平和外交研究所

2019 - 平和外交研究所 - Page 11

2019.08.16

Over The Wall〜世界壁画プロジェクト〜

 ミヤザキケンスケ氏の壁画プロジェクトに関するご寄稿を以下に紹介いたします。草の根での大変有意義なプロジェクトであり、当研究所はできるだけサポートさせていただいています。
 ご関心を持っていただいた方には、ネット上の「Over The Wall〜世界壁画プロジェクト〜」も見ていただければ幸いです。写真がたくさん掲載されています。

「壁を越えるアートの力

 はじめまして、ミヤザキケンスケといいます。私はこれまで世界中で壁画を残す活動を行ってきました。その中で現地の人々と交流しながら制作する壁画制作に可能性を感じ、世界中の困難を抱えた地域や子供たちを絵で応援するプロジェクト、「Over The Wall〜世界壁画プロジェクト〜」を立ち上げました。このプロジェクトでは自主的に集まった仲間がチームとなり、一年に一度世界のどこかで現地の方々と協力しながら壁画制作をしています。
 これまで2015年にケニアのスラム街の壁、2016年に独立間もない東ティモールの病院の壁、2017年に紛争があったウクライナ東部の学校の壁、2018年にエクアドルの女性刑務所の内壁にそれぞれ壁画を残してきました。今年は7月にハイチの首都ポルトープランスにある最大のスラム街の1つ、シテ・ソレイユにて国境なき医師団と協力して、同団体の病院に壁画を描きました。医療現場である病院に明るい壁画を描くことで患者の精神的ケアを図り、また患者自身が制作に参加することで能動的な意識を持ってもらいたいと、参加型で制作を行いました。患児も保護者も医師もスタッフも一緒に制作をすることで立場を超えた交流が生まれ、医療の現場にもよい効果をもたらせたのではないかと考えています。
 同病院は主に火傷の治療をしていたのですが、連日多くの患者さんが筆を取り、熱心に絵を描いてくださいました。ある患者さんは全身に大やけどを負って入院していたのですが、毎日絵を描きに訪れ、毎日一つの植物を壁画に描き入れてくれました。それを見ていた付き添いの父親や兄もいつの間にか参加してくれるようになり、家族で取り組んでくれました。またある少年は火傷で利き腕の右手を失いふさぎ込んでいましたが、私たちの活動を見るうちに参加したくなり、左手で一生懸命絵を描いてくれるようになりました。患者さんだけでなく国境なき医師団のスタッフも仕事上がりに参加してくれるようになり、一枚の壁に向かいながら患者さんや医師やスタッフが楽しそうに談笑している姿はとても印象的でした。
 彼らが描いてくれた花や木や動物の絵を整えながら、それを生かして一枚の絵にしていきます。今回の壁画はハイチの民話「魔法のオレンジの木」から構想を得て制作をしました。物語の舞台である森の中にいるかのように、壁一杯に森の動植物を描き、たわわに実ったオレンジの木を希望の象徴として描きました。そしてオレンジの木の隣には大きな太陽があります。これはこれまでOver the Wallがシンボルとして全ての国に残しているもので、世界中どこでも同じ太陽のもとに生きているというメッセージを込めています。
 完成披露会には多くの人が集まり共に完成を祝うことができました。アートの共同制作は言語が通じなくてもできます。協力しあって一枚の絵を描くことで連帯感が生まれ、完成した絵はみんなの作品になります。共有した時間が形として残ることが壁画の一番の魅力だと思っています。私はこのOver the Wallの活動を通じて、絵を描くという、どこの国籍でも、どの年齢でも、どの宗教でも、どの文化でも、どの職業の人でも参加できる、純粋に誰もが楽しめる活動を広めていきたいと考えています。世界には様々な問題があり、そこには立ちはだかる壁が存在します。しかし人と人は協力し、共にその壁を乗り越えていくことができます。
 来年はパキスタンで、女性を保護するシェルターにて壁画を制作する予定です。これまでとはまた違う問題に対し、自分なりに考え、現地の女性達と共に一つの作品を作り上げたいと考えています。いつか世界中の人と一つの大きな壁画を描けたら、少しだけ平和な世界の姿が見えてくるかもしれません。


Over the Wallアーティスト   
ミヤザキ ケンスケ 」 



2019.08.15

慰安婦問題

慰安婦問題をまとめました。日本国内と国際社会では温度差があります。
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2019.08.05

韓国に対する輸出管理厳格化と米国の姿勢

 韓国に対する輸出管理厳格化措置を米国はどのように見ているか、また、日韓両国の間に立って仲介を試みる考えはあるか。関連の報道や説明は注意深く聞く必要がある。

 7月31日の共同通信はロイター通信を引用しつつ、「米政府高官は30日、日本による対韓輸出規制強化など一連の日韓対立を巡り、現状を維持し新たな措置は取らない状態で交渉する協定への署名を求める仲介案を提示したと明らかにした」と伝え、また、「ポンペオ国務長官は8月1日にタイ・バンコクで予定する日米韓外相会談で、河野太郎外相と韓国の康京和外相と仲介案について協議する見通しだ」と報道した。

 しかし、31日午前、菅義偉官房長官は記者会見で、米政府高官が日韓に仲介案を提示したとの一部報道について「そのような事実はない」と述べた。

 共同通信は「仲介案」があったとし、菅官房長官はそれはなかったとしたので、両者の説明は、この点では矛盾している印象があるが、実は、みかけほど異なっていない面もある。
 米国は今回の規制強化措置について米国の考えを日韓両国に示していたことである。日本と韓国は米国にとって重要な同盟国であり、東アジアの安全保障戦略にとって両国の協力が不可欠でり、米国としては日韓両国が仲たがいをしてもらっては困る、一刻も早く関係を改善してもらいたいと考えており、米国がそうしたのは当然であった。

 このことについて菅氏の説明はよほど注意して聞かないとわからない。記者会見では「米国との間では、わが国の一貫した立場や考えを累次伝達し、常日頃から緊密に連携している」、「今後もわが国の立場に対し、正しい理解が得られるように努める」とだけ語ったからであるが、その中に、米国は「仲介する用意がある」という態度を示したことは言及されていなかったが、含まれていたと思う。

 一方、韓国の文在寅大統領は、米国が「仲介の用意がある」という姿勢を見せたと明言した。文氏は2日午後、臨時の閣僚会議を開き、安倍政権が輸出手続きを簡略化できる「ホワイト国」のリストから韓国を外す政令改正を決めたことについて、「とても無謀な決定であり、深い遺憾を表明する」と語ったうえ、「米国が状況をこれ以上悪化させないよう交渉する時間を持つよう求めた提案に、日本は応えることはなかったと非難した」のである。
 「米国が状況をこれ以上悪化させないよう交渉する時間を持つよう求めた」との言及が米国の姿勢を示していた。しかも、文氏は「日本はその提案に応えることはなかった」とまで語ったことは見逃せない。

 韓国の大統領が発言したことがいつも正しいわけではない。しかし、この発言は事実を反映していたと思う。もし、文氏が日本政府の対応について誤った言及をしたのであれば、日米両国から抗議され、是正を求められるからである。

 要するに、米国は日韓両国に対して、関係改善のためともに努めるよう求めたのであり、そのことについてわが官房長官は、文氏が具体的ま表現で説明したのとちがって、ごく一般的な形で触れただけであったのだ。

 ちなみに、2日、バンコクで行われた河野太郎外相、ポンペオ米国務長官、韓国の康京和(カンギョンファ)外相間の会談についても、日本政府は米国が仲介する用意があるという趣旨の発言はなかったと説明した。河野外相は記者から、「ポンペオ長官のご発言について,両国で話し合いをして問題解決に向けて努力してほしいということなのですが,これはポンペオ長官が間に入って何か仲介をするというものでは・・」と問われたのに対し、「違います。別に仲介とかなんとかということではなくて,両国の問題は両国で話し合って解決してください,ということでした。」と述べている。

 要するに、日本政府の口からは、輸出規制強化措置に関して、米国政府が日韓関係を心配しているようなことは一切出ないのであるが、それでも日本政府の姿勢には危惧を覚えてならない。

 理由の一つは、かりに米国と日本の考えや立場が違っていても、日本政府はそのような違いを国民に説明してくれるか安心できないからである。

 もう一つの理由は、日本政府が2日に第二弾の規制強化措置を取った後、米国から強い懸念を示す声が聞こえてきたからである。米国務省当局者の共同通信に対する、「日韓対立について双方が関係改善に責任がある。ここ数カ月間に2国間の信頼を傷つけた政治的決断には反省が必要だ。日韓関係が悪化すれば、双方が結果に苦しむことになる。米国はこの問題に関与し続け、両国の対話を支援する用意がある」との発言である(3日の共同通信)。

 この発言は、米国の日韓両国の態度についての見解を率直に語っているだけでなく、日本政府に対する非難めいた言及も含んでいたと思う。もちろん、共同通信のこの報道が完全に正しいか、検証は必要である。
 
 ともかく、今回の規制措置強化を機に著しく悪化した日韓関係を両政府はどのように改善する考えなのか。韓国政府は措置の撤回を求めているのに対し、日本政府はどう応えるのかが問われるが、残念ながらどちらからも対応策は見えてこない。

 かりに、日韓関係が今のような状態を続ければ、米国が不満を募らせるのは不可避であろう。

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