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2022.06.24

核兵器禁止条約(TPNW)第1回締約国会議

 6月21~23日、ウィーンで核兵器禁止条約(TPNW)第1回締約国会議が開催され、最終日に「ウィーン行動計画」が採択された。

 今回の会議の結果について懸念されることが二つある。一つはウクライナに侵攻したロシアが「核の脅し」を続けることについて、会議は直接ロシアを非難することはおろか、間接的にもロシアを非難しなかったことである。

 ただし、この問題についてはいくつか注意が必要だ。
プーチン大統領は「核の脅しをしていない」と抗弁するかもしれない。たしかに、ウクライナへの侵攻にかんして「核を使う」とは言っておらず、「ロシアとロシア系住民の安全を守るためにあらゆる兵器を使うことを辞さない」との趣旨を発言している。「あらゆる兵器を使用する」とは言ったが、「核」とは言っていないというわけだ。

 もちろん、そんなことは受け入れられない。プーチン氏はウクライナと特定しない場合には「核兵器」を使用すると明言しており、「あらゆる兵器」というからには当然「核」が含まれる。全体として判断すれば、プーチン氏は今回のウクライナ侵攻に際して「核を使ってでも」ということを表明しているのと変わりはない、と世界は考えている。それは現在世界の常識だ。だが、ロシアは「そんなことは言っていない」、「核を騒いでいるのは西側のメディアだ、西側のメディアが核戦争の危険をあおっているのだ」と開き直る可能性があり、そうなった場合その誤りを国際ルールに従って断罪することは容易でない。もちろん、世界はそうなってもロシアを非難するだろう。日本もそうするだろう。しかし、プーチン氏が「核」を言っていない限り、最後の詰めが少々困難になるかもしれない。

 今回の締約国会議で採択された「ウィーン行動計画」にロシアを名指ししての「核の脅し」に関する文言は入らなかったことは残念だが、だからといって核禁止条約の価値が損なわれることはない。同条約の趣旨である核兵器の禁止は今後も追求される。

 第二の問題点は、日本の立場が悪くなったのではないかということである。日本がTPNWに正式参加しないことは世界中で理解されていると言えるだろうが、オブザーバー参加もしなかった。その理由は、米国など核保有国が同条約に反対しており、非保有国と立場がわかれているということだ。松野博一官房長官は6月21日の記者会見で、条約には核保有国が1カ国も参加していないとも指摘している。

 日本がオブザーバーとしても参加しなかったことに驚きはないだろうが、失望されたと思う。各国の代表はさすがに日本を非難しないだろうが、その目は冷たい。関係者の中には日本政府に批判的なことを述べる人もいる。私は長年核や軍縮問題に携わってきたので各国の見方は大体見当がつく。日本は国連やNPTの場では「核の犠牲となった唯一の国である」ことを述べつつ、日本の安全を確保するには核兵器の抑止力に頼らざるを得ないとの立場であり、そのことは表向き理解されているが、日本は本気か、政府は立ち回っているだけでないかと思われている。

 TPNWを軽視してはならない。日本は方針を改めないと、今後立場がますます悪化する危険がある。今回の会議には北大西洋条約機構(NATO)加盟国のドイツ、ベルギー、オランダ、ノルウェー、加盟申請中のフィンランドやスウェーデンのほか、オーストラリアなど、日本と同様米国の「核の傘」の下にいる国々もオブザーバーとして名を連ねた。これも日本の立場を悪くした。彼らはできるのに、唯一の被爆国の日本はできないという形になったからである。

 また、「ウィーン行動計画」は、「核兵器の使用や実験によって影響を受けた国々のための国際的な信託基金の設立について、実現可能性を話し合い、可能なガイドラインを提案する」とも、また「核保有国と、核の傘にある同盟国が、核への依存を減らすために真剣な対応を取っていないことにも深い懸念した」とも述べている。どちらも日本に直接関係があるが、日本はオブザーバーにならなかったことにより、蚊帳の外に置かれることになった。そんなことでよいのだろうか。日本は会議の場で日本の考えを説明すべきだったのではないか。

 岸田首相はNPTに参加すると自ら表明している。日本政府はその姿勢で何とか乗り切れるとみているのだろう。松野官房長官は「NPTの8月の再検討会議の場で『意義ある成果』を目指す」とした。日本政府は「橋渡し」をすると言ったこともあった。しかし、「核兵器国と非核兵器国を何らかの形で妥協させる」ことも「意義ある成果を目指す」ことも困難であることを各国ともよく承知している。こんな言い方をしては身もふたもないだろうが、「意義ある成果」という目標について賛同してくれる国など皆無であろう。「橋渡し」は日本ではよいこととして受け止められるが、各国は理解してくれない。首脳同士の会談では儀礼的によいことだと言ってくれるかもしれないが、各国には「橋渡し」にぴったり該当する言葉などないだろう。要するに、本音ベースでいえば、岸田首相は不可能なことを掲げているのである。

 今からでも遅くない。岸田首相には、NPTがTPNWと本質的に異なるのか、徹底的に考察した上でNPTに出ていただきたい。そして、悪化している日本のイメージを改善してほしい。

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