平和外交研究所

中国

2019.03.13

中国の全人代(国会)-雰囲気は悪い

 現在、中国で開催中の全国人民代表大会(全人代 日本の国会に相当する)は昨年と異なり、陰鬱な雰囲気であるとラジオ・フランス・アンテルナショナル(3月13日付)が伝えている。要点は次のとおりである。

 李克強首相は恒例の「政府工作報告」を行った。その中で人民の日常生活に関係の深い減税などにも触れていたが、人々の関心は、李首相が「今年は中米貿易摩擦のために企業の生産、経営、市場に不利な影響が出ることが危惧される。環境はますます複雑で厳しい」などと読み上げたことや大汗をかいていたことに向けられていた。

 李克強首相は以前から改革を実行しようとして妨げられることが多く、非常に不満で、怒りを爆発させることもあったところ、中国政府に近い『多維新聞』は、今回の報告を読み上げる際にその不満をぶつけ、はけ口を求めたのではないと評論している。

 李克強首相の健康状態は以前ほどよくないそうである。それも影響しているかもしれないが、必死に読み上げたのは、どこかで読み間違いでもすると習近平主席に厳しくとがめられるからだという見方もある。

 今年の全人代が緊張しているのは、いくつかの原因があるが、すべて習近平主席につながる。習氏は「七つの危険」を感じているためか、他人には絶対的に服従を求めるのである。「七つの危険」とは、政治、意識形態、経済、科学技術、社会、外部環境および党の建設に関する危険である。

 最高法院の周強院長が全人代で取材している記者を避けているのも雰囲気を悪くしている。同院長は、陝西省で起こった大規模開発事件に関する訴訟資料の大量逸失について記者から追及されるのを避けているのである。逸失事件の直接の責任者は王林清であるが、王氏の説明に国民は納得していない。資料の中には周強院長の責任を示す証拠があると言われている。

 周強院長の「明りの下は真っ黒だ」発言も奇妙である。司法に不正があるわけだが、周氏が言っているのは最高法院のことであり、そうであれば自己の責任が問われるはずである。

 周院長の全人代での報告では、去年はあった「人権」への言及がなくなっていたのも問題である。

 全人代への新疆自治区代表団が3月12日、記者会見を開いた。これには外国の記者も出席を許された。新疆はかねてから、ムスリムに再教育を強制しているという疑いをもたれており、強制収容所だとも言われていた。
 この記者会見は内外の記者の誤解を解く絶好の機会であったはずであるが、各国から問題人物として注目されていた新疆のナンバーワン、陳全国党書記は壇上におりながら一言も発せず、すべての説明をウイグル族のショハラト・ザキル自治区主席にさせていた。
 また、壇上の新疆自治区代表に名札が一切置かれていなかったのも問題であった。名札がないと、だれが話しているか、質問に答えているかよく分からない。新疆は四六時中テロの危険におびえているが、それだけでなく、中央から統制されることも恐れているのである。

 ラジオ・フランス・アンテルナショナルの記事は以上であるが、今回の全人代で関心が集まっているのは、外商投資法の改正である。米国は貿易交渉において外国企業に対する中国企業への技術移転の義務付けを撤廃するよう求めている。中国がこれに応じるには、外商投資法の改正が必要なのである。

 昨年の全人代では永久国家主席への道が開かれるなど習近平主席への権力集中が最高に達した。しかし、それ以来習近平主席には批判的な意見も続出していた。そんな中で開催された全人代で習主席がどのように乗り切るか、また、今後も絶対的な権力者であり続けるか注目されていたのである。

2019.01.30

習近平の独裁的権力はほんものか その2

 習近平主席は国政の全般にわたって権力を一身に集め、また、憲法を改正して終身主席になる道を拓くなど、独裁的地位を固めたと言われる。
 しかし、実際には、習近平の地位はまだ完全には固まっていないと思われる。その証左に、つぎのような出来事が起こっている。

〇陝西省では、石炭採掘と大規模違法建築に関し、中央の指示を無視したり、従わなかったりする事件が発生した。

 前者は「千億鉱山開発案件」と呼ばれる。石炭の採掘をめぐって陝西省と鉱山開発業者との間で争いが起こり、訴訟となった事件である。発生したのは2006年なので習近平の前任の胡錦濤主席の時代であったが、政権が代わってからも問題は解決しなかった。裁判はすでに中国の最高裁判所まであがり、業者側が勝訴したが、執行はされていないという。
 長年問題が解決しなかっただけではない。本件については陝西省の前書記(ナンバーワン)であった趙正永が関与していた。具体的な問題は一部しか明らかになっていないが、最高裁で事件を担当した王林清裁判官が判決を書く直前の2016年11月、関係のファイルが20日間あまり逸失したことがあった。
 王裁判官は当時から身の危険を覚えていたらしく、公式の記録とは別に個人的な記録を作っており、これはのちに公になった。しかし、王氏自身は現在行方不明となっている(ラジオ・フランス・アンテルナショナル1月24日)。最高裁の暗部を暴露したからだと言われている。

 後者は「秦岭別荘違法建築案件」と呼ばれ、テレビ局の取材がきっかけとなって発覚し、同省のガバナンスが問われる問題に発展した事件である。違法建築は4桁に上るほどの数であり、しかもテレビ局の放映で一般の関心が高かったので、中央は陝西省に対し事件の糾明と善処を求めた。しかし、陝西省ではまじめに対処せず、中央からの指示を関係部署に回すだけでほとんど何もしなかった。習主席としても手を焼いたらしく、前後6回にわたって指示を出した。また、中央は陝西省に対して人事上の措置も行い、数十名を入れ替えた。さらに反腐敗運動で恐れられる中央規律検査委員会から調査チームを派遣してようやく陝西省を従わせることができたという。陝西省が違法建築の除去を始めたのは2018年8月であった。
 中央の機能不全は胡錦濤時代の代名詞のように見られているが、習近平政権下でも起こっているのである。

 この2つの事件は、習近平主席の権威は実際には絶対的でなく、指示通りには動こうとしない地方の指導者がいることを示唆している。中国の省・自治区のナンバーワンは中央の大臣クラスであり、人事異動で中央政治局入りすることがよくある。

 中国は、問題があるとみなした人物を強権的な方法で拘束し、取り調べる。その例は、国際刑事機構の孟宏偉総裁をはじめ脱税容疑の有名女優、人権派弁護士、日本に滞在中の研究員、香港の書店主など多数に上る。王林清裁判官の場合は現在のところ状況が不明であるが、実際には、拘束されていると思われる。

〇長老による習近平批判
 中国の著名な改革派経済学者である茅于軾(ぼううしょく 天則経済研究所名誉理事長)は2018年末、Voice of Americaのインタビューで、「習近平は今日に至るまで国家を指導する理念を作っておらず、国をどの方向に導いていくか、どのような道筋で、何を目標に、どのような人を用いて治めていくか明確にしていない。アドバイザーに助けられて指導者らしくしているのか。あるいは表面は立派だとほめられながら実際には批判されているのか。それとも本人が馬鹿なのか。終身的に地位を確保するには憲法を改正する必要などない」と痛烈に批判している(当研究所HP「中国人研究者による習近平主席批判」2018年12月19日)。
 このように激しい習近平批判は、常識的には不可能である。もちろん、茅于軾は当局からにらまれ、手荒に扱われているだろうが、他の人と違って拘束はされず、何とか活動を続けている。
中国には例外的に大胆な政府批判を行える人物がいるのも事実である。民主化を求める人たち、弁護士、長老などであり、共産党の権威を重視する習近平主席の下でこれらの勢力は大幅にそがれているが、長老の一部には今なお強い発言をする人物が残っており、茅于軾はその一人である。

 中国共産党の歴代総書記の中でもっともリベラルな人物の一人であり、「ブルジョワ自由化」を進めたと批判され失脚した胡耀邦の長男、胡德平もそのような長老になりつつある。
 1月16日、リベラルな研究者の会合で、胡徳平は、「ソ連の失敗は高度に中央集権的な政治体制と硬直した経済制度が原因であった。両方とも社会主義国として当然のことではない。資本主義国家は技術の進歩により効率を高めた。大量の資本投下により成長を図るのは間違いだ」と発言し、注目された。最後の論点は明らかな政府批判である。

〇陳小雅の政府批判
 陳小雅は1955年生まれ。かつて『紅旗』誌の副編集長を務めるなど体制派の研究者であったが、天安門事件を題材にした『八九民運史(八九は天安門事件のこと。民運とは民間運動の意味である)』を発表したため当局からにらまれ社会科学院から追放された。しかし、その後も、中国における民主化運動について著作活動を続けている。
 1月27日、陳小雅は、出国しようとしたが空港で止められた。陳は、習近平、王滬寧および郭声琨(公安部長)の3名に対し、公開状を送り付け、「あなたたちは何を根拠にわたくしの出国は国家の安全に危害をもたらすなどと言うのか。その証拠を見せてほしい」とかみついた。しかも、同書簡の末尾には「病人が国を治めている。これこそ国家に対する最大の危険である」と大胆な言葉を書き添えた。

2019.01.28

習近平の独裁的権力はほんものか その1

 今年は「中華人民共和国」建国から70周年にあたる。しかし、中国、とくに権力の中枢は祝賀ムードにないようだ。

 日本のメディアは慎重に見守っているが、『多維新聞』(在米の中国語新聞)、BBC、ラジオ・フランス・アンテルナショナル(rfi)などは中国政治の異常な状況を概略以下のように伝えている。

 1月21日から各省(地方の各省・自治区)、各部(国務院の各省庁)のトップを集めて「研討会(研究と検討の会)」が、続いて25日には党中央政治局会議が開催されたが、異例である。
 政治局会議は昨年末に開催されたばかりであった。これは中国共産党の最重要会議の一つであり、毎月開催されるものではない。また、「研討会」が4日間にわたって開催されたのは、事の重大さを示しており、「重大危機处理研討班」と報道したものもあった。

 24日、「研討会」を締めくくるにあたり、王 滬寧(ワン フーニン)政治局常務委員(トップ7の一人)は「最悪の事態に備えよ」と発言した。中国では、そんな言葉はめったに聞かれない。王滬寧は何を言おうとしていたのか憶測を呼んだ。

 25日の政治局会議では「党の政治建設を強化することに関する中共中央の意見」や「中国共産党重大事項請示(指示を仰ぐこと)報告条例」などを審議したが、これも異例なことだった。党の強化については、習近平政権が成立して以来何回も呼びかけてきたにもかかわらず、また党建設を強化するというのは奇妙なことである。

 「重大事項に関し指示を求め、報告する条例」は、「指示を求めるべきであれば実際に求めなけらればならない」と言っている。習近平は各機関、各地方のすることに安心していない、草木皆兵(相手の勢いなどに恐れおののくあまり、何でもないものに対しても、自分の敵であるかのように錯覚しておびえること)のような状態にある。

 これらの会議で一貫して強調されたのは「安定」と「政治的安全」であった。習近平自身も「七つの安全」を唱えたが、その中で一番重要なのは「政治的安全」であった。

 若干さかのぼって、1月17日の全国公安庁局長会議で、趙克志公安部長はさらに直接的に、「政権の安全、制度の安全が国家政治の安全の核心である。中国共産党の指導と我が国の社会主義制度を敢然と防衛しなければならない」と述べていた。

 中国の内部事情は外から見たのとかなり違っており、共産党の独裁体制についての不安定感はかつてないほど深刻だ。

 このような政治の不安定感は最近急速に高まった。数年前、中国は米国とともに世界を管理しようとした。数カ月前にも「目には目を、歯には歯を」などと強がりを言っていたが今はまるで違ってきている 1949年に中国共産党が初めて政権を奪取した時のように、薄氷を踏むように危うく、敵に取り囲まれているという評論もある。

 安全が脅かされている原因は、対外面では米国との貿易戦争である。

 対内面ではMinsky Momentが来ているとも言われている。資産価格が大幅に下落する危機であり、所有権、株券、不動産、ファンド、銀行、証券会社、などについて信用がなくなれば問題が爆発し、だれも逃げられなくなる。

 習近平自身、意外な事態が起こりうることに警鐘を鳴らしているが、ではどうするかについては、あくまで党中央の監督を強化し、さまざまな規則を制定するなど専制的な方法で対処しようとしている。しかし、本当に恐ろしい事態が起これば、絶望的な「自力更生」しかなくなるのではないかという者もいる。共産党にも、独裁体制にも頼れなくなることである。

 以上のような見方は、一部、思い込みや誇張があるかもしれないが、我々が見逃すことができない事実も伝えている。習近平以下の指導者が共産党独裁体制の維持可能性について懸念を抱いていることは今年になってから現れ始めた現象でなく、かねてからの問題であるが、以上が伝える中国の状況は想像以上に深刻である。

 中国という巨大な国の政治状況を安易に単純化できないのはもちろんである。習近平政権は第1期(2012~17年)において、汚職の摘発や国家制度の改革などおいては顕著な実績を上げたかに見えたが、政権の基盤を強化できたかといえば、疑問がある。習近平氏はそのような状況の中で、あくまで共産党による指導を強化して乗り切ろうとしているようだが、はたして正解か、今年1年だけでもさまざまなことがありそうだ。

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