の移転を求める法律を制定(1995年)させたりしましたが、歴代の米国政府は、イスラエルとパレスチナを和解させ共存させることを外交目標とし、大使館の移転は実行しませんでした。
今回のトランプ大統領による大使館移転宣言は、複雑な中東問題を慎重に扱わなければならないという国際社会の意思や歴代の米政権の考えを無視する結果になるので、各国は激烈に批判したのです。
■日本政府の外交方針は?
一方、日本政府はトランプ大統領の決定に直接賛否を表明していません。菅官房長官は7日の記者会見で「国連安全保障理事会の決議などに基づき、当事者間の交渉により解決されるべきだ」とし、河野外相は同日、「中東和平をめぐる状況が厳しさを増し、中東全体の情勢が悪化し得ることを懸念している」とコメントしていますが、いずれも誰(どの国)に対して述べているのか分かりません。日本政府は、要するに、トランプ大統領に対して反対意見を言うことを避けているのです。
わが国のエルサレム問題に関する基本方針は「エルサレムの最終的地位については、将来の二国家(注:イスラエルとパレスチナのこと)の首都となることを前提に、交渉により決定されるべきである。我が国としては,イスラエルによる東エルサレムの併合を含め、エルサレムの最終的地位を予断するいかなる行為も決して是認しない。」というものです(外務省「中東和平についての日本の立場」2015年1月13日)。
中東は我が国にとっても死活的に重要な地域であり、日本政府はアラブ諸国とイスラエルのバランスを失しないよう努めてきました。2014年にネタニヤフ・イスラエル首相が来日し、翌年1月には安倍首相がイスラエルを訪問することになりました。日本とイスラエルの友好関係が増進される機運が高まったのです。そこで、日本政府の基本方針をあらためて明示し、アラブ諸国に対する配慮を示したのです。
米国はイスラエル寄りの立場に立つことが多く、日本は米国と同盟国なのでその影響を受ける傾向が常にあります。かつて第四次中東戦争(1973年)の際には、アラブ諸国から「友好国」とみなされませんでした。中東からの石油輸入が途絶える危険が生じたのです。
しかるに、トランプ氏の宣言はエルサレムの最終的地位を予断(=予めこうだと決めつける意味合いがある)する行為であり、明らかに問題があります。日本政府として北朝鮮問題を含め日本の安全保障に強い理解を示すトランプ氏に反対しにくいのは分からないではありませんが、勇気をもって行動すべきであり、トランプ大統領の大使館移転宣言については、「エルサレムの最終的地位を予断するいかなる行為も是認できない」ことをあらためて明言すべきです。
トランプ氏の言動には、国際社会と相いれないことが増えています。環太平洋パートナーシップ(TPP)協定や地球温暖化防止のためのパリ協定などから一方的に離脱しました。さらにはイランの核開発に関しては、米国はもちろん、ロシア、英国、フランス、中国といった国連安保理の核保有国(P5)を含めて決定したことを認めない姿勢です。
日本は、エルサレムを首都とする米政府の決定は無効だとする国連安保理の決議案には賛成しました。この決議は米国の拒否権で否決されましたが、22日(日本時間)にも国連総会で同様の決議案が採決され、こちらは採択される公算が高いとみられています。
トランプ氏は日本に対する理解者であり、心強いパートナーですが、日本としては、必要な場合には反対意見を述べるべきであり、そうすることにより真の信頼関係が構築されていくと考えます。
エルサレム首都認定「当事者間で」 日本外交の基本的な立場とは?
THE PAGEに以下の一文を寄稿しました。■エルサレムをめぐる歴史的経緯
トランプ大統領は12月6日、ホワイトハウスで演説し、エルサレムをイスラエルの首都と公式に認め、テルアビブにあるアメリカ大使館をエルサレムに移転する手続きを始めるよう国務省に指示したと表明しました。
しかし、これに対し、イスラエルを除く大多数の国は強く批判的な態度を取っています。英仏独などはトランプ大統領の決定に「同意しない」ことを明確に述べました。「認めない」とか「支持しない」とか国によって表現の違いは若干ありますが、今回の決定を明確に批判している点では同じです。
エルサレムをイスラエルの首都とすることがこのように大きな問題になるのは、複雑な歴史と宗教的・民族的・政治的対立があるからです。
第二次大戦後の1947年11月、英国の委任統治下にあったパレスチナで、ユダヤ人とアラブ人の二国家が創設されること、両者の境にあるエルサレムについては、ユダヤ教、イスラム教、キリスト教の聖地であることから、いずれにも属さない「特別市」として国際管理下に置くことが国連で決定されました(パレスチナ分割決議)。
しかし、パレスチナの分割を認めないアラブ諸国はこの決議を受け入れず、1948年5月にイスラエルが建国宣言すると、パレスチナに侵攻(第一次中東戦争)。しかし翌年、イスラエルが国連の分割案より広い範囲を占領する形で戦争は終わりました。
さらに、イスラエルは1967年の第三次中東戦争の結果、それまで支配していなかった東エルサレムを占領し、1980年には東西両地区を含めた「統一エルサレム」をイスラエルの永遠の首都であるとする法律を制定しました。
これにアラブ人は強く反発しました。国連もイスラエルの行為を認めず、安保理は「イスラエル首都法は無効だとして破棄すべきものである」「国際連合加盟国はエルサレムに大使館を置いてはならない」「東エルサレムの統一は無効である」などと決議しました。
しかし、イスラエルは、アラブ人がイスラエルの存在を認めないので安全のためにエルサレム全域を支配する必要があると主張し、国連決議に従いません。この状態が今日まで続いているのです。
イスラエルを強く支持する米国のユダヤ人は不満で、議会で大使館の移転を求める法律を制定(1995年)させたりしましたが、歴代の米国政府は、イスラエルとパレスチナを和解させ共存させることを外交目標とし、大使館の移転は実行しませんでした。
今回のトランプ大統領による大使館移転宣言は、複雑な中東問題を慎重に扱わなければならないという国際社会の意思や歴代の米政権の考えを無視する結果になるので、各国は激烈に批判したのです。
■日本政府の外交方針は?
一方、日本政府はトランプ大統領の決定に直接賛否を表明していません。菅官房長官は7日の記者会見で「国連安全保障理事会の決議などに基づき、当事者間の交渉により解決されるべきだ」とし、河野外相は同日、「中東和平をめぐる状況が厳しさを増し、中東全体の情勢が悪化し得ることを懸念している」とコメントしていますが、いずれも誰(どの国)に対して述べているのか分かりません。日本政府は、要するに、トランプ大統領に対して反対意見を言うことを避けているのです。
わが国のエルサレム問題に関する基本方針は「エルサレムの最終的地位については、将来の二国家(注:イスラエルとパレスチナのこと)の首都となることを前提に、交渉により決定されるべきである。我が国としては,イスラエルによる東エルサレムの併合を含め、エルサレムの最終的地位を予断するいかなる行為も決して是認しない。」というものです(外務省「中東和平についての日本の立場」2015年1月13日)。
中東は我が国にとっても死活的に重要な地域であり、日本政府はアラブ諸国とイスラエルのバランスを失しないよう努めてきました。2014年にネタニヤフ・イスラエル首相が来日し、翌年1月には安倍首相がイスラエルを訪問することになりました。日本とイスラエルの友好関係が増進される機運が高まったのです。そこで、日本政府の基本方針をあらためて明示し、アラブ諸国に対する配慮を示したのです。
米国はイスラエル寄りの立場に立つことが多く、日本は米国と同盟国なのでその影響を受ける傾向が常にあります。かつて第四次中東戦争(1973年)の際には、アラブ諸国から「友好国」とみなされませんでした。中東からの石油輸入が途絶える危険が生じたのです。
しかるに、トランプ氏の宣言はエルサレムの最終的地位を予断(=予めこうだと決めつける意味合いがある)する行為であり、明らかに問題があります。日本政府として北朝鮮問題を含め日本の安全保障に強い理解を示すトランプ氏に反対しにくいのは分からないではありませんが、勇気をもって行動すべきであり、トランプ大統領の大使館移転宣言については、「エルサレムの最終的地位を予断するいかなる行為も是認できない」ことをあらためて明言すべきです。
トランプ氏の言動には、国際社会と相いれないことが増えています。環太平洋パートナーシップ(TPP)協定や地球温暖化防止のためのパリ協定などから一方的に離脱しました。さらにはイランの核開発に関しては、米国はもちろん、ロシア、英国、フランス、中国といった国連安保理の核保有国(P5)を含めて決定したことを認めない姿勢です。
日本は、エルサレムを首都とする米政府の決定は無効だとする国連安保理の決議案には賛成しました。この決議は米国の拒否権で否決されましたが、22日(日本時間)にも国連総会で同様の決議案が採決され、こちらは採択される公算が高いとみられています。
トランプ氏は日本に対する理解者であり、心強いパートナーですが、日本としては、必要な場合には反対意見を述べるべきであり、そうすることにより真の信頼関係が構築されていくと考えます。
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