11月, 2018 - 平和外交研究所 - Page 2
2018.11.19
米中両国の主張は対立している。米国は、中国が米企業から不正に知的財産を入手したり、自国の国有企業に補助金をつぎ込んでいることを問題視している。ペンス副大統領はトランプ政権の中でも最も歯に衣着せずに発言する一人であり、今回のAPEC首脳会議でも激しく中国を論難した。
米国の主張はWTOの改革に向けられている。今会議の首脳宣言にもその必要性を盛り込むよう働きかけ、これに中国が激しく反対したので合意が成立しなかったようだ。
中国の代表団は前日、パプアニューギニアのパト外相の部屋に押しかけ、首脳宣言案の文言に注文を付け、大騒ぎになったので警察が出動したと伝えられた。中国代表団はその報道を「事実ではない」と否定したが、本当に起こったことだと思う。宣言案の文言について議長に働きかけることは、中国に限らずどの国でもすることであり、また、中国代表団が強引に宣言案を変更しようとしたことは、ほかの会議の例に見てもありうることであるが、警察沙汰を起こしたのは不名誉なことだ。
安倍首相がどのようにふるまい、発言したか、詳細は承知していないが、二つの点でやりにくかったと思う。
一つは、先月末訪中して中国との友好関係を回復したばかりであり、中国について強く批判的な姿勢を取るのは困難であっただろう。米国は、一方ではにこやかな顔を見せつつ、他方では激しく批判するが、日本として同じことをするのは困難だ。
もう一つ、中国の企業活動が世界のルールに合わなくなっているのは米国が言うとおりであり、とくに、国有企業が再び増加していることが問題である。中国は2001年にWTOに加盟した。その時には、市場経済化を進めるとして各国の反対論を抑えることに成功し、実際民営化を進めた。しかし、近年ふたたび国有企業が増加している。国有企業は政府の強い影響下にあり、市場ルールを無視し、採算を度外視して活動できるので競争力は強い。
日本政府は日中友好をとなえるだけではすまない。先般の安倍首相訪中により、日本企業と中国企業が第三国で協力することが合意されたが、この第三国協力はことなる原理で行動する日中企業のあいだの矛盾をさらけだす場になる危険がある。
日本は「一帯一路」へ積極的にかかわることが政治的に望ましいと考えてか、最近積極的な姿勢を見せ始めたが、それはいわば一周遅れの参加でなかったか。「一帯一路」には無理があること、あまりにも政治的であることなどの問題はすでに世界各地で出始めている。中国が力を入れている「一帯一路」構想は日本の企業にとってメリットとなりうるが、デメリットにもなりうる。
中国政府は民営企業の活性化、増加を図りたい考えのようである。11月、北京で習近平主席が出席して「民営企業座談会」が開かれた。中国政府は国有企業化の傾向が進めば中国に対する批判が強くなり、WTOなどで中国の立場が困難になることを予想しているので、口先だけかもしれないが、対策を打とうとしているのだ。習近平主席は、去る9月には遼寧省を視察し、有名な民営のアルミニウム製造企業、「遼寧忠旺集团」を視察している。
しかし、中国では、国有企業の成功があまりにも華々しいためか、市場経済を重視しない経済学者も出てきている。さる、9月にも、インターネット上に「民営企業は漸進的に退場すべきである」という趣旨の投稿が現れたという。
同月、北京で開かれた中国経済フォーラムでは広州、深圳、浙江など民間企業がもっとも活躍しているはずの地方でも国有企業がのし歩いていると指摘された。
日本政府はWTOについてどのように臨んでいるのか。日本政府が改革の旗を振っているようには見えない。RCEP(東アジア地域包括的経済連携)は、いまのところは自由化度の低い協力の域を出ない。米国との「貿易協定」交渉は、名称も内容も簡単でない。これらもそれなりに重要だが、中国を含めて世界の市場経済をどのように改革すべきかが、日米両国に問われている最大問題であり、これこそ米国と協力すべきである。
APECでの米中対立と中国の非市場経済化問題
パプアニューギニアで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議は18日に閉幕したが、恒例の首脳宣言は発出されなかった。議長のオニール首相は会議終了後記者会見は開いたが、質問を受け付けずに会見場から立ち去ろうとした。しかし、大勢の各国記者らに囲まれてそうなった理由を問われ、「2人のビッグガイが会議室にいたのを知っているだろう」と述べたという。習近平中国主席とペンス米国副大統領のことだ。米中両国の主張は対立している。米国は、中国が米企業から不正に知的財産を入手したり、自国の国有企業に補助金をつぎ込んでいることを問題視している。ペンス副大統領はトランプ政権の中でも最も歯に衣着せずに発言する一人であり、今回のAPEC首脳会議でも激しく中国を論難した。
米国の主張はWTOの改革に向けられている。今会議の首脳宣言にもその必要性を盛り込むよう働きかけ、これに中国が激しく反対したので合意が成立しなかったようだ。
中国の代表団は前日、パプアニューギニアのパト外相の部屋に押しかけ、首脳宣言案の文言に注文を付け、大騒ぎになったので警察が出動したと伝えられた。中国代表団はその報道を「事実ではない」と否定したが、本当に起こったことだと思う。宣言案の文言について議長に働きかけることは、中国に限らずどの国でもすることであり、また、中国代表団が強引に宣言案を変更しようとしたことは、ほかの会議の例に見てもありうることであるが、警察沙汰を起こしたのは不名誉なことだ。
安倍首相がどのようにふるまい、発言したか、詳細は承知していないが、二つの点でやりにくかったと思う。
一つは、先月末訪中して中国との友好関係を回復したばかりであり、中国について強く批判的な姿勢を取るのは困難であっただろう。米国は、一方ではにこやかな顔を見せつつ、他方では激しく批判するが、日本として同じことをするのは困難だ。
もう一つ、中国の企業活動が世界のルールに合わなくなっているのは米国が言うとおりであり、とくに、国有企業が再び増加していることが問題である。中国は2001年にWTOに加盟した。その時には、市場経済化を進めるとして各国の反対論を抑えることに成功し、実際民営化を進めた。しかし、近年ふたたび国有企業が増加している。国有企業は政府の強い影響下にあり、市場ルールを無視し、採算を度外視して活動できるので競争力は強い。
日本政府は日中友好をとなえるだけではすまない。先般の安倍首相訪中により、日本企業と中国企業が第三国で協力することが合意されたが、この第三国協力はことなる原理で行動する日中企業のあいだの矛盾をさらけだす場になる危険がある。
日本は「一帯一路」へ積極的にかかわることが政治的に望ましいと考えてか、最近積極的な姿勢を見せ始めたが、それはいわば一周遅れの参加でなかったか。「一帯一路」には無理があること、あまりにも政治的であることなどの問題はすでに世界各地で出始めている。中国が力を入れている「一帯一路」構想は日本の企業にとってメリットとなりうるが、デメリットにもなりうる。
中国政府は民営企業の活性化、増加を図りたい考えのようである。11月、北京で習近平主席が出席して「民営企業座談会」が開かれた。中国政府は国有企業化の傾向が進めば中国に対する批判が強くなり、WTOなどで中国の立場が困難になることを予想しているので、口先だけかもしれないが、対策を打とうとしているのだ。習近平主席は、去る9月には遼寧省を視察し、有名な民営のアルミニウム製造企業、「遼寧忠旺集团」を視察している。
しかし、中国では、国有企業の成功があまりにも華々しいためか、市場経済を重視しない経済学者も出てきている。さる、9月にも、インターネット上に「民営企業は漸進的に退場すべきである」という趣旨の投稿が現れたという。
同月、北京で開かれた中国経済フォーラムでは広州、深圳、浙江など民間企業がもっとも活躍しているはずの地方でも国有企業がのし歩いていると指摘された。
日本政府はWTOについてどのように臨んでいるのか。日本政府が改革の旗を振っているようには見えない。RCEP(東アジア地域包括的経済連携)は、いまのところは自由化度の低い協力の域を出ない。米国との「貿易協定」交渉は、名称も内容も簡単でない。これらもそれなりに重要だが、中国を含めて世界の市場経済をどのように改革すべきかが、日米両国に問われている最大問題であり、これこそ米国と協力すべきである。
2018.11.13
アムネスティはかねてからロヒンギャ問題解決のために活発に行動しており、人工衛星からとった現地の写真などを提供して対処を訴えている。その目で見ると、スー・チー氏は努力が足りないと映るのだろう。
スー・チー氏はロヒンギャ問題について有効な手段をとれないだけでなく、それに取り組む意欲も弱いというのはアムネスティに限らず欧米諸国で広く共有されている見方である。スー・チー氏はノーベル平和賞を受賞しているが、それを返上すべきだという声も上がっている。
スー・チー氏は何もしていないわけではない。2016年8月、元国連事務総長のコフィ・アナン氏を委員長とし、3人の外国人と6人のミャンマー人の専門家で構成する特別諮問委員会を設置した。この諮問委員会は2017年8月24日、ミャンマー政府に、「暴力は問題を解決しない」と指摘しつつ、国籍法を見直してロヒンギャに国籍を認めること、治安部隊の教育体制や指揮系統を見直し、検問所に監視カメラを設置して部隊への監視を強化すべきだなど、難問も含め計88項目を勧告した。スー・チー氏は「政府全体で勧告を推進する枠組みを作る」と答えたという。この諮問委員会はミャンマー政府に期待に応えて機能を果たしたのである。
しかし、その翌日から現地ラカイン州ではロヒンギャ武装勢力と政府軍の衝突が発生し、ふたたび多数の難民が流出した。国際社会では危機感が高まり、ミャンマーのイメージは悪化した。グテーレス国連事務総長は、「これは民族浄化だと考えるか」と問われ、「ロヒンギャ人口の3分の1が国外に逃れている。これを形容するのにより適した表現がほかにあるだろうか」と答えたという。
人権理事会は12月5日、ミャンマー政府によるロヒンギャへの対応を非難するとともに、ミャンマーに独立調査団へ協力するよう呼びかける内容の決議を賛成33、反対3、棄権9で採択した。反対は中国、フィリピン、ブルンジ。棄権は日本、インド、コンゴ、エクアドル、エチオピア、ケニア、モンゴル、南アフリカ、ベネズエラであった。
また、国連総会でも12月24日、同趣旨の決議が採択された。
これらの通じて、スー・チー氏はなすべきことをしていないという印象がますます強くなった。そして、約1年後、今回のアムネスティによる厳しい発表となったのだ。
ロヒンギャ問題の解決が困難なのは、ミャンマーではロヒンギャに限らず、少数民族全体の国家への統合が不十分なことが根本的な原因だ。日本では、少数民族問題といってもピンとこないだろうが、ミャンマーの全人口の3分の1は少数民族である。ロヒンギャの多数はミャンマー国籍を持っておらず、「少数民獄中の少数民族」となっている。
スー・チー氏は、2016年にミャンマーの民主化が実現すると少数民族の大同団結も可能になると考えていたらしい。しかし、実際には困難であり、ミャンマー政府としては軍に頼らざるを得ない状態が続くことになった。つまり、民主化により政府、軍、少数民族の三つ巴の状況は解消しなければならないのだが、それができなくなったのだ。
ロヒンギャ問題はこのような政治構造の中で解決を図らなければならないのだが、さらに厄介な問題が加わった。ロヒンギャはイスラム教徒であり、ミャンマーの仏教徒と対立関係が高じ、仏教徒の中には過激な原理主義者も現れた。その指導者は、欧米ではテロリストとみなされている僧もいる。彼らからすれば、ロヒンギャだけでなく、国連も、ロヒンギャを擁護する発言をした法王も敵となり強く批判している。
明らかに過激な言動だが、ミャンマーでは仏教徒の影響力は強い。スー・チー氏はこれを抑制するのも困難なのだ。つまり。同氏に従わない勢力として、もともと少数民族と軍があったのだが、仏教徒もそうなる危険が出てきたのだ。スー・チー氏としてはこれら三つの勢力の扱いを誤ると、国家が混乱に陥り、挙句の果ては軍政に戻ってしまう危険性さえあると考えているのだろう。だから欧米や、人権団体からは批判されても耐えていくしかないのである。
そんななか、11日には、ミャンマー政府は、「難民が安全に帰り、生活する環境は整った。ミャンマー側が身元確認を終えた2251人が第1陣として入国する」と発表した。具体的な日程についてはバングラデシュ政府との協議が必要だそうだが、一歩前進である。
アムネスティなど人権団体や国連理事会のように強硬な姿勢をとるのがよいか、ミャンマーの自主的努力を促すのを基本とするのがよいか、簡単には白黒をつけられない。日本政府は後者であり、スー・チー氏には「理解がある」と感謝されているが、事実関係の究明のためにはこれまで以上に強く主張するべきではないか。衛星写真の活用などいついてはアムネスティと協力できると思われる。
アウン・サン・スー・チー氏の窮状
ミャンマーのアウン・サン・スー・チー最高顧問に対する国際社会の風当たりが強くなっている。ロヒンギャ問題に対する同顧問の取り組みが原因だ。国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(Amnesty International 以下単にアムネスティ)は11月12日、スー・チー氏に授与していた同団体最高の賞を撤回したと発表した。その際、スー・チー氏はロヒンギャが残虐行為を受けていることについて「無関心だ」とも指摘したという。アムネスティはかねてからロヒンギャ問題解決のために活発に行動しており、人工衛星からとった現地の写真などを提供して対処を訴えている。その目で見ると、スー・チー氏は努力が足りないと映るのだろう。
スー・チー氏はロヒンギャ問題について有効な手段をとれないだけでなく、それに取り組む意欲も弱いというのはアムネスティに限らず欧米諸国で広く共有されている見方である。スー・チー氏はノーベル平和賞を受賞しているが、それを返上すべきだという声も上がっている。
スー・チー氏は何もしていないわけではない。2016年8月、元国連事務総長のコフィ・アナン氏を委員長とし、3人の外国人と6人のミャンマー人の専門家で構成する特別諮問委員会を設置した。この諮問委員会は2017年8月24日、ミャンマー政府に、「暴力は問題を解決しない」と指摘しつつ、国籍法を見直してロヒンギャに国籍を認めること、治安部隊の教育体制や指揮系統を見直し、検問所に監視カメラを設置して部隊への監視を強化すべきだなど、難問も含め計88項目を勧告した。スー・チー氏は「政府全体で勧告を推進する枠組みを作る」と答えたという。この諮問委員会はミャンマー政府に期待に応えて機能を果たしたのである。
しかし、その翌日から現地ラカイン州ではロヒンギャ武装勢力と政府軍の衝突が発生し、ふたたび多数の難民が流出した。国際社会では危機感が高まり、ミャンマーのイメージは悪化した。グテーレス国連事務総長は、「これは民族浄化だと考えるか」と問われ、「ロヒンギャ人口の3分の1が国外に逃れている。これを形容するのにより適した表現がほかにあるだろうか」と答えたという。
人権理事会は12月5日、ミャンマー政府によるロヒンギャへの対応を非難するとともに、ミャンマーに独立調査団へ協力するよう呼びかける内容の決議を賛成33、反対3、棄権9で採択した。反対は中国、フィリピン、ブルンジ。棄権は日本、インド、コンゴ、エクアドル、エチオピア、ケニア、モンゴル、南アフリカ、ベネズエラであった。
また、国連総会でも12月24日、同趣旨の決議が採択された。
これらの通じて、スー・チー氏はなすべきことをしていないという印象がますます強くなった。そして、約1年後、今回のアムネスティによる厳しい発表となったのだ。
ロヒンギャ問題の解決が困難なのは、ミャンマーではロヒンギャに限らず、少数民族全体の国家への統合が不十分なことが根本的な原因だ。日本では、少数民族問題といってもピンとこないだろうが、ミャンマーの全人口の3分の1は少数民族である。ロヒンギャの多数はミャンマー国籍を持っておらず、「少数民獄中の少数民族」となっている。
スー・チー氏は、2016年にミャンマーの民主化が実現すると少数民族の大同団結も可能になると考えていたらしい。しかし、実際には困難であり、ミャンマー政府としては軍に頼らざるを得ない状態が続くことになった。つまり、民主化により政府、軍、少数民族の三つ巴の状況は解消しなければならないのだが、それができなくなったのだ。
ロヒンギャ問題はこのような政治構造の中で解決を図らなければならないのだが、さらに厄介な問題が加わった。ロヒンギャはイスラム教徒であり、ミャンマーの仏教徒と対立関係が高じ、仏教徒の中には過激な原理主義者も現れた。その指導者は、欧米ではテロリストとみなされている僧もいる。彼らからすれば、ロヒンギャだけでなく、国連も、ロヒンギャを擁護する発言をした法王も敵となり強く批判している。
明らかに過激な言動だが、ミャンマーでは仏教徒の影響力は強い。スー・チー氏はこれを抑制するのも困難なのだ。つまり。同氏に従わない勢力として、もともと少数民族と軍があったのだが、仏教徒もそうなる危険が出てきたのだ。スー・チー氏としてはこれら三つの勢力の扱いを誤ると、国家が混乱に陥り、挙句の果ては軍政に戻ってしまう危険性さえあると考えているのだろう。だから欧米や、人権団体からは批判されても耐えていくしかないのである。
そんななか、11日には、ミャンマー政府は、「難民が安全に帰り、生活する環境は整った。ミャンマー側が身元確認を終えた2251人が第1陣として入国する」と発表した。具体的な日程についてはバングラデシュ政府との協議が必要だそうだが、一歩前進である。
アムネスティなど人権団体や国連理事会のように強硬な姿勢をとるのがよいか、ミャンマーの自主的努力を促すのを基本とするのがよいか、簡単には白黒をつけられない。日本政府は後者であり、スー・チー氏には「理解がある」と感謝されているが、事実関係の究明のためにはこれまで以上に強く主張するべきではないか。衛星写真の活用などいついてはアムネスティと協力できると思われる。
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