3月, 2016 - 平和外交研究所 - Page 4
2016.03.16
発端となったのは、2015年9月、任志強が、「共産主義青年団(共青団)は、共産主義の継承者であると言って十数年間我々をだましてきた」と批判したことだった。任志強は以前から、「習近平グループは車輪をひっくり返して転がした」「軍隊の銃口を内に向けた」「習近平は次々に下手な手(臭棋)を打った」「共産党の専制(極権)は非合法だ」「現体制は専制的な王権(皇権)であり、中央の専制だ」「憲法政治を支持する」「台湾の政権は合法だ」などの大胆な発言で知られていた人物だ。
任志強はまた、2016年2月に習近平主席が中国中央テレビ(CCTV)を視察した際、CCTV側は「我々は共産党が苗字であり(注 共産党政権の一部であるという意味)、絶対に忠誠です。どうぞ検閲してください」と言ったことも鋭く批判した。「中国のメディアは共産党が苗字だ」と言うのは習近平が最近好んで使っている、メディアは共産党に従えという意味の言葉であるが、任志強はCCTVを含めメディアが中共中央になびき、習近平にあからさまにおべっかを使うのを批判したのだ。
任志強のこれらの発言をめぐって起こった論争は、習近平体制に関係している。それはあまりにも大きな問題であり、裏付ける情報は少ないので公には報道しにくいだろうが、今後の中国を見ていく上で欠かせない視点だと思う。
以下の分析は、北米に本拠がある「万維読者網」に3月13日、掲載された「中国瞭望」の記事である。このようなサイトの性質上、中国に対して過度に批判的になりがちなことは斟酌する必要があるが、話半分としても興味深い内容だ。
なお同じく米国に本拠がある多維新聞3月5日付の論評も同趣旨の論評を行っているが、情報源など火元は同じかもしれない。
「今回の事件については「4つの勢力」が議論に加わり「混戦」になった。「4つの勢力」とは、劉雲山が率いる宣伝部系統、共青団派、習近平勢力および王岐山の規律検査委員会系統だ。
CCTVなどを批判されたことを問題視した宣伝部系統は任志強に強い批判で反撃しつつ、文化革命式の「大批判闘争」を展開しようとした。その目的は、習近平グループと王岐山系統を離間させることであり、習近平にとって面倒な問題を引き起こそうとしている(注 任志強のような人物が出てこないよう宣伝部がしっかりしなければならないことを印象付けることだろう)。
しかし、習近平は劉雲山から宣伝系統のコントロールを取り戻したい考えだ。党の宣伝系統は、公安系統を周永康が私物化したように、劉雲山の私的領域となっているからである。習近平がCCTVを視察し、「メディアは党の一部だ」と言った真意は、「劉」の手先であってはならないということを示すためだ。
一方、王岐山の規律検査委員会は、令計画の残党を一掃することを2016年の工作の重点としている。そのため、令計画の本拠地であった中央弁公庁のほか、中央宣伝部、中央の大メディア、特に新華社とCCTVが検査の対象となっている。劉雲山はこれに反発し、自己の「宣伝王国」を守るため、任志強事件を利用して習近平に面倒な問題を起こし、宣伝部系統を軽視する王岐山の力を制御しようと狙っているのだ(注 宣伝部系統が重要であることを習近平にアピールしようとしているという意味)。
任志強の共青団批判は「太子党」を助けることとなった。「太子党」は国有企業でうまい汁を吸っている人たちであり、それをイデオロギーに比較的忠実な共青団は批判しがちであった。その共青団を任志強が批判したので結果的にライバルである「太子党」を助けることになった。しかし、そのような人物が自由に発言するのは問題だと、共青団は逆に反撃に出た。国有企業を食い物にしている「太子党」は国有企業改革の障害となっており、これを助けたとなると任志強に報復する機会を狙っていた共青団としては任志強を攻撃する格好の材料となったのだ。
一方、共青団は王岐山には痛みつけられていた。反腐敗運動の中で多くの団員が失脚させられ、勢力をそがれていたのだ。挽回のため共青団は習近平に取り入ろうとした。
宣伝部系統と共青団は、習近平・李国強体制も習近平・王岐山体制も認めたくないのだ。王岐山には来年秋の第19回党大会で退くのを望んでいる。
習近平は現在、少し左寄りのことを発言すれば宣伝部系統が大いに持ち上げてくれる状況にある。そうでない発言、たとえば、胡耀邦をたたえる講話はあまり報道されなかった。数年後には、習近平は「第2の毛沢東」とか「人民の敵」にされてしまう可能性がある。
習近平はすでに誰が本当に忠実なのか分からなくなっている。
任志強事件は習近平を打倒しようとする勢力を結集する結果となっている。
習近平と王岐山が「文革」式の大批判闘争を阻止した後、内部のある政治勢力は習近平に対する公開状(本研究所HP3月7日)で習近平を批判した。
「明鏡博客」サイトの「外参」は、この公開状は第19回党大会へ向けて中共中央内の諸派の闘争の序幕であり、習近平打倒の最初の銃声だと言っている。
習近平の強権政治と権力集中は、各派をしていかに習近平を制約するかを考えさせるようになっている。
彼らは、習近平を下した後、弱いリーダーを担ごうとしている。その最適の人物は李国強だ。」
なお、中国語のウィキペディアによると、「3月に入って任志強批判は突然姿を消した。任志強は何ら処分を受けていない」そうである。宣伝部は任志強をめぐる混戦が継続するのは好ましくないと判断するに至ったためかと思われる。
ある中国人実業家の率直な発言が暴露した中国の政治状況?
華運集団の総裁として実業界でも、また中国のテレビ界でも有名な任志強の率直な発言をめぐって議論が沸き起こった。発端となったのは、2015年9月、任志強が、「共産主義青年団(共青団)は、共産主義の継承者であると言って十数年間我々をだましてきた」と批判したことだった。任志強は以前から、「習近平グループは車輪をひっくり返して転がした」「軍隊の銃口を内に向けた」「習近平は次々に下手な手(臭棋)を打った」「共産党の専制(極権)は非合法だ」「現体制は専制的な王権(皇権)であり、中央の専制だ」「憲法政治を支持する」「台湾の政権は合法だ」などの大胆な発言で知られていた人物だ。
任志強はまた、2016年2月に習近平主席が中国中央テレビ(CCTV)を視察した際、CCTV側は「我々は共産党が苗字であり(注 共産党政権の一部であるという意味)、絶対に忠誠です。どうぞ検閲してください」と言ったことも鋭く批判した。「中国のメディアは共産党が苗字だ」と言うのは習近平が最近好んで使っている、メディアは共産党に従えという意味の言葉であるが、任志強はCCTVを含めメディアが中共中央になびき、習近平にあからさまにおべっかを使うのを批判したのだ。
任志強のこれらの発言をめぐって起こった論争は、習近平体制に関係している。それはあまりにも大きな問題であり、裏付ける情報は少ないので公には報道しにくいだろうが、今後の中国を見ていく上で欠かせない視点だと思う。
以下の分析は、北米に本拠がある「万維読者網」に3月13日、掲載された「中国瞭望」の記事である。このようなサイトの性質上、中国に対して過度に批判的になりがちなことは斟酌する必要があるが、話半分としても興味深い内容だ。
なお同じく米国に本拠がある多維新聞3月5日付の論評も同趣旨の論評を行っているが、情報源など火元は同じかもしれない。
「今回の事件については「4つの勢力」が議論に加わり「混戦」になった。「4つの勢力」とは、劉雲山が率いる宣伝部系統、共青団派、習近平勢力および王岐山の規律検査委員会系統だ。
CCTVなどを批判されたことを問題視した宣伝部系統は任志強に強い批判で反撃しつつ、文化革命式の「大批判闘争」を展開しようとした。その目的は、習近平グループと王岐山系統を離間させることであり、習近平にとって面倒な問題を引き起こそうとしている(注 任志強のような人物が出てこないよう宣伝部がしっかりしなければならないことを印象付けることだろう)。
しかし、習近平は劉雲山から宣伝系統のコントロールを取り戻したい考えだ。党の宣伝系統は、公安系統を周永康が私物化したように、劉雲山の私的領域となっているからである。習近平がCCTVを視察し、「メディアは党の一部だ」と言った真意は、「劉」の手先であってはならないということを示すためだ。
一方、王岐山の規律検査委員会は、令計画の残党を一掃することを2016年の工作の重点としている。そのため、令計画の本拠地であった中央弁公庁のほか、中央宣伝部、中央の大メディア、特に新華社とCCTVが検査の対象となっている。劉雲山はこれに反発し、自己の「宣伝王国」を守るため、任志強事件を利用して習近平に面倒な問題を起こし、宣伝部系統を軽視する王岐山の力を制御しようと狙っているのだ(注 宣伝部系統が重要であることを習近平にアピールしようとしているという意味)。
任志強の共青団批判は「太子党」を助けることとなった。「太子党」は国有企業でうまい汁を吸っている人たちであり、それをイデオロギーに比較的忠実な共青団は批判しがちであった。その共青団を任志強が批判したので結果的にライバルである「太子党」を助けることになった。しかし、そのような人物が自由に発言するのは問題だと、共青団は逆に反撃に出た。国有企業を食い物にしている「太子党」は国有企業改革の障害となっており、これを助けたとなると任志強に報復する機会を狙っていた共青団としては任志強を攻撃する格好の材料となったのだ。
一方、共青団は王岐山には痛みつけられていた。反腐敗運動の中で多くの団員が失脚させられ、勢力をそがれていたのだ。挽回のため共青団は習近平に取り入ろうとした。
宣伝部系統と共青団は、習近平・李国強体制も習近平・王岐山体制も認めたくないのだ。王岐山には来年秋の第19回党大会で退くのを望んでいる。
習近平は現在、少し左寄りのことを発言すれば宣伝部系統が大いに持ち上げてくれる状況にある。そうでない発言、たとえば、胡耀邦をたたえる講話はあまり報道されなかった。数年後には、習近平は「第2の毛沢東」とか「人民の敵」にされてしまう可能性がある。
習近平はすでに誰が本当に忠実なのか分からなくなっている。
任志強事件は習近平を打倒しようとする勢力を結集する結果となっている。
習近平と王岐山が「文革」式の大批判闘争を阻止した後、内部のある政治勢力は習近平に対する公開状(本研究所HP3月7日)で習近平を批判した。
「明鏡博客」サイトの「外参」は、この公開状は第19回党大会へ向けて中共中央内の諸派の闘争の序幕であり、習近平打倒の最初の銃声だと言っている。
習近平の強権政治と権力集中は、各派をしていかに習近平を制約するかを考えさせるようになっている。
彼らは、習近平を下した後、弱いリーダーを担ごうとしている。その最適の人物は李国強だ。」
なお、中国語のウィキペディアによると、「3月に入って任志強批判は突然姿を消した。任志強は何ら処分を受けていない」そうである。宣伝部は任志強をめぐる混戦が継続するのは好ましくないと判断するに至ったためかと思われる。
2016.03.14
実行すれば、北朝鮮は核兵器とミサイルを放棄するのか。それとも実験を止めるのか。
国連安保理の決議にはこれらすべてが記載されているが、実現するかどうかは別問題である。
制裁決議だけでは足りず、北朝鮮との平和条約交渉が必要ではないか。
この問題に関して日本が果たすべき役割がある。
3月13日、東洋経済オンラインに「北朝鮮制裁、米中の主張がかみ合わない理由
平和協定交渉は、必要なのか不要なのか」を寄稿した。
北朝鮮制裁決議の成立
北朝鮮に対する厳しい制裁決議が成立した。それを実行することが大事だと指摘されている。その通りだが、実行すれば何が達成できるかは、実は問題なのだ。実行すれば、北朝鮮は核兵器とミサイルを放棄するのか。それとも実験を止めるのか。
国連安保理の決議にはこれらすべてが記載されているが、実現するかどうかは別問題である。
制裁決議だけでは足りず、北朝鮮との平和条約交渉が必要ではないか。
この問題に関して日本が果たすべき役割がある。
3月13日、東洋経済オンラインに「北朝鮮制裁、米中の主張がかみ合わない理由
平和協定交渉は、必要なのか不要なのか」を寄稿した。
2016.03.10
「個人投資家の利益を確実に保護するように。それが習近平国家主席の手書きメッセージの内容だった。急落した中国株式相場の回復措置策定を担当する当局者に、中国指導部はこう指示した。
事情に詳しい関係者によると、習主席の指示は空売りなどを手掛ける「悪意ある」トレーダーの調査報告書に走り書きされており、 監督当局と法執行当局が昨年7月に開いた会議で示された。関係者は同会議が非公開だったことを理由に匿名で語った。その後の数カ月、中国当局は株価下支えを目的とした前例のない対応をエスカレートさせ、相場下落を増幅させたと当局が非難する投機家を処分することになった。
結果は習主席が頭に描いていたものとは違ってしまったと言ってよいだろう。中国株式市場から昨年7月以来、時価総額7280億ドル(約82兆円)が失われただけでなく、相場急落への中国当局の対処はグローバルな運用者および当局が保護しようとした個人投資家双方の信頼を損ねた。中国当局による介入は、習主席のポピュリズムが市場本意の経済構築という主席自身が掲げる方針といかに矛盾するかを示す。これはまた、国有企業改革から人民元取引の一段の自由化容認まで習主席が幅広い課題に取り組む中で、今後もこうした政策上の失敗が起きるリス クがあることを示唆する。
中国株急落を正確に予想したラボバンク・グループの金融市 場調査責任者マイケル・エブリー氏(香港在勤)は「株式市場への対処 が適切にできないなら、扱いがより難しい国有企業改革に中国当局はどう取り組むのだろうか。当局の試みは完全な失敗だった。それが投資家 の信頼感の大幅低下を招いている」と述べた。
原題:Xi’s Handwriting Betrays a Paradox at the Core of Chinese Policy(抜粋)」
(短文)習近平の株式市場に関する指示
ブルームバーグ3月8日付の次の記事は中国ウォッチの観点からも注目される。「個人投資家の利益を確実に保護するように。それが習近平国家主席の手書きメッセージの内容だった。急落した中国株式相場の回復措置策定を担当する当局者に、中国指導部はこう指示した。
事情に詳しい関係者によると、習主席の指示は空売りなどを手掛ける「悪意ある」トレーダーの調査報告書に走り書きされており、 監督当局と法執行当局が昨年7月に開いた会議で示された。関係者は同会議が非公開だったことを理由に匿名で語った。その後の数カ月、中国当局は株価下支えを目的とした前例のない対応をエスカレートさせ、相場下落を増幅させたと当局が非難する投機家を処分することになった。
結果は習主席が頭に描いていたものとは違ってしまったと言ってよいだろう。中国株式市場から昨年7月以来、時価総額7280億ドル(約82兆円)が失われただけでなく、相場急落への中国当局の対処はグローバルな運用者および当局が保護しようとした個人投資家双方の信頼を損ねた。中国当局による介入は、習主席のポピュリズムが市場本意の経済構築という主席自身が掲げる方針といかに矛盾するかを示す。これはまた、国有企業改革から人民元取引の一段の自由化容認まで習主席が幅広い課題に取り組む中で、今後もこうした政策上の失敗が起きるリス クがあることを示唆する。
中国株急落を正確に予想したラボバンク・グループの金融市 場調査責任者マイケル・エブリー氏(香港在勤)は「株式市場への対処 が適切にできないなら、扱いがより難しい国有企業改革に中国当局はどう取り組むのだろうか。当局の試みは完全な失敗だった。それが投資家 の信頼感の大幅低下を招いている」と述べた。
原題:Xi’s Handwriting Betrays a Paradox at the Core of Chinese Policy(抜粋)」
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