平和外交研究所

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2025.03.01

ゼレンスキー・トランプ会談

 2月28日、ホワイトハウスで行われたゼレンスキー大統領とトランプ大統領の会談は決裂に終わり、報道されていた鉱物資源に関する合意は行われなかった。我が国の報道では、ゼレンスキー氏は失敗した、トランプ氏を怒らせてしまったなどという趣旨の報道や評論が見られるが、はたしてそれだけか。

 鉱物資源に関する合意を達成することは今次会談の最重要問題であった。もちろん停戦の合意が喫緊の課題であるが、これは今次会談で直ちに達成できるものでないことは両者が暗黙の裡に了解しており、それは承知の上で鉱物資源に関する合意を先に進めようとしたのだろう。もちろんこれも簡単に楽観的になれることでないが、うまくいけば合意に達することができるとみていたのだろう。

 トランプ氏はゼレンスキー氏にたいしてかなり友好的になった。かつて「独裁者」と呼んだこともあったが、これはゼレンスキー氏がワシントンに来る前にあっさりと撤回した。今回、トランプ氏はゼレンスキー氏をホワイトハウスで出迎え、2人は握手した。「いい会談になるか」という記者団からの質問にトランプ氏は答えなかったが、親指を突き上げてみせた。

 約20分後、大統領執務室で会談が始まった時も和やかだった。トランプ氏は、ウクライナへの支援をめぐる交渉で衝突があったと認めつつ、「両国にとって、とても良い結果となったと思う」「あなたと一緒に働き続ける」と発言。ひところの批判的発言からは想像できない、配慮に満ちた言葉であった。

 ゼレンスキー氏もトランプ氏に感謝の言葉を述べた。両者はお互いに友好ムードを高めあったといえるだろう。

 会談が始まって約40分経ってから異変が起きた。バンス副大統領とゼレンスキー大統領が不必要な言い争いを始めたのである。バンス氏の発言がきっかけであったともいわれているが、ゼレンスキー氏の反論は不用意であった。

これにトランプ氏が加わり、顔を赤くして「ゼレンスキー氏は感謝をしていない」「もっと感謝すべきだ」と述べ、最後は「感謝を示す行動を全く取っていない。それはいいことではない」と言い出し、メディアの退室を求めた。
 
 非公開の会談はすぐに終わった。トランプ氏はまもなく冷静さを取り戻し、SNSに「非常に有意義な会談だった」と投稿した。今次会談が失敗に終わったことは明らかだし、鉱物資源に関する合意はできなかったのだが、それでも会談を「有意義だった」としたことは注目される。トランプ氏の考えはわからない。とくに停戦に関して当事者であるゼレンスキー氏はそっちのけでプーチン氏とだけ話し合おうとする真意はわからないどころか、許せない。また、今回の会談失敗によって資源開発とウクライナの安全保障についての考えは一層わからなくなった。

 しかし、今次会談には積極的意味あったかもしれない。トランプ氏が、米国とロシアが決めれば停戦でもなんでも成就するという、大国のエゴむき出しの考えを改めるきっかけになりうることである。

 トランプ氏が「私は、ゼレンスキー大統領は米国が関与する和平の準備ができていないと判断した。なぜなら、彼は我々の関与が交渉で大きく有利になると思っているからだ」と述べたのは相変わらずの身勝手な発言である。だが、「ゼレンスキー氏は米国が大切にしている大統領執務室で、米国を軽んじた。平和の準備ができたら戻ってくればいい」とも主張している。この言葉は突き放したように聞こえるかもしれないが、最後の「平和の準備ができたら戻ってくればいい」ということばは妙に気になる。なぜなら、この言葉はウクライナが当事者であることを認めているようにも聞こえるからである。
2025.02.26

ウクライナ侵攻問題と鉱物資源取引

2月24日、プーチン露大統領がウクライナへの「特別軍事作戦」を開始してから3年になるが、戦闘はまだ終わっていない。ウクライナ・ロシア双方の死傷者は増え続けている。ウクライナでは4万人以上の民間人が死傷し、領土は約11%で支配権を失った。数百万人のウクライナ人が自宅を離れ、国内の別の場所や国外へと避難している。

トランプ氏は大統領就任後、ゼレンスキー氏を批判し続けた。

「戦争を始めたのはロシアではなくウクライナだ。」

「ゼレンスキー氏は外国援助のうまい汁を吸い続けたいのだ。」

「ゼレンスキー氏は独裁者だ。ウクライナの政界は腐敗している。」

「ゼレンスキーは早く動いた方がいい。でないと国がなくなるぞ。」

一方、トランプ大統領とプーチン大統領は2月12日に長時間の電話会談を行った。ゼレンスキー氏抜きであった。

今やトランプ氏は、ロシアの言い分をこだまのように繰り返しているといわれている。またプーチン氏はトランプ氏を「ドナルド」とファーストネームで呼ぶなど、親近感を示している。

これらはいずれも聞くに堪えない言葉であり、ほっておけないが、今日のところはこれだけにしておく。

一方、国連総会では、2月24日、ウクライナとEUが提出した決議案と、米国の提案に修正が加えられた決議案がともに93カ国の賛成で採択された。ウクライナ・EU案にはウクライナの領土保全を支持する文言が入っていたが、米国が反対し、賛成国が減った。日本は賛成した。

一方、トランプ米大統領の方針で米国が独自に提出した「ロシアとウクライナの紛争の早期終結を求める」決議には、日英仏など93カ国が賛成し、ロシアや北朝鮮など8カ国が反対、米国や中国など73カ国が棄権した。この二つの決議をどう読むか、国連らしい駆け引きが含まれているので、難しい。双方が激しく対立し、ロシアは喜んだようだが、深読みはできない。

 国連での動きと並行して、ウクライナはアメリカとの鉱物取引の条件に合意したと、ウクライナ政府の高官がBBCに語った。ゼレンスキー大統領は28日に訪米し、合意文書に署名する見込みだという。

FT紙などによると、24日付の合意文書の最終版には、ウクライナの経済復興事業に使う基金を創設することなどが盛り込まれた。基金には、ウクライナが将来的に石油やガスを含む地下資源から得る収入の50%を拠出し、米国の拠出額は今後の交渉で決めるという。

 ウクライナの高官はFTに「(安全保障の確保より)もっと有利な条件について交渉した」、「合意は米国との関係を深めるためのものだ」、「いくつかの良い修正を加えた上で合意に至り、これを前向きな結果と見なしている」などと述べたと報道された。

この合意には、ウクライナが強く求めていたウクライナに対する安全保障の保証は与えていないといわれており、そうであれば、ウクライナ側はどのような考えで合意したのか不可解に思えるが、一方、トランプ大統領はゼレンスキー大統領がワシントンでこの取引に署名することを期待していると述べている。それまで両首脳はこの問題について、互いに強い言葉でやり取りしていたので、本当のところはまだよくわからないが、これまでのトランプ大統領の発言などとかなりトーンが異なっていると解する余地がある。また、これも趣旨不明のところがあるが、トランプ大統領は24日、「この取引の見返りとして、ウクライナは『戦い続ける権利』を得るだろう」とか、「彼らは非常に勇敢だ」とも述べている。また、アメリカは装備や弾薬をウクライナに供給し続けるのかという質問には、「ロシアとの合意が成立するまでかもしれない。(中略)合意が必要だ。でなければ、この状況は続くだろう」と答えた。

トランプ氏はさらに、いかなる和平合意の後でもウクライナには「何らかの形の平和維持活動」が必要だ、それは「全員に受け入れられるものでなければならない」と付け加えたという。

これだけのことで楽観的になれないが、ワシントンでのゼレンスキー・トランプ会談の結果が待たれる。
2024.08.05

防衛省・自衛隊における不祥事とシビリアン・コントロール

 最近、防衛省・自衛隊において、潜水手当の不正受給や、国の安全保障に関わる「特定秘密」違反などで200人以上が処分された。また、手当を不正受給した元隊員が逮捕されたが、8か月間木原防衛大臣に報告されていなかったことが判明した。増田防衛事務次官はこれら不祥事の関係で短期間に2度処分された。この他、民間企業が海上自衛隊員らに裏金で接待していた疑惑、海自隊員が自衛隊施設の食堂で金を払わずに食事をとる「不正喫食」問題、防衛省幹部のパワーハラスメントなどもあった。

 防衛省・自衛隊は、日本の防衛と災害救助などに献身的な努力を行い、国民から感謝されている一方、このような不祥事を組織ぐるみで隠ぺいしていたのである。

 問題点は少なくないが、本稿では、武器を保有し、危険な任務に従事する自衛隊が健全に機能するのに絶対的に必要なシビリアン・コントロールが、再度機能しなかったこと、また現在の制度では問題の是正は望みえないことを改めて指摘したい。

 シビリアン・コントロールにかかわる問題は戦後何回か発生した。7年前の2017年には、南スーダンへの自衛隊PKO部隊の派遣に関し、防衛大臣に虚偽の報告が行われた(詳しくは平和外交研究所HP2017年8月10日「内閣改造②シビリアン・コントロール」)。

 日本国憲法の下では、そもそも「シビリアン・コントロール」を論じる余地はあるのか、という疑問もある。憲法9条によれば、日本に「軍」はないので、シビリアン・コントロールの必要はないとも考えられるからである。しかし、日本は自衛のために武装した自衛隊を持っているので、やはり、シビリアン・コントロールは必要である。
 
 憲法では、「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」という規定(66条2項)によって、シビリアン・コントロールが確保されていると解されている。しかし、実際にはシビリアン・コントロールは機能しておらず、この憲法規定は一種のアリバイ、つまりシビリアン・コントロールの体制はちゃんとできているという口実に使われているにすぎない。
 
 戦前、軍は、政府の反対を押し切って主張を通すために内閣を倒すことも辞さないとの態度であり、それは旧憲法下では可能であった。戦後の憲法ではそれは不可能になっているが、以下に述べる理由から、シビリアン・コントロールはいざという時に機能しなくなっており、その意味では戦前と変わらない状況にある。

 第1に、防衛大臣に就任する人はつねに能力があるとは限らない。自衛隊を適切に監督できる人もいれば、できない人もいる。さらに、防衛大臣は、例えば、政治資金規正法違反の理由で刑事罰を受けるかもしれない。また、自衛隊を政治目的に濫用するかもしれない。
 
 自衛隊から見ても、心底から仕えたい防衛大臣もいれば、信頼できない人もいる。これらは通常、表で語られないことであるが、現実には問題になりうることが南スーダンへの部隊派遣の際に露呈した。

 要するに、文民が自衛隊のトップであっても、それだけでは安心できないのである。防衛大臣など自衛隊を指揮する者が文民でなければならないのは、シビリアン・コントロールの必要条件であるが、十分条件ではないのである。

 第2に、一般的に、自衛隊の主張には説得力があり、防衛大臣がそれを承認しないとするのは事実上困難である。たとえば、自衛隊が、作戦Aでは成功しなかったので作戦Bが必要と主張するケースを考えてみよう。政府は諸外国との関係など総合的な考慮から作戦Bを実行すべきでないと判断しても、防衛大臣ははたして作戦Bを不許可とできるか。理論的にはもちろんできるはずだが、実際には、自衛隊は現場をよく知っており、よく考えて防衛大臣に上げてくるだろうからその主張には説得力がある。
 
 また、かつての帝国軍隊の場合は、作戦を途中で変更すると、それまでの犠牲を「無駄にするのか」という議論が使われたが、今の自衛隊においても同じことが起こりうる。
 
 そもそも、政府の判断には多かれ少なかれ妥協が含まれており、したがって説得力は強くない。自衛隊の考えのほうが理屈にかなっているように見えることはよくあることである。

 しかし、それでも自衛隊の主張を退け、政府の判断に従わせなければならないことがある。これがシビリアン・コントロールであるが、単に上に立つ政府が自衛隊を押さえつけるということでなく、長い目で見ると妥協をした政府のほうが正しかったことが分かってくるのである。これは裁判の証明のようなことでないが、歴史の教訓である。
 
 日本の憲法規定は米国に習ったものであるが、実は、日米のシビリアン・コントロールは同じでない。米国ではシビリアン・コントロールはよく効いているように見えるが、実際にはシビリアン・コントロールは簡単でなく、あらゆる手段で確保に努めなければならないと認識されている。
 
 これに比べると、日本のシビリアン・コントロールは、憲法の規定はあるが、自衛隊の海外での武力行使は皆無であり、したがってまた、シビリアン・コントロールが本当に必要になる事態には立ち至ったことがなかった。つまり経験が乏しいので、シビリアン・コントロールの議論は机上の空論に陥るのである。旧憲法下では問題とすべき事例が多数あったが、旧軍のことは現在の自衛隊とはほぼ完全に切り離されており、参照すべき前例とは認識されていない。かつての苦い経験として、「旧軍では○○であった」と主張しても防衛省・自衛隊には響かない。

 今後どうすればよいかだが、憲法を改正して自衛隊を正規の防衛軍にするなら、「軍はいかなる場合でも政府の判断に従う」という原則を明記すべきだ。つまり、文民によるコントロールは人の面からの規制であり、「軍はいかなる場合でも政府の判断に従う」という原則はルールの問題であり、両方が必要である。

 そして、この二つの原則の下でシビリアン・コントロールが必要な諸事項、とくに、政治にかかわってくる問題について自衛隊がどこまで研究したり、主張したりできるかを法律で規定すべきである。かつて、自衛隊員が有事の場合の対応に関する法制上の欠陥について研究したことが問題視されたことがあったが、一概に否定されるべきことではなかった。それは一定程度まで、つまり、シビリアン・コントロールに反しない限度内では認められてしかるべきことであった。
 
 さらに、制度面の措置とともに、戦前の軍による暴走とそれをコントロールできなかった政治の欠陥などを含め歴史を徹底的に見つめなおし、その結果を政府と自衛隊の在り方に反映させ、自衛隊が政府に反旗を翻すようなことはあり得ないようにする努力が必要である。一般の国民は、そんなことまで行う必要があるのかと疑問視するかもしれないが、シビリアン・コントロールは危険な任務についている自衛隊において、かりに問題が起こってもずるずると坂道を転げ落ちていかないよう食い止めるための防災措置である。

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