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2017.12.22

エルサレム首都認定「当事者間で」 日本外交の基本的な立場とは?

THE PAGEに以下の一文を寄稿しました。

■エルサレムをめぐる歴史的経緯
 トランプ大統領は12月6日、ホワイトハウスで演説し、エルサレムをイスラエルの首都と公式に認め、テルアビブにあるアメリカ大使館をエルサレムに移転する手続きを始めるよう国務省に指示したと表明しました。

 しかし、これに対し、イスラエルを除く大多数の国は強く批判的な態度を取っています。英仏独などはトランプ大統領の決定に「同意しない」ことを明確に述べました。「認めない」とか「支持しない」とか国によって表現の違いは若干ありますが、今回の決定を明確に批判している点では同じです。

 エルサレムをイスラエルの首都とすることがこのように大きな問題になるのは、複雑な歴史と宗教的・民族的・政治的対立があるからです。

 第二次大戦後の1947年11月、英国の委任統治下にあったパレスチナで、ユダヤ人とアラブ人の二国家が創設されること、両者の境にあるエルサレムについては、ユダヤ教、イスラム教、キリスト教の聖地であることから、いずれにも属さない「特別市」として国際管理下に置くことが国連で決定されました(パレスチナ分割決議)。

しかし、パレスチナの分割を認めないアラブ諸国はこの決議を受け入れず、1948年5月にイスラエルが建国宣言すると、パレスチナに侵攻(第一次中東戦争)。しかし翌年、イスラエルが国連の分割案より広い範囲を占領する形で戦争は終わりました。

 さらに、イスラエルは1967年の第三次中東戦争の結果、それまで支配していなかった東エルサレムを占領し、1980年には東西両地区を含めた「統一エルサレム」をイスラエルの永遠の首都であるとする法律を制定しました。

 これにアラブ人は強く反発しました。国連もイスラエルの行為を認めず、安保理は「イスラエル首都法は無効だとして破棄すべきものである」「国際連合加盟国はエルサレムに大使館を置いてはならない」「東エルサレムの統一は無効である」などと決議しました。

 しかし、イスラエルは、アラブ人がイスラエルの存在を認めないので安全のためにエルサレム全域を支配する必要があると主張し、国連決議に従いません。この状態が今日まで続いているのです。

 イスラエルを強く支持する米国のユダヤ人は不満で、議会で大使館の移転を求める法律を制定(1995年)させたりしましたが、歴代の米国政府は、イスラエルとパレスチナを和解させ共存させることを外交目標とし、大使館の移転は実行しませんでした。

 今回のトランプ大統領による大使館移転宣言は、複雑な中東問題を慎重に扱わなければならないという国際社会の意思や歴代の米政権の考えを無視する結果になるので、各国は激烈に批判したのです。

■日本政府の外交方針は?
 一方、日本政府はトランプ大統領の決定に直接賛否を表明していません。菅官房長官は7日の記者会見で「国連安全保障理事会の決議などに基づき、当事者間の交渉により解決されるべきだ」とし、河野外相は同日、「中東和平をめぐる状況が厳しさを増し、中東全体の情勢が悪化し得ることを懸念している」とコメントしていますが、いずれも誰(どの国)に対して述べているのか分かりません。日本政府は、要するに、トランプ大統領に対して反対意見を言うことを避けているのです。

 わが国のエルサレム問題に関する基本方針は「エルサレムの最終的地位については、将来の二国家(注:イスラエルとパレスチナのこと)の首都となることを前提に、交渉により決定されるべきである。我が国としては,イスラエルによる東エルサレムの併合を含め、エルサレムの最終的地位を予断するいかなる行為も決して是認しない。」というものです(外務省「中東和平についての日本の立場」2015年1月13日)。

 中東は我が国にとっても死活的に重要な地域であり、日本政府はアラブ諸国とイスラエルのバランスを失しないよう努めてきました。2014年にネタニヤフ・イスラエル首相が来日し、翌年1月には安倍首相がイスラエルを訪問することになりました。日本とイスラエルの友好関係が増進される機運が高まったのです。そこで、日本政府の基本方針をあらためて明示し、アラブ諸国に対する配慮を示したのです。

 米国はイスラエル寄りの立場に立つことが多く、日本は米国と同盟国なのでその影響を受ける傾向が常にあります。かつて第四次中東戦争(1973年)の際には、アラブ諸国から「友好国」とみなされませんでした。中東からの石油輸入が途絶える危険が生じたのです。

 しかるに、トランプ氏の宣言はエルサレムの最終的地位を予断(=予めこうだと決めつける意味合いがある)する行為であり、明らかに問題があります。日本政府として北朝鮮問題を含め日本の安全保障に強い理解を示すトランプ氏に反対しにくいのは分からないではありませんが、勇気をもって行動すべきであり、トランプ大統領の大使館移転宣言については、「エルサレムの最終的地位を予断するいかなる行為も是認できない」ことをあらためて明言すべきです。

 トランプ氏の言動には、国際社会と相いれないことが増えています。環太平洋パートナーシップ(TPP)協定や地球温暖化防止のためのパリ協定などから一方的に離脱しました。さらにはイランの核開発に関しては、米国はもちろん、ロシア、英国、フランス、中国といった国連安保理の核保有国(P5)を含めて決定したことを認めない姿勢です。

 日本は、エルサレムを首都とする米政府の決定は無効だとする国連安保理の決議案には賛成しました。この決議は米国の拒否権で否決されましたが、22日(日本時間)にも国連総会で同様の決議案が採決され、こちらは採択される公算が高いとみられています。

トランプ氏は日本に対する理解者であり、心強いパートナーですが、日本としては、必要な場合には反対意見を述べるべきであり、そうすることにより真の信頼関係が構築されていくと考えます。
2017.12.13

前提条件なしの米朝対話

 ティラーソン米国務長官は12月12日、シンクタンク「アトランティック・カウンシル(Atlantic Council)」の政策フォーラムで、「われわれは前提条件なしに北朝鮮と第1回会合を行う用意がある。会うだけ会って、話したければ天気の話でもして、気分が乗れば、会合のテーブルを四角いのにするか円いのにするか話せばいい」と発言した。これは評価すべき発言である。
 米国の立場は、公式な場では、対話を始めるには、北朝鮮が「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)」を実行しなければならないというものであり、この方針は日本も共有している。
 しかし、実際にはこの方針を維持したまま北朝鮮の非核化を実現できるとはだれも思わない状況になっていた。
 その中で、ティラーソン長官はかねてより、北朝鮮に対して圧力をかける方針を維持しつつ、対話についても前向きの姿勢を示していたが、今回の発言のように、前提条件を付けずに話し合いに応じる姿勢を示したのは初めてであり、非常に注目される。ティラーソン長官は北朝鮮との関係において一歩前に踏み出したと言える。

 当然、トランプ大統領の姿勢が問われる。同大統領は表面的には安倍首相と全く同じであり、「今、対話をすべきでない。あくまで圧力を強める必要がある」ということであるが、トランプ氏は対話について幅のある姿勢であり、一方で、圧力を強くすることだけを主張する安倍首相に同意しつつ、他方、文在寅大統領には、対話によって解決を図る可能性にも言及し、また習近平主席にも安倍首相とは異なる物言いをしていた(詳しくは『世界』2018年新年号「トランプ大統領のアジア歴訪と安倍外交」を参照されたい)。
 ティラーソン長官が今回の発言を行うに際して、事前にトランプ大統領の了解を得ていたか不明であるが、トランプ氏と協議していなくてもトランプ氏の幅のある対応から判断すれば、了解してもらえると考えていた可能性がある。

 ただし、今回の発言だけでは事態がさらに前進するとはまだ言えないだろう。ティラーソン氏の国務長官としての地位は不安定であり、近日中に辞職するとも、しないともいわれている。
 そんな問題もあるが、北朝鮮は今回のティラーソン氏の発言を重く受け止めるべきである。北朝鮮が何らかの肯定的反応を示せれば、朝鮮半島、さらには東アジア全域におよぶ大惨事を回避するきっかけとなりうる。北朝鮮側では、核とミサイルの実験を控えることが考えられるが、積極的にティラーソン発言を受け止めていることを示すだけならば、他にも方法があろう。
 米国としてもさらになすべきことがある。北朝鮮は猜疑的な見方をするので、さらなるサインを出すことが望ましい。韓国との合同演習を暫定的であってもよい、停止することなどもあるが、トランプ大統領自身が前向きの姿勢を示すことができれば事態は大きく変わってくる。あるいはそこへ至る前に、ティラーソン長官が李容浩外相と前提条件なく話し合うのが現実的な方策かもしれない。

 米朝関係は1950年以来、あまりにもこじれ、複雑化しているだけに、今回の前提条件なしの話し合い提案は貴重である。緊張がかつてなく高まっている今日、双方が危険回避に向けさらなる一歩を踏み出すことを期待したい。
 日本政府には、緊張激化と偶発戦争の危険しか見えてこない「圧力一本やり」と、戦争許容を含む「すべての選択肢支持」をやめてもらいたい。

2017.12.11

トランプ大統領のエルサレム首都宣言

 トランプ大統領は12月6日、ホワイトハウスで演説し、公式にエルサレムをイスラエルの首都と認め、テルアビブにあるアメリカ大使館をエルサレムに移転する手続きを始めるよう国務省に指示したと表明した。

 これに対し、イスラエルを除く大多数の国は強く批判的な態度を取っている。英仏独などはトランプ大統領の決定に「同意しない」ことを明確に述べている。「認めない」とか、「支持しない」とか国によって表現の違いは若干あるが、今回の決定を明確に批判している点では同じである。

 一方、日本政府はトランプ大統領の決定に直接賛否を表明していない。菅官房長官は7日の記者会見で「国連安全保障理事会の決議などに基づき、当事者間の交渉により解決されるべきだ」とし、河野外相は同日、「中東和平を巡る状況が厳しさを増し、中東全体の情勢が悪化し得ることを懸念している」とコメントしているが、いずれも誰(どの国)に対して述べているのか分からない表明であり、他人ごとのように見ている印象が強い。要するに、トランプ大統領に対してものを言うことを避けているのだ。

 日本の中東外交に関する基本方針によれば、「エルサレムの最終的地位については,将来の二国家(注 イスラエル及びパレスチナのこと。我が国は2012年,パレスチナに非加盟オブザーバー国家の地位を付与する国連総会決議に対し賛成票を投じた。)の首都となることを前提に,交渉により決定されるべきである。我が国としては,イスラエルによる東エルサレムの併合を含め,エルサレムの最終的地位を予断するいかなる行為も決して是認しないことを強調し,パレスチナ人の住居破壊及び入植活動の継続等,東エルサレムの現状変更の試みについて深い憂慮を表明している。」(外務省「中東和平についての日本の立場」2015年1月13日)である。

 要するに、日本は「エルサレムの最終的地位を予断するいかなる行為も決して是認しない」はずであるが、トランプ氏の決定を正面からは批判しにくい。だから外務省幹部は、「鮮明な立場を表明しない玉虫色の姿勢しかない」と語っている(『朝日新聞』12月8日)のだろう。

 トランプ氏に反対しにくいのは分からないではないが、日本政府はトランプ氏の機嫌を損なわないことを外交の方針としているように聞こえる。さらに踏み込んで言えば、官邸を牛耳っている人たちは、複雑な外交において単純な方針を強要し、人事権を背景に外務省などに異を唱えることを許さないのではないか。加計学園問題をめぐって文科省で起こったことと同じ構図の問題が起こっているのではないか。

 安倍首相とトランプ大統領の特殊な関係はいずれ終わることも考慮すべきだ。今はどの国からも決定的な批判・攻撃をされないよう逃げ回ることが実益にかなっているように見えても、今回のトランプ決定に対する対応(の不存在)がもたらす中東外交への悪影響は計り知れない。
 トランプ大統領はイランの核開発に関しても、米国はもちろん西側の主要国、国連安保理のP5をも含めて決定したことを認めない姿勢である。しかも、トランプ大統領は今回のエルサレム問題にしてもイランの核開発にしても説得力のある判断理由を示したことがない。
 将来、トランプ政権は日本政府に対し自衛隊の海外派兵を求めてくる可能性がある。安倍首相は国会で、自衛隊を海外に派遣しないと答弁したが、2015年に改正された安保法制では可能である。今回のエルサレム首都宣言問題から始まって自衛隊の海外派遣問題にまで心配するのはいきすぎだろうか。
 今、日本政府に必要なのは、日本が築いてきた外交方針とそぐわないことがトランプ政権から出てくる場合、日本らしさ、日本の主体性を維持していくことである。今回のエルサレム問題はそのことを象徴しているように思われる。

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