平和外交研究所

6月, 2018 - 平和外交研究所 - Page 2

2018.06.20

中国によるJALとANAに対する台湾の表示変更要求

 さる6月6日に、中国が外国航空会社に台湾の呼称を改めるよう要求していることに関する一文をアップし、その末尾に「日本の場合は、日本航空も全日本空輸も、日本政府と同様「台湾」と表示している。中国は日本の航空会社に対しても同様の要求をしてくるか、今のところ不明であるが、このような政治的な問題に日本の企業を巻き込まないよう願いたいものだ」と記載していたが、その願いは一部かなわなかった。
 日本の航空会社も中国の要求を容れ、12日から、中国向けの中国語簡体字サイトと香港向けの繁体字サイトで、目的地を検索する画面などで「中国台湾」という表記に変更した。日本語や英語サイト、台湾向けの繁体字サイトは従来の「台湾」のままにしている。
 今回の対応について、両社の広報部は共に「中国側、台湾側、それぞれの利用者が閲覧する画面において、分かりやすく、受け入れやすい表示に切り替えた」と説明しているという。

 台湾の外交部は18日、JALとANAがこの変更を行ったことに抗議しつつ、国際社会に対して、「中国の無理な要求を拒む道徳と勇気を発揮してほしい」と呼びかけた。
 
 日本政府も、外交ルートを通じて中国側に懸念を伝えた。日本政府関係者は、「最終的な対応は各社の判断だが、罰則を設けて民間企業を脅すようなやり方は好ましくない」と話したと伝えられている。
 
 当研究所としては、あらためて6日の論評を繰り返すことはしないが、台湾は中国の統治下にないことは紛れもない事実であり、中国はその事実を尊重すべきだ。
 中国が台湾の地位についてどのような主張をしようと、国際社会はそれに異を唱えることはできないが、中国がその政治主張を貫くために力にものを言わせて圧力を加えることは慎むべきだと考えているのではないか。
 
2018.06.18

中国は軍の有償業務を年末までに廃止する?

 まず、2017年4月15日にアップした「中国軍における「有償業務」の廃止」を再掲する。中国軍の「有償業務」はあまりにも特殊だからである。

 「中国軍における反腐敗運動について当研究所は数回論評してきた。最近では2月6日に「中国軍の改革―反腐敗運動はいまだ進まず」を掲載し、軍における反腐敗運動として様々なことが行われたが、習近平主席は不満であり、「軍は骨の髄まで腐りきっているので改革が必要だ。解放軍の魂を作り替えなければならない」とまで言う人もいることを紹介した。以下は軍改革のフォローアップである。

 中国の軍には「有償業務」なるものがある。抗日戦争を戦っていたとき以来の伝統というか、習慣として認められてきたことだ。中国以外では、何のことかよくわからないだろう。たとえば、医官が外部で治療を施し、それに対する報酬をえれば「有償業務」となる。日本の自衛隊病院でも自衛隊員のみならず、一般人も有償で診察・治療を受けることができるので中国軍と似ているが、自衛隊についてはこのような業務は例外的だ。しかし、中国軍では「有償業務」が一般的に認められている。
 具体的には、中国軍は通信、人材育成、文化体育、倉庫、科学研究、接客、医療、建築技術、不動産有償貸与、修繕など10業種は正規に認められており、そのほか、民兵の装備の修理、幼児教育、新聞の出版、農業の副業、運転手の訓練なども有償で行われているそうだ。
 「通信」とは民間のために通信を代わって行うことだとすれば、日本の感覚ではとんでもないことをしているように思われる。
 「倉庫」とは何か。民間のために物資を有償で保管することと聞こえるが、こんなことをしていてよいの?
 「幼児教育」? 一体何事か。

 中国軍は一方で核兵器やICBMをもちながら、このようにとてもプロとは思えないことをしているのが実情だ。しかし、中国の指導者は以前からそれではいけないという認識であり、たとえば習近平の前任の胡錦濤も盛んに軍の専門化、つまりプロ化が必要だと主張していた。

 習近平は胡錦濤より徹底的に軍のプロ化をすすめており、「有償業務」を廃止することとしたのはその一環である。決定は2015年11月、中央軍事委員会改革工作会議で行われた。その結果、2016年11月末現在で、40%の有償業務が廃止されたという。
 残っているのは、不動産業、農業、接客業(ホテル業?)、医療、科学研究などで現在それらを廃止する計画を策定中である。
しかし、これで軍のプロ化はほんとうに達成されるか。最初の1年間で40%達成したというのはかなりの実績のように聞こえるが、形を変えて残っていないか。今後も順調に有償業務の廃止が進むか。疑問の念は簡単に払しょくできない。」
 

 2018年6月11日、中共中央は「軍による有償業務の全面的停止を深く推進することに関する指導意見」を発表した。年末までにすべての有償業務を廃止することを求めるのがその趣旨だ。
 昨年5月31日の新華社報道では2018年6月までに有償業務を停止することになっていたので、半年ずれることになったのだ。この期間であれば深刻な問題でなさそうだが、在米の華字紙『多維新聞』や香港の『明報』などは有償業務の廃止に抵抗する力が働いていることをあらためて指摘している。
 
 この「指導意見」は、廃止の期日が到来した場合、その延長は許されないこと、補償が必要な場合国家が補償すること、などを指示しているが、抜け道があると解する余地もありそうだ。
 たとえば、有償で貸与されている軍の資産で、所在地の発展計画に入っている場合、廃止が社会経済の発展に悪影響を及ぼす場合、契約期間が長い場合、軍事利用価値が高い場合には、一律に廃止してしまうのでなく、「委託管理」する可能性を残している。これは、つまり、軍がその資産を地方政府や民間に管理業務を委託することではないか。そうであれば、現在の有償業務と何が変わるのか、どうもはっきりしない。

 一方、「指導意見」は今後、業務の許可、空き地や農業用地の利用、ホテル経営などはすべて中央軍事委員会が統一的に管理することを謳っている。この点「指導意見」の考えは明確だが、このような改革がいわゆる軍の「専門化」、産軍一体の伝統からの脱却に決定的な対策となるか疑問の余地がある。
 
2018.06.15

トランプ・金会談は重要なことに合意した

 6月12日、シンガポールで行われた米朝首脳会談については、具体性に欠けるとか、金正恩委員長に譲歩しすぎだとの評価が多いが、それだけでは一面的な見方になる。共同声明から見て、次の4点は特に注目すべきである。

 第1に、米朝両国間の長く続いた激しい敵対状況を終わらせ、新しい関係を樹立していくために首脳同士が直接会談したことの意義は大きい。両者の間では一定の信頼関係も生まれたようだ。トランプ氏は、金正恩氏が「1万人に1人の優れた人物」とまで持ち上げた。

 第2に、米朝両国は、両国民の平和と繁栄への願望に沿って新しい関係を築いていくことに合意した(共同声明第1項)。「両国民の平和と繁栄への願望に沿って」という文言を入れたことは極めて重要だ。民主的に米朝関係を構築していくことを意味する文言だからだ。人権の問題なども含まれてくる。北朝鮮のこれまでの姿勢からして、文言だけでもこのようなことに合意するのは大きな決断であっただろう。

 第3に、朝鮮半島の統一は本来南北両朝鮮の問題だが、これに米国は協力することとなった(第2項)。極端な場合、かりに南北いずれかが武力で朝鮮半島の統一を試みる場合、米国が関与する根拠になりうる。
 この合意は米朝限りのもので、韓国はこの合意に入っていないが、そのことは問題にならないだろう。

 第4に、「非核化」については、共同声明の言及は確かに具体性に欠けるが、今後米朝両国の事務方で詰めていくことになっている。会談後の共同声明が60点だとすれば、今後の協議次第で90点にも、また30点にもなりうる。現在の時点では確定的に評価することはできない。

 共同声明に記載されていること以外にも注目すべき点がある。

 朝鮮半島の緊張はすでにおおはばに緩和された。この点についてはどこにも異論はないだろう。

 トランプ大統領が記者会見で、演習の中止や在韓米軍の撤退の可能性に言及したことは韓国や日本で強い関心を引き起こした。たしかに、トランプ氏の発言は時期尚早であったと思うが、トランプ氏は、米朝関係も南北関係も平和に向かって進み始めたからには現実の軍事情勢にも当然影響してくると考え、そのような発言になった可能性がある。
トランプ氏は取引にたけている、政治的効果を過度に考慮する、米国の財政負担軽減をあまりにも重視するなどの問題があるが、共同声明の第1及び第2項の重要性を見過ごすことはできない。
 
 「非核化」に関して北朝鮮の中央通信やポンペオ国務長官が、対外的に解説を加えているが、必ずしも正確でない。
 例えば、ポンペオ長官は、「米国はCVIDのない合意はしない」との趣旨を述べているが、CVIDは必要条件だが、十分条件ではない。必要なのはCVIDの具体的内容である。
 同長官は、また、「大規模な軍縮を2年半で達成できると希望する」とソウルで述べている。この言及は非核化の検討が進捗したことを物語っており、単に「完全な非核化」というより内容があるとみられる。ただし、2年半で十分か、もっと短くできるか、あるいは長くなるかは明確でない。その程度のことは斟酌しながら聞く必要がある。

 一方、北朝鮮からは、「段階的に核を廃棄することが合意された」との解説が聞こえてくる。しかし、このようなことは共同声明に盛り込まれていないし、トランプ大統領の説明にもなかった。真相はやぶの中だが、北朝鮮側の報道が正しいとも断定できない。最近、金委員長はじめ北朝鮮の指導者の行動や説明と北朝鮮の報道がずれることが起きている。なぜそのようになるのか興味をそそられる問題だが、今回の「段階」報道もはたして正確か慎重に見極める必要がある。

 首脳会談はトランプ大統領と金委員長のつよいリーダシップで実現しただけに、周囲がついていけていないこともありそうだ。

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