平和外交研究所

2016 - 平和外交研究所 - Page 56

2016.02.09

(短評)「人工衛星」打ち上げに関する米国の発表

 北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NORAD)という、北米をミサイル攻撃から防衛するシステムがあり、冷戦時代にはソ連からの核搭載ミサイルが飛んでこないか監視していた。世界で不審な飛行体をモニターしている最高権威といってよい防衛システムだ。北朝鮮が前回(2012年末)「人工衛星」と称するものを打ち上げた時、NORADは同日中に、発射の事実とともに「軌道に入ったらしい(appeared to achieve orbit)」と発表していた。
 しかし今回、NORADは8日、米戦略軍の発表を引用する形で、発射されたものが「宇宙空間に(into space)打ち上げられた」とだけ発表した。
 米国防省(PENTAGON)のDoD News(9日2時半(日本時間)の時点)もNORADと同じ内容だ。両者は事実上一体なので当然のことだが、念のために確かめておいた。

 一部の報道では、PENTAGONあるいは米戦略軍が「軌道に入った」ことを認めたとされているが、それは非公式取材の結果だったようだ。
 米国は、「軌道に入った」とは安易に言わないようとくに慎重に扱っている可能性がある。

 一方、今回の発表は、単に「人工衛星」の状況を客観的に描写するだけでなく、「関係者は安全保障のために韓国や日本などの同盟国と緊密に協力している」と述べている。政治的な意図も感じられる説明だ。

 いずれにしても、客観的で、正確な分析が行われることを期待したい。

(米国防省のDoD News)
Stratcom Assessment: North Korea Launches Missile
DoD News, Defense Media Activity

WASHINGTON, February 6, 2016 — Detected and assessed as a North Korean launch, U.S. Strategic Command systems tracked a missile today on a southerly route over the Yellow Sea.
The launch into space occurred at 7:29 p.m., EST, with North American Aerospace Defense Command determining that at no time was the missile a threat to North America, Stratcom officials said in a news release.
“The men and women of Stratcom, NORAD, Northcom and Pacom remain vigilant in the face of North Korean provocations and are fully committed to working closely with our Republic of Korea and Japanese allies to maintain security,” the officials said in the release.
2016.02.08

(短評)北朝鮮の「人工衛星」打ち上げ

 北朝鮮が打ち上げる「人工衛星」は本当に「人工衛星」なのか、それとも「ミサイル」と解すべきか、明確でなく、国際社会では「ミサイル」とみなされることが多い。今回の打ち上げに関しても、日本では「事実上の弾道ミサイル」と言っているのをよく耳にするが、違和感を覚える。
 「人工衛星」であれ、「ミサイル」であれ、使用されるロケットは同じであり、違うのは用途に過ぎないからだ。本当はどちらとも決めにくい。
 国連安保理は、「人工衛星」であれ、「ミサイル」であれ、北朝鮮が発射することを禁止しているが、「北朝鮮が主張する人工衛星はミサイルだ」とまで言っているのではない。「弾道ミサイルのテクノロジーを使ういかなる発射も禁止」と言っているだけなのだが、誤解を生む一因になっているようだ。
 安保理決議があえてそのような文言を使って、本来どこの国でもできる「人工衛星」の打ち上げをも禁止したのは、北朝鮮が以前から東アジアの安定を脅かす危険な行動をしてきたからであり、また、「人工衛星」を「ミサイル」の隠れ蓑にしているという疑念を払しょくできないからだ。

 北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NORAD)という、北米をミサイル攻撃から防衛するシステムがあり、冷戦時代はソ連からの核搭載ミサイルが飛んでこないか、レーダーで監視していた。世界で不審な飛行体を監視している最高権威といってよい防衛システムだ。
 今回、NORADがどのような発表をするか。待たれる。北朝鮮が前回(2012年末)「人工衛星」と称するものを打ち上げた時、NORADは同日中に、発射の事実とともに「軌道に入ったらしい(appeared to achieve orbit)」と発表した。
今回、すでに発射の翌日(の3時半)になったが発表はない。まもなく発表されるのか。それとも発表についての方針が変わったのか。状況は不明だが、これが発表されると判断するのに極めて有力な根拠となる。

 ともかく、呼称についての混乱は遠からず解消されるだろう。北朝鮮が「人工衛星」と呼ぶものが地球を周回する軌道に入り、かつ、電波を送ってきていることが確認されても、「それは人工衛星ではない。ミサイルだ」と言い続けるのは困難だ。
 北朝鮮については批判しておけば済むようなところがあるので、安易になりがちだが、真実に向き合わなければ前に進めない。

2016.02.05

(短文)中国の台湾工作会議

 2月2日、中国で台湾工作会議が開かれた。台湾での総統・立法院選挙で国民党が大敗した後初めて開かれた台湾関係の大会議である。
 中国が今後、台湾政策をどのように展開していくか、強い関心が持たれている。最大の問題点は、「中国との良好な関係」が選挙において国民党に有利に働いたかということであるが、有利に働かなかったという印象が強い。とくに、「中国人とは思わない。台湾人だ」という意識が強くなっている台湾人には、国民党によるそのようなアピールは効き目がなかった。
 これは中国にとって深刻な事態なはずだ。今まで中国は、中国との関係が重要であることを台湾に対してアピールし、国民党もそのことを強調して民進党と戦い、成果を上げてきた。2008年に民進党から政権を取り戻したときはまさにそうだったのだが、今回の総統・立法院選挙ではそのようなアピールがきかなかった。
 では中国として今後どうするのか。もし、国民党が再び勢力を回復するという予想に立てれば、これまでの国民党にすり寄る方針を変える必要はない。しかし、もしそういう予想に立てないのであれば、中国は今後台湾の何を頼りに台湾政策を展開していくか、想像もつかない。

 背景説明が長くなってしまったが、北京で開かれた台湾工作会議で、「中共中央對台領導小組副組長(共産党中央の台湾指導小組の副組長)」の俞正聲政治局常務委員は従来の台湾政策を繰り返し、肝心の、今後の国民党との関係については、「両岸は一つの中国であることを認める台湾のすべての政党と政治団体との交流を強化し、両岸の同胞と一緒に両岸の共同の政治基礎を擁護していく」と述べただけであった。国民党とは言わなかったが、この発言に合う政党は国民党しかいない。したがって、俞正聲は国民党との関係を含め、従来通りの方針を繰り返したに過ぎなかった。
 中国としては当面このように言うほかないだろうが、台湾問題の去就は中国の政治を揺るがしかねない大事になりつつある。中国は台湾の約60倍の人口を持つ巨大国家であり、これまでは台湾に強い影響を及ぼしてきたが、今後、台湾の状況が中国に影響することが強まるのではないかと思われる。

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