オピニオン
2015.01.15
先般のAPEC首脳会議の際、安倍首相と朴槿恵大統領は、中断している局長級協議を進めるためそれぞれ事務方を督励する意向を示したと伝えられている。日韓関係が困難な状況の中にあってこの協議は関係改善の糸口を探る重要な場である。しかしながら、現実に何ができるか。具体論になればなるほど簡単でないことが見えてくる。日韓双方とも困難な状況があり、日本側では、日韓基本条約で決着がついたことを蒸し返すわけにはいかないという基本問題は残ったままである。本稿では日本側の事情には深入りせず、韓国側の問題を取り上げることとする。
これまでの局長級協議で、韓国側は、日本側が元慰安婦ら韓国内の期待にも応え、また、国際的にも受け入れられる解決策を取るよう求めているそうだ。そのような気持は理解できるが、韓国側が要求し、日本側はそれを聞いて何ができるかを検討するということだけでは協議は終わらないはずである。日本政府は韓国政府の指揮下になく、双方は平等の立場であり、協議では双方が受け入れ可能な方策を模索し、話し合い、合意するべきである。一般論として、合意しない協議、つまり、それぞれが関心事を述べ合うだけで済ませる協議もありうるが、そのような性格の協議は大して重要でない。
したがって局長級協議は何らかの合意を目指して行われることを期待したいが、そもそも韓国側は日本側と合意できるか疑問がある。そのようなことを言うのは常識的には失礼であろうが、私はどうしてもその点が引っ掛かる。なぜかと言うと、かりに何らかの内容で合意が達成されても、韓国側では、合意したことに対して元慰安婦の支援者や韓国の裁判所から政府と異なる要求や判断が出るとはたして責任を持って対処できるか疑問なのである。
韓国側を見下しているのではない。今まで、いろんな場で、韓国だけの問題をあげつらうのでなく我々自身の問題も客観的に見ていかなければならないと論じてきた。もし、局長級協議が合意に達し、韓国側がそれでよいと言える内容の合意が達成されれば、そのような疑念は根拠がなかったこと、韓国政府は当事者能力を持っていることがあらためて証明される。そうなれば潔く謝罪する覚悟を持ちつつ、あえて失礼なことを書いている。過去のことを持ち出して云々するためでない。これまでの経験にかんがみ、局長級協議では双方とも賢明に、しかも責任ある態度で臨んでもらいたいからである。
日韓首脳会談と局長級協議
韓国の朴槿恵大統領は1月12日の年頭記者会見で、今年が日韓関係正常化50周年になることに触れつつ、両国の関係を前に進めるために首脳会談を開催したいとの考えを表明した。その際、日本側の姿勢の転換、変化が重要だと述べ、また「過去には、会談をしてかえって関係が後退したこともあった」とも語っている。一国の指導者としてはもう少し幅の広い姿勢を示したほうがよかったのではないかという気がするが、一部に言われているように、これまでと同じ姿勢だと片づけることにはちょっと抵抗がある。首脳会談開催に条件を付けるべきか否かというのは重要な点であるが、その基準だけでは朴槿恵大統領が日韓関係改善のための糸口を探ろうとし、また工夫していることが見過ごされてしまう恐れがあるからである。先般のAPEC首脳会議の際、安倍首相と朴槿恵大統領は、中断している局長級協議を進めるためそれぞれ事務方を督励する意向を示したと伝えられている。日韓関係が困難な状況の中にあってこの協議は関係改善の糸口を探る重要な場である。しかしながら、現実に何ができるか。具体論になればなるほど簡単でないことが見えてくる。日韓双方とも困難な状況があり、日本側では、日韓基本条約で決着がついたことを蒸し返すわけにはいかないという基本問題は残ったままである。本稿では日本側の事情には深入りせず、韓国側の問題を取り上げることとする。
これまでの局長級協議で、韓国側は、日本側が元慰安婦ら韓国内の期待にも応え、また、国際的にも受け入れられる解決策を取るよう求めているそうだ。そのような気持は理解できるが、韓国側が要求し、日本側はそれを聞いて何ができるかを検討するということだけでは協議は終わらないはずである。日本政府は韓国政府の指揮下になく、双方は平等の立場であり、協議では双方が受け入れ可能な方策を模索し、話し合い、合意するべきである。一般論として、合意しない協議、つまり、それぞれが関心事を述べ合うだけで済ませる協議もありうるが、そのような性格の協議は大して重要でない。
したがって局長級協議は何らかの合意を目指して行われることを期待したいが、そもそも韓国側は日本側と合意できるか疑問がある。そのようなことを言うのは常識的には失礼であろうが、私はどうしてもその点が引っ掛かる。なぜかと言うと、かりに何らかの内容で合意が達成されても、韓国側では、合意したことに対して元慰安婦の支援者や韓国の裁判所から政府と異なる要求や判断が出るとはたして責任を持って対処できるか疑問なのである。
韓国側を見下しているのではない。今まで、いろんな場で、韓国だけの問題をあげつらうのでなく我々自身の問題も客観的に見ていかなければならないと論じてきた。もし、局長級協議が合意に達し、韓国側がそれでよいと言える内容の合意が達成されれば、そのような疑念は根拠がなかったこと、韓国政府は当事者能力を持っていることがあらためて証明される。そうなれば潔く謝罪する覚悟を持ちつつ、あえて失礼なことを書いている。過去のことを持ち出して云々するためでない。これまでの経験にかんがみ、局長級協議では双方とも賢明に、しかも責任ある態度で臨んでもらいたいからである。
2015.01.04
金正恩がこのような発言をしたのは、北朝鮮が内外ともに困っているからだとする見方があるが、その当否はともかくとして、このような形でメッセージを発したのは金正恩の個人的好みだからでもあるように思われる。北朝鮮の新指導者となって以来、金正恩は青年らしい振る舞いや率直さを示している。
一方、北朝鮮の中央通信社は、新年を迎えるに際して世界各国の指導者が金正恩(この場合の肩書は「国防委員会第1委員長」か)に対して送った祝電を紹介するなかで、「中国共産党中央委員会総書記、中華人民共和国主席」とだけ言及し、習近平の名前は出さなかった。多維新聞(米国を拠点とする中国系の新聞 1月3日付)はこのことを指摘するとともに、「これはめずらしいことであり、北朝鮮が不満であることを示しているようである」とコメントしている。
金正恩第1書記の新年の辞
金正恩第1書記は元旦にテレビカメラの前で「新年の辞」を述べ、南北関係について「雰囲気と環境が整えば、最高位級会談もできない理由はない」と、朴槿恵大統領との首脳会談を行なう用意があることを示した。このことは注目されたが、金正恩は、その実現のために韓国が米国と毎年行なっている軍事演習を取りやめることを要求し、また、やめない限り北朝鮮は核開発と経済建設の2本柱路線を継続するとも述べた。これに韓国が応じることは困難であろう。韓国側は金正恩の呼びかけを歓迎しつつも慎重な対応をしており、実務者の会談は開かれるかもしれないが、首脳会談が実現する見込みはあまりなさそうである。金正恩がこのような発言をしたのは、北朝鮮が内外ともに困っているからだとする見方があるが、その当否はともかくとして、このような形でメッセージを発したのは金正恩の個人的好みだからでもあるように思われる。北朝鮮の新指導者となって以来、金正恩は青年らしい振る舞いや率直さを示している。
一方、北朝鮮の中央通信社は、新年を迎えるに際して世界各国の指導者が金正恩(この場合の肩書は「国防委員会第1委員長」か)に対して送った祝電を紹介するなかで、「中国共産党中央委員会総書記、中華人民共和国主席」とだけ言及し、習近平の名前は出さなかった。多維新聞(米国を拠点とする中国系の新聞 1月3日付)はこのことを指摘するとともに、「これはめずらしいことであり、北朝鮮が不満であることを示しているようである」とコメントしている。
2014.12.29
一方、中国側では、習近平中国主席が北朝鮮よりも韓国訪問を優先させるなどの動きがあった。かつて「血で固めた友諠」と言われた中朝の関係は冷えきっており、伝統的記念日、たとえば、中朝同盟条約締結記念日(7月11日)に従来は盛大に祝賀していたが、今年はそれもやめてしまった。
このような変化を背景に、中国では感情的な反発が生じ、北朝鮮との関係のあり方が議論される機会が増えている。二、三の例を紹介する。
○12月8日付の香港の『大公報』紙は次のように評論している。
「環球時報(人民日報傘下の通俗紙)は最近、中国は北朝鮮を放棄すべきではないかというテーマで、連日にわたって激しい議論を掲載した。とくに、前南京軍区の王洪光副司令員が「もし朝鮮半島で再度戦争が起きても、中国としては他国のために戦争する必要はない」と直言したことなどが注目され、米国メディアも強い関心を見せた。
中国の学界で「北朝鮮切り捨て論」が唱えられるようになってすでに久しいが、この種の議論を公にすること、「北朝鮮切り捨て」の意見を公然と政府系の新聞が報道することは、多くの人に、中国政府は「北朝鮮切り捨て」について世論工作をしようとしているのではないか、という疑問を抱かせる。」
○「九个头条网(www.topnews9.com)」は、そのURLが示す通りトップニュースを流すサイトであるが、国連での決議に関連して、北朝鮮での人権状況を解説している。
国連では、「北朝鮮における人権に関する調査委員会(COI)」が2014年2月に報告書を発表して以来、国連人権理事会や国連総会で審議が続けられ、12月18日、国連総会は、北朝鮮の人権問題を国際刑事裁判所(ICC)に付託することや制裁の強化を安保理に要請する決議を賛成多数で採択した。両方とも安保理の決定が必要だからである。
安保理は、22日、総会が決定したことを安保理の議題とすること、つまり北朝鮮の人権問題をICCに付託し、北朝鮮に対する制裁を強化することを審議することを決定した。中国とロシアが反対したが、議題の決定に拒否権はないので、賛成多数で決定が採択されたのである。
国連総会での北朝鮮に対する決議は、過去10年連続で今回が10回目であった。その意味ではこれまで繰り返されてきた決議であるが、外務省は「北朝鮮人権状況決議の内容を踏まえた、これまで国連総会本会議において採択された北朝鮮人権状況決議よりも強い内容となっています」と解説している。
新しい点はここまでであろう。安保理は審議を開始したが、ICCへの付託も制裁の強化も決定されることはないと思われる。中国とロシアはこの種の問題についてはつねに反対するからである。中国の反対は北朝鮮を擁護することが目的とは限らない。西側の基準で人権状況を判断され、国連として決定されると中国自身が困るからでもある。
一方、中国のインターネット・サイトには中国政府とは異なる姿勢が見られる。「九个头条网」の報道がその例である、
このサイトが問題として取り上げたことは、食べ物を与えないこと、残酷刑、恣意的な拘留、弱者の軽視、言論の自由の侵犯、生存権に対する侵犯、移動の自由制限、強制連行である。
この解説は、北朝鮮が問題ある振る舞いを行ない中朝関係を悪化させていることを間接的に批判しているのであろう。しかしそれは表面のことである。むしろ、北朝鮮問題にかこつけて、中国自身の人権状況に対する国民の意識を高揚させることが狙いではないかと思われる。
○中国には、金正恩が訪中することを期待する声もある。
12月29日付の『大公報』紙は、中国の学界には異なる意見があり、中国人民大学が2013年7月に開催したシンポジウムで訪中の可能性を指摘した意見があったことや、2014年9月に中国の在韓国大使もその趣旨のことを発言したなどと報道している。
中国における中朝関係論
中国と北朝鮮との関係が悪化している。理由は、従来から中国との関係を取り仕切り、金正日が死去した後北朝鮮の実質的な指導者になると見られていた張成沢が処刑され、また、金正恩第1書記は中国への依存関係を少なくしようとしているためである。中国との関係は歴史的、地理的関係から、今でもどの国よりも広範囲にわたり、かつ、深いが、傾向としては今後ロシアとの関係が深まっていくであろう。一方、中国側では、習近平中国主席が北朝鮮よりも韓国訪問を優先させるなどの動きがあった。かつて「血で固めた友諠」と言われた中朝の関係は冷えきっており、伝統的記念日、たとえば、中朝同盟条約締結記念日(7月11日)に従来は盛大に祝賀していたが、今年はそれもやめてしまった。
このような変化を背景に、中国では感情的な反発が生じ、北朝鮮との関係のあり方が議論される機会が増えている。二、三の例を紹介する。
○12月8日付の香港の『大公報』紙は次のように評論している。
「環球時報(人民日報傘下の通俗紙)は最近、中国は北朝鮮を放棄すべきではないかというテーマで、連日にわたって激しい議論を掲載した。とくに、前南京軍区の王洪光副司令員が「もし朝鮮半島で再度戦争が起きても、中国としては他国のために戦争する必要はない」と直言したことなどが注目され、米国メディアも強い関心を見せた。
中国の学界で「北朝鮮切り捨て論」が唱えられるようになってすでに久しいが、この種の議論を公にすること、「北朝鮮切り捨て」の意見を公然と政府系の新聞が報道することは、多くの人に、中国政府は「北朝鮮切り捨て」について世論工作をしようとしているのではないか、という疑問を抱かせる。」
○「九个头条网(www.topnews9.com)」は、そのURLが示す通りトップニュースを流すサイトであるが、国連での決議に関連して、北朝鮮での人権状況を解説している。
国連では、「北朝鮮における人権に関する調査委員会(COI)」が2014年2月に報告書を発表して以来、国連人権理事会や国連総会で審議が続けられ、12月18日、国連総会は、北朝鮮の人権問題を国際刑事裁判所(ICC)に付託することや制裁の強化を安保理に要請する決議を賛成多数で採択した。両方とも安保理の決定が必要だからである。
安保理は、22日、総会が決定したことを安保理の議題とすること、つまり北朝鮮の人権問題をICCに付託し、北朝鮮に対する制裁を強化することを審議することを決定した。中国とロシアが反対したが、議題の決定に拒否権はないので、賛成多数で決定が採択されたのである。
国連総会での北朝鮮に対する決議は、過去10年連続で今回が10回目であった。その意味ではこれまで繰り返されてきた決議であるが、外務省は「北朝鮮人権状況決議の内容を踏まえた、これまで国連総会本会議において採択された北朝鮮人権状況決議よりも強い内容となっています」と解説している。
新しい点はここまでであろう。安保理は審議を開始したが、ICCへの付託も制裁の強化も決定されることはないと思われる。中国とロシアはこの種の問題についてはつねに反対するからである。中国の反対は北朝鮮を擁護することが目的とは限らない。西側の基準で人権状況を判断され、国連として決定されると中国自身が困るからでもある。
一方、中国のインターネット・サイトには中国政府とは異なる姿勢が見られる。「九个头条网」の報道がその例である、
このサイトが問題として取り上げたことは、食べ物を与えないこと、残酷刑、恣意的な拘留、弱者の軽視、言論の自由の侵犯、生存権に対する侵犯、移動の自由制限、強制連行である。
この解説は、北朝鮮が問題ある振る舞いを行ない中朝関係を悪化させていることを間接的に批判しているのであろう。しかしそれは表面のことである。むしろ、北朝鮮問題にかこつけて、中国自身の人権状況に対する国民の意識を高揚させることが狙いではないかと思われる。
○中国には、金正恩が訪中することを期待する声もある。
12月29日付の『大公報』紙は、中国の学界には異なる意見があり、中国人民大学が2013年7月に開催したシンポジウムで訪中の可能性を指摘した意見があったことや、2014年9月に中国の在韓国大使もその趣旨のことを発言したなどと報道している。
アーカイブ
- 2025年4月
- 2025年3月
- 2025年2月
- 2025年1月
- 2024年10月
- 2024年8月
- 2024年7月
- 2024年6月
- 2024年5月
- 2024年4月
- 2024年3月
- 2024年2月
- 2024年1月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2023年10月
- 2023年9月
- 2023年8月
- 2023年7月
- 2023年6月
- 2023年5月
- 2023年4月
- 2023年3月
- 2023年2月
- 2022年12月
- 2022年11月
- 2022年10月
- 2022年9月
- 2022年8月
- 2022年7月
- 2022年6月
- 2022年5月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年10月
- 2021年9月
- 2021年8月
- 2021年7月
- 2021年6月
- 2021年5月
- 2021年4月
- 2021年3月
- 2021年2月
- 2021年1月
- 2020年12月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年7月
- 2020年6月
- 2020年5月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年9月
- 2019年8月
- 2019年7月
- 2019年6月
- 2019年5月
- 2019年4月
- 2019年3月
- 2019年2月
- 2019年1月
- 2018年12月
- 2018年11月
- 2018年10月
- 2018年9月
- 2018年8月
- 2018年7月
- 2018年6月
- 2018年5月
- 2018年4月
- 2018年3月
- 2018年2月
- 2018年1月
- 2017年12月
- 2017年11月
- 2017年10月
- 2017年9月
- 2017年8月
- 2017年7月
- 2017年6月
- 2017年5月
- 2017年4月
- 2017年3月
- 2017年2月
- 2017年1月
- 2016年12月
- 2016年11月
- 2016年10月
- 2016年9月
- 2016年8月
- 2016年7月
- 2016年6月
- 2016年5月
- 2016年4月
- 2016年3月
- 2016年2月
- 2016年1月
- 2015年12月
- 2015年11月
- 2015年10月
- 2015年9月
- 2015年8月
- 2015年7月
- 2015年6月
- 2015年5月
- 2015年4月
- 2015年3月
- 2015年2月
- 2015年1月
- 2014年12月
- 2014年11月
- 2014年10月
- 2014年9月
- 2014年8月
- 2014年7月
- 2014年6月
- 2014年5月
- 2014年4月
- 2014年3月
- 2014年2月
- 2014年1月
- 2013年12月
- 2013年11月
- 2013年10月
- 2013年9月
- 2013年8月
- 2013年7月
- 2013年6月
- 2013年5月
- 2013年4月