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2019.10.10

日韓の金融リスクを低減 スワップ協定の必要性

 中北徹東洋大学教授と米倉茂佐賀大学名誉教授が週刊『東洋経済』10月12日号に寄稿された「日韓の金融リスクを低減 スワップ協定の必要性」は大変参考になる論文です。著者のご許可をいただき、以下に転載いたします。

「経済学者が読み解く現代社会のリアル 第37回 日韓の金融リスクを低減 スワップ協定の必要性

(2019年10月12日)、10/12号:AIに負けない 読解力を鍛える、104~105ページ
 日韓関係は戦後最悪の状態に陥っている。まさに「政冷経冷」の危機であり、まったく出口が見えない。対立を深める背景には、韓国が経済発展を通じて主張を強めていることがある。しかし、韓国が文字どおり「経済大国」に昇格したわけではない。
 半導体にとどまらず造船業、ゼネコン・建設業、輸送業を基盤とする分野で、世界ランキングの上位に位置する大成長を遂げているが、韓国経済は日本に比べ内需の比重が低く輸出産業への依存度が高い。しかも日本産業との補完関係も深まっており、世界経済が減速したり日本から輸出管理規制を受けたりすれば、韓国経済はいっぺんに萎縮する。皮肉にも輸出管理規制への韓国側の敏感な反応は、両国の半導体や自動車などの主要産業が補完関係を深化させ、ウィンウィンの関係を構築していることを改めて明らかにした。
 韓国は対外経済情勢に振り回されるジレンマから逃れられない。それを端的に示すのが韓国ウォンの動向だ。国際的な信用不安が発生するたびにウォンは売りを浴びやすい、という傾向は今なお払拭されない。実際1997年のアジア通貨危機後も、リーマンショックやユーロ危機など世界のどこかで危機が顕在化するたびに、ウォン相場は不穏な動きをたどった。関係者が固唾をのんで、事の推移を見守ることも一再ならずあった。
 では現在、そのような問題への対策が講じられているか? 2001年以降、日韓の間で「通貨スワップ」が期限を延長され続けてきたが、15年2月に失効した。このままでは途切れたままになる懸念がある。そもそもスワップ協定はいざという時のための安全策だ。まだウォンに火がついていない今こそ、冷静に復活を検討すべきではないか。そのためには双方の関係者、わけても韓国側に次の点を理解してもらうことが重要であろう。
資本の流失を防ぐ
 第1に、セーフティーネットが整備されていないと、ドル資金が韓国から国外へ逃避しやすい。韓国は対外依存度が高いのに、ウォンは国際的に広く取引される厚みのある市場を欠いている。このため、突然韓国から米ドルが国外へ流出し、ウォンの対ドルレートが暴落する可能性が小さくない。
 97年の通貨危機ではドル資金が大量に国外へ逃避したことから貿易決済が困難になり、韓国の金融システム全体が危機に瀕した。この危機がきっかけでIMF(国際通貨基金)の指導下、国内金融制度の自由化が積極的に進められた結果、外資系金融機関の参入が大幅に進んだ。一方、韓国は自助努力の一環として外貨準備(米ドル)を積み上げる努力を続けた。
 しかし、現地の欧米外資系銀行やファンドはグローバルな資金配分の観点を優先してドルを運用する傾向が強く、国外の危機などが起こった場合、韓国内の事情を斟酌(しん しゃく)せずに資金を国外へ回す可能性が大きい。世界を駆け巡るマネーは、信用不安が起こった場合、安全第一に徹する。したがって、米ドルが突然大量に国外へ流出すると、需要が少ないローカル通貨のウォンが暴落し、韓国の貿易などに著しい支障を来しかねない。つねに暴落のリスクを内在しているのだ。
 外貨準備に関する情報は、“いくら外貨準備が残っているか”よりも“いくら使い果たしたか”がディーラー集団の関心を集めるようだ。以前よりは厚くなったとされる外貨準備も、実際に資金流出が起きたときの防波堤にはなれないのである。要するに、韓国経済は国際金融の観点からは、まだ独り立ちできる段階に至っていない。だから、平時から安全対策を講じておくことが重要であり、やりすぎるということはまったくない。
隣国の経済は表裏一体
 第2に、ドルスワップは今や不可欠な方策である。韓国の通貨危機は、外貨の資金繰りが心もとない状況から発したことは明らかだ。しかし、韓国は政治的な対立やメンツから日本との通貨スワップを結びたがらない。日韓スワップはドル融資で、実質上、片務的だ。これが韓国のプライドを傷つけるという風聞や、韓国が延長を要請すると金融の脆弱性を表示することになるなどの解説もある。
 ひるがえって欧米先進国にそのような偏狭さはない。欧米中央銀行間のスワップも、米国からの片務的なドル供給に尽きるが、欧州がスワップを忌避する姿勢もない。中国でさえ、結局は「政経分離」に基づき日中スワップを締結している。経済規模の大きさより、伝播を防げるかが重要だ。
 世界金融危機のときは世界全体が米ドルに依存している姿が露呈された。米国は主要国・日本とスワップを結んでいるが、韓国とは結んでいない。サブシステムとして、日本から韓国へドルが供給されることを望んでいる。今の日韓関係では、日本や韓国の大手銀行が韓国の市中銀行へのクレジットラインを大幅に増やすことは難しい。だが、世界ではドルを軸とした金融上のつながりが緊密に形成されている。こうした体制の保全は取り組まざるをえない課題である。
 第3に、FRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策が不安定さを増している中、日韓スワップが設定されていないのは異常である。FRBは7月末、金融正常化の方針を覆して超緩和に大きく舵を切り、10年半ぶりに金利を下げている。パウエル議長によれば、引き下げ要因は国内よりも、ユーロ圏の景気低下や貿易摩擦など対外的経済状況の悪化のほうにある。自国経済とその他世界の「相互緊密性」の強まり故としている。
 日韓の関係に置き換えれば、韓国経済が乱れるとこれまでのウィンウィンの関係が負の連鎖に転じる。世界的な債務は膨張しており、今やリーマンショック直前時の債務額を超える。米国では第2のサブプライム危機が進んでいるという説もあるうえ、中国や発展途上国では民間債務が急増している。景気後退が深刻になって企業の収益が減退すれば、債務返済能力の大幅な低下は避けられない。
 そのような状況下、隣国間で過剰反応のスパイラルが起きた。互いにメンツが懸かっている以上、簡単には矛を収められない。しかし前述のリスクを考慮すると、もしも韓国が望むのであれば、スワップ協定の再締結にはやぶさかでないことを日本の意思として伝えることは有益ではないか。まずは実務的・専門的で外部から目立たない対策を講じ、信頼回復の土台をつくることが強く求められる。

要点メモ
ウォン相場に火がついていない今こそ日韓通貨スワップが必要
ドルスワップは、今や不可欠の世界標準である
国際金融市場では債務が急増し、通貨・金融リスクが増大している

中北 徹
東洋大学経済学研究科教授
なかきた・とおる 一橋大学、英ケンブリッジ大学卒業。外務省を経て現職。この間日本銀行国際局アドバイザー、首相官邸「アジアゲートウェイ戦略会議」副座長を務める。(財)日本国際問題研究所客員研究員。著書は『通貨を考える』(ちくま新書)ほか多数。

米倉 茂
佐賀大学名誉教授
よねくら・しげる 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。東京大学大学院経済学研究科修了(経済学博士)。佐賀大学経済学部教授を経て現職。著書は『新型ドル恐慌』(彩流社)、『リーマン・ショック10年目の衝撃』(言視舎)など多数。」






2019.10.02

韓国における過去の清算-チョ・グク氏問題にもつながる

 「過去の清算」というと、正直言って、たいていの日本人はあまり触れたくない問題だと思うだろう。「過去」だけであれば知っておいた方が役に立つが、「清算」については、どうしても必要な場合以外、したくないし、考えたくない、というのが一般的な感覚である。しかし、韓国においては日本とまったく違う感覚のようである。

 韓国建国大学の李在承教授の論文、「韓国における過去清算の最近の動向」(立命館法学 2012 年 2 号(342号) 以下「李在承論文」)は興味深い研究である。以下は同論文から垣間見える韓国独特の政治風土の考察である。なお、「李在承論文は〇〇と述べている」という形で引用したことを含め、本稿の記載はすべて当研究所の解釈と仮説である。

 第1に、韓国における「過去の清算」は個別の事件の再検討というより、むしろ韓国において長年存在してきた政治傾向である。李在承論文の研究対象は1987年の韓国の民主化以降であり、廬泰愚、金泳三、金大中、廬武鉉および李明博各政権についての研究であるが、過去の清算は朝鮮戦争期から植民地時代、さらには東学党運動期にまで遡る問題であることが示唆されている。なお、李在承論文の研究対象外であるが、「過去の清算」は朴槿恵政権においても、また、文在寅政権においても重視されている。さらに、李氏朝鮮時代においても国家権力により韓国民が苦しめられてきたことは別の研究で指摘されている。
 あまり古い時代までさかのぼると資料も少なくなるし、実証的に論じることは困難になるが、「韓国では時代を超えて国家権力による暴力が問題となってきた」のではないかと思われる。

 李在承論文は、植民地時代の親日派の処遇、さらには慰安婦問題についても考察を加え、韓国の憲法裁判所が、韓国政府に慰安婦問題や徴用工問題を解決するために外交上の努力を行う憲法上の作為義務があり、韓国政府の不作為は憲法違反であるとると認定したことにも言及している。日本から見ればこの二つの問題が突出しているが、韓国側では「過去の清算」の一部である。

 第2に、「過去の清算」は国家権力による暴力があったとみなされることについて求められるのだが、具体的には、個人や集団に対する暴行に限らず、政府、法律、さらには裁判所なども責任を問われる問題である。つまり、韓国ではすべての「制度」が清算の対象になる可能性がある。
たとえば、李在承論文は、金泳三から李明博まで一政権平均4~5本の「過去清算関係法」が合計20本余り制定されたことを指摘している。その中の「 疑問死の真相解明に関する法」「 民主化運動関係者の名誉回復と補償に関する法」「済州島 4・3 事件の真相解明および犠牲者の名誉回復に関する法」、「巨昌事件等の関係者の名誉回復に関する法」などは過去を清算する運動に弾みをつけたといわれるくらい重要な法律であった。
しかし、これら法律でも国家権力による暴力を網羅できず、被害者の扱いが不当であるとの批判を浴びてさらなる立法が行われた。

 廬武鉉政権は「過去の清算」に熱心であり、この問題を包括的に扱うため「真実和解法」を制定し、「真実和解委員会」を設置した。真実和解委員会は、2006年から2010年までの 5 年間、各種の事件を調査し、膨大な量の年次報告書、さまざまな資料集、そして総合的な報告書を公表した。

 「過去の清算」を行うため新しい法律が作られ、また、真実和解委員会が設置されること自体は有意義で、必要なことだったのであろうが、新たな立法も真実和解委員会の報告も、さらなる問題を作り出す危険があるのではないか。日本人の感覚からすれば、あまりに大規模に、しかも恒常的に「過去の清算」が行われれば、国家と社会はつねに不安定な状況に置かれると思われる。

 なお、真実和解法が制定され、委員会が設置されるに際しては、憂慮する声もあったという。韓国でも政治の安定が求められるのは当然であり、「過去の清算」といえば無条件でまかり通る状況ではなかったのであろう。
文在寅政権も、この真実和解委員会(part 2)を再度立ち上げたいと意向を示したことがあったが、実際には設置に至っていないようである。

 第3に、被害者の救済は司法では実現しなかったと李在承論文は指摘している。また、裁判所は公訴時効の適用に厳格であり、そのことが犠牲者救済の壁になった、韓国政府は公訴時効の問題を全く解決しようとしなかったとも指摘している。清算が必要な問題でも時効が経過しているため再審はできないとされるケースが多数あったのであろう。この点でも韓国は日本と大きく異なっている。
 李在承論文は司法機関でも真実和解委員会の勧告にしたがって再審を行い、無罪判決を言い渡し、犠牲者に対して賠償を認める判決を出した例があったという。しかし、これはよかったことか、真実和解委員会の判断は間違うことはなかったか、日本人の感覚では疑問であろう。

 「過去の清算」は、国家情報院、国防省、警察などの強権を振るう可能性のある国家機関(李在承論文では「国家の暴力装置」)についても必要とされ、実行された。これらの機関でも過去の暴力を調査する内部委員会が設けられ調査活動が行われたのである。

 現在、文在寅政府は、検察だけが「過去の清算」から取り残されたので、今、改革しなければならないと主張している。それは李在承論文とも平仄が合う面があるが、そのための手段として検察から違法行為を疑われているチョ・グク氏を司法長官に任命したことは、新たな問題の始まりとなる危険がある。
 チョ・グク氏の任命は、政権が交代すれば批判され、あらたな「過去の清算」問題になるのではないか。ともかく、日本ではチョ・グク氏の司法長官任命は韓国の内政問題だと認識されているが、韓国では「過去の清算」という一般的な問題の一角なのである。

 第4に、つねに、幅広く「過去の清算」を求める韓国人は、韓国の歴代政府も、その他の制度、たとえば法律や司法制度も信頼していない。また、信頼しないのは国内だけでなく、日本など諸外国も信頼していない。意図的に信頼しないのでなく、信頼できないのかもしれない。韓国においては、「時代を超えて国家権力による暴力が問題となってきた」のではないかと第1で述べたが、その結果韓国人の性格や行動形態にも影響したのだと思う。

 例えば、日本から見ると、韓国は国際約束を守らないという特異な行動を取ることがある。「過去の清算」問題は、この頭の痛い疑問に説明のヒントを示していると思われる。

2019.09.25

イランの核合意見直しに関するローハニ大統領の発言

 国連総会に出席中のイランのローハニ大統領は9月24日、記者団に対し、「制裁が解除されれば、米国が一方的に離脱した核合意に関し、小さな修正や追加について議論する用意がある」と述べたと伝えられた。

 この発言をもってイランが米国と対話する考えになったとはただちには言えない。「制裁が解除されれば」という条件が付いているし、「小さな修正や追加について議論する用意がある」というのもどれほどのことか明確でない。したがって、ローハニ大統領のこの発言は表面的には従来からの姿勢と変わらないと言えるかもしれない。

 しかし、この発言はやはり注目される。

 第1に、この発言全体が穏やかな口調で語られており、トランプ米大統領に、米国が希望するなら条件次第で対話に応じる用意があるとのサインを送っていると解釈できるからである。

 ローハニ大統領は、欧米諸国からも積極的に評価される人物であることは差し引いてみなければならないが、それにしてもこの発言は穏やかである。

 第2に、9月14日、サウジアラビア東部のアブカイク及びクライスにある石油生産・出荷基地に対して行われた無人機(ドローン)攻撃に関し、イランに厳しい姿勢を取る米国は、当初、イランを責めていたが、その後慎重姿勢に転じた。一方、23日には英独仏の首脳がサウジへの攻撃には「イランに責任がある」との共同声明を行った。従来、欧州諸国はイランに理解を示し、米国の一方的離脱には批判的であったのと比べると逆の形になったのである。

 英独仏が言っている「イランに責任がある」とは、イランが攻撃したという意味でない。慎重に言えば、イランが「関与した」ということであり、具体的には攻撃をしたイェーメンの反政府勢力フーシ派を、「止めなかった」、あるいは「何らかの便宜を与えた」ことなどがありうる。

 そして注目すべきは、この厳しい声明に対するイランの反応が穏やかなことである。しかも、その声明の後でローハニ大統領は米国との対話に関して穏やかな、積極的とも見られる発言を行ったのである。つまり、きついことを言われたのにローハニ氏は穏やかな発言を行ったのである。この時系列も見逃せない。

 さらに、ローハニ大統領の、英仏独の煮え切らない態度に業を煮やして「制限破り」の第3弾を行うとの9月4日の発言とも著しくトーンが違っている。このように見ていくと、ローハニ大統領は「イランに責任がある」ことを、明言はできないが、事実上認めているのではないかと思われる。

 では、一体、イランの誰が攻撃に関与したのかという疑問が残る。ここから先はさらに大胆な仮説になるのだが、イランの内部には必ずしも大統領の了承なしに国際的に問題となる行動をする者がいるのではないかという仮説である。仮説は安易に拡大すべきでないが、ホルムズ海峡で起こっていることはこのような仮説が正しいことを裏付けているとも解釈できる。

 ともかく、今回の石油施設攻撃は断じて許されない蛮行であったが、これを奇貨として、イランと米英仏独が穏やかな解決に向けて前進してもらいたいものである。

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