平和外交研究所

中国

2019.01.10

金正恩委員長の訪中(第4回目)

 金正恩委員長は1月7~10日、第4回目の訪中を行った。最大の目的はトランプ大統領との再会談に備え、中国との関係を再確認しておくことであったと思う。

 金委員長は昨年末トランプ大統領に書簡を送っていた。その内容は公開されていないが、トランプ大統領は「素晴らしい手紙であった」と喜んだ。また、金委員長が新年の辞で述べたことも前向きであった。これらを通じて、両指導者は非核化の目標に変わりはないことを確かめ合った。実務者協議は停滞しているが、両指導者の姿勢は明確だ。

 金委員長はなぜ中国へ行ったか。1月8日は金委員長の誕生日であり、その祝賀を北京で行うことは異例である。初めてのことではなかったか。
 金委員長は昨年3回訪中しており、今度は習近平主席が訪朝する番だ。そう決まっているのではないが、だれが考えてもそれは北朝鮮が期待していることである。
にもかかわらず、金委員長が訪中したのは、近く米国の大統領と再び会談するにあたって、北朝鮮としては中国との緊密な関係を背景として米国との関係を進めるのだという姿勢を明確にしておくためであったようだ。

 金委員長がそこまであえてしたのは、トランプ大統領から要求されることは北朝鮮の安全にとって深刻な危険を伴うことであると考えているからだと思われる。
 すなわち、トランプ大統領と会談すれば、北朝鮮が核兵器を含むすべての核関連施設を検証にゆだねる「申告」をする決断を迫られる。これは「非核化のリスト」と呼ばれることもある。北朝鮮にとってこれは非常に危険なことである。その「申告」には、核兵器が何発、どこに保管されているか、それを、いつ、どこで、だれが廃棄するのかまで記載されるのであり、そんなことを米国に示すのは北朝鮮としては首を洗って敵に差し出すようなものだからである。北朝鮮内部には、そのような「申告」は危険だ、そんなことをすれば北朝鮮は滅びると心配する人がいるだろう。金委員長は北朝鮮で絶対的な権力者であっても、国民からそのような悲鳴が上がれば、無視できない。

 つまり、金委員長は「非核化」を決断する前に、中国との緊密な関係を再確認しておこうとしたのであろう。そうすれば、「非核化」後の北朝鮮にとって安全保障面での後ろ盾になるし、また、北朝鮮内部を非核化で引っ張っていくのに役立つからである。
 中朝関係は、東西冷戦の終結、両国、とくに北朝鮮の指導者の交代などを経てかなり揺らいできたが、この際金委員長としては、中国との特別に緊密な関係を再確認することが最適だと改めて認識したのだと思われる。

 金委員長の訪中のもう一つの目的は、中国の改革開放と経済発展の実情を自ら視察し、北朝鮮の経済発展に役立たせることである。
過去3回の訪中時にも経済関連施設、とくに農業研究施設を視察しており、今回は医薬品工場やハイテク企業が集まる「北京経済技術開発区」を視察した。
金委員長は「中国の発展経験は非常に貴重なものであり、今後も訪れて実地で見分し、交流したい」と述べている(新華社1月10日)。
 
 中国は北朝鮮がこのように親近感を示し、頼ってくることを歓迎している。「弟分になった」とは口に出して言わないだろうが、実際にはそのような気持ちなのではないか。
中国は北朝鮮が「非核化」することも賛成している。中国はもともと北朝鮮の核開発を苦々しく見守ったのであり、「非核化」は中国にとっても好ましいことである。
 
 今回の金委員長の訪中について公式の発表はないが、新華社電の報道は両首脳が朝鮮半島の平和と安定に貢献したことを伝えており、その中で金委員長は「半島の非核化の立場を堅持する」と述べ、習主席は「北朝鮮が半島の非核化の方向を堅持することを支持する」と応じている。

2019.01.03

習近平主席の台湾演説

 習近平国家主席は1月2日、「台湾同胞に告げる書」の発表から40周年の記念式典で包括的な台湾政策について演説を行った。

 習政権は第1期目に台湾の統一を達成できなかった。第2期目にはなんとかして実現しようとしており、そのためには、武力行使以外はすべての手段をいとわない考えのようだ。WHOでは台湾がオブザーバーとして総会へ出席することも阻止している。また、これまで台湾と国交を保ってきた諸国を相ついで断交させている。

 習主席の今回の演説はできるだけソフトタッチにしたのであろうが、中国の一方的な主張に満ちている。

 第1に、台湾人に対し、同じ中国人であることを強調しつつ、協力し合って統一を実現しようと呼びかけた。
この場合の「中国人」とは民族的な概念であり、国籍による違いは問題でない。大陸の中国人も台湾人も「中国人」である。したがって、中国がこのような呼びかけをすることについては事実関係を捻じ曲げているといった問題はない。
 しかし、台湾人の多くは中国と統一したくない考えであり、台湾人の方から、中国大陸に向かって、「同じ中国人だから協力し合って統一しよう」とは言わない。

 第2に、台湾の法的地位について、「台湾は中国の一部」だとし、また、「一つの中国」原則を堅持すると述べた。台湾は、以前は中国と同じ考えであったが、もはやこのような見解は受け入れなくなっている。
実は、「台湾は中国の一部」というのは便利な表現である。この「中国」が、「中華人民共和国」だとすれば、「台湾は中国の一部」というのは事実として成り立たない。「中華人民共和国」が統治したことはないからである。
「中国」はほんとうはそう言いたいのだが、それはできないので、代わりに「台湾は中国の一部」と主張している。各国に対してもそのことを認めるよう働きかけている。
 この「中国」は定義されていないので、都合のよいように解釈できる。「台湾は中国の一部である」というのは意味不明であるとも解釈できるので、中国と外交関係がある国は、それを直接的あるいは間接的に認めている。日本は「(中国の主張を)十分理解し、尊重する」としている。日本はポツダム宣言で台湾は日本の領土でなくなったので、どこの国になったとか、どこの国に編入されたか言えない立場だという考えである。
 
 第3に、「一国二制度」の台湾モデルを模索すると述べた。
「一国二制度」については、中国は、口ではそれを尊重すると言うが、実際には尊重していないと批判されている。とくに、香港の民主派の人たちからであるが、そのことは台湾でもよく知られており、台湾人としては「一国二制度」にとても乗れないのである。
 習主席としては、この制度によって台湾人の権利は守られるから心配しないでほしいと言いたいのであろうが、台湾の人たちからは信用されないだろう。

 第4に、台湾独立は「歴史の逆流」と断じ、もし必要なら武力使用もありうるとすごんだ。
中国としてはくぎを刺しておく感覚で武力使用の可能性を指摘したのであろうが、台湾の人たちが習主席のこのセリフをどのように受け止めたか容易に想像できる。中国としてもそれだけでは印象が悪いだろうと考えたのであろう。「中国人は中国人をたたかない」と付け加えたが、それで台湾人が受ける嫌な気持ちが晴れるとは到底考えられない。

 第5に、中台間で貿易やインフラ、資源分野での協力や基準の共通化など経済面での協力、さらには中台間の交流などにも言及している。

 習主席の演説について、台湾の蔡英文総統は、「一つの中国」原則も「一国二制度」も絶対に受け入れないと反発した。また、中台交流推進の条件として「台湾2300万人の人民が、自由と民主主義を堅持していることを尊重すべきだ」と強調した。
 蔡英文総統の支持母体である民進党は昨年11月の地方選挙で大敗を喫し、同氏は民進党総裁を辞した。民進党内では蔡英文総統の立場は弱くなっているが、中国との関係についての台湾人の気持ちは歯切れよく語っている。

 中国は今後台湾に対してどのように臨もうとしているのか。習主席の言うようなことであれば、台湾人の心をつかむのは容易でないだろう。

2018.12.29

中国の驚異的な発展と脅威的な民主化無視

 中国の軍事、経済面での発展は目覚ましい。

 12月27日には、独自の衛星利用測位システム(GPS)「北斗」の運用を全世界で始めた。これにより米国のGPSによらずに位置情報を提供することが可能になった。精度は誤差10メートルだが、アジア太平洋地域では誤差5メートルという

 無人自動車の走行実験は今年から中国各地で始まっている。都市単位で無人自動車が走行するようになるのは中国が世界最初となるかもしれない。
 
 無人飛行機(ドローン)は、とくに軍事用のものが注目されている。無人飛行機だけで群衆飛行できるようになっており、その数は200機に達している。米国を追い越したらしい。

 トピック性の高いことだけでない。中国の「一帯一路」は陸上と海上でさかんにインフラを建設しており、今や、欧州まで延び、EUは神経をとがらせている。EU内では、資金、環境などの点で制約があり、また、手続き的にも民主的プロセスを守らなければならないため、インフラ建設には種々制約があるが、そのような制約の少ない中国はどんどん進出している。

 中国のパワーは宇宙へも伸びている。中国は2013年に月面探査機「嫦娥3号」の月面着陸に成功し、世界で3番目に月面に到着した国となっており、さる12月8日には、月の裏側への着陸する予定の無人探査機「嫦娥(じょうが)4号」の打ち上げに成功した。数週間後に結果が判明するという。これが成功すれば世界で初めての月の裏側での着陸となる。

 そして、すべての先端技術を支え、駆使する人工知能(AI)も日進月歩で進んでいる。とくに、軍事面でのAIの研究開発を大々的に行っており、「軍民融合」も進んでいる。北京理工大学には「AI兵器システム実験班」が新設され、5千人余の中から約160倍の競争率を突破した優秀な31人の1期生が学んでいる。

 これらの発展は誠に素晴らしい。それを実現したのは、中国人の力であり、また、集中的に経済・技術を発展させてきた中国共産党の指導である。しかしながら、この輝かしい現実の裏にはまったく異なる実態が潜んでいる。一言で言えば、政治の不安定性が増大しているのではないかと思う。

 習近平主席は、2017年秋に共産党の総書記に、翌年3月には国家主席に再任された。その際憲法を改正して国家主席の2期制限制を廃止し、永久に主席であり続けられるようにした。それまでも習近平主席は権力を一身に集めていたが、永久主席の可能性が出てくると習氏の独裁的地位に対する批判的な意見が多くなった。米国が本拠の中国語紙『多維新聞』は「2018年になってから内外の環境は相対的に不安定な時期になった」と評している(11月21日付)。

 不安定性を示す、あるいは示唆する現象としては次のようなことがある。

 天則経済研究所の茅于軾教授と、中国の最高学府の一つである清華大学の許章潤教授は直接習主席を批判している。許教授は「我々の現在の恐怖と期待」と題する論文を発表し、習近平政権の「指導者を個人崇拝する動き」や「国家主席の任期の撤廃」を痛烈に批判した。同教授は現在、国外に逃亡中である。

 中国の政治では、直接の批判は、結論が出ている場合に限られる。通常、直接の批判は危ないので、間接的な表現で批判や不満が示される。12月25~26日に習近平主席は「党内生活会」を開いた。この名称は外国人にはわからないが、非公式に問題を深く議論する場であり、「自己批判の場」だとも言われる。ラジオ・フランス・アンテルナショナル(rfi)中国語版は、この会議において、習主席が「開いてよかった」とか「団結を高めた」と述べたのは、意見が割れていたことを示唆する奇妙な発言であったと評している。
 ちなみに、rfiは最近BBCなどとともに中国政治の分析をよくしており、注目されている。

 また、会議では、習主席の「遠大な戦略的判断」を聞いたというが、これも奇妙だという、これは習主席に対する既定の評価を超えており、実は、習主席が誤りを犯したと暗に言っているようなものだからであり、習主席がさかんに党内の団結と民主を呼びかけているのはそのためでだとしている。
AFPは、さらに、中国の最高指導層は「緊張状態」にあり、とくに習近平自身について緊張状態があると言っている(12月28日付rfi)。
 Rfiの読みが正しいか、慎重に見極める必要があるが、トランプ大統領との間で90日の時限設定を受け入れたことについての評判は悪く、党内でも反習近平の声が上がっているという。
 
 北京市内で、かつて文化大革命の際使われた壁新聞(大字報)が張り出された。中国は文革を否定して改革開放を進め大いに発展したが、文革の精神を忘れるべきでないという考えは根強く残っており、この壁新聞は文革の否定を見直すべしというものであった。これは鄧小平以後の指導者をすべて批判することにつながりうることで、習近平批判にもなりうる。

 また、直接の習近平批判ではないが、現政権の方針には問題があるという考えも強く、多数の学生が犠牲になった天安門事件、重慶市長であった薄熙来の投獄、さらには企業改革などは決着がついていない、あるいは争いがあると指摘されている。
 国進民退については、習近平は有効な措置を講じていないという気持ちが一般的であろう。

 中国各地で権利擁護の騒動が多数起こっているが、最近、復員軍人による同様の事件が起こり、リーダー格の4名が逮捕された。通常このような騒動を起こすのは農民だが、復員軍人であったので特に注目された。

 第18回共産党代表大会以来、つまり、習近平政権の成立以来、外交がうまくいっていないという声もある。米国との貿易戦争はそのような見方に火に油を注ぐ結果となった。

 現在の中国政治において根本的な問題は政治体制改革である。しかし、その意味は明確にされていない。目標や改革の主要点などは説明されているが、説明を読んでも具体的なイメージは湧いてこない。党大会など正式の会議では、政治体制改革の目標は社会主義制度を強固にすること、社会主義生産力を発展させること、社会主義的民主を発揚し、広範な人民の積極性を動員することなどと説明される。さらに具体的には、司法制度の強化、政治と企業の分離、行政簡素化なども必要とされている。
しかし、その一方で、「民主監督制度」の充実、「安定団結」の確保など民主化を統制することも重視されている。

 習近平は政治体制改革小組(作業部会)の長になっているが、茅于軾などは、習近平がこの改革を進めていないと真っ向から批判している。この発言は、民主化を進めたい人々にとっては心強いものであろう。

 12月18日、習近平主席は改革開放40周年を記念する大会で大演説を行った。政治体制改革についてどのようなことを発言するか注目されていたが、習は、「改革すべき、改革できることは断固として改革するが、改革すべきでない、また改革できないことは断固として変えない」と発言した。多維ニュースなど海外の中国語メディアは、「習近平は政治体制改革を放棄した」と評した。

 政治体制改革の議論から離れて、習近平が力を入れてきたこととしては、つぎのようなことがあげられる。

共産党による支配の強化。
 これは幹部の腐敗を取り締まることも、またすべての企業に党支部设置することも含まれる。前述の党生活会の翌日、政治局会議が開催された。これも党支配の強化が目的だろう。

言論統制の強化。
 統制の強化というより、「弾圧」というほうが適切かもしれない。習近平政権の特色は、言論統制の強化と反腐敗運動にあり、これらの面では顕著な実績を上げている。
中国政府は2015年、何百人(300人)もの弁護士や活動家を弾圧した。その際とらわれた一人である、人権派弁護士、王全璋氏に対する裁判が12月26日、開始された。 

 言論統制の強化に大学生の多くは批判的であり、工場などでの人権擁護運動などを支援する傾向がある。最近、当局は北京大学へ入構し、危険な行動をする学生を逮捕した。

「個人信用スコア」制度の導入
 北京市は、2020年末までに、交通などで市民が取った行動を数値で評価し、高ければ高いほど便利に行政サービスを受けられる「個人信用スコア」制度を導入することを発表した。交通道徳の向上を目指していると言われているが、このような監視システムは恐ろしい。

 中国政府は最近バチカン(法王庁)と妥協に達した。そして福建省のある教区の司教を一本化する儀式が、12月13日、北京の釣魚台国賓館で行われ、中国政府がそれまで認めてきた人物がバチカンにも認められ司教となった。それまでバチカンが司教と認めてきた地下教会の郭希錦(クオシーチン)氏は、バチカン代表団から「中国教会全体のために犠牲になってほしい」と補佐司教になるよう言い渡されたという。
この新体制はいつまで続くか。バチカンは大きな過ちを犯したのではないか。別の教区では、これまでの地下教会司教が退任を通告されたそうだ。

 以上から言えることは、習近平主席は共産党の支配を強化することにより、また、強権的な方法を用いて中国を改革し、より強く、より豊かな国にしようとしていることである。また、習主席は中国を民主化しようとしていない。習主席は民主化を極度に恐れている。

 習主席の統治は一定の分野では顕著な実績を上げているが、腐敗をなくし、中国をより清い国にすることは前進していない。その原因である「信頼の欠如」状況は改善していないと思われる。


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