平和外交研究所

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2015.12.26

慰安婦問題に関する韓国との交渉

 慰安婦問題について岸田外相は週明けに訪韓する。日韓間の交渉は大詰めを迎えている印象がある。
 両国を悩ませてきたこの難問が最終的に解決されることを望みたいが、注目点を挙げておこう。

 第1に、日韓両国が合意に達するとして、その合意は文書に記載されなければならない。文書にならない合意は、残念ながら、慰安婦問題を解決したことにはならない。なぜならば、文書に明記されない合意は将来両政府間で異なる解釈を生むからだ。つまり、日本政府が「A」と合意したと言っても、韓国政府は「B」に合意したのだということになる危険が大きいのだ。

 第2に、合意文書には、慰安婦問題は将来二度と問題にしないことを韓国政府が明確に約束しなければならない。しかし、韓国における政府と裁判所の関係にかんがみてこれが果たして可能か、非常に疑問だ。李明博前大統領が慰安婦問題について日本側に善処を求めるようになったのは、韓国の憲法裁判所がそうすべきだと促したからではなかったか。

 第3に、元慰安婦が強くこだわり、日本政府に求めてきた「日本政府による公的補償」については、どのような解決になるのか見えてこない。「新しい基金」を作って償いをするそうだが、日本側はこれと、安倍首相のわび状をもって公的な補償だと主張するのかもしれない。
 元慰安婦は従来からそのようなものでは解決にならないと強く主張してきたが、「新しい基金」は日本で設置されるものであり、その法的性格を韓国側で決定するわけにはいかない。つまり、それが公的な補償か否か、また、それにどこまで近いかなどは、結局は、日本側の説明を受け入れざるを得ない。
 もし、あくまで受け入れないのであれば、かつての「アジア女性基金」による償いの場合と同様の結果になる。

 第4に、韓国政府が日本政府による公的補償についての考えを受け入れる、つまり、公的補償をしないということを受け入れることにしたのであれば、韓国政府の英断であり、交渉をそのように導いた日本政府は称賛に値する。
 しかし、韓国政府は、慰安婦問題は1965年の請求権協定で解決されていないとの立場であり、その立場を変更することになるが、そんなことは本当にできるのか。
 しかも、韓国政府は、将来国際的にこの問題が取り上げられた場合、日本政府だけでなく韓国政府も非難を浴びる可能性がある。むしろ、日本政府に同調した韓国政府が主に責められることも考えられる。韓国政府はそれに耐えられるか。

 今回の交渉ではこれらの諸問題をクリアした上で合意されることを望みたいが、カギとなるのは日本側が取る措置が公的補償か否かであり、それを迂回しては真の解決は実現しないだろう。

 しかし、今回の合意が無意味だというのではない。日韓両政府が慰安婦問題の解決について正式に合意したことはかつてなかったことである。今回の合意は限定的な効果しかないとしても、それなりに政治的な意義はあろう。
 慰安婦問題が両国以外で、国際的に取り上げられる可能性は残るが、その場合でも日本政府だけでなく、日韓両政府が共同して対処できる。これも大きな効果だ。
 今回の解決の積極的意義を生かすためにも、合意を文書で明確に示すことは絶対的に必要だ。それがないとせっかくの合意も一時的な政治ショーになってしまう危険がある。
 産経前ソウル支局長に対する裁判で無罪判決が出たこと、徴用工の問題で韓国政府は自国内で解決を図る方針としていることなど韓国側は態度を軟化させている兆候があるようにも見える。また、水面下ではそのような結果を生み出すのに交渉があったかもしれない。だからといって慰安婦問題の解決が容易になっていると考えるのは危険だ。最終的な解決と、現状で可能な現実的解決とをはっきりと区別した上で合意が達成されることが肝要である。

2015.12.11

(短文)モランボン楽団の訪中

 北朝鮮のモランボン楽団が12月10日、訪中した。この楽団は、北朝鮮事情に明るい人ならだれでも知っているが、一般の日本人にはなじみがないので簡単に紹介すると、楽団員はすべて若い女性、軍装だがかわいい人ばかりだ。気楽に聞ける北朝鮮ポップスとでも言えようか。日本では、かなり前に活躍したグループなので恐縮だが、「ザ・ピーナツ」、スウェーデンではABBAの感じに似ていると思う。ABBAは男女2名ずつなのでちょっと違うが、それは気にしないでもらいたい。
 昨年10月訪朝した際、北京から飛んだ飛行機の中で、始めから終わりまでこの楽団の音楽を聞かされた。最初は心地よい音楽と衣装を大いに楽しんだが、さすがにピョンヤンに近づくころには食傷気味になったのを覚えている。
 ピョンヤン市内では、レストランが主だが、それ以外のところからもモランボン楽団の音楽が流れていた。北朝鮮の人気ナンバーワンのグループであり、同行した人がモランボン楽団のCDを買おうと試みたが、買えそうな場所はどこも売り切れであった。

 この楽団が訪中したのは、楽団としての決定ではなく、北朝鮮政府の、しかも金正恩第1書記の指示であることはだれにでもわかる。北朝鮮から人気楽団が訪中するのは久しぶりであり、中国系の新聞も関心をもっているようだ。
 金正恩第1書記がこの楽団を中国へ派遣したのは、中国との関係を改善しようとする姿勢の表れだと指摘されている。同感だ。同第1書記はさる10月の朝鮮労働党創立記念日で中国からの代表におおげさに友好のハグをするなど、就任直後からの中国とのぎくしゃくとした関係を改善しようと努めていた経緯がある。
 同第1書記自身はまだ中国を訪問していないが、まずはソフトタッチで中国との友好を重視する姿勢を見せようとしているのだろう。

 モランボン楽団の訪中にはもう一つ注目されたことがあった。この楽団の団長「玄松月」が同行していることで、北京空港で撮った写真付きで香港の『明報』紙が12月11日に報道している。団長が楽団に同行するのは何のニュースにもならないが、2013年、韓国から出た情報は、「同人が金正恩第1書記の以前の愛人であり、みだらな写真を撮ったとして銃殺された」としていた。このことを明報がコメントとして付言している。
 余計なことかもしれないが、北朝鮮に関する情報はまさに玉石混交だ。韓国から出る情報もしかりである。以前からそう思っていたが、今回はしなくもそのことを再確認することになった。
2015.12.10

(短評)韓国人の逮捕

 靖国神社のトイレで爆発物を仕掛けた容疑がかかっていた韓国人、全昶漢(チョンチャンハン)が逃れていた韓国から自発的に日本へ戻ってきて、即警視庁に逮捕された。
 誰が見ても不思議なことだが、日本と韓国の警察が協力した結果だと思う。日本と韓国の間には、捜査に関して協力し合う仕組み(捜査共助)があり、それに基づいて両国の警察が協力し合ったのだ。これはいわゆる「犯罪人引き渡し」とは異なる。「犯罪人」は、日本でも韓国でも、裁判により決定され、捜査の段階では、対象となっている人物が「犯罪人」かどうか、明確になっていない。要するに、容疑がかかっているだけだ。したがって、「犯罪人」の引き渡しには当たらないが、国境を越えた捜査についてはまた別に協力の仕組みが作られており、そのために条約が結ばれている。
 もっとも、韓国では靖国神社がらみの事件は「政治犯」として日本に協力しないことがありうるが、これは韓国にとっていわば最後の手段であり、いつもこれを持ち出すわけにはいかない。日本で事件を起こした容疑で捜査の対象となっている外国人で韓国へ逃れる者は1年間に50人くらいおり、両国の警察は頻繁に連絡を取り合っている。その中で両国の警察間には持ちつ持たれつの関係ができているはずだ。
 今回、韓国警察は、細かいことは分からない、一種の取引だったかもしれないが、日本の警察に協力するほうがよいと判断し、この韓国人を日本へ戻るよう説得したのだと思う。
 日韓関係がよくない今日、協力関係が機能していることに光が当たりにくいが、今回のケースは協力することがお互いに利益になることを示唆していると思う。

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