平和外交研究所

中国

2019.11.01

中国共産党四中全会と香港情勢

 注目されていた中国共産党の4中全会が10月28~31日、ついに開催された。4中全会とは、第4回中央委員会総会(全体会議とも呼ばれる)のことで、2017年10月に習近平総書記が中国共産党第19回全国代表大会で再任された直後に開かれた1中全会から数えて4回目の中央委員会総会という意味である。

 2中全会は例年通りであれば、翌18年3月、全国人民代表大会(全人代)が開催されるに先立って開かれるはずであった。全人代は共産党の会議でなく、国家の代表大会であり、わが国の国会に相当する。国家主席、首相などの人事が決定されるのだが、その前に、共産党は中央委員会総会を開催するのである。

 ところが、習近平が総書記に再任されてから事情が変わり、全人代を待たず、1月18日に2中全会が開かれた。そうなったのは、前年の党大会で党規約に盛り込まれた習近平総書記の政治思想「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」を憲法に明記すること(これは全人代の権限)を党としてあらかじめ確認したかったからである。全人代直前の中央委員会総会でも同じことをできたかもしれないが、時間的余裕が必要だったのであろう。

 そして、全人代の直前に3中全会が例年通り開催された。全人代では習近平思想を憲法に記載され、かつ、国家主席の任期を2期(10年)までとしていた規定をなくす憲法改正案が可決された。これ以来、習近平の独裁体制が確立したとされ、また、そのために、中国内では批判も強くなった。

 ともかく、1中全会と次の中央委員会総会の間に特別総会である2中全会が入ったので、その時から例年とはずれ始め、全人代前の中央委員会総会は3中全会となった。

 次は、その年の秋に開かれる総会、例年では3中全会、習近平政権の2期目からは4中全会になる。中国では、3中全会はいつも非常に重要な会議となってきた。中国の改革開放政策を決定したのも1978年の3中全会であった。4中全会も本来重要な会議である。

 しかし、4中全会は2018年秋になっても開催されないまま年を越した。その原因については、米国との貿易戦争激化や経済減速を背景に、指導部内で見解の相違があるのではないか、との憶測が広がった。

 そのような状況は今も解消していないが、10月末に4中全会を開催することが決定された。8月末のことである。その季節には、北京郊外の避暑地北戴河で、非公式であるが、重要決定が行われることが以前からあり、今回もそのような形で決定されたのであろう。

 その理由は、香港の民主化デモが長引き、鎮静化する兆しが見えない状況において、中国として強い態度で香港問題に対処することを確認するためであったと思われる。習近平は、かねてから中国内に潜在する民主化要求が増大することを恐れていた。また、チベットや、新疆に悪影響を及ぼすこと、さらには台湾の統一を遅らせる結果になることを極度に恐れていた。

 また、報道されることは少ないが、習近平の独裁体制に対する批判は、隠れてはいるが、根強いものである。中国共産党系の理論誌『求是』は10月2日、習近平総書記が2018年1月5日、「防止禍起蕭墻(内部から起こる災いを防ごう)」「百足の虫は死して僵れず(支持する者や加勢する者が多ければ、なかなか滅びない)」「まず内から消滅させてはじめて、徹底的に打ち負かすことができる」などと党内の反対勢力に強い警告を発した演説を掲載した。4中全会を前に、あらためて習近平に不満な勢力に警告を与えようとしたのであろうが、そのような勢力が現存し、しかも、習近平政権として無視できない勢力であることをも示唆していた。

 4中全会では、「中国の特色ある社会主義制度の維持・改善と、国家統治システムと能力の現代化に関する決定」が採択された。決定の全文は未発表だが、対外説明用のコミュニケは、デモが長期化する香港に関し「一国二制度」の重要性を強調しつつ、「香港とマカオは憲法と基本法によって厳格に管理されなければならない」「香港・マカオで国家の安全を守るため法と執行制度を確立し、完全な形に整えていく」と強調した。要するに中国が決めたことに従えというのであろう。
 
 台湾については、「平和統一のプロセスをしっかりと進め、両岸(中台)関係の発展を深める」「台湾同胞と団結し、台湾独立に反対し、統一を促していく」と訴えた。
 
 4中全会とは直接関係なさそうに見えるかもしれないが、中国が言論の統制を強めているのは、香港問題とも関係がある。

 中国当局は最近、中国社会科学院近代史研究所の招聘(しょうへい)を受けて訪中した北海道大学教授(日本人)を拘束した。このニュースが、日本の学界や研究機関に大きな衝撃を与えたのは当然である。中国は好ましくないとみなす言論を手段を択ばず封殺しようとしているのではないか。

 高原明生東大教授は、「拘束理由は依然不明だが、歴史研究者が研究活動をしたことで勾留され、人身の自由を長期にわたって奪われるようであれば、友好的な交流などできなくなってしまう。日本の学界の動揺は大きい。
 日中国交正常化から47年が経ったが、残念ながら両国民の相互理解はさほど深まっていない。そのことは日中関係の不安定性の根本的な原因となっている。このため、両国首脳は市民レベルの交流を後押しすることで合意している。学術も含めた文化交流の促進について、来日した王副主席と福田康夫元首相の間で意見が一致したと報じられたばかりだ。
 それにもかかわらず、中国政府の研究所が招待した研究者を拘束し、一切の関連情報を開示しないとはどういうことなのか。このままでは中国が怖い国だというイメージが日本で急速に強まっていく。中国訪問を中止したり、日中交流を再検討したりする動きが少なからず広がっている。米中対立が激化する状況下で重要性が増している日中経済交流にも影響が及ぶことは避けられない。
 両国首脳の努力もあって、日中関係は戦後最悪と言われた政権発足当初の状況から現在の水準まで改善した。だが日中関係には強靱(きょうじん)な面もあれば脆弱(ぜいじゃく)な面もあり、双方が細心の注意を払わなければせっかく積み上げた協力の小石が一気に崩れてしまう。この状態を放置したままで、来春の習近平(シーチンピン)国家主席来日を歓迎できる雰囲気が果たしてつくれるだろうか。関係方面に強く問いかけたい」と述べている(朝日新聞11月1日付。「私の視点」)。その通りだと思う。

2019.10.16

香港のデモを支持する声と中国の対応

 米プロバスケットボール協会(NBA。日本では単に「米プロバスケットボール」とも表示される)と中国の間で紛糾が生じている。ヒューストン・ロケッツのダリル・モーリーGMが10月5日、ツイッター上に「自由のために戦おう」「香港と共に立ち上がろう」などと書かれた画像を投稿したことが事の発端であった。

 この投稿に対し、中国バスケットボール協会は6日、不当な発言だと反発。NBAとの協力関係を一時停止するとも発表した。

 中国の国民からも強い反発が出た。SNS上には「バスケは大好きだが愛国に勝るものはない」「ロケッツを応援し続けるためにも、モーリー氏を解雇してほしい」などのコメントが飛び交った。

 それでも上海と深圳で予定されていたNBAのプレシーズンマッチは予定通り開催されたが、試合会場周辺ではNBA側に謝罪を要求するプラカードが並んだ。中国国旗も配られた。会場は満員だったが、スポンサー広告は大半が消され、選手のインタビューも行われなかった。中国中央テレビは試合を放送しないこととした。

 中国側の反発に対し、NBAは理解を示しつつ、「表現の自由は規制しない」としてモーリーの処分はしなかった。NBAは政治力もあり、中国から文句をつけられても言いなりにはならないようだ。

 しかし、NBAにとって中国市場は稼ぎどころの一つであり、市場規模は40億ドル(約4300億円)を上回るといわれている。それだけに、NBAとしては今回の件は何とか穏便に済ませ、中国との協力関係を維持したいのであろうが、中国側は収まっておらず、今後の見通しは不透明だという。

 バスケットボール以外でも香港情勢に関連して外国企業が中国側の圧力にさらされる事態が続いている。

 米アップル社は10月9日、香港のデモ隊が警察の動きを把握するために使っていたスマートフォンのアプリを配信サービスから削除した。共産党機関紙の人民日報が「有害アプリだ」と非難しており、アップルに対応を迫っていた可能性がある。

 米ホテル大手のマリオットは昨年、香港やチベットを独立した地域として扱ったメールを顧客に出したとして、中国政府に謝罪した。

 子会社が「eスポーツ」大会を主催する米ビデオゲーム大手のアクティビジョン・ブリザードは10月8日、競技後のインタビューで、香港のデモ隊のように顔面をゴーグルやガスマスクで覆って登場して「香港を自由に」などと語った参加者を出場停止処分とし、賞金も与えないと発表した。同社は「自社の評判を傷つける規則違反だった」と説明したが、大株主でもある中国IT大手「テンセント」に配慮した可能性があるという。

 伊ヴェルサーチェや仏ジバンシィ、米コーチのファッションブランドは8月、Tシャツなどのデザインが「香港や台湾を中国から独立した国のように扱っている」として批判が殺到し、相次いで謝罪に追い込まれた。

 米ティファニーは、中国人女性が右目を隠す写真を広告に使ったことについて、「香港デモへの支持を想起させる」と抗議を受け、削除した。

 香港のデモとは直接関係しないが、中国の関係当局が「台湾」の表記について注文をつけることは以前からあり、昨年、世界各国の航空会社は中国の民航当局から「一つの中国」原則に基づいて台湾を表記するよう要求された。日本航空と全日空は日本語のホームページで目的地の国別選択肢をなくし、「東アジア」などの地域から選べるようにした。
 
 一方、米側でも政治的な反発が起こっている。NBAの問題については、超党派の米議員8人が10月9日、「中国共産党が米国人の言動を弾圧しようとしているのは言語道断だ」として、中国国内での活動をやめるよう求める書簡を送った。米議会の中でも最右派のクルーズ上院議員も、最左派のオカシオコルテス下院議員も加わっていた。
 
 中国は、外国人・企業が中国の方針や間尺に合わない発言や活動をすることを認めない。そのような判断をすること自体は中国の自由だが、強制力を行使することになれば世界の常識とかけ離れていく。特に、言論の統制となることは認められないというのが各国の考えであるが、中国は中国政府の方針にあわせるためには言論統制も辞さない。

 これらの事態において中国政府が前面に出てくることはまれであり、物事に応じて中国の関係当局から要求が行われるが、そこに中国の党・政府の意向が働いているのは間違いない。中国バスケットボール協会、共産党機関紙・人民日報、民航当局などが要求するのであってもやはり問題である。中国ではこれらの団体も党・政府の事実上の指導を受けており、中国政府の方針に違反した行動を取ることはないからである。

 また、中国には表面的には強圧的でなくても相手が被る不利益をちらつかせるなどの方法で要求を通す力がある。前述したいくつかの事例では、外国の企業はいずれも中国側の要求にしたがった。NBAのように巨大な市場を失うおそれを突き付けながらも全面降伏しないのはめずらしい例かもしれない。

 中国が強圧的な態度に出れば、短期的には効果が出るかもしれないが、結局中国にとっても不利益となるだろう。中国のイメージは悪化する。企業は中国から撤退する。スポーツに政治を持ち込んだとして批判される。国内の少数民族や台湾への影響も見逃せない。中国の対応を見ていると、そのような危険について考慮しないわけではなさそうだが、結論的には、強圧的な方法を取ってでも主張を貫こうとすることが多いようである。

2019.10.04

中国の建国70周年記念

 中国は10月1日、北京の天安門広場で建国70周年の記念式典と大規模な軍事パレードを行った。軍事パレードでは最新鋭のミサイルや戦闘機が登場。なかでも、初公開の新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「DF41」は注目された。最大射程1万2千キロ以上、米首都ワシントンに届くという。
 
 貿易摩擦で対抗する米国を意識して祝賀式典を行ったことは明らかである。また、習近平主席が何としても達成したい台湾の統一を米国が妨げていることも背景になっているのだろう。
 
 香港では、6月初め以来の民主化要求デモが一向に鎮静化する気配を見せず、北京で大パレードが行われていた1日、デモ隊と警察が激しく衝突し、警察の発砲で高校生が胸を撃たれ重傷を負った。翌日には、怒りに燃える市民らが再びデモを行ない、警官隊と衝突した。
 
 中国政府は、香港のデモが国慶節までに終結することを望んでいたのだろうが、それはかなわず、香港政庁と市民の対立はさらに激化したのであった。

 習近平主席は演説で、香港については、「一国二制度の方針を堅持し、長期の繁栄と安定を維持する」と述べ、ソフトタッチで対応していこうとする姿勢をみせたが、デモがさらに長期化すると中国政府は牙をむくかもしれない。香港との境界付近に控えている中国軍(武装警察が主)はいつでも介入する用意があると伝えられている。

 しかし、習主席の演説は強気一点張りでなく、共産党体制の維持に関する懸念も隠さなかった。「いかなる勢力も祖国の地位を揺るがすことはできない」との発言である。これについては異なった解釈が可能かもしれないが、私は、自信のなさの表れであったと思う。

 もっとも、共産党体制の維持に関する疑問は以前から表面化することがあり、習主席の演説が初めてだったのではない。過去1年間をみても、昨年の12月に開かれた中国共産党中央政治局会議で、習主席は「四つの自信」として「社会主義の道への自信、理論についての自信、制度についての自信および文化についての自信」を持とうと呼びかけていた。これも解釈いかんだが、私は、自信のなさの裏返しだったと思う。

 この政治局会議の直前、中国では珍しく歯に衣着せず発言することで有名な经济学者、茅于軾は、「中国を転覆するだと?そんなことはあり得ない。転覆させられるのは政府だけだ」と発言していた。

 さらにその半年前、人民日報系の『環球時報』は香港の『大公報』紙を引用して、「香港の独立をねらう香港民族陣線なる団体が2015年から活動している」と警戒する記事を書いていた。

 習近平主席の懸念は本物だと思われる。

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