平和外交研究所

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2023.05.23

G7広島サミットでの核軍縮の成果

 G7広島サミット(5月19~21日)では広範な分野にわたって首脳による議論が行われ、全体として成果があったといえるが、核軍縮については批判的な見方が少なくない。本稿では積極的に評価できることを含め、二、三指摘したい。

 「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」については、クリミア併合でG8からG7になってから初めての独立の核軍縮文書であるというが、それだけでは大したことにならない。

 核の抑止力については、「我々の安全保障政策は、核兵器は、それが存在する限りにおいて、防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、並びに戦争及び威圧を防止すべきとの理解に基づいている。」と、核がいつまでも残ることを示唆する文言がよかったか疑問が残る。これは多くの人が指摘していることである。

 今回のG7では、「核兵器のない世界」を実現する決意や道筋が示されなかったというのもその通りである。首脳コミュニケでも、また広島ビジョンでもうたわれた「(核兵器のない世界は)全ての者にとっての安全が損なわれない形で、現実的で、実践的な、責任あるアプローチを通じて達成される、核兵器のない世界という究極の目標に向けた我々のコミットメントを再確認する。」はNPT6条と同じ趣旨である。

 今回のG7の最大の、というか、もっとも印象的なことはG7首脳による平和記念資料館訪問にあった。

 広島と長崎への原爆投下は今でも日米間のみならず、世界にとっても深い傷跡となって残っている。このことについては様々な見方があるが、政治的観点からの観察・分析も必要である。

 米国大統領の資料館訪問については米国内に賛否両論があり、訪問すべきでないとする声は強い。オバマ元大統領は2016年5月、米国大統領として初めて広島を訪問し、資料館も訪れた。オバマ氏は強い反対意見を乗り越えて訪問を実現させたのであり、画期的、歴史的出来事であった。

 また、国際的にも原爆投下を利用しようとする動きがある。米国に批判的な国にとっては、広島・長崎は米国が非人道的な行為を行ったことの象徴としてとらえ、また機会を見つけてはそのことを宣伝に使った。オバマ氏が資料館を訪問したのは約10分間に限られていたのはこのような状況を反映していた。

 今次G7では、首脳は約40分を資料館訪問にあてた。これを短いとする意見もないではないが、これを国際政治の中で見れば長かった。

 時間ですべてを図ることはできないが、バイデン大統領は今次資料館訪問により、政治的困難を一歩乗り越えた。もちろん、核兵器のない世界の実現にはまだ程遠い。しかし、核廃絶について甲論乙駁が飛び交い、また核の抑止力を維持する必要性がうたわれる中で、現実の行動として一歩前進したことの意義は非常に大きい。

 平和記念資料館においてG7首脳が記帳した内容も注目される。岸田首相とバイデン大統領だけが「核兵器の廃絶」を最終目標としてではあったが、明言した。他の首脳は犠牲者に対する慰霊が主たるメッセージであった。

 岸田首相は「歴史に残るG7サミットの機会に議長として各国首脳と共に「核兵器のない世界」をめざすためにここに集う」と記帳した。

 バイデン氏は「この資料館で語られる物語が、平和な未来を築くことへの私たち全員の義務を思い出させてくれますように。世界から核兵器を最終的に、そして、永久になくせる日に向けて、共に進んでいきましょう。信念を貫きましょう!」と、世界は核の廃絶へ進まなければならないという信念をはっきりと記した。文言は抽象的であり、いわゆる道筋ではなく、バイデン氏の記帳を過大評価できないが、注目すべきことであった。

 今回のG7広島サミットでは、韓国の尹錫悦大統領が韓国人原爆犠牲者を慰霊したことも注目された。尹氏はこれまで日韓関係の改善のためにおおきな努力を払っており、尹氏の平和記念公園訪問はさらなる前進となろう。
2023.03.30

ミャンマーにおける民主政党の登録抹消

 ミャンマーで3月28日、アウンサンスーチー氏が率いる政党「国民民主連盟」(NLD)が政党資格を失った。形式的には、国軍が今年1月26日、党員数などを定めた政党登録法を発表し、申請しない政党は資格を抹消するとしていたのに対し、NLDなど約40の政党は政党登録を申請しなかったので政党資格を失ったのである。
 
 NLDは、大勝した2020年総選挙の結果が正当だとしている。国軍側が定めた政党登録法は党員数や党事務所の設置数などの政党要件を定めており、多くの党員が国内外に逃れている現状ではNLDがこれを満たすのは難しいので登録しなかったのである。実質的には国軍側によるNLDの政党資格はく奪であった。

 これに先立って、22年12月、国軍統制下の裁判所はスーチー氏に汚職などで計33年の刑期の有罪判決を下していた。国軍はやり直しの選挙を実施するとしているが、その前に国民からの絶大な支持を受けているスーチー氏とNLDを排除したのである。

 国軍が2021年2月1日、クーデタにより非常事態を宣言して軍政を始めると、欧米各国は厳しく国軍を非難し、国軍幹部らの資産を凍結する制裁を課したが、日本政府はそれとは一線を画し、対話路線を継続してきた。

 経済協力については、日本は西側で最大の供与国である。クーデタ後は途上国支援(ODA)の新規案件を見送ることとしたが、国際機関や非政府組織(NGO)を通した人道支援は続けてきた。

 日本政府は「西側諸国で唯一、国軍とのパイプを持つのが強み」、「ミャンマーにも米欧にも、強力なカードとしてアピールできる」、「外交上のレバレッジ(テコ)になる」などと言ってきたが、日本の方針はミャンマーを民主政治に戻す目標とは矛盾が大きくなりつつある。

 ミャンマーは少数民族が多く、しかもイスラム系のロヒンギャは国民と認められず難民として扱われてきたのが現実であり、そのような状況の中で国軍に頼らざるを得ないのもやむを得ない面がある。しかし、クーデタ以来多数の国民が犠牲になっている。国軍は選挙をやり直し、憲法を新たに制定するとの方針を立てているが、軍の権益が損なわれない内容にしようとしている。これまでの民主化努力に悖ることになっても国軍の利益を守ろうとしているのであり、このようなことは断じて認められない。しかも総選挙を公正に実施し、民主的な憲法を制定できるか見通しは立たなくなっている。

 これまでミャンマーの国軍を支持しているのは中国であり、今後もその点は変わらないだろうが、国軍は急速にロシアとの関係を深めている。中国はミャンマーと国境を接しているだけに影響力は強いが、利害関係は複雑であり、中国の利益にならないことも認めざるを得ない。

 一方、ロシアは中国と並んで国軍への二大武器供給国であり、しかも中国のような複雑な事情はない。特にクーデタ後はミャンマーはロシアにとって数少ない顧客になっている。ミンアウンフライン国軍最高司令官に対するロシアの厚遇ぶりは異常であり、国軍は中国もさることながら、いざとなればロシアに頼ろうとしているのではないか。

 長引く国軍の支配と民主化勢力の弾圧は日本にとって新しい、かつ厄介な問題になりつつある。ミャンマーが今後も日本にとって重要な国であることに疑いはない。しかし、だからと言って、ミャンマーの国民を多数殺傷し、ウクライナを侵略しているロシアと結託する国軍に対してこれまでのような対話路線をとり続けるべきでない。日本は旧来からのミャンマー観を改め、真に必要な外交を展開することが必要になっている。

 来る5月19~21日にはG7広島サミットが開催される。日本政府はミャンマーの軍政を一刻も早く終わらせるため、各国とともに最大限の努力を払わなければならない。
2023.03.23

習近平主席のウクライナ問題についての考え

 中国の習近平主席は3月20日からロシアを訪問。21日プーチン大統領と会談し、共同声明が発表された。

 ロシアはかねてから中国に武器供与を求めていたが、中国は断ってきた。米国のブリンケン国務長官はさる3月19日、中国がロシアに対して「殺傷力のある」兵器と弾薬の提供を検討しているとの見方を示したが、中国政府はこの主張を強く否定した経緯がある。とはいえ、今回習主席がロシアを訪問したからには武器の供与についてなにがしかの肯定的回答をするのではないかと世界中が懸念していたが、この問題について変化があった兆候はない。

 共同声明において明確になったのは、中ロ両国がウクライナに対し一方的に「対話」を迫ったことだけである。ウクライナに侵攻したロシア軍の撤退問題については一言も触れなかった。これでは共同声明で言及しなくてもロシアだけを利することになる。

 習主席とプーチン大統領の会談結果は、同じ日にウクライナの首都キーウで行われた岸田首相とゼレンスキー大統領の会談で、ロシアの侵攻を「違法で不当でいわれのない侵略」と指摘し、「ロシアは、直ちに敵対行為を停止し、ウクライナ全土から全ての軍および装備を即時かつ無条件に撤退させなければならない」と強調したことと対照的であった。

 しかし、プーチン氏が傲慢な態度をとり続けることは誰もが予想できたことであり、この点では習主席とプーチン大統領の会談は何ら驚きでなかった。

 一方、習主席の考えについては不可解な点があった。中国の外務省は今回の首脳会談に先立つ2月24日、「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」を発表していた。その時もウクライナへ侵攻した軍については何も触れず、ウクライナのみに停戦と和平交渉の開始を要求していた。

 習近平主席とプーチン大統領は約3時間も会談し、各国はかたずをのんで見守っていたが、基本的には中国外務省の和平案から一歩も出なかった。まさか習主席としてはその案をプーチン大統領に伝えに行ったのではあるまい。これが第一の疑問点であった。

 中国がロシアとウクライナの間を仲介したいという考えであるのははっきりしている。それなら、ウクライナがロシアとの話し合いに応じることはまず無理としても、今後につながる何らかの糸口でも示すべきであった。だが、それもせず、ウクライナに和平交渉に応じるよう一方的に求めただけであった。これが第二の疑問点である。

 そして推測を重ねることになるが、中国としては、ロシア軍の撤退といっても方法は一つでない。中間案、つまり、ロシアの顔も立てつつウクライナの要求を一定程度満たす方策はありうると考えているのではないか。もちろんそんなことはロシアの侵攻を非難する多数の国は考えもしないことだろうが、中国だけは中間案の内容を当面明確にしない、あいまいな形にしておくのが現実的だと考えていてもおかしくない。そのようなあいまい方式は中国として得意とするところである。習主席がロシアまで行ってプーチン大統領と話し合いをしたのはそのような可能性を探るためだったのではないか。

 ゼレンスキー大統領は中国の考えにどう対応するか。軍事侵攻開始から1年になる際の記者会見で、戦争終結に関する中国の提案(外務省の和平案のことと思われる)について協議するため、習近平主席との会談を計画していると述べたが、ロシア軍の撤退に触れない和平案であれば、習氏との会談も実現しないだろう。かりに何らかの形で実現したとしてもあまり突っ込んだ話し合いにはなりえない。ウクライナにとって多数の国民を殺戮したロシア軍を撤退させない和平案などはありえない。

 米国は3月17日、中国外務省の和平案は「時間稼ぎ作戦」の可能性があると警告した。ブリンケン米国務長官は、「中国やその他の国に支えられてロシアが行う戦術的な動きに、世界はだまされてはならない。ロシアは自分たちに都合の良い条件で、戦争を凍結させようとしている」と指摘し、「ウクライナの領土からロシア軍を排除するという条件を含まない停戦の呼びかけは、事実上、ロシアによる征服の承認支持を意味する」と付け加えた。ロシアの武力侵攻を非難するすべての国の考えを明解に述べている。

 中国がロシアとウクライナの間を取り持とうとしている背景も注意しておく必要がある。米中関係と台湾問題であり、ウクライナとはあまりに遠くかけ離れているが、中国は台湾について次期総統選を見据えて平和攻勢を強めようとしている。ウクライナ問題について平和の実現に努力する姿勢は、台湾における中国のイメージ改善にも役立つ。

 また、ロシアの中国にとっての意味を習氏が見極めようとしている点も見逃せない。中長期的に見れば、ロシアとの友好関係は中国の利益になる面と、必ずしもそうでない面があるはずである。習主席がさる3月1日、ベラルーシのルカシェンコ大統領と北京で会談したのもロシアをトータルに見る一環だったのではないか。

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