10月, 2015 - 平和外交研究所 - Page 6
2015.10.01
今年の総会では、いくつかの演説に注目が集まった。まず、オバマ米大統領とプーチン・ロシア大統領の演説だ。現在、シリアから膨大な数の難民が流れ出ており、ヨーロッパのみならず世界的な大問題となっている。その原因となっている過激派組織ISを世界はまだコントロールできていない。そのような状況の中で、米国は、アサド・シリア大統領のもとではISに対し有効な対策は取れないので排除すべきである、と主張している。一方ロシアは、米国などが支援している第三の勢力である反政府派は有効に機能していない、ISと戦っているのはシリア政府であることを認め、支持すべきだとの考えだ。
冷戦終了後十数年間、米ロは協調路線できたが、2014年のクリミア併合以来鋭く対立するようになってしまった。両国のアサド政権との関係はその延長線上で見ていく必要がある。
まったく正反対の立場である米国とロシアの大統領演説に注目が集まったのは当然だった。内容的には大部分すでに公表されたことであったが、国連総会に出席した各国の代表は一言一句聞き逃さないよう耳を傾けていただろう。
米ロの演説だけでない。イランのローハニ大統領の演説もある意味できわどいものだった。米国の中東への介入を批判し、またサウジをこき下ろしたからである。サウジへの巡礼で多数のイラン人が死傷した事件がきっかけだったのだろうが、イランの核開発問題についてさる7月にようやく合意が成立して中東のパワーバランスが大きく変化し、また、ライバル同士であったサウジアラビアとイランとの関係も改善に向かう兆しが見えはじめていただけに、ローハニ大統領の発言は各国の耳目を惹いたと思う。
わが安倍首相の演説はどうだったか。シリア・イラクの難民問題、今年が被爆70年であること、NPT再検討会議、日本が力を入れているアフリカ開発会議(TICAD)、人間の安全保障、安保理改革など幅広い問題を網羅的に取り上げた。しかし、シリア・イラクの難民問題はアフリカ、レバノン、セルビアなど世界の難民問題を列挙するなかでの言及に過ぎなかった。
各国は、日本が最近、安全保障関連法の大改正を行なったことに注目していたはずである。場合によっては自衛隊が救援に来てくれるという期待も生まれていただろう。
しかし、日本では憲法違反だという意見も強く、また、法律には「日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があるものを排除するため」でなければならないと、難解なことが書いてある。
また、法律では、他国に対する武力攻撃を排除する自衛隊の責務が明記されているのに(武力攻撃・存立危機事態法第3条4項)、自衛隊は外国の領土へ派遣されないという安倍首相の答弁は理解困難だろう。
要するに、各国としては、「日本では安全保障について大きな転換期を迎えているそうだ。これは日本だけの問題でなく、世界的な影響がありうる重要なことだ。しかし、本当はどうなのか」という気持ちが強いのではないか。安保関連法の大改正は日本が各国の関心に応えてアピールしなければならない問題だったのだ。
しかし、安倍首相は、我が国がPKOを重視し、貢献してきたことを説明した後、さらに「日本自身がこの先PKOにもっと幅広く貢献することができるよう,最近,法制度を整えました。」と述べただけであった。これでは、集団的自衛権の行使が認められるようになり、日本の自衛隊が他国の救援に出動することが可能になったという今次法改正のキモについて何も説明していないのに等しい。
一方、安倍首相は演説の中で、難民の関係で母子手帳に言及しつつ母親の苦労について力を込めて語った。しかし、残念ながら、これでは各国にアピールできなかっただろう。母と子の話が重要でないというわけではないが、そのことは各国が安倍首相から聞きたかったことではなく、各国は自衛隊の海外での行動が拡大するか否かを聞きたかったからだ。
国内的にも、今次法改正について結論が出たのは、賛否はともかく、極めて重要なことだ。なぜ、このことについて晴れの舞台である国連で説明しなかったのか、不可解だ。
安倍首相が国連で、今次法改正についてほとんど何も説明しなかったのは、特別の理由があったためか、それとも国際的に分かってもらえる言葉と論理で説明できなかったためか。あらためて考えさせられる演説であった。
国連総会‐安保関連法の改正を説明しない安倍首相
国連総会の一般演説は各国の首脳が演説する場である。国連加盟国の数は200近く、大国の演説でも注目されるとは限らない。どの国も各国にアピールできるよう工夫をこらす。今年の総会では、いくつかの演説に注目が集まった。まず、オバマ米大統領とプーチン・ロシア大統領の演説だ。現在、シリアから膨大な数の難民が流れ出ており、ヨーロッパのみならず世界的な大問題となっている。その原因となっている過激派組織ISを世界はまだコントロールできていない。そのような状況の中で、米国は、アサド・シリア大統領のもとではISに対し有効な対策は取れないので排除すべきである、と主張している。一方ロシアは、米国などが支援している第三の勢力である反政府派は有効に機能していない、ISと戦っているのはシリア政府であることを認め、支持すべきだとの考えだ。
冷戦終了後十数年間、米ロは協調路線できたが、2014年のクリミア併合以来鋭く対立するようになってしまった。両国のアサド政権との関係はその延長線上で見ていく必要がある。
まったく正反対の立場である米国とロシアの大統領演説に注目が集まったのは当然だった。内容的には大部分すでに公表されたことであったが、国連総会に出席した各国の代表は一言一句聞き逃さないよう耳を傾けていただろう。
米ロの演説だけでない。イランのローハニ大統領の演説もある意味できわどいものだった。米国の中東への介入を批判し、またサウジをこき下ろしたからである。サウジへの巡礼で多数のイラン人が死傷した事件がきっかけだったのだろうが、イランの核開発問題についてさる7月にようやく合意が成立して中東のパワーバランスが大きく変化し、また、ライバル同士であったサウジアラビアとイランとの関係も改善に向かう兆しが見えはじめていただけに、ローハニ大統領の発言は各国の耳目を惹いたと思う。
わが安倍首相の演説はどうだったか。シリア・イラクの難民問題、今年が被爆70年であること、NPT再検討会議、日本が力を入れているアフリカ開発会議(TICAD)、人間の安全保障、安保理改革など幅広い問題を網羅的に取り上げた。しかし、シリア・イラクの難民問題はアフリカ、レバノン、セルビアなど世界の難民問題を列挙するなかでの言及に過ぎなかった。
各国は、日本が最近、安全保障関連法の大改正を行なったことに注目していたはずである。場合によっては自衛隊が救援に来てくれるという期待も生まれていただろう。
しかし、日本では憲法違反だという意見も強く、また、法律には「日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があるものを排除するため」でなければならないと、難解なことが書いてある。
また、法律では、他国に対する武力攻撃を排除する自衛隊の責務が明記されているのに(武力攻撃・存立危機事態法第3条4項)、自衛隊は外国の領土へ派遣されないという安倍首相の答弁は理解困難だろう。
要するに、各国としては、「日本では安全保障について大きな転換期を迎えているそうだ。これは日本だけの問題でなく、世界的な影響がありうる重要なことだ。しかし、本当はどうなのか」という気持ちが強いのではないか。安保関連法の大改正は日本が各国の関心に応えてアピールしなければならない問題だったのだ。
しかし、安倍首相は、我が国がPKOを重視し、貢献してきたことを説明した後、さらに「日本自身がこの先PKOにもっと幅広く貢献することができるよう,最近,法制度を整えました。」と述べただけであった。これでは、集団的自衛権の行使が認められるようになり、日本の自衛隊が他国の救援に出動することが可能になったという今次法改正のキモについて何も説明していないのに等しい。
一方、安倍首相は演説の中で、難民の関係で母子手帳に言及しつつ母親の苦労について力を込めて語った。しかし、残念ながら、これでは各国にアピールできなかっただろう。母と子の話が重要でないというわけではないが、そのことは各国が安倍首相から聞きたかったことではなく、各国は自衛隊の海外での行動が拡大するか否かを聞きたかったからだ。
国内的にも、今次法改正について結論が出たのは、賛否はともかく、極めて重要なことだ。なぜ、このことについて晴れの舞台である国連で説明しなかったのか、不可解だ。
安倍首相が国連で、今次法改正についてほとんど何も説明しなかったのは、特別の理由があったためか、それとも国際的に分かってもらえる言葉と論理で説明できなかったためか。あらためて考えさせられる演説であった。
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