平和外交研究所

7月, 2017 - 平和外交研究所 - Page 3

2017.07.11

北朝鮮に対する各国の対応は憂慮すべき状況にある

 北朝鮮は7月4日、ついにICBMの発射実験に踏み切った。5日には安保理の緊急会合が開かれた。さらにその直後の7~8日にドイツ・ハンブルグで開催されたG20首脳会議、またその際に行われた日米、日韓、米韓、米ロなど個別の会談でも取り上げられたので、北朝鮮問題が集中的に議論された形になったが、実質的にはその内容は乏しかった。最大の問題は、国際社会が一致して北朝鮮の核・ミサイル問題に取り組めなくなってきたことである。
 安保理では、これまで北朝鮮が核やミサイルの実験を行うたびに決議、あるいは報道声明を行ってきた。今回は、これまでのどの実験よりも深刻な問題であるICBMの発射実験であったが、その対応について各国は合意できなかった。
 その原因は、第1に、米国作成の決議案について、ロシアがICBMでなく中距離弾道ミサイルであると主張し、また制裁の強化に賛成しなかったことだと報道されている。
 第2に、中国も制裁強化に賛成しなかったという。

 ロシアは従来北朝鮮の核・ミサイル問題について、自国の見解を強く主張することはなかったが、ここにきて急に強く出るようになった。北朝鮮と中国との関係が円滑さを欠くようになったことも一つの背景であろうが、ロシアはトランプ新政権との関係全体のなかで北朝鮮問題を扱うようになっている可能性がある。単純化して言えば、ロシアは米国の勝手にさせないと思っているのではないか。
 今回の安保理では米国大使の対応にも疑問符が付いた。審議の状況は公表されていないので詳しいことは不明だが、米国大使はロシアの修正提案を強く拒否するだけで、合意形成のため粘り強く試みることをしなかったのではないか。いわゆる”Take it or leave it”だったのではないか。

 中国も制裁強化に消極的であったという。もともと中国は北朝鮮に対し強い措置をとることに消極的であったが、最近、とくに、さる4月の習近平主席の訪米後、中国はかなり協力的になって北朝鮮への圧力を強めるようになり、トランプ大統領は中国が努力していると評価する発言を行っていた。しかし、6月21日に開催された両国間の外交・安全保障対話から再び立場の相違が目立つようになり、 米政府は同月末、中国企業に対し新たな制裁を行うと発表する一方で、台湾に対する武器売却を決定した。さらに7月2日には、南シナ海のパラセル諸島(中国名西沙諸島)トリトン島から12カイリ内で「航行の自由作戦」を行った。
 中国は強く刺激されただろう。怒ったかもしれない。推測だが、米国から見ても中国が不満を抱くことは想像できたので、トランプ大統領は2日(航行の自由作戦後と思われる)習近平主席と電話会談したが、習氏は「両国関係はいくつかのマイナス要因によって影響を受けている」と述べたという。これはかなり率直な不満の表明である。
 トランプ大統領は、G20の後も中国が北朝鮮に対する圧力を強化するよう期待していると言っている。北朝鮮問題は中国が解決のカギを握っており、さらなる圧力をかけるべきだという立場は変えていないわけだ。
 しかし、中国側では、トランプ氏の独特のアプローチに嫌気がさしている可能紙もある。
 北朝鮮問題が前に進まないのは中ロが消極的姿勢を取っていることが原因だが、それだけでなく、米国にも責任があるのではないか。

 いわゆる「対話」問題も奇妙な状況になっており、3つの異なる「対話」が区別されないまま使われている。
 韓国の文在寅大統領はかねてから「対話」を重視しており、ICBMの発射後も何とか実現したい考えを表明しているが、文氏の「対話」は、米国を排除しているのではないが、自らを北朝鮮の相手として考えており、「南北対話」である。しかし、文氏には失礼だが、「南北対話」で北朝鮮の非核化が実現するとはだれも考えていない。
 一方、日本は「対話より圧力」あるいは「北朝鮮には対話をする気持ちはない」という趣旨のことを言い続けている。この場合の対話は「米中対話」か、それとも以前行っていた「六カ国協議」のことか明確でない。日本にはこの協議の再開を目指すべきだという論者がまだいるが、この協議から何も生まれないことは明白だ。
 しかるに、米国は、「対話には環境が必要だ」というのが表向きの姿勢だが、非公式の対話は局長レベルで行っている。また、トランプ氏は今でも対話の可能性を考えていることを漏らすこともある。
 トランプ氏は安倍首相の圧力強化論に賛成しているが、米国の真意は深いところに隠されている可能性がある。米国はすでに空母、潜水艦、爆撃機などを駆り出して北朝鮮を脅しあげた。しかし、そのような方法で北朝鮮が動くとはもはや思えなくなっているのではないか。米国が今後も北朝鮮への圧力強化論だけで行くと考えるのはあまりにナイーブだ。

 北朝鮮問題でカギを握っているのは、実は米国である。米国が本気になり、みずから北朝鮮と向き合い、解決を探る以外朝鮮半島の非核化は実現しない。トランプ政権はオバマ大統領時代の対北朝鮮政策をこき下ろす一方、北朝鮮を「恫喝」し、かつ「中国による圧力強化」をオバマ時代より強く求めてきたが、このような試みは奏功しなかった。トランプ政権の行っていることは結局オバマ政権とあまり変わらないのではないか。
 
 この間、北朝鮮は、トランプ大統領の出方を慎重に観察し、そしてICBMの実験に踏み切った。米中が一致していないことは北朝鮮にとって重要な判断材料になっただろう。今、北朝鮮は、ICBM実験を繰り返しても直ちに問題にならないと思うようになっているのではないか。
 北朝鮮をめぐる堂々巡りは一刻も早くやめ、直線的に前進を図るべきである。日本政府は圧力一点張りでなく、米国に対話を進めるべきだと思われる。

2017.07.05

北朝鮮のICBM発射実験

 7月4日、北朝鮮はICBMの実験を行った。今まで北朝鮮について言われてきたことの流れで見ると、「レッドラインを超えたのではないか、そうであれば、米国は軍事行動に出るか」などが問題になる。
 しかし、米国は実力行使をしないだろう。米国が軍事行動に慎重になる理由として挙げられるのは、北朝鮮との戦争が起こると韓国や日本が甚大な被害、壊滅的かもしれない被害を被るということであるが、米軍も耐え難い損失を被るという予測が20年前のシミュレーションで示されていた。今ならはるかに大きな被害となるだろう。
 また、北朝鮮の核とミサイルだけを標的にして攻撃することは不可能だと見られている。中東では限定的な範囲の作戦が可能だが、北朝鮮の場合は、国土が完全に消滅するくらいの攻撃でない限り不可能だと見られている。つまり、北朝鮮との間では限定戦争で済まず、全面戦争になるということだ。前述したシミュレーションは戦闘行為を起こしてから90日間の問題であり、全面戦争の場合米軍の損失ははるかに大きくなる。
 さらに、これはあまり語られないことだが、米国内には冷静な見方がある。北朝鮮の軍事能力は相次ぐ核・ミサイルの実験を見ても急速に向上しているのは事実だが、それだけに誇張されて伝えられる恐れがあり、冷静に見れば、「北朝鮮の核・ミサイル能力はICBMの実験を成功させた後も、米国にははるかに及ばない」と判断されるはずである。このような考えは北朝鮮に対して軍事行動を行うことを制止する力となるだろう。
 米国は冷戦中、ソ連と対峙し、人類が滅亡するかどうかという瀬戸際までいったが、何とか乗り越えてきた。相手の軍事能力や意図についての誇張や過大な恐怖感に左右されるのはいかに危険かを経験しており、戦争を始める前に、危険の大きさ、差し迫っている程度、失うことの大きさなどさまざまな要因を勘案するはずだ。
 
 それにしても、「レッドライン」とは面白い言葉である。本人はレッドラインなど示さない。自分の手を縛ることになるからだ。しかし、周囲の人はレッドラインを問題にする。これは北朝鮮の核・ミサイルに限ったことでなく、交渉においては珍しくない言葉であるが、北朝鮮を相手とする場合、「レッドラインを超えたから○○する」という単純なことにはならない。軍事行動を起こすか否かは、必要となった時点で総合的に判断される。

 一方、金正恩委員長としては、いつ、どのような状況の下でICBMの実験に踏み切るか、かなり時間をかけ慎重に見極めていたと思われる。下手をすると米国を怒らせ、北朝鮮は抹殺されてしまうかもしれない大問題だからである。そして今回実験に踏み切ったのは、一つには、トランプ大統領は北朝鮮に対する政策をまだ固めておらず、ICBMの実験をしても米国は軍事行動に出ないと判断したからであろう。トランプ大統領やティラーソン国務長官は、おどろおどろしいことを口にしていたが、足元が見えてきたのではないか。
 もう一つの要因は、米国と中国の関係がぎくしゃくし始めたことである。習近平主席は両国間に「否定的要因がある」と言っている。北朝鮮が最も嫌悪するのは、米国と中国が協力して北朝鮮に圧力をかけてくることであり、さる4月のトランプ・習会談以降その悪夢が実際に起こっていたのだが、ここにきて潮目が変わってきたのである。

 なお、北朝鮮による核・ミサイル実験のタイミングについては、金正恩などの誕生日とか、国家的記念日などとの関連がよく話題になる。また今回は米国の独立記念日に合わせたとも言われている。これらはいずれも、あると言えばある、ないと言えばない程度のこである。それより、7月2日に中国が人工衛星「長征五号」の発射に失敗したことのほうに注意が向いていたのではないかと思われる。 

2017.07.04

習近平政権の厳しい出入国規制

 ノーベル平和賞受賞者の劉暁波氏は中国で投獄中であるが、末期がんを患っており、西側へ出国を希望している。ドイツ政府は受け入れる用意があり中国政府と交渉中だが、出国は認められていないという。この件は世界の注目を集めている。
 中国では出入国は厳しく規制されている。観光目的で国外へ出る人の数に比べればごくわずかな比率であるが、それでも出入国を規制された人の数は非常に多い。
 海外に居住している中国人が入国を拒否される場合もある。2009年には上海への入境を拒否された馮正虎氏が成田空港から出発できず、抗議の寝泊まりをするという事件が起こっている。
 出入国が規制されるのは人権問題へのかかわりが理由であることが多く、馮正虎氏も人権活動家である。一般的には、テロの容疑と絡んでいることもある。また、天安門事件の関係者および支援者も規制されることが多い。この事件は1989年に起こったことだが、中国の民主化運動が一挙に進むことを中国政府は恐れ厳しく鎮圧した。その影響は今でも残っており、亡霊のように恐れられている。
 2015年には作家の王力雄氏が日本へ出国しようとして北京空港で阻止された。王氏は中国政府の少数民族政策を批判しており、共産党一党独裁の崩壊を描いた近未来小説「黄禍」が日本で出版されたので日本に行こうとしたのであった。
また、習近平政権は、日本に長期滞在している中国人学者への干渉も強めている。
 
 人の往来の規制は通常個人の問題であり、またその数が多いので全体像が把握しにくいが、習近平政権は言論を統制するのと並んで人の往来も強く規制している。人の往来規制も言論統制の一環なのであろう。
 習近平政権は胡錦涛前政権のときより言論と人の往来を一段と強く規制するようになった。もちろん中国の共産党政権は以前から言論を統制しているが、それでも胡錦涛主席時代の2008年には民主化を求める人たちが「08憲章」を発表できた。その指導者が劉暁波氏であり、そのために後に投獄されることとなり、また、そのためにノーベル平和賞を受賞したのだが、習近平政権はインターネットでの情報流通についても危険なものは事前に差し止められるよう、規制を格段に厳しくしている。
 前述した馮正虎氏は当局の厳しい監督にもめげず、その後も活動しており、ブログも開設して自説を展開している。その中で、2015年7月9日から16年12月12日の間に、42名に上る弁護士、その子女、人権活動家が出国を禁止されたとして彼らの氏名をも発表している。
 
 香港は1997年の中国への返還後も50年間、「高度の自治」が認められることになっていたが、現実には中国による支配が強化されたので雨傘運動などの反対運動が起こった。そんな中にあって、言論については選挙制度ほどあからさまに無視されているのではないが、ここにも厳しい当局の監督が及びつつあり、2015年秋、香港のある書店の店主が中国に強制的に連行される事件が起こった。習近平主席に批判的な書籍を販売したからだ。新聞については、現在のところ中国本土ほど厳しい統制下にはおかれていないが、やはり影響は強まっている。
 一方、香港への人の往来は原則自由で、本土のような問題はない。これも2015年のことだが、中国海南島でミス・ワールド世界大会が開催されることとなった。カナダ代表である中国生まれのアナスタシア・リンさんはかねてから人権問題で活動しており、中国政府を批判していたので中国への入国は許可されなかった。そこでリンさんは、香港への出入りは自由なことを利用して海南島へ行こうと試みたが、これも阻止された。
 中国は、香港における言論と人の往来ももっと規制したいのだろう。かといって、香港への締め付けを強化すると反発が強くなるというジレンマがある。香港独立を求める勢力が生まれてきたことは中国にとって危険な兆候のはずである。
 しかし、習近平主席は、必要なら力ずくで反対運動を抑え込むという姿勢のようだ。さる7月1日、香港で返還20年記念の式典が行われ、習近平主席が出席し、演説を行った。そのなかで、「中央の権力に挑戦する動きは絶対に許さない」と、いかにも習近平らしい強面の発言を行っている。
 
 国家の安全を守るというのが習近平主席の掲げる大義であり、そのための諸措置を講じてきた。そのような強気一点張りの統治がいつまでも維持できるかよく分からないが、習近平氏をはじめ中国の指導者が共産党体制の維持について一種の、しかし深刻な懸念を抱いていることがにじみ出ているように思われる。

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