平和外交研究所

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2013.06.16

在日外国人に対する法の壁、心の壁

田中宏氏が最近『在日外国人-法の壁、心の壁 第三版』を出版した。在日外国人はここ二、三年はやや減少気味であるが、大きな傾向としては着実に増加しつつあり、現在、ざっと210万人の外国人が登録している。つまり、旅行者でない外国人滞在者がそれだけいるということである。
当然、日本の社会、国民生活に善悪両方の影響が及ぶが、重要なことは、人間が国境を越えて移動することは世界の趨勢であって、そのなかから異なる国民、異なる民族間に理解が生まれ、親しみが増すことであり、そのような趨勢に背を向ければ、その逆の結果になる。つまり、仲良くなれない、ということである。国家が友好的な関係を維持するには、そのような人々の間の親しみの感情を大切にすることが基礎となる。
しかるに、日本人は外国人に対して基本的には友好的であるが、政府となると必ずしもそうではなく、また、日本の法律や慣習に忠実に行政を行なう結果、外国人に対しては友好的でなくなることがある。この認識を持つことはきわめて重要である。
具体的にどのようなことが起こっているか、田中氏の著作はその経験に基づき、正確に、実証的に教えてくれる。同氏は、キャリアの大半を恵まれない外国人のために研究し、奔走してきた。同氏は日本の良心である。

2013.06.15

憲法96条の改正は疑問

憲法第96条を改正することについての疑問
○96条を改正することは、どの問題であれ、改正を容易にする。これは改正でなく、憲法の性格を変えることであり、新しい憲法を作ることに等しいのではないか。
○憲法は部分的に改正する必要があるとは思う。「PKOへの参加」は正面から認めるべきであり、「戦力は保持しない」「交戦権は認めない」などは削除すべきである。しかし、そのような改正は、それぞれについて検討した結果に基づき実行すべきであり、要件は現憲法の定めている厳格なものでよい。「交戦権は認めない」とは国際的にも珍しい規定であり、意味不明である。もっとも、残しておいても大した障害にはならないであろう。
○憲法については、以前はイデオロギー的な見方(対応)が強かったが、傾向として、日本国民は現実的に見るようになっている。現憲法の改正は、物事いかんであるが、非現実的なことでない。
○集団的自衛権は、現憲法を改正することなく、認めることが可能であり、また、認めるべきである。もし集団的自衛権を認めるには憲法改正が必要というのであれば、それについては賛成する余地があるが、96条の改正によるべきでない。必要な条文だけ改正するのがよい。
○96条を改正して、国会による発議要件を緩和した場合、政権政党の意思によって容易に改正提案が行われ、その結果、国民が望まない内容の憲法改正発議が行われる可能性がある。天皇制廃止の発議さえ比較的容易に行われる。最近、96条改正論者は、国会の発議要件が現憲法のように厳格であると、国民が改正を検討する機会を奪っていると主張しているが、国民は、天皇制の廃止を国会が簡単に発議することを望んでいるか。けっしてそうでないであろう。改正論者の主張はおためごかしの議論ではないか。

2013.05.16

核燃料の再処理

2013年5月2日付米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は日本の核燃料再処理に関して、「日本は米国の反対にもかかわらず(over the objections of the Obama administration)大規模な六ヶ所村工場を稼働させようとしている」という書き出しの記事を掲載している。
米国が具体的にどのように反対しているのか、説明はないが、この記事は全体として、六ヶ所村プラントの稼働開始は、核拡散を助長するおそれがあるという趣旨である。次のようなことも言っている。
北朝鮮の活発な核開発にかんがみると、六ヶ所村プラントの稼働開始は本来の想定よりはるかに広範な影響(far reaching affect)を他の核計画に及ぼすおそれがあると日、米、韓の公務員は恐れている。
中国、韓国および台湾は六ヶ所村を注意深く観察しており、中国は現有の設備を拡大すべきか、また、他の国は自分たちの核燃料技術を開発すべきか参考にしようとしている。また、韓国はすでに日本と同様の再処理の許可を米国に求めている。また、中国は仏アレバ社と六ヶ所村と同規模の再処理施設の建設契約を結んだ。六ヶ所村の稼働開始はこの地域に新しい次元の摩擦(a new dimension of friction)を惹起する恐れがある。
米国のもう一つの懸念は、核燃料のストックの安全性であり、日本は原子力発電が大幅に減少したのでプルトニウムのストックがそれだけ多くなり、安全面での危険性が高まっている。数週間前に米国は日本に安全面での懸念を伝えた。

米国は、日本をP5では唯一の例外国として核燃料の再処理を認めているが、この状態に黄色信号が点いている。韓国の経済成長とともに、これまでのように、日本はよいが韓国はダメというように片づけることは困難になりつつある。
日米原子力協定は2018年7月に満期を迎える。日米とも何もしなければ自動延長されるか。当然視はできない。現在未決着状態にある米韓原子力協定の更改問題との関連もある。
さらに深層心理としては、米国には水平的拡散のみならず、垂直的拡散、すなわち日本の核武装を懸念する気持ちがあるだろう。それは戦後つねに存在してきた問題であるが、現在の日本は右傾化していると米国は見ているのではないか。一般の日本人は、日本の核武装などありえないと思っているが、憲法が改正されるとどうなるか。
カーター政権時代、米国は日本の再処理を認めない方針を打ち出そうとしたが、日本の猛烈な働きかけにより、それは途中で沙汰やみとなった。しかし、そのときと国際環境は大きく異なっている。

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