平和外交研究所

6月, 2015 - 平和外交研究所 - Page 5

2015.06.11

明治時代の産業革命遺産が世界遺産として登録されることへの韓国の異議

 明治時代の産業革命遺産がユネスコの世界遺産(文化遺産)として登録されることについて、技術的・専門的な立場から審査するイコモスはすでに登録を勧告したので実現する可能性が大きくなったが、韓国から異議が出た。いわゆる「徴用工」を雇ったことがある施設は世界遺産として登録されるのは適切でないというのが主たる理由である。
 これに対し日本側は、登録の対象となっている一部施設が徴用工を雇ったのは後の時代のことであり、明治時代の産業革命とは時期がずれていると反論していると報道されている。
 日韓間で協議が行われているが、日本側の反論がこれだけであれば心配である。世界遺産への登録は世界のために行なわれることであり、各国から祝福されてしかるべきことである。そういう世界遺産の性格にかんがみると、異議を唱える韓国が問題視する「徴用工」が問題になった時期は、遺産が評価された時期とずれているというだけではあまりに技術的であり、国際的には説得力を持ちえないのではないか。メディアなどには7月8日に開催される世界遺産委員会で日韓双方が獲得するであろう票数の予測も出ているが、多くの国は日韓両国が話し合いで解決してほしい、投票などを強いられたくないという思いだとも伝えられている。これが正しい見方であろう。
 両国は今後どのように解決するのがよいか選択肢を考えてみたいが、大前提として、双方とも偏狭なナショナリズムをあおらないよう十分注意すべきである。
 第1に、世界遺産委員会は協議がまとまるまで延期するか、委員会の開催時期は決められているのであれば、議題とするのを延期できないか。
 第2に、来る委員会では、日韓間で合意のある遺産のみを登録の議題とし、残りについては合意が成立した時に追加登録するのも一案である。
 第3に、韓国側からは、徴用工の問題があったことを何らかの形で表示するという案が出されているそうだが、これは一つの妥協案となりうる。地元の人々にとっては、何かケチがついたような感じが残るかもしれないが、徴用工の問題があったことは隠匿すべきことでなく、当該施設は明治時代の産業革命で立派な役割を果たしたこととともに、後に「徴用工」として知られる歴史を経たことは客観的な事実として公に表示してよいではないかと思う。
 他にも選択肢があるかもしれない。両国間協議の中で日本側は時期がずれていること以外に種々主張し、その中に有力な選択肢が含まれているかもしれない。公表されていないので分からないが、ともかく技術的な理由だけで来る委員会を突破するようなことはしないでもらいたい。そうすることは、日韓関係を損なう恐れがあるのみならず、世界の良識に訴えることにならないと思うからである。

2015.06.10

エルマウ・サミットと日ロ関係

 2015年のG7サミットは、6月7~8日、ドイツ南部のエルマウで開催された。サミットの有用性、必要性についてはかねてからさまざまな議論があり、今年も会議場の周辺でサミット反対の示威行動があったが、自由、領土保全、国際法、人権尊重などの価値を共有するG7諸国が、ロシアと中国に対し注文を付ける形になった今年のG7サミットは、その有用性をあらためて強調する機会になったと思われる。
 日本が重視していた南シナ海での中国の行動への関心は比較的低かったという見方もあるようだが、ロシアと中国に対する扱いをバランスよく比較するのは困難である。また、サミットに先立ち、4月にリューベックで開催されたG7外相会議では「海上の安全保障に関する宣言」が採択されており、G7として南シナ海問題にどのように対応したかについては、その宣言もあわせて考慮する必要がある。
 それはともかく、今年のサミットでは、ロシアによるクリミア併合以来1年余り苦慮してきた欧米諸国や日本がどのようなメッセージを出すかが最大の焦点であり、議論の結果は、ロシアがミンスク合意(2014年9月、ウクライナ政府、親ロシア派、ロシアおよび監視役のOSCE 代表による停戦合意)を順守し、ウクライナ領内の親ロシア派に対するロシアからの越境支援を中止することを求め、さもなければロシアに対する制裁の強化もいとわないという、予想された通りの強い要求となった。
 ロシアとの関係では、米国、欧州諸国、それに日本の立場が違っているのは事実であり、そのため、ロシアに対しもっとも強硬な米国に欧州と日本がどこまで同調するかが注目された。しかし、この違いは誇張されるきらいがあり、とくに、オバマ大統領の任期が終わりに近づいているためにその政治的立場が弱くなっていることと関連付けて見られることがあるが、今回の首脳宣言は米国の主導かつ主張する強い姿勢が他のG7諸国にとっても必要であることを再確認する結果となった。
 しかしロシアは、ウクライナ問題について日本がロシアに対して米欧諸国と同様厳しい態度で臨むことに不満であり、日ロ関係にも悪影響が及ぶとなかば脅しのようなことも口にする。
 一方、米国は、日本がロシアとの関係を進めると西側としての連帯を弱めると警戒し、牽制とも受け取れる発言を行なう。
 日本は、このように微妙な状況の中でロシアとの関係をいかに進めていくべきか。安倍首相にとっては、今次G7サミットは日ロ関係促進に対する米欧の立場を値踏みする一つの機会であっただろう。安倍首相はフランスのオランド大統領、ドイツのメルケル首相、イタリアのレンツィ首相と相次いで会談し、ロシアのプーチン大統領との会談を目指す方針を伝え、理解が得られたと言われている。
 サミット終了後の内外記者会見で、安倍首相は、「ロシアには、責任ある国家として、国際社会の様々な課題に建設的に関与してもらいたい。そのためは、私は、プーチン大統領との対話を、これからも続けていく考えであります」「ロシアとは、戦後70年経った現在も、いまだに平和条約が締結できていないという現実があります。北方領土の問題を前に進めるため、プーチン大統領の訪日を、本年の適切な時期に実現したいと考えています。
 具体的な日程については、今後、準備状況を勘案しつつ、種々の要素を総合的に考慮して検討していく考えであります」と、ロシアとの関係改善、北方領土問題の解決、プーチン大統領訪日にかける熱い気持ちを語っている。
 しかし、問題のウクライナ情勢はまだ混とんとしており、今後数カ月以内にG7諸国が制裁を強化することが必要となる事態に陥らない保証はない。この度のG7エルマウ・サミットにおいて、安倍首相は日ロ関係を進める見通しがついたという判断があるかもしれないが、事態はまだかなり流動的であると思われる。
2015.06.09

(短文)習近平主席の側近

 6月1日付の香港紙『経済日報』は、5月27日に浙江省で開かれた第13次五カ年計画座談会に出席した習近平主席に随行した5人が側近ブレーンを形成しているとして、その略歴を次のように紹介した(同日付の『多維新聞』による)。

王滬寧 Wang Hu-ning
59歳。政治局員。2002年から中央政策研究室主任。18期3中全会で設置された「深化改革領導小組」弁公庁主任(事務局長的役職。同小組の主任は習近平)。

栗戰書 Li Zhan-shu
習近平が河北省正定県の書記だった時に認められ、62歳で中央に抜擢され、失脚した令計画の後をついで「大內總管(我が国の官房長官のような地位)」となった。2013年12月、栗戰書は中央警衛局特別行動隊を指揮して周永康前政治局員を逮捕した。

丁薛祥 Ding Xie-xiang
53歳。習近平が上海市書記だった時に認められ、同市の秘書長に抜擢された。2013年習近平の「大管家(清朝の言葉。大番頭)」に取り立てられた。すでに中央弁公庁常務副主任に就いている可能性がある。

劉鶴 Liu He
63歳。習近平の筆頭経済ブレーン。1960年代北京第101中学時代から習近平と知り合う。2013年3月より、中央財経領導小組弁公室主任、国務院発展改革委員会副主任。

何立峰 He Li-feng
60歳。習近平が福建省の書記であった時に認められた。2014年6月、国務院発展改革委員会副書記兼副主任に就任。同委員会は「小国務院」と呼ばれる中枢機関である。

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