平和外交研究所

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2019.09.24

韓国との関係をこのままほっておいてはいけない

 安倍首相は24日に国連総会で演説する。この機会に米国のトランプ大統領やイランのローハニ大統領などと会談する予定だが、文在寅大統領とは会わない。日本政府は韓国人元徴用工訴訟を巡り韓国政府が硬直的な態度を続けている以上、首脳会談を行うのは適切でないという判断からだという。

 しかし、安倍首相と文大統領は会えばよかったと思う。どちらから会談を提案するかなどは大した問題でない。両者ともに会談を求めるべきである。そうすれば、今後の日韓関係の改善にむけての雰囲気づくりに役立つ。

 日本政府は現在の日韓関係の悪化は韓国側に責任があり、韓国がまず非を認め、是正するのが先決だという主張であり、多くの日本人は賛同しているが、そういうときにこそ気を付けなければならないことがある。

 日本政府の主張は国際社会で理解が得られるかという問題である。事は簡単ではないはずである。

 各国はどうも日本の方が正しいと思っているだろうが、そのような判断なり、感触なりを公言することはしないだろう。大多数の国は、「日本と韓国はよく似ているし、隣国である。長い交流の歴史もある。争いは自分たちで解決すべきである」と考えるのではないか。

 主権国家からなる国際社会とはそういうものである。日本と米国は世界でもっとも信頼しあっている同盟国だろうが、それでもトランプ大統領は「日本だけが正しい」とは言わない。日本に向けば日本が正しいと言い、また、韓国に向けば韓国にも理解を示す。これは過去1年半くらいの間に、とくに北朝鮮との関係で実際に起こったことであり、トランプ氏は安倍氏には日本の「圧力」一辺倒の姿勢を称賛しつつ、文氏には「圧力」だけでなく「対話と圧力」が重要であると強調した。

 2002年のサッカーのワールドカップの際には、国際サッカー連盟の内部事情も絡んでいたといわれるが、多くの国が日韓共同で開催すればよいではないかとし、日本だけに花を持たせてくれなかった。日本が先に手を挙げ、決定寸前にまで行っていたときに、韓国が後から割り込んできたのであったが、各国は日韓双方で解決してほしいとしたのであった。

 日本は法的な議論が得意である。しかし、国際社会の理解を得ることも得意かと言うと、そうではない。得意な人もいるが、日本政府は得意とは思えない。もちろん、各国とも日本国、日本政府、日本国民を尊重し、また尊敬も払ってくれるが、本当に日本の主張に同情しているとは限らない。本当に日本に同情し、あるいは感心してくれるのは、日本が法的に素晴らしい主張をするからでない。日本人が頑張り、懸命になって日本らしく物事を解決しようとするときに評価してくれるのだ。東日本大震災の時の日本人の頑張りがそうだったし、前回のラグビーワールドカップで劣勢にあった日本チームが南アフリカ共和国チームを負かしたときであった。

 日本はこのような国際事情に鋭敏なアンテナを持ち、日本と国際社会の違いやギャップに常に細心の注意を払い続ける必要がある。

 徴用工問題についても、あるいは日韓関係の悪化についても、日本も韓国も解決の努力を払うべきであり、安倍首相と文大統領が会談するほうが国際的な理解が得られることは明らかである。日本が現在取っている態度、すなわち、「日本は国際法を順守しているのに、韓国はしていない。韓国はまず態度を改めなければ会わない」というのは、決して好ましい効果を生まない。下手をすれば、日本を占領したマッカーサー元帥のように「日本は精神年齢12歳だ」などと思われる危険性さえある。

 トランプ米大統領は8月9日、米ホワイトハウスで記者団に対し「日韓両国が仲良くないことを懸念している。彼らは仲良くするべきだ」と述べ、また、ポンペオ国務長官も、「日韓は建設的な対話が必要である」と言っている。これらは米国が日本の姿勢に全面的に賛成していないことを物語っている。危険な兆候なのだ。

 日本は国際法的に間違っている韓国がまず改めるべきだという、かたくなで子供じみた姿勢を一刻も早く改めるべきである。

 文在寅大統領ももちろん努力する必要がある。いたずらに強がったりせず、安倍首相との会談実現に努めるべきである。

 おりしも、海上自衛隊が10月に相模湾で実施する観艦式に韓国軍が招待されていないことが判明した。ちょうど1年前、韓国側が海自護衛艦に旭日旗を掲揚しないよう要請し、海自が参加を見合わせた。また、韓国艦艇が海自機に火器管制レーダーを照射する事件も起こった。これらについて日韓の間で問題が解決していないからであり、今年は韓国海軍を招待しないのも支持できる。しかし、両国とも今後国際的な常識に十分注意し、大人の態度で臨む必要がある。
2019.09.20

ネタニヤフ・イスラエル首相の一部パレスチナ併合宣言

 イスラエルの総選挙(定数120)が9月17日に行われた。さる4月の総選挙では、ネタニヤフ首相が率いる与党リクードは35議席を獲得したが、連立政権樹立に失敗したので、今回「やり直し総選挙」が行われた。

 しかし、出口調査では与野党の獲得議席数が拮抗(きっこう)しており、この選挙結果では連立政権樹立が成功する公算は低いという。かといって、3度目の選挙となれば国民の反発は避けられず、ネタニヤフ首相が率いる与党リクードと元参謀総長のベニ・ガンツ氏が率いる中道野党連合「青と白」との大連立を促す声も出ている。これも成功しない場合、ネタニヤフ首相は退陣を迫られるとの観測も現れている。

 また、ネタニヤフ氏には汚職の疑惑がかかっている。ネタニヤフ首相が国内通信大手に便宜を図った見返りに、傘下のニュースサイトで好意的な報道を要求したことなど、検察は3件の汚職容疑でネタニヤフ氏を起訴する方針だという。首相は被告人になることを回避するためにも、議会で多数派を握って「刑事免責」法案を可決したいところだが、連立政権が失敗するとそれもできなくなる。

 しかし、連立工作が進まないのは今回が初めてでない。そもそもイスラエルの総選挙において単独で過半数を獲得した政党はなかった。最多の議席は1969年総選挙でマアラハ(労働党)が獲得した56であった。イスラエルは建国の経緯からマルチエスニシティ国家であり、そのことが国政にも反映して小党の乱立状態になっていることが根本的な問題である。

 その中では、「中道右派」のリクードと「中道左派」の労働党が比較的大きく、ともに首相を輩出してきた。しかし、労働党は、指導者であったラビン元首相が1995年に暗殺されて以来衰退傾向となり、選挙のたびに議席を減らした。

 2019年2月21日に結成された「青と白」連合(ガンツ党首の回復党とイェシュ・アティッドのラピド党首の連合)は、4月の総選挙でリクードと同数の35議席を獲得し、労働党は5議席に落ち込んだ。この結果を見れば、「青と白」が労働党に代わってイスラエルの主要政党になるような気もするが、多数の政党が乱立するイスラエルでは今回の結果だけを見て中長期的な傾向を予測することは困難であろう。

 ネタニヤフ首相は再選挙を一週間前にした9月10日、自分の続投が決まれば、パレスチナ(政府は自治政府なので「パレスチナ自治区」とも呼ばれる)の一部をイスラエルに併合する、との強硬方針を表明した。選挙の結果は今回も楽観できず、右派の支持を固める必要があったためである。

 イスラエルとパレスチナの地理的状況は日本人にはわかりにくい。現在、イスラエルの東側にパレスチナがあり、その東がヨルダンである。つまり、イスラエル、パレスチナ、ヨルダンが西から東へ並んでいる。パレスチナとヨルダンはヨルダン川を境に分かれているのでパレスチナは「ヨルダン川西岸」と呼ばれることもある。

 ネタニヤフは、このパレスチナのうち、ヨルダンと境界を接する領域を併合すると発表したのだ。その広さはパレスチナの約3分の1。それがもし実現すると、イスラエルの東に領土を削られたパレスチナがあり、その東がイスラエルが奪った領域であり、さらにその東がヨルダンとなるのである。そうなると、パレスチナは西側のイスラエルと東側の新イスラエル領に挟まれるという奇妙な状況になる。

 パレスチナは3分の1もの領土を奪われては黙っておれず、イスラエルと全面戦争になる危険もある。ヨルダンにも大きな影響が及び、イスラエルや西側諸国に友好的でなくなるとも言われている。それに国際社会が黙っていない。国連安保理では、イスラエルは決議違反を犯したと糾弾されるだろう。トランプ大統領はネタニヤフ首相の強力な支持者であるが、パレスチナの併合まで支持し続けることはできなくなるかもしれない。

 それでもイスラエルがこの地を奪おうとするのは、安全保障上の理由からだという。イスラエルと敵対するパレスチナにヨルダンから物資や武器が自由に搬入されるのを監視し、阻止する必要があるというのである。

 また、イスラエルの超正統派ユダヤ教徒の間には、パレスチナはもともとユダヤ人の土地だという考えがあるそうだ。今回の選挙でも、「ラビ(宗教的指導者)が言うからパレスチナ併合を支持する」と公言してはばからないネタニヤフ支持者がいる。

 イスラエルから時折法外な主張が出てくるのは、そもそも、エジプトとヨルダン以外のアラブ諸国がイスラエルの存在を認めないからであり、また、パレスチナと激しい敵対関係にあるからである。イスラエルがそのような環境にあることには国際的に一定の理解があるが、パレスチナの3分の1を奪うことなどは到底認められない。

 イスラエルのこれまでの指導者はパレスチナを奪うことの危険性と非現実性をよくわきまえており、ネタニヤフとしても実現しないのを見越して選挙目的のため危険な宣言をした可能性もあるが、それはそれで危険なかけである。そんなことまでせざるを得ないネタニヤフ首相が退陣に追い込まれるのはそう遠い将来のことではないかもしれない。
2019.09.12

香港のデモを前に中国は「一国二制度」を放棄するか

 6月9日以来市民らの大規模なデモが続く中、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は9月4日、デモの引き金となった「逃亡犯条例」改正案を正式に撤回した。同長官はそれまで、改正案について「死んだ」とか述べたことはあったが、明確な意思表明ではなかった。今回の同案の撤回は思い切った譲歩であった。
 行政長官としてはこれでデモが鎮静化することを期待していたのであろうが、実際デモに参加している市民の多くは、それでは不十分であり、「デモを「暴動」とみなす政府見解の取り消し」、「デモ逮捕者の釈放」、「警察の暴行を調査する独立委員会の設立」、「民主的選挙による行政長官の選出(普通選挙の確立ともいわれる)」も必要だとしている。いわゆる五項目要求をすべて満たすことを求めているのである。
しかし、はたしてそれは実現可能か。デモの参加者たちも明確な見通しが立っているのではなさそうだが、香港を守るためには頑張るしかないという切羽詰まった気持ちだともいう。

 中国、とくに習近平主席がデモに強い危機感を覚えていることは間違いない。香港のデモが中国内に影響を及ぼすからである。
 習主席はじめ中国の指導者は常日頃、現体制を脅かす危険があることを強く意識している。1989年の天安門事件の際、当時の指導者であった鄧小平は、各国は「平和的に中国を転覆しようとしている」と警戒心をあらわにしたことがあったが、その後、中国が世界の大国になろうとする今日においてもそのような状況は変わっていない。中国の指導者が民主化を極度に恐れる感覚は、中国の外では理解困難である。
 中国は、しかも、来る10月1日に建国70周年を迎え、盛大に祝賀行事を行う予定である。香港で起こっている大規模デモの早期の鎮静化を促すため、香港との境界付近で人民解放軍の行動をこれみよがしに報道させることも行った。あまりデモがひどくなると軍を投入するぞという意思表示であった。
 しかし、そういう脅しでは事態を打開できなかった。香港のデモは何人の予想をもはるかに超えて根強く、かつ大規模に展開され、今後もさらに続きそうになったので、今回、「逃亡犯条例」改正案を正式に撤回するというカードを切らせたのであろう。

 デモはその後も継続している。10日、サッカー・ワールドカップ(W杯)予選の香港とイランの試合が始まる前、中国国歌の斉唱が始まると、多くの人がグラウンドに背を向けたり、ブーイングの声を上げたりして抗議の意思を示した。
 香港中文大学の周保松香港中文大学副教授は、今回のデモでは、5年前の「雨傘運動」で実現しなかった選挙制度改革の実現が強く求められていることを指摘している(朝日新聞9月10日付)。
 また同助教授は、今回のデモは「雨傘運動」とちがって、特定のリーダーがおらず、多数の人がネットを通じて自発的に行動しているので、中国共産党・政府として交渉したり、標的にする相手がいないことを指摘しつつ、闘争は長引かざるを得ないと述べている。また、「香港は世界の民主運動の中にあって、冷戦期のベルリンのような位置で重要な経験をしています。ここは中国共産党、全体主義勢力と対峙(たいじ)する最前線なのです」興味深い観察も述べている。
 
 もちろん、デモはそう長続きしないことを示す状況もある。香港の住民は長く続く激しいデモに疲労している。香港の人達が、習助教授が考えるような国際政治的意義を認めているとも思えない。
 
 それに、何よりも決定的な問題は中国の動向である。10月1日を過ぎてもデモが続いていれば、軍隊が投入され強硬手段でデモが排除される可能性はもちろんある。
 この点に関し、中国の指導者は恒例の北戴河での夏季休暇の際、もはや「一国二制度」は放棄し、「一国一制度」を追求することにしたともいわれている(近藤大介「台湾は「東アジアのクリミア」になる」2019年9月10日付『現代ビジネス』)。つまり、「一国二制度」を認めた結果が香港のデモであるので、今後はそのような軟弱な姿勢はとらない、香港に中国本土と異なる制度はハナから認めないこととしたという説明である。

 1997年の香港の中国への返還以来、「50年間、高度の自治、香港人による香港統治、現在の资本主義・生活方式は五十年間変えない」という英中間の合意を中国はかなぐりすてることになる。そんなことであれば、香港のデモ参加者としてはますますデモを解けなくなるであろう。

 はたして、中国による軍の投入はありうるか。香港はもともと中国の一部であり、香港の平和と安全は中国の国内問題だから、必要な場合に武力を用いることはやむを得ないと考えているかもしれない。
 もちろん、中国は世界の大国になりたい気持ちが強いので、香港で武力を使うことは得策ではないという考えもあろう。

 中国共産党・政府がどのような判断を下すか、予断を許さないが、もし、「一国二制度」を放棄するならば、台湾に計り知れない影響が及ぶのは確実である。それでも台湾を強引に統一しようとすれば、軍事力に頼るほかないが、そうすれば米国と軍事的衝突になることを覚悟しなければならない。

 「一国二制度」の放棄はそのように深刻な問題をはらんでいる。

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