3月, 2016 - 平和外交研究所 - Page 5
2016.03.09
政府と県が鋭く対立し、きわめて危険な状態が回避されたことは喜ばしい。政府は「辺野古への移転が唯一の選択肢である」という立場を変えたのではないと言っているが、いかなる解決が可能か、今後の話し合いに期待したい。
以前から言っていることだが、普天間飛行場の辺野古への移設問題については複雑な経緯があり、歴代の政府、防衛省や外務省、米軍が智慧を絞って出した結論について軽々に物を言うべきでないのはもちろんだが、辺野古への移設に関してすべてのことを知っていなければ発言できないということでもないはずだ。
あくまで辺野古での飛行場建設を強行するならば流血の事態が発生する恐れもある。政府として、時には強硬手段もやむをえない場合があることは承知しているが、日本人の大多数が基本的には豊かで安全な生活を送っている今日、米軍が使う飛行場を建設するために流血の犠牲を払ってでも強行しなければならないとはどうしても思えない。国際約束であっても、そんなことをすれば末代まで悔いが残るだろう
最善の策は、沖縄以外で米軍基地を受け入れることができる地方を探求することだ。政府と米国は辺野古移設しか解決の方法はないと言うが、他の場所を真剣に検討したのか、どうしても疑問が残る。全国どこにも米軍基地を受け入れるところがないとは思えない。
しかし、沖縄以外で引き受ける地方がどうしてもでてこない場合のことも考えておかなければならない。その場合は、辺野古に新しい飛行場を作るのではなく、普天間飛行場は残し、周囲の危険な場所に住んでいる人たちの移住により解決を図るほうがダメージは少ないと思う。
この住民移転案はすでに出ているようであるが、なぜかあまり広がっていない。辺野古案と住民移転案の費用比較、沖縄への政府からの補助への影響、運動を推進している政党の考えなどさまざまな事情が絡んでいるのだろうが、細かい損得勘定はともかくとして、飛行場移設より住民移転のほうが痛みは少ない。政治的立場の違いを超えて合意を形成できる案だと考える。
米国は日本政府と同様「辺野古しかない」という立場を表明しているが、普天間に残ることになる案は受け入れ可能だと思う。
(短評)辺野古の工事が中断された
3月4日、日本政府と沖縄県は、普天間基地の辺野古移設のための工事に関し福岡高裁沖縄支部が提示した和解案を受け入れ、工事はひとまず中断された。政府と県が鋭く対立し、きわめて危険な状態が回避されたことは喜ばしい。政府は「辺野古への移転が唯一の選択肢である」という立場を変えたのではないと言っているが、いかなる解決が可能か、今後の話し合いに期待したい。
以前から言っていることだが、普天間飛行場の辺野古への移設問題については複雑な経緯があり、歴代の政府、防衛省や外務省、米軍が智慧を絞って出した結論について軽々に物を言うべきでないのはもちろんだが、辺野古への移設に関してすべてのことを知っていなければ発言できないということでもないはずだ。
あくまで辺野古での飛行場建設を強行するならば流血の事態が発生する恐れもある。政府として、時には強硬手段もやむをえない場合があることは承知しているが、日本人の大多数が基本的には豊かで安全な生活を送っている今日、米軍が使う飛行場を建設するために流血の犠牲を払ってでも強行しなければならないとはどうしても思えない。国際約束であっても、そんなことをすれば末代まで悔いが残るだろう
最善の策は、沖縄以外で米軍基地を受け入れることができる地方を探求することだ。政府と米国は辺野古移設しか解決の方法はないと言うが、他の場所を真剣に検討したのか、どうしても疑問が残る。全国どこにも米軍基地を受け入れるところがないとは思えない。
しかし、沖縄以外で引き受ける地方がどうしてもでてこない場合のことも考えておかなければならない。その場合は、辺野古に新しい飛行場を作るのではなく、普天間飛行場は残し、周囲の危険な場所に住んでいる人たちの移住により解決を図るほうがダメージは少ないと思う。
この住民移転案はすでに出ているようであるが、なぜかあまり広がっていない。辺野古案と住民移転案の費用比較、沖縄への政府からの補助への影響、運動を推進している政党の考えなどさまざまな事情が絡んでいるのだろうが、細かい損得勘定はともかくとして、飛行場移設より住民移転のほうが痛みは少ない。政治的立場の違いを超えて合意を形成できる案だと考える。
米国は日本政府と同様「辺野古しかない」という立場を表明しているが、普天間に残ることになる案は受け入れ可能だと思う。
2016.03.08
慰安婦問題については、「未解決の多くの課題が残され、遺憾である」とした。先般の日韓合意については、「犠牲者(元慰安婦)中心の立場に立ったものでない」と批判して元慰安婦の側に立った履行を求め、国の指導者や官僚が、元慰安婦を再び傷つけるような発言を慎むよう促し、元慰安婦の女性たちに「補償、賠償、公式謝罪、名誉回復のための措置などを含む十分かつ有効な救済を実施」するよう勧告した。教科書についても、適切に記述して学生や社会に周知させるよう求めた。
岸田外相は8日午前の閣議後の記者会見で、この報告書について、「日本政府の説明内容を十分踏まえておらず、遺憾だ」と述べたと報道された。
もしこれが、2月16日の同委員会審議で、外務省の杉山外務審議官が慰安婦問題に関して軍や官憲によるいわゆる「強制連行」は確認できなかったなどと反論したことを指しているならば、岸田首相の発言こそ問題だ。
日本政府がこの委員会で説明した翌日、当研究所のHPに掲載した懸念は、今もそのまま当てはまる。
「2月16日、ジュネーブの女子差別撤廃委員会で日本政府の代表は、慰安婦問題に関し、いわゆる朝日新聞による「吉田清治証言」や「慰安婦20万人」の報道はいずれも誤りであったことを朝日新聞自身が認めたことを説明したと報道されている。
この説明自体は正しいが、懸念がある。
1つは、日本政府の代表は「吉田証言は国際社会に大きな影響を与えた」と述べたそうだが、何を根拠にそのようなことを言えるのか。慰安婦問題について国連の要請を受け人権委員会(現在の人権理事会)の特別報告者となっていたクマラスワミ氏は、「個別の点で不正確なところがあっても、全体の趣旨は変わらない。吉田証言があったから報告を作成したのではない」と言っていた。
当時、日本政府で慰安婦問題にかかわっていた者は、確かめたわけではないが、誰も吉田証言を重視していなかったと思う。
第2に、朝日新聞の誤報を説明するのは結構だが、全体の説明とのバランスが問題だ。もし、クマラスワミ報告の誤りをついてその信憑性に疑問を呈しようとしたのであれば、そのような方法は誤りだ。国連の人権関係委員会であれ女子差別撤廃委員会であれ、裁判の場ではない。重要なことは日本が慰安婦問題にどのように取り組んでいるかを客観的に説明し理解してもらうことだ。
ただし、日本政府代表による説明の全体が報道されているわけではないので、全体のバランスは分からない。
第3に、もし、日本政府が今後も朝日新聞の誤りを国際的な場で説明し続けるならば、各国は、日本が慰安婦問題に真摯に向き合っていないと誤解する恐れがある。今回、求められて説明したことに目くじら立てる必要はないが、慰安婦問題について国連の場で説明を求められることは今後何回もあるだろう。日本政府が重箱の隅をつつくような議論を繰り返すこと国益を損なう恐れがあり、重大な懸念がある。
第4に、先般の韓国政府との「今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える」との合意とも関連がありうる。日本政府が正しいと思っていることを説明しても、韓国政府は違った認識を持っていることがありうる。今回の女子差別撤廃委員会での日本政府代表の説明はこの点で問題とならないか。また、逆に、韓国政府が、将来日本政府と考えの違うことを発言した場合、日本政府はどう対応するのか。日本政府は一貫した姿勢で臨めるか。」
国連で慰安婦問題が取り上げられる機会は人権理事会の構造上、1年に何回かありうる。日本政府は杉山審議官の説明を今後も繰り返すのだろうか。岸田外相の発言を聞くと、そうする考えのようにも思われる。
しかし、それは日本の立場をさらに悪化させる危険があることに早く気付くべきだ。日本側が力を入れていることは、「強制連行」など一部の記述に誤りがあるという指摘だが、「強制連行はなかった」ことを知れば、日本政府に対する批判はなくなると思うのはあまりにも幼稚な考えだ。それどころではない。そのような議論は国連と各国が嫌うことである。なぜなら彼らは、一部の記述には誤りはありうるという前提で、日本政府の慰安婦問題に取り組む姿勢を問題にしているからだ。
日本政府が直視しなければならないのは、世界は女性の権利を擁護したいと望んでいることとそれを実現するための運動が展開されていることであり、国連女子差別撤廃委員会はそのためのメカニズムである。日本の一部の人が主張している「強制連行はなかった」ということが事実であってもこの運動の正統性は変わらないというのが彼らの考えだ。
慰安婦問題について日本はなんら批判されるいわれはないというなら別だが、一部の事実関係にこだわるのは国益を害する。世界の常識を見誤ってはならない。
女性差別・慰安婦問題について日本は国際的な感覚を見誤ってはならない
日本における女性差別について審査してきた国連女子差別撤廃委員会は7日、「女性活躍推進法」など、前回2009年の勧告以降の取り組みを評価する一方、夫婦同姓、再婚禁止期間、雇用差別、セクハラなどについてはまだ問題があることを指摘し、日本にさらなる改善を求める報告書(同委員会での審議を総括した「最終見解」)を発表した。慰安婦問題については、「未解決の多くの課題が残され、遺憾である」とした。先般の日韓合意については、「犠牲者(元慰安婦)中心の立場に立ったものでない」と批判して元慰安婦の側に立った履行を求め、国の指導者や官僚が、元慰安婦を再び傷つけるような発言を慎むよう促し、元慰安婦の女性たちに「補償、賠償、公式謝罪、名誉回復のための措置などを含む十分かつ有効な救済を実施」するよう勧告した。教科書についても、適切に記述して学生や社会に周知させるよう求めた。
岸田外相は8日午前の閣議後の記者会見で、この報告書について、「日本政府の説明内容を十分踏まえておらず、遺憾だ」と述べたと報道された。
もしこれが、2月16日の同委員会審議で、外務省の杉山外務審議官が慰安婦問題に関して軍や官憲によるいわゆる「強制連行」は確認できなかったなどと反論したことを指しているならば、岸田首相の発言こそ問題だ。
日本政府がこの委員会で説明した翌日、当研究所のHPに掲載した懸念は、今もそのまま当てはまる。
「2月16日、ジュネーブの女子差別撤廃委員会で日本政府の代表は、慰安婦問題に関し、いわゆる朝日新聞による「吉田清治証言」や「慰安婦20万人」の報道はいずれも誤りであったことを朝日新聞自身が認めたことを説明したと報道されている。
この説明自体は正しいが、懸念がある。
1つは、日本政府の代表は「吉田証言は国際社会に大きな影響を与えた」と述べたそうだが、何を根拠にそのようなことを言えるのか。慰安婦問題について国連の要請を受け人権委員会(現在の人権理事会)の特別報告者となっていたクマラスワミ氏は、「個別の点で不正確なところがあっても、全体の趣旨は変わらない。吉田証言があったから報告を作成したのではない」と言っていた。
当時、日本政府で慰安婦問題にかかわっていた者は、確かめたわけではないが、誰も吉田証言を重視していなかったと思う。
第2に、朝日新聞の誤報を説明するのは結構だが、全体の説明とのバランスが問題だ。もし、クマラスワミ報告の誤りをついてその信憑性に疑問を呈しようとしたのであれば、そのような方法は誤りだ。国連の人権関係委員会であれ女子差別撤廃委員会であれ、裁判の場ではない。重要なことは日本が慰安婦問題にどのように取り組んでいるかを客観的に説明し理解してもらうことだ。
ただし、日本政府代表による説明の全体が報道されているわけではないので、全体のバランスは分からない。
第3に、もし、日本政府が今後も朝日新聞の誤りを国際的な場で説明し続けるならば、各国は、日本が慰安婦問題に真摯に向き合っていないと誤解する恐れがある。今回、求められて説明したことに目くじら立てる必要はないが、慰安婦問題について国連の場で説明を求められることは今後何回もあるだろう。日本政府が重箱の隅をつつくような議論を繰り返すこと国益を損なう恐れがあり、重大な懸念がある。
第4に、先般の韓国政府との「今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える」との合意とも関連がありうる。日本政府が正しいと思っていることを説明しても、韓国政府は違った認識を持っていることがありうる。今回の女子差別撤廃委員会での日本政府代表の説明はこの点で問題とならないか。また、逆に、韓国政府が、将来日本政府と考えの違うことを発言した場合、日本政府はどう対応するのか。日本政府は一貫した姿勢で臨めるか。」
国連で慰安婦問題が取り上げられる機会は人権理事会の構造上、1年に何回かありうる。日本政府は杉山審議官の説明を今後も繰り返すのだろうか。岸田外相の発言を聞くと、そうする考えのようにも思われる。
しかし、それは日本の立場をさらに悪化させる危険があることに早く気付くべきだ。日本側が力を入れていることは、「強制連行」など一部の記述に誤りがあるという指摘だが、「強制連行はなかった」ことを知れば、日本政府に対する批判はなくなると思うのはあまりにも幼稚な考えだ。それどころではない。そのような議論は国連と各国が嫌うことである。なぜなら彼らは、一部の記述には誤りはありうるという前提で、日本政府の慰安婦問題に取り組む姿勢を問題にしているからだ。
日本政府が直視しなければならないのは、世界は女性の権利を擁護したいと望んでいることとそれを実現するための運動が展開されていることであり、国連女子差別撤廃委員会はそのためのメカニズムである。日本の一部の人が主張している「強制連行はなかった」ということが事実であってもこの運動の正統性は変わらないというのが彼らの考えだ。
慰安婦問題について日本はなんら批判されるいわれはないというなら別だが、一部の事実関係にこだわるのは国益を害する。世界の常識を見誤ってはならない。
2016.03.07
『無界新聞』は、昨年3月、『財経』雑誌を出版している「財訊集団」が新疆ウイグル自治区およびアリババと共同で設立した『無界伝媒』グループの傘下にあるが、「中央インターネット安全・情報化指導小組(中央网络安全和信息化领导小组、「中央网信办」と略称)」系統に属する党の新しい宣伝媒体だと明報は説明している。要するに党の一宣伝媒体なのだ。本拠は北京にある。
党の宣伝媒体が習近平主席に辞職を求めるのはもちろん前代未聞だし、中国ではありえないことである。「無界新聞」では大騒ぎとなり、急きょサイトは閉鎖され、再開されたときには当該記事はすでに削除されていた。明報は、これがハッカー攻撃によるものか、内部から出た問題か分からないともコメントしている。
この公開状が今後、大規模な習近平批判に発展する可能性は非常に小さいと思われる。世界第二の経済大国の指導者がそんなもので影響されるとは思えない。この公開状の火元は海外にある。
しかし、この公開状は、一時的であったにせよ、中国内でも閲覧可能な状態で掲載された。
内容的には一方的な批判が多いが、習近平がすべての権力を一手に収めたこと、反腐敗運動を政治目的で進めていることなどの批判は、人によっては同調するかもしれない。
一方、公開状が、習近平夫人の妹が中央テレビ局で重要な番組を担当したことを取り上げ、この問題が原因で習近平とその家族の安全が脅かされるかもしれないと述べているのは露骨な嫌がらせだろうが、まったく問題ないと言えるか。中国では指導者の振る舞いが批判される場合に、テレビ局を巻き込んでのスキャンダルがよく出てくるだけに気になる。習近平は総書記就任に先立って習家の親族については身辺整理をしたことが想起される。
外交面では、「一帯一路」により資金を無駄遣いしたと批判し、また、南シナ海問題について、「米国が韓国、日本、フィリピンおよびその他の東南アジア諸国と統一戦線を形成し、中国に共同で対抗するのを許してしまった」と指摘しているのはその通りだ。
また、台湾の総統選と立法院選挙で民進党が圧倒的な勝利をおさめたことを習近平の失策の一つとしてあげているのは、習近平には酷なことだが、中共中央で台湾政策が問題になっていることを示唆しているようだ。
中国の指導者は来年秋に現在の任期が満了する。習近平主席は再選されると大多数の人が思っているだろうが、その関連でもこの公開状は際物として片づけるのでなく、頭の片隅に置いておくべきことと思う。
以下は公開状の抜粋訳である。
「習近平主席、われわれは忠実な共産党員です。あなたは2012年の第18回党大会で共産党中央委員会総書記に選出されて以来、志を立てて反腐敗運動を進め、党内の不正な風潮を正してきた。みずから中央全面深化改革指導小組など多くの小組の長となって経済発展のために多くの仕事を行ない、人民から一定の支持を得てきた。
しかし、まさにあなたがそのような方式を用いたために権力を全面的に自己の手中に収め、なんでも自ら決定し、政治・経済・思想・文化各領域においてかつてない問題と危機を招来した。
人民代表大会、政治協商会議、国務院内の党組織を強化する一方、国家の各機関の独立性を弱体化させた。李克強国務院総理を含む同志の職権は大きく影響された。
中央規律検査委員会(注 反腐敗運動を進める機関。党組織からも恐れられるようになっている)が各国家機関・国有企業に派遣する巡視組は新しい権力機構になり、各級党委員会と政府の権力・責任関係は不明確になり、政策の実施が混乱に陥っている。
外交面では、鄧小平同志が残した「韜光養晦(才能を隠して、内に力を蓄える)」を捨て、盲目的に手を出し、良好な国際環境を作り出すことができなかった。北朝鮮の核兵器とミサイルの実験を止めることができず、中国の安全にとって巨大な脅威を作り出した。
米国はアジアへ戻り、韓国、日本、フィリピンおよびその他の東南アジアの諸国と統一戦線を形成し、中国に共同で対抗させてしまった。
香港・マカオ・台湾問題の処理においても鄧小平が残した「一国両制度」の考えに従わず、困難な状況に陥った。台湾では民進党が政権を獲得し、香港では独立派が台頭した。香港では非正常な方法で香港の書店主を大陸に連行した。
経済においては、あなたは中央財政経済指導小組を通じてマクロ・ミクロの経済政策制定に直接関与し、株式市場の大混乱を招き、人々の財産を無にしてしまった。嘆きの声は世に満ち満ちている。
国有企業からは大量の失業者を出した。
「一帯一路」戦略で多額の外貨準備を混乱した国家や地域に投入し、準備を減少させた。人民元は下落傾向に陥った。国民経済は崩壊の危機に立ち至っている。
思想・文化面では、あなたは「共産党という名字のメディア(媒体姓党)」と強調し、メディアの人民性を無視している。あなたは程度の低い人間を文芸戦線の代表と持ち上げ、広範な文芸工作者を憂慮させている。あなたは文化関係者にあなたをたたえる歌を歌わせて悦に入っている。あなたの夫人の妹を中央テレビ局の春節の聯歓晩会の制作主任にしており、本来みんなが喜ぶ春節を個人の宣伝道具にしている。個人崇拝に酔いしれ、党中央について議論することを許さない。
習近平同志、あなたは高圧的に反腐敗運動を進め、党内の不正をただすのに貢献した。しかし、それにともなって必要なことを実施しなかった。各級の政府は消極的になり任務を怠るようになっており、官員はことを恐れ、仕事しようとしなくなっている。
反腐敗運動の目的は権力闘争になっている。このように党内の権力闘争をあおるとあなたとあなたの家族の安全にかかわる問題が生まれてくる可能性がある。
あなたは党と国家を指導して未来に向かって進む能力を欠いている。総書記には向いていない。すべての党と国家の職務を辞して、党中央と全国の人民に、我々が積極的に未来に向かって歩めるよう指導できる賢く、有能な人を選んでもらうべきである。
2016年3月」
習近平主席への公開状(抜粋)
3月5日付の香港紙『明報』は、「習近平同志に党と国家の指導的職務を辞するよう求める」と題する公開状を掲載した。この公開状は、海外に拠点がある民主派のサイト『參與網』が掲載し、4日付の『無界新聞』が転載したものである。つまり、『參與網』から『無界新聞』、さらに『明報』と転載されたものだ。『無界新聞』は、昨年3月、『財経』雑誌を出版している「財訊集団」が新疆ウイグル自治区およびアリババと共同で設立した『無界伝媒』グループの傘下にあるが、「中央インターネット安全・情報化指導小組(中央网络安全和信息化领导小组、「中央网信办」と略称)」系統に属する党の新しい宣伝媒体だと明報は説明している。要するに党の一宣伝媒体なのだ。本拠は北京にある。
党の宣伝媒体が習近平主席に辞職を求めるのはもちろん前代未聞だし、中国ではありえないことである。「無界新聞」では大騒ぎとなり、急きょサイトは閉鎖され、再開されたときには当該記事はすでに削除されていた。明報は、これがハッカー攻撃によるものか、内部から出た問題か分からないともコメントしている。
この公開状が今後、大規模な習近平批判に発展する可能性は非常に小さいと思われる。世界第二の経済大国の指導者がそんなもので影響されるとは思えない。この公開状の火元は海外にある。
しかし、この公開状は、一時的であったにせよ、中国内でも閲覧可能な状態で掲載された。
内容的には一方的な批判が多いが、習近平がすべての権力を一手に収めたこと、反腐敗運動を政治目的で進めていることなどの批判は、人によっては同調するかもしれない。
一方、公開状が、習近平夫人の妹が中央テレビ局で重要な番組を担当したことを取り上げ、この問題が原因で習近平とその家族の安全が脅かされるかもしれないと述べているのは露骨な嫌がらせだろうが、まったく問題ないと言えるか。中国では指導者の振る舞いが批判される場合に、テレビ局を巻き込んでのスキャンダルがよく出てくるだけに気になる。習近平は総書記就任に先立って習家の親族については身辺整理をしたことが想起される。
外交面では、「一帯一路」により資金を無駄遣いしたと批判し、また、南シナ海問題について、「米国が韓国、日本、フィリピンおよびその他の東南アジア諸国と統一戦線を形成し、中国に共同で対抗するのを許してしまった」と指摘しているのはその通りだ。
また、台湾の総統選と立法院選挙で民進党が圧倒的な勝利をおさめたことを習近平の失策の一つとしてあげているのは、習近平には酷なことだが、中共中央で台湾政策が問題になっていることを示唆しているようだ。
中国の指導者は来年秋に現在の任期が満了する。習近平主席は再選されると大多数の人が思っているだろうが、その関連でもこの公開状は際物として片づけるのでなく、頭の片隅に置いておくべきことと思う。
以下は公開状の抜粋訳である。
「習近平主席、われわれは忠実な共産党員です。あなたは2012年の第18回党大会で共産党中央委員会総書記に選出されて以来、志を立てて反腐敗運動を進め、党内の不正な風潮を正してきた。みずから中央全面深化改革指導小組など多くの小組の長となって経済発展のために多くの仕事を行ない、人民から一定の支持を得てきた。
しかし、まさにあなたがそのような方式を用いたために権力を全面的に自己の手中に収め、なんでも自ら決定し、政治・経済・思想・文化各領域においてかつてない問題と危機を招来した。
人民代表大会、政治協商会議、国務院内の党組織を強化する一方、国家の各機関の独立性を弱体化させた。李克強国務院総理を含む同志の職権は大きく影響された。
中央規律検査委員会(注 反腐敗運動を進める機関。党組織からも恐れられるようになっている)が各国家機関・国有企業に派遣する巡視組は新しい権力機構になり、各級党委員会と政府の権力・責任関係は不明確になり、政策の実施が混乱に陥っている。
外交面では、鄧小平同志が残した「韜光養晦(才能を隠して、内に力を蓄える)」を捨て、盲目的に手を出し、良好な国際環境を作り出すことができなかった。北朝鮮の核兵器とミサイルの実験を止めることができず、中国の安全にとって巨大な脅威を作り出した。
米国はアジアへ戻り、韓国、日本、フィリピンおよびその他の東南アジアの諸国と統一戦線を形成し、中国に共同で対抗させてしまった。
香港・マカオ・台湾問題の処理においても鄧小平が残した「一国両制度」の考えに従わず、困難な状況に陥った。台湾では民進党が政権を獲得し、香港では独立派が台頭した。香港では非正常な方法で香港の書店主を大陸に連行した。
経済においては、あなたは中央財政経済指導小組を通じてマクロ・ミクロの経済政策制定に直接関与し、株式市場の大混乱を招き、人々の財産を無にしてしまった。嘆きの声は世に満ち満ちている。
国有企業からは大量の失業者を出した。
「一帯一路」戦略で多額の外貨準備を混乱した国家や地域に投入し、準備を減少させた。人民元は下落傾向に陥った。国民経済は崩壊の危機に立ち至っている。
思想・文化面では、あなたは「共産党という名字のメディア(媒体姓党)」と強調し、メディアの人民性を無視している。あなたは程度の低い人間を文芸戦線の代表と持ち上げ、広範な文芸工作者を憂慮させている。あなたは文化関係者にあなたをたたえる歌を歌わせて悦に入っている。あなたの夫人の妹を中央テレビ局の春節の聯歓晩会の制作主任にしており、本来みんなが喜ぶ春節を個人の宣伝道具にしている。個人崇拝に酔いしれ、党中央について議論することを許さない。
習近平同志、あなたは高圧的に反腐敗運動を進め、党内の不正をただすのに貢献した。しかし、それにともなって必要なことを実施しなかった。各級の政府は消極的になり任務を怠るようになっており、官員はことを恐れ、仕事しようとしなくなっている。
反腐敗運動の目的は権力闘争になっている。このように党内の権力闘争をあおるとあなたとあなたの家族の安全にかかわる問題が生まれてくる可能性がある。
あなたは党と国家を指導して未来に向かって進む能力を欠いている。総書記には向いていない。すべての党と国家の職務を辞して、党中央と全国の人民に、我々が積極的に未来に向かって歩めるよう指導できる賢く、有能な人を選んでもらうべきである。
2016年3月」
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