平和外交研究所

2022 - 平和外交研究所 - Page 4

2022.07.02

ロシアによるサハリン2の「接収」

 ロシアのプーチン大統領は6月30日、ロシア極東サハリンの液化天然ガス(LNG)・石油開発事業「サハリン2」の運営を、新たに設立するロシア企業に譲渡させる措置を取った。表向きそうは言わないが、ウクライナ侵攻に関する対ロ制裁への対抗措置であることは間違いない。

 この事業に日本からは三井物産と三菱商事がそれぞれ12・5%、10%、英石油大手のシェルが27・5%出資しているが、新会社はすべての権利と義務、従業員を無償で引き継ぐ。日本企業が新会社の株式を取得できる可能性もあるそうだが、ロシア側の条件通りに取得を申請し、承認を受ける必要がある。株式を取得しなかった場合は、売却資金を得られる仕組みだが、ロシア国内の口座に実質的に「凍結」されるうえ、減額される恐れもある。これらを勘案すると日本の企業が補償を受ける可能性は極めて低いと言わざるを得ない。

 シェルはロシアのウクライナ侵攻後にいち早く撤退を決め、売却交渉を中国企業としているという。

 関係企業にとっての損失と同時に、日本国についても甚大な影響が及ぶ恐れがある。日本は輸入するLNG全体の8・8%(2021年)をロシアに依存しており、その大半を占めているサハリン2からの供給がなくなるからである。今夏、日本は電力需給がひっ迫気味であるうえに、この問題が生じるわけであり、状況はますます悪化しそうだ。

 ただし、新会社としても獲得したLNGをどこかに売却しなければならず、日本にも輸出を継続する可能性もないではないが、売却条件はロシア政府が完全に握っており、これまでのようにはいかないだろう。

 ロシア政府は今回の措置を取った理由として、関係する外国企業や外国人の契約違反により、住民生活への脅威が発生したことなどをあげているが、だれもそんなことは信じない。かりにそういう問題が本当にあったとしても、関係の法規と国際慣習に従って解決を図るべきものであり、一方的に接収することは認められない。

 日本としては今後もロシアとの友好関係を維持し、また信頼関係の構築に努めるべきは当然だが、ロシアに依存する関係は解消していかなければならない。
2022.07.01

驚きの日本女子バレーボールチーム

 日本の女子バレーボールチームは6月19日、中国チームと対戦し、3対1、つまりとられたのは1セットだけで、3セットをとり勝利を収めた。中国チームはリオ五輪で金メダルを獲得。現在の世界ランキングはネーションズリーグ開始前で3位であり、常に世界のトップクラスである。日本は6位であった。平均身長は、日本チームは約175センチだが、中国チームは日本より10センチ以上高い。しかし、日本はそんな高さの差などモノともせず圧勝したのだ。

 日本の女子バレーが金メダルを獲得して「東洋の魔女」と名をはせたのは1964年の東京オリンピックのこと。最近十数年は芳しくない状況が続いていた。2012年のロンドンオリンピックで銅メダルを獲得した時はそれでもちょっとしたニュースになったが、その後はまたランクが下がり、2016年のリオ五輪では準々決勝で敗退。2021年開催の東京五輪では25年ぶりの1次予選敗退となってしまった。そうなると選手には申し訳ないが、テレビをみることもなくなってしまった。

 ところが、今回のネーションズリーグがはじまるや、日本チームは第1戦から勝ち続けた。私があれっと思い始めたのは4戦目で強豪米国に勝った後であり、第8戦目では中国を下して8戦全勝となった時には、「いったいどうなったのだ」と、うれしさのあまり唖然としてしまった。

 この日本チームを率いているのは真鍋政義監督である。その下でチームが世界の強豪チームを撃破しているのは誠に喜ばしい。また中田前監督のご尽力にも敬意を表したい。十数人もの選手から成るチームがある日突然強くなることはありえない。今日の全日本女子チームは中田監督の下ではぐくまれ、鍛えられたのだと思う。

 真鍋監督は手ごたえ以上の自信を感じているようである。当然である。それに、私は今回、真鍋氏がユーモアのセンスを持ちあわせていることに気づいた。試合後の会見の際などに全日本女子チームの元選手に冗談を飛ばして笑わせている。それも辛しのきいた冗談だ。これからもおおおいに楽しませていただきたいものである。

 真鍋氏はリオ五輪後に監督を辞任し、その後、出身地の姫路で「ヴィットリーナ姫路」という女子バレーチームを立ち上げ、取締役球団オーナーとして選手の育成に尽力してきた。全日本のセッターとして大活躍した竹下佳江氏もヴィクトリーナ姫路の監督を経て現在も役員を務める傍ら全日本のアドバイザーを兼ねている。私は真鍋監督と同じ姫路出身である。20歳年長であり、真鍋氏にも竹下氏にもお目にかかったことはないが、両氏を通じて東京と姫路の関係がさらに発展すればよいなと期待している。

 本稿は、実は、以上では終われない。選手の個人名を出すのは礼儀に反するかもしれないが、あえて名前を出して述べることとしたい。古賀紗理那選手であり、今でこそ「主将でエース」と尊敬されているが、今日に至る道は平たんでなかった。古賀は十代のころから嘱望されていたのだが、約1年前までは、そう言っては失礼千万だろうが、パッとしなかった。2016年真鍋監督が発表したリオデジャネイロ五輪の12人の代表メンバーの中に古賀紗理那の名前はなかった。代表落ちは大変なショックであり、目標としてきたものを逃したことは言葉では表せなかったという。当然であろう。昨年の東京五輪では初戦のケニア戦で右足を負傷し、抱かれて退場し、その後2試合を欠場。東京オリンピックでは、日本チームは25年ぶりの1次予選敗退となってしまった。これがわずか1年前のことである。

 ところが、2022年に入るや状況はがぜん違ってきた。前述したように日本チームは宿敵の米国や中国のチームを次々に撃破した。古賀選手はその中心であり、後方からのバックアタック、側方からのクロスを面白いように決めた。中国には2メートルを超す選手がいる。ちょうど20センチ高いのだが、古賀選手はその高さをものともせず、強烈なスパイクで打ち抜いた。

 日本チーム全体が一大変化を遂げたのだが、なかでも古賀選手は大化けして我々の(私の?)前に現れた。どうしてそんなことが可能であったのか。若いころから将来を嘱望されていただけに立ちはだかった茨はいたかったはずである。本当によくやったと思う。同氏は私の孫の世代だが、あらためて敬意を表したい。

 日本のメディアではバレーボールの試合がすべて報道されるわけではないが、You tubeが補っている。映像技術の発達により細かい動作までカメラは追ってくれる。相手が勢いよく日本側のコートに打ち込んできてもボールはなかなか下に落ちない。文字通り指一本で拾い上げ、そして何倍も強いボールを相手側に打ち込む。ノリのよい外国の報道は日本チームの超人的なプレーに大興奮である。

 今後日本チームは6月30日からカナダで4戦し、その後ファイナルラウンドへ進む。今の勢いを続けられれば優勝も夢でないという。楽しみである。カナダでの第一戦ではオランダチームに惜敗したが、力は互角であった。今後も勝ち進んでいくと信じている。
2022.06.24

核兵器禁止条約(TPNW)第1回締約国会議

 6月21~23日、ウィーンで核兵器禁止条約(TPNW)第1回締約国会議が開催され、最終日に「ウィーン行動計画」が採択された。

 今回の会議の結果について懸念されることが二つある。一つはウクライナに侵攻したロシアが「核の脅し」を続けることについて、会議は直接ロシアを非難することはおろか、間接的にもロシアを非難しなかったことである。

 ただし、この問題についてはいくつか注意が必要だ。
プーチン大統領は「核の脅しをしていない」と抗弁するかもしれない。たしかに、ウクライナへの侵攻にかんして「核を使う」とは言っておらず、「ロシアとロシア系住民の安全を守るためにあらゆる兵器を使うことを辞さない」との趣旨を発言している。「あらゆる兵器を使用する」とは言ったが、「核」とは言っていないというわけだ。

 もちろん、そんなことは受け入れられない。プーチン氏はウクライナと特定しない場合には「核兵器」を使用すると明言しており、「あらゆる兵器」というからには当然「核」が含まれる。全体として判断すれば、プーチン氏は今回のウクライナ侵攻に際して「核を使ってでも」ということを表明しているのと変わりはない、と世界は考えている。それは現在世界の常識だ。だが、ロシアは「そんなことは言っていない」、「核を騒いでいるのは西側のメディアだ、西側のメディアが核戦争の危険をあおっているのだ」と開き直る可能性があり、そうなった場合その誤りを国際ルールに従って断罪することは容易でない。もちろん、世界はそうなってもロシアを非難するだろう。日本もそうするだろう。しかし、プーチン氏が「核」を言っていない限り、最後の詰めが少々困難になるかもしれない。

 今回の締約国会議で採択された「ウィーン行動計画」にロシアを名指ししての「核の脅し」に関する文言は入らなかったことは残念だが、だからといって核禁止条約の価値が損なわれることはない。同条約の趣旨である核兵器の禁止は今後も追求される。

 第二の問題点は、日本の立場が悪くなったのではないかということである。日本がTPNWに正式参加しないことは世界中で理解されていると言えるだろうが、オブザーバー参加もしなかった。その理由は、米国など核保有国が同条約に反対しており、非保有国と立場がわかれているということだ。松野博一官房長官は6月21日の記者会見で、条約には核保有国が1カ国も参加していないとも指摘している。

 日本がオブザーバーとしても参加しなかったことに驚きはないだろうが、失望されたと思う。各国の代表はさすがに日本を非難しないだろうが、その目は冷たい。関係者の中には日本政府に批判的なことを述べる人もいる。私は長年核や軍縮問題に携わってきたので各国の見方は大体見当がつく。日本は国連やNPTの場では「核の犠牲となった唯一の国である」ことを述べつつ、日本の安全を確保するには核兵器の抑止力に頼らざるを得ないとの立場であり、そのことは表向き理解されているが、日本は本気か、政府は立ち回っているだけでないかと思われている。

 TPNWを軽視してはならない。日本は方針を改めないと、今後立場がますます悪化する危険がある。今回の会議には北大西洋条約機構(NATO)加盟国のドイツ、ベルギー、オランダ、ノルウェー、加盟申請中のフィンランドやスウェーデンのほか、オーストラリアなど、日本と同様米国の「核の傘」の下にいる国々もオブザーバーとして名を連ねた。これも日本の立場を悪くした。彼らはできるのに、唯一の被爆国の日本はできないという形になったからである。

 また、「ウィーン行動計画」は、「核兵器の使用や実験によって影響を受けた国々のための国際的な信託基金の設立について、実現可能性を話し合い、可能なガイドラインを提案する」とも、また「核保有国と、核の傘にある同盟国が、核への依存を減らすために真剣な対応を取っていないことにも深い懸念した」とも述べている。どちらも日本に直接関係があるが、日本はオブザーバーにならなかったことにより、蚊帳の外に置かれることになった。そんなことでよいのだろうか。日本は会議の場で日本の考えを説明すべきだったのではないか。

 岸田首相はNPTに参加すると自ら表明している。日本政府はその姿勢で何とか乗り切れるとみているのだろう。松野官房長官は「NPTの8月の再検討会議の場で『意義ある成果』を目指す」とした。日本政府は「橋渡し」をすると言ったこともあった。しかし、「核兵器国と非核兵器国を何らかの形で妥協させる」ことも「意義ある成果を目指す」ことも困難であることを各国ともよく承知している。こんな言い方をしては身もふたもないだろうが、「意義ある成果」という目標について賛同してくれる国など皆無であろう。「橋渡し」は日本ではよいこととして受け止められるが、各国は理解してくれない。首脳同士の会談では儀礼的によいことだと言ってくれるかもしれないが、各国には「橋渡し」にぴったり該当する言葉などないだろう。要するに、本音ベースでいえば、岸田首相は不可能なことを掲げているのである。

 今からでも遅くない。岸田首相には、NPTがTPNWと本質的に異なるのか、徹底的に考察した上でNPTに出ていただきたい。そして、悪化している日本のイメージを改善してほしい。

アーカイブ

検索

このページのトップへ

Copyright©平和外交研究所 All Rights Reserved.