平和外交研究所

2014 - 平和外交研究所 - Page 33

2014.08.06

「中東、ウクライナ……激動の国際情勢で日本外交の独自性とは?」

THEPAGEに8月4日掲載された一文

「安倍首相は、7月25日から8月2日まで中南米の5か国(メキシコ、トリニダード・トバゴ、コロンビア、チリおよびブラジル)を歴訪しました。9月にはさらに南西アジアのバングラデシュとスリランカへの訪問が予定されています。これを含めると安倍首相は政権発足以来49か国を訪問したことになり、小泉首相が記録した48か国を抜いて歴代トップになります。外国訪問の頻度は1か月あたり2、3か国で、これは小泉首相をはるかに上回っています。
「地球儀を俯瞰する」外交
 首脳外交は簡単でありません。日程の制約は大きく、また、首脳にかかる体力的な負担は非常に重いですが、安倍首相は矢継ぎ早に各国を訪問し、友好親善関係の増進に努めています。
 首脳間ではどのような話し合いが行なわれているのでしょうか。たとえば、メキシコでは、安倍首相はペニャ・ニエト大統領と金融危機の克服、企業の進出・投資、エネルギー面での協力拡大など経済関係の諸問題から地震対策、学術交流、スポーツ交流、さらには400年前に欧州へ向かう途次メキシコに立ち寄った支倉常長のことなど実に幅広く話し合いを行なっています。世界がグローバル化した今日、日本が各国と協力して、解決、あるいは推進していく事柄は非常に多くなっているのです。
 安倍首相の積極外交は、「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」と呼ばれています。「俯瞰」とは高いところから広い範囲を見渡すことです。政府は、「単に周辺諸国との2国間関係だけを見つめるのではなく、地球儀を眺めるように世界全体を俯瞰して、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値に立脚した外交」と説明しています。第1次安倍内閣の時には「自由と繁栄の弧」が外交の基本方針を象徴的に示すものとして掲げられましたが、「地球儀俯瞰外交」と基本的には同じ内容でした。
各地の紛争で存在感薄い日本
 一方、世界各地で起こっている紛争の関連では、日本外交は存在感が薄いという印象を持たれていると思います。ウクライナでは、クリミアの独立とロシアの承認から発生した混乱が東ウクライナにも飛び火し、その上悲惨な事故が起こったのにその処理は遅々として進んでいません。イラクではイスラムのスンニ派武装勢力が反政府攻勢を強めイラク第2の都市モスルを制圧し、首都バグダッドに迫ろうとしていますが、マリキ首相が率いる政府はこれに対処するのに難渋しています。パレスチナでは、イスラム原理主義のハマスとイスラエルがガザ地区で戦闘を再開しており、民間人の犠牲が急速に増えていますが、事態が鎮静化する見通しはまったく立っておらず、米国の仲介も効果をあげるに至っていません。
 日本は、中東ではとくに石油輸入の面で関係が深いですが、紛争となると、日本として独自に政治的・軍事的な役割を果たす状況にはありません。国連やG8の一員として紛争当事者に自制を求め、和平の達成を促し、また、復興援助など平和構築の支援をしています。このような地道な外交努力は派手さはありませんが、国連を中心とする国際社会の仕組みや日本国憲法の下で平和主義に徹する国是にかんがみますと、それも日本外交の特色と考えられます。
 国際的紛争において目立った役割を果たすのはやはり米国です。米国に匹敵する外交力を持つ国は他にありませんが、ロシア、中国などは国連安全保障理事会の常任理事国、いわゆるP5としての役割があります。とくに中国の台頭はめざましいものがあります。
このような一般的な状況に加えて、個別の地域に特有の事情もあり、ウクライナでは米国とロシアの他、欧州連合(EU)も大きな役割があります。パレスチナ問題ではヨーロッパ諸国が関与することも時折ありますが、圧倒的に影響力が強いのはやはり米国です。
日本の外交にとって最重要な国は米国であり、また、中国と韓国です。日本と米国の関係が変化する、しかも日本の主導でそのようなことが起これば、これは世界の耳目を驚かすことになるでしょうが、そういうことは考えられません。一方、日本は中国および韓国と、他の国とは比較にならないくらい長い期間にわたって交流の歴史があり、また、グローバル化にともない経済的な関係は飛躍的に発展していますが、政治的な関係は安定していると言えない面があります。
 一つの原因はいわゆる歴史問題です。これは日本においてはすでに過去のことという目で見られがちですが、中韓両国においては決してそうではありません。戦後日本は戦争の処理のために努力を積み重ねてきました。その結果、諸国との関係は改善し、ともに発展してきました。しかし、歴史問題は決着ずみであり、過去のこととして今後は未来志向で行こうと言うだけではすみません。日本の若者の中にはこれら両国から繰り返し批判されてきたのでうんざりしている人が少なくありませんが、この歴史問題はこちらの判断を押し付けるわけにはいきません。相手国の国民感情に十分配慮しながら慎重に対処する必要があります。
 また、中韓両国とも著しい経済発展を遂げ、世界における地位は格段に向上しています。とくに中国は、経済面のみならず、政治面でも独自のカラーを打ち出そうとしており、「中国の特色」を強調し、そのための政策を大々的に実施しています。今後の世界情勢においては中国がますます大きな役割を演じることになるでしょう。
 日本としてはこれら両国との関係を改善し、発展させていかなければなりません。政府が言うように、「単に周辺諸国との2国間関係だけを見つめるのではなく、地球儀を眺めるように世界全体を俯瞰して」というのはどういう意味でしょうか。世界の諸国との友好関係増進も必要ですが、中韓両国との関係改善なくしては「画竜点睛を欠く」のではないでしょうか。これらの国との関係を今後どのように増進していくか、日本外交の真価が問われます。

2014.08.05

中国の中東和平5項目提案

王毅外交部長は8月3日、シュクリ・エジプト外相と会談した後の記者会見で、中東和平に関する5項目の和平提案を説明したと同日の新華社電が伝えている。提案の内容は次の通りである。
① イスラエルとパレスチナは即時に停戦し、空襲、地上の軍事行動、ミサイルの発射等すべてを停止すべきである。武力を乱用し、市民を殺傷する行為は認められない。力を持って力を抑える(以暴制暴)ことを止めるべきである。
② 中国はエジプトなど諸国が提出した停戦案を支持する。イスラエルもパレスチナも武力で一方の要求を実現しようとすることを放棄し、責任を持って交渉し、双方の安全を実現し、またそのために必要な保障体制を設立するべきである。その過程において、イスラエルはガザ地区の封鎖を解除し、拘留しているパレスチナ人を解放すべきである。同時に、イスラエルの合理的な安全への懸念を重視すべきである。
③ イスラエルとパレスチナの衝突の起源はパレスチナ問題が長期にわたって解決できないところにある。中国は一貫してパレスチナ人の独立と建国への正当な要求と合法的権利を支持している。イスラエルとパレスチナの双方は和平交渉を揺るぎのない戦略的選択とし、おたがいに善意を示し、和平交渉をできるだけ早期に再開すべきである。和平交渉においては面と向き合って行なわなければならず、反対方向に走ってはならない。
④ イスラエルとパレスチナの衝突は国際の平和と安全に関わる。安保理は衝突を回避するのに責任を負い、コンセンサス作りに努め、その機能を発揮しなければならない。国際社会はおたがいに協力し、和平を推進する力を形成しなければならない。
⑤ パレスチナ、とくにガザ地区の人道問題に関わる状況を重視し、その有効な解決を図らなければならない。国際社会は適時に必要な援助と支持を与えるべきである。中国は、ガザの人々に150万ドルの緊急人道援助をキャッシュで行なう。中国紅十字回も人道援助を行なう。

7月21日に「平和外交研究」で紹介したが、中国はイスラエルおよびパレスチとの関係を積極的に進めており、2014年に入って3回特使を派遣した。王毅外交部長のエジプト訪問はそれに続く外交攻勢である。
米国がこの中国の姿勢をどのように見ているか、興味をそそられる。イスラエル・パレスチナ問題が困難であるのは言うまでもなく、米国でさえ難渋しているのに中国として何ができるか、中国自身楽観的になれないはずであるが、中国としては新疆ウイグルの問題などに関連してイスラム原理主義者の動向に神経をとがらせている現在、中東外交の幅を広げる必要性を感じているものと思わる。また、中東問題で圧倒的な影響力を持つ米国の動向を横目で見ながらの外交攻勢であろう。
おりしも、『大公報』紙は4日、ケリー米国務長官がイスラエル側と交渉する一方で中東の他の諸国の指導者と電話で協議するのをイスラエルと「さらに1カ国」の情報機関に盗聴されていたことを報道し、米・イスラエル関係が緊張する可能性があるとコメントしたドイツの週刊誌スピーゲルの記事を紹介している。ケリー長官は協議を行なうためこれまで10回以上イスラエルを訪問しているが、うまく行っていないというのはほぼ常識になっており、大公報に限らず中国系の新聞はかなり綿密に米国の動向を報道している。
大公報の報道の直後(おなじ4日)に、ハマスとイスラエルはともに3日間の停戦を受け入れると発表した。今後本格的な停戦交渉に入るそうだ。

2014.08.04

日本の対ロシア追加制裁措置

マレーシア航空機撃墜事件などにより東部ウクライナ情勢が緊迫化するなか、菅官房長官は7月28日の記者会見で、日本はロシアに対しつぎのような制裁措置を新たに実施すると発表した。所定の手続きが完了した後、措置の対象となる個人および団体のリストが公表される。
第一に、クリミア併合またはウクライナ東部の不安定化に直接関与していると判断される個人及び団体に対して、日本国内に有する資産を凍結する。
第二に、EUが先般発表した欧州復興開発銀行(EBRD)におけるロシア向け新規案件への対応に関し、日本はEUと協調して対応する。
第三に、日本はクリミア産品の輸入を制限する措置を導入する。

今回の日本政府による追加制裁の発表は、マレーシア航空機の事故処理を含め東部ウクライナの状況が改善されること、また、ロシアがそのために強い影響力を発揮することを希望して行なったものであるが、7月末に米欧諸国が取った対ロシア追加制裁措置を日本としても支持し、またそれに協力するという側面があるのはもちろんである。
日本の国際社会における地位からして当然であるが、ロシアとすれば、日本が米欧に偏り過ぎているとみなし、反発してもなんら不思議でない。ロシアとしては、さらに、かねてから予定されていたプーチン大統領の訪日をできるだけプレーアップするためにも日本が米欧と違って抑制的に対応してほしいという気持ちがあるかもしれない。意地悪な言い方をすれば、ロシアは日本の対応を悪用して自己の立場を有利に運ぼうとするかもしれない。
ロシア外務省は29日、日本が発表した追加制裁を「非友好的で近視眼的な措置」と批判する声明を発表した。また声明は、日本政府がロシアとの関係拡大を図る姿勢を打ち出してきたのは「日本の政治家が米国への追随から脱却して、自国の根本的な利益にかなう独自の道を歩めない実態を覆い隠すためだった」と指摘した(共同電)。プーチン大統領の訪日問題は宙に浮いた状態になっている。

日本は、プーチン大統領の訪日が北方領土問題の解決につながることを期待してきた。クリミアでロシアが行なったことを是認できないのはもちろんであるが、日ロ関係には影響させないようにと願い、3月に取った最初の対ロ制裁措置も実態的には影響が及ぶのを最小限に抑えるよう工夫した。今回追加措置を取るに及んで、少なくとも局部的にはロシアとの関係が以前にも増して困難になるであろう。
しかし、ロシアに対して友好的な姿勢を示し続けなければ北方領土問題が解決しないと考えるのは危険な発想である。ロシアは、クリミア問題が発生するまでG8の一員であったが、民主主義と価値を共有できない面があるのは否定できず、ロシアの安保理での行動にはそのような性格が反映されることがある。中国と共同で行動することが多いが、保守的な対応をし、人道問題についても主権を振りかざして安保理の動きを止めることである。
北方領土問題は早く解決したい。ロシアとの友好関係は増進したいが、日本の基本的立場を犠牲にしてまでロシアを喜ばせるわけにはいかない。

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