平和外交研究所

中国

2018.11.12

南シナ海で中国が大胆な行動に出た理由―東沙群島をめぐる米中のズレ

 台湾紙『自由時報』(11月11日付)に掲載されたJohn J. Tkacik, Jr.(元国務省員。現在フーバー研究所。中国・台湾関係の論考が多い。)の寄稿である(要旨)。
 
 東沙群島は南沙諸島や西沙諸島に比べ話題になることは少ないが、台湾海峡と南シナ海を結ぶ重要な地点にある。台湾が実効支配している。

 中国が南シナ海の諸島を占領し、軍事基地を建設するようになったのは米国の意図を読み違えたからだったが、米側の態度にも問題があった。

 13年前の2005年2月、東沙群島に上陸し、恒久的施設を建てようとした中国漁民を台湾の巡視船が追い払った。すると、その報復として、中国は200隻を超える漁船を派遣して東沙群島の港を封鎖し、気象状況が悪い時など中国漁船は東沙群島に上陸し、設営して居住する権利があると主張した。

 台湾政府は、両岸関係の窓口を通じて問い合わせをしたが、何の回答も得られなかった。

 同年4月から5月にかけ、2隻の中国の「研究船」が漁船に守られながら東沙群島海域へ侵入してきたので、台湾の巡視船はそれを阻止した。その時中国船は反撃することなく引き上げたので大事に至らなかったが、時の陳水扁政権は緊張した。

 当然、米国在台湾協会(AIT)はこれら一連の出来事を詳細に知っていただろうが、6月4日に台湾の防衛担当相が米国に協力を依頼してくるまで無関心を装っていた。台湾側は、数日前に中国の潜水艦が東沙群島付近で奇妙な故障を起こしてとどまっていたので米側に協力を求めたのであった。
 しかし、AIT代表のDouglas Paalはこの事件にかかわりたくなく、台湾側の要請は、台湾内部の権力闘争から起こったものと見た。ワシントンへの報告でも大きな問題でないと伝えた。

 台湾側は、中国が非軍事的な手段であったが東沙群島を支配下におさめ、基地を建設しようとしていると分析していた。これは正しかった。東沙群島は台湾海峡とルソン海峡を結ぶ海上交通の要所であり、日本と東南アジアおよび中東間の貿易はここを経由して行われる。また、中国の軍事活動、特に潜水艦の活動にとっても重要な海域である。
 にもかかわらず、米国は台湾の協力要請を冷たくあしらったのだ。

 2009年3月、またしても事件が起こった。中国が、「米国の科学調査船「Langseth」号は東沙群島一帯の中国の排他的経済水域を侵犯している。すぐに同海域からたち去るべし」と北京の大使館に抗議してきたのである。その際、米大使館員は、「1999年、2000年および2001年の調査の時には中国当局の許可をえていたが、2009年の航行については許可がなかったので、米側は中国の排他的経済水域を避ける航路に修正した」と説明したそうだ。この説明は、中国の排他的経済水域とは何かを理解しないナイーブなものであった。中国が主張する排他的経済水域は東沙群島の問題にとどまらない。台湾を基線にしている可能性がある。

 その後、国務省は北京の大使館あて、米国国家科学財団は「Langseth」号に対して、「北京との摩擦を避ける」べしとの指示を出す予定だと伝えてきた。米国政府は、中国政府と事を構えることはしない方針だったのだ。それはとんでもないことだった。台湾海域を航行するにも中国の許可が必要になりかねないからだ。

 2009年2月に就任したオバマ大統領は4月1日、ロンドンで胡錦涛総書記と会談した。中国側は2005年以来の経緯を持ち出してきたが、これは中国の策略だった。就任したばかりで東沙群島のことなど何も知らないオバマ氏に、西太平洋での行動を控えるよう指示させる狙いだったのだ。

 中国はそのあとから南シナ海において大胆に行動するようになった。中国側は、米国がこれらの事件を通じて、中国の海洋に対する権利を黙認したと誤って解釈したのだろうが、そうさせた原因は米国政府が臆病だったことにあった。

 さる10月、米海軍の科学調査船「Thompson」号が高雄港に寄港したのはよいことであった。台湾は、また、スプラットリー諸島で台湾が支配している太平島を米国の艦船に開放することも検討している。

2018.10.30

安倍首相の訪中

安倍首相の訪中について、日中間の基本的課題と日本の戦略の観点から評価を試みました。
東洋経済オンラインへの寄稿です。
こちらをクリック

2018.10.10

国際刑事警察機構総裁の拘束

 孟宏偉国際刑事警察機構(ICPO、本部フランス・リヨン)総裁が母国の中国へ一時帰国中に消息不明となっていたところ、中国当局によって拘束されていたことが判明した。
 この件については、中国における権力闘争、反腐敗運動のすさまじさなどの観点から語られる傾向があるが、以下のような視点も必要である。

 孟氏の妻が10月4日夜、リヨン警察に夫の失踪を届け出、フランス内務省が翌5日に声明を出して孟宏偉総裁の行方不明が公になった。孟氏から最後に連絡があったのは10日前で、最近SNSや電話を通じて脅迫を受けたと話していたという。
 中国公安省の幹部らが出席した8日の会議で、孟氏が国家監察委員会によって取り調べを受けていることが報告されたと言われている。

 その後、公安部のサイトは同総裁に関する「公布」を掲載した。「発表」のことであるが、それによると、「孟宏偉による収賄は違法になることであり、その拘束は時間的に猶予がなく、完全に正しく、賢明である。法律の前ではだれも特権を持たず、法律に違反したものはだれでも厳罰に処せられる」などの言葉が書きつらねられている。

 今回の孟宏偉総裁の拘束は、数日前に当HPで論じた女優、ファン・ビンビンさんや、香港の書店主、日本滞在中の中国人研究者などの拘束と共通点がある。
これらの人たちは拘束された後、家族などにすぐに通報されず、かなりの期間「行方不明」となった。孟宏偉総裁の場合は、ICPOとの関係があるので比較的短い間に拘束の事実が判明したが、そのような地位でなければやはり数か月間「行方不明」となった可能性がある。
 また、拘束されている間はもとより、その後も調査が終了するまで面会は許されない点でも共通している。

 中国は、孟宏偉の逮捕が法律上当然だと主張しているようだが、問題がある。同人の行為が違法であった疑いをかけ、調査を始めることは合法的であっても、逮捕の手続きとその後の被疑者との面会を許さないなどの扱いは恣意的であり、違法ではないのか。中国は政治優先、つまり共産党の指導優先であり、法律の解釈も党の考え次第だとみなしていると思えてならない。

 被疑者の立場、人権は守らなければならず、そのためには拘束にしても、法の適用にしても、すべて法律に従い、また、透明にしなければならない。当局が違法だと判断しても、それは当局限りのことであり、違った判断がありうることを認める必要がある。
 被疑者を危険にさらすことなどもってのほかである。孟宏偉総裁は拘束される直前、妻に対して「危険な状況にある」ことを示すナイフの絵文字を送ってきていたそうだ。

 しかも、孟宏偉総裁は国際機関の代表者である。そのような立場の人を、違法行為の疑いがあるというだけで、いきなり拘束するのは許されない。国際公務員は守られなければならない。かりに何らかの事情により違法行為の嫌疑がかけられても、当人の立場、名誉、さらには所属する機関の名誉が損なわれないよう最大限の注意と配慮が必要である。いきなりの拘束はそのようなことを無視した暴挙と言われてもしかたがないだろう。

 中国は、国内でも国外でも、恣意的な疑いの濃い拘束や扱いを止めるべきである。違法と嫌疑をかければ、あとは当局の判断次第という対応は恐ろしい。中国は、巨大化し、世界における影響力を増大させた今でも、あくまで中国流に行動あるいは対応しようとしているのか。中国は、「中国の特色ある社会主義」としてそのようなふるまいを正当化しているのだろうか。それは国際法、国際慣習の無視につながる危険な傾向ではないか。

 最後に、ICPOは孟宏偉総裁からの辞職届(?)を受理したと7日に発表したが、ICPOとして今回の拘束に抗議したのか。総裁は辞職したというが、本人の意思を確かめたのか、確かめたというのであればどのような方法であったか。ICPOの規則に照らして辞職届は有効か、など様々な疑問が残る。ICPOの側にも問題があったのではないかと思えてならない。

このページのトップへ

Copyright©平和外交研究所 All Rights Reserved.