平和外交研究所

2016 - 平和外交研究所 - Page 4

2016.12.13

(短文)中国とイランの関係強化

 イランが最近中国との関係を強化していることは、米国と中国との関係にさらなる影を落とすだろう。米国に本拠がある中国語の『多維新聞』12月8日付はイラン・中国関係について要旨次のように論評している。

○中国とイランの年次外相会議の初会合が12月5日、イランで開催され、中国からは王毅外相が出席した。中国の中東外交強化の一歩である。
○2016年の初頭、習近平国家主席はイランを訪問し、両国は戦略的パートナーシップを結んだ。それ以来中国・イラン関係は飛躍的に発展し、11月14日には、中国の常万全国防相がテヘランで軍事協力協定に署名した。両国は合同軍事演習を行うことになっている。イランのTasnim通信社によれば、イランと中国は防衛協力協定を結ぶ計画もあるそうだ。そうなると両国は準同盟関係になり、イランが第三国から脅威を受けると中国はイランに兵力を派遣できるようになる。
○イランは中国の中東進出にとって戦略的要地であり、中国はイランを通じて中東に対する影響力を増している。
○中国とイランの経済貿易関係は増大しており、中国はイラン原油の最大輸入国であり、イランは中国の農産品の大口輸入国である。
○トランプ次期大統領はイランと6カ国の核合意を一方的に破棄すると言っているが、王毅外相は今次会談後の記者会見で、「イラン核合意が関係国内で生じた情勢の変化に影響されてはならない」と述べたのは、トランプ氏がイラン合意を覆すと言っていることに対する警告だ。
○トランプ氏は、タカ派を重用している。また、米議会は12月1日にイランに対する制裁を10年延長した。トランプ氏がイランの核合意を覆すことはイランと中東に脅威となる。トランプ氏は核合意を子供の遊びのように扱っている。
2016.12.10

(短評)朴槿恵大統領に対する弾劾

 12月9日、韓国国会は朴槿恵大統領の弾劾を決定した。同大統領は職務の執行を停止され、今後は黄教安首相が大統領の代行を務める。弾劾が適法か、憲法裁判所は180日以内に決定することになっており、弾劾が認められれば朴槿恵大統領は失職し、60日以内に新大統領が選出される。したがって、最も時間がかかる場合を想定すれば、来年の8月初めに新大統領が誕生するのである。これは朴槿恵大統領の本来の任期満了より約半年早い。

 今回の弾劾決定についてはいくつか疑問の点がある。弾劾は韓国と韓国人の問題であり、日本人としてとやかく言うべきでないが、韓国は日本に最も近い隣国であり、韓国との友好関係なくして日本の安泰を確保することは困難だ。韓国のことはよく知らなければならず、疑問点を認識することはそのための第一歩である。

 朴槿恵大統領の退陣要求について疑問があることは当HPで複数回指摘したが、最大の疑問は、朴槿恵大統領の責めに帰せられるべき過ちが何であり、またどれほど深刻か、まだ明確になっていないのに弾劾という強制的手続きで大統領の職務を停止することが妥当かということである。
 デモに参加し大統領の退陣を要求する者は150万人にも上ったと言われている。また、国会やマスコミもこれに同調した。弾劾はそのような状況に立ち至った結果だということはよく分かるが、デモの参加者の多くは弾劾の決定を喜んでいるようだ。音楽コンサートでの観客のようにペンライトを振っている。サッカーの試合でのようにウェーブも起こっている。参加者の中には大統領が変わらなければ韓国の政治はよくならないと言う者がいる。いろいろあるが、どうも違和感を覚えることが多すぎる。大統領を首にすることは悲しくないのかとさえ思う。世界の歴史上、圧政を倒して人々が歓喜することは何回もあった。ベルリンの壁を倒したときもそうだった。しかし、朴槿恵大統領の犯した問題はまるで違うのではないか。
 韓国では、何が問題となり、どうなると政治が動くのか、これは日本にとって極めて重要なことだ。日本の基準で測るべきでないのはもちろんだが、韓国では情緒で政治が動くというような大雑把な議論では真相は分からない。

 憲法裁判所は朴槿恵大統領の過ちがどれほど大きいか、弾劾は正当かについて判断を示すだろう。それはまた、韓国で燃え盛っている国民感情を立憲主義的民主主義国家においてどのように扱うべきかをも示してくれるのではないか。

 なお、2004年の盧武鉉大統領弾劾の場合、国会での訴追案の可決から憲法裁判所がこれを棄却するまで2カ月と2日かかった。今回も同程度の日数がかかるとすれば、来年2月の初めに判断が下ることになる。それまで韓国の政治が混乱するのは避けがたいが、早く正常化することを期待したい。

2016.12.08

(短評)安倍首相の真珠湾訪問

 安倍首相が真珠湾を訪問するのはよいことだと思う。日米関係をさらに前進させ、また、米国内に今も残る日本との戦争の記憶を薄め、わだかまりを解くのに資するからだ。
 しかし、本件については単純に片づけられない面がある。
 第1に、真珠湾訪問の発表は唐突だったと言われているが、準備はその前から進められてきたはずだ。真珠湾攻撃の12月8日(米国時間は7日)より前に発表したいと米側が希望していたことや、安倍首相がペルーでの立ち話で真珠湾を訪問することをオバマ大統領に伝えたこともそれまでに話が進んでいたことを裏付けている。初めてであれば、そのように大事なことを立ち話で伝えることはしない。
 第2に、オバマ大統領の広島訪問の際、日本の首相も真珠湾を訪問するのがよいという意見が一部にあったが、その時は、広島と真珠湾を並べるべきでないと思った。広島は原爆の投下地であり、犠牲になったのは即死およびそれに近い死者だけで14万人であり、その大多数は市民であった。
 一方、真珠湾で犠牲になった人は軍人が主であった。これほど異なる対象を並べてみるのはおかしいと思ったのだ。
しかし、両方とも戦争の犠牲であり、片方は慰霊の対象だが他方はそうでないとするのがはたして適切か。真珠湾攻撃は、米側においてどのような人為的操作があったにせよ、日本の責任であり、かつ、今でも米国人が重視しているかぎり、日本の首相が犠牲者を追悼するのはよいことだと思う。
 第3に、真珠湾を訪問するなら、他の場所、他の国も訪問すべきだという議論がある。その気持ちは分からないではないが、この種のことについては「平等」な扱いにあまり重きを置くべきでない。慰霊訪問の条件が整ったところから実行していくのがよく、その結果一種の不平等が生じてもやむを得ないと思う。
 中国では、安倍首相が真珠湾を訪問するなら南京にも来るべきだという意見が出ているが、それも条件が整えば検討すべきだ。しかし、今の日中関係を見るとそのような条件は、残念ながらなさそうだ。日中関係は日本が悪くしたのではない。日中両方に責任がある。

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