6月, 2015 - 平和外交研究所 - Page 3
2015.06.19
「2015年のG7サミットは6月7~8日、ドイツ南部のエルマウで開催されました。ロシアによるクリミア併合以来1年余り苦慮してきた欧米諸国や日本がどのようなメッセージを出すかが最大の焦点でした。議論の結果は、ロシアにミンスク合意(2014年9月、ウクライナ政府、親ロシア派、ロシアおよび監視役のOSCE 代表による停戦合意)を順守すること、およびウクライナ領内の親ロシア派に対する越境支援を中止することを求め、ロシアが応じなければ制裁の強化もいとわないという、予想された通りの強い要求となりました。
実は、サミット参加7カ国のロシアに対する立場は同一でなく、もっとも強硬なのは米国です。
冷戦終結後、ロシアと西側諸国の関係は大いに改善され、1994年からロシアはG7に参加するようになりました。
しかし、ロシアが西側諸国と主張を異にすることはその後も生じています。ロシアがもっとも強く反発する相手は米国であり、時には米国に負けない軍事力を保有していることを誇示してまで対抗姿勢を見せることがあります。また国連でも、ロシアは中国とともに保守的な立場に立って米欧諸国に反対し、そのため国連として必要な結論が出せなくなる場合があります。
米国は長い冷戦時の経験と、このようなロシアの現状にかんがみると、ロシアに対し時には強い態度で臨まなければならないという確固とした信念があると思われます。
ロシアがクリミアの併合を強行したことはまさにそのように強く対処しなければならない事態であり、米国は他の西側諸国とともにロシアのクリミア併合を認めず、また、ウクライナ領内の親ロシア派に対してロシアが人的・物的支援を続けることを強く非難し、制裁措置の実施に踏み切りました。
一方、欧州諸国や日本は米国と共働しつつも、米国とは異なる事情によって一定程度影響を受けます。欧州諸国については、隣国であり、親ロシア派の問題で困難に陥っているウクライナを支援しなければならないが、ロシアからの天然ガス輸入への依存度が高いのでロシアと良好な関係を維持したいという両側面があります。
日本とロシアの関係も複雑です。ロシアは、ウクライナ問題について日本がロシアに対して米欧諸国と同様厳しい態度で臨み、制裁を課していることに不満であり、日本の姿勢は日ロ二国間関係に悪影響を及ぼすと、なかば脅しのようなことを口にすることもあります。
ロシアとしては、日ロ両国は隣国どうしであり、北方領土問題を解決して平和条約を結ばなければならないことを考慮すると、日本は米国と違った対応をしてもよいではないかという、一種の期待感があるように思われます。
日本にとって北方領土問題を解決することはもちろん重要な課題です。安倍首相は今年内にもプーチン大統領を日本に迎え、交渉を進めたいという考えをロシア側に伝えています。
一方、米国は、ロシアがウクライナで引き起こした問題が未解決のまま、日本がロシアとの関係を進めることは西側としての連帯を弱めると警戒しており、国務省の高官は日本の動きを牽制する発言を行っています。
このような状況の中で開催されたG7サミットは、安倍首相にとって日ロ関係促進に対する米欧の立場を値踏みする機会となり、各国首脳との二国間会談でロシアのプーチン大統領との会談を目指す方針を伝え、理解を求めました。
サミット終了後の内外記者会見で、安倍首相は、「ロシアには、責任ある国家として、国際社会の様々な課題に建設的に関与してもらいたい。そのためは、私は、プーチン大統領との対話を、これからも続けていく考えであります」「ロシアとは、戦後70年経った現在も、いまだに平和条約が締結できていないという現実があります。北方領土の問題を前に進めるため、プーチン大統領の訪日を、本年の適切な時期に実現したいと考えています。 具体的な日程については、今後、準備状況を勘案しつつ、種々の要素を総合的に考慮して検討していく考えであります」と、ロシアとの関係改善、北方領土問題の解決、プーチン大統領訪日にかける熱い気持ちを語っています。
しかし、問題のウクライナ情勢はまだ混とんとしており、今後数カ月以内にG7諸国が制裁を強化することが必要となる事態に陥らないという保証はありません。かりにそうなれば、日本としても米欧諸国と並んで制裁の強化が必要となるでしょう。
来年のG7サミットは日本で開催されます。ロシアのG7への参加はクリミア併合以降停止されています。日本としては、ウクライナの問題を解決し、ロシアとの関係を進めて伊勢志摩サミットにプーチン大統領を迎えたいところですが、残念ながら事態はまだまだ流動的と言わざるをえません。
ウクライナ、北方領土……ジレンマの日ロ関係
THE PAGEに6月18日掲載されたもの。「2015年のG7サミットは6月7~8日、ドイツ南部のエルマウで開催されました。ロシアによるクリミア併合以来1年余り苦慮してきた欧米諸国や日本がどのようなメッセージを出すかが最大の焦点でした。議論の結果は、ロシアにミンスク合意(2014年9月、ウクライナ政府、親ロシア派、ロシアおよび監視役のOSCE 代表による停戦合意)を順守すること、およびウクライナ領内の親ロシア派に対する越境支援を中止することを求め、ロシアが応じなければ制裁の強化もいとわないという、予想された通りの強い要求となりました。
実は、サミット参加7カ国のロシアに対する立場は同一でなく、もっとも強硬なのは米国です。
冷戦終結後、ロシアと西側諸国の関係は大いに改善され、1994年からロシアはG7に参加するようになりました。
しかし、ロシアが西側諸国と主張を異にすることはその後も生じています。ロシアがもっとも強く反発する相手は米国であり、時には米国に負けない軍事力を保有していることを誇示してまで対抗姿勢を見せることがあります。また国連でも、ロシアは中国とともに保守的な立場に立って米欧諸国に反対し、そのため国連として必要な結論が出せなくなる場合があります。
米国は長い冷戦時の経験と、このようなロシアの現状にかんがみると、ロシアに対し時には強い態度で臨まなければならないという確固とした信念があると思われます。
ロシアがクリミアの併合を強行したことはまさにそのように強く対処しなければならない事態であり、米国は他の西側諸国とともにロシアのクリミア併合を認めず、また、ウクライナ領内の親ロシア派に対してロシアが人的・物的支援を続けることを強く非難し、制裁措置の実施に踏み切りました。
一方、欧州諸国や日本は米国と共働しつつも、米国とは異なる事情によって一定程度影響を受けます。欧州諸国については、隣国であり、親ロシア派の問題で困難に陥っているウクライナを支援しなければならないが、ロシアからの天然ガス輸入への依存度が高いのでロシアと良好な関係を維持したいという両側面があります。
日本とロシアの関係も複雑です。ロシアは、ウクライナ問題について日本がロシアに対して米欧諸国と同様厳しい態度で臨み、制裁を課していることに不満であり、日本の姿勢は日ロ二国間関係に悪影響を及ぼすと、なかば脅しのようなことを口にすることもあります。
ロシアとしては、日ロ両国は隣国どうしであり、北方領土問題を解決して平和条約を結ばなければならないことを考慮すると、日本は米国と違った対応をしてもよいではないかという、一種の期待感があるように思われます。
日本にとって北方領土問題を解決することはもちろん重要な課題です。安倍首相は今年内にもプーチン大統領を日本に迎え、交渉を進めたいという考えをロシア側に伝えています。
一方、米国は、ロシアがウクライナで引き起こした問題が未解決のまま、日本がロシアとの関係を進めることは西側としての連帯を弱めると警戒しており、国務省の高官は日本の動きを牽制する発言を行っています。
このような状況の中で開催されたG7サミットは、安倍首相にとって日ロ関係促進に対する米欧の立場を値踏みする機会となり、各国首脳との二国間会談でロシアのプーチン大統領との会談を目指す方針を伝え、理解を求めました。
サミット終了後の内外記者会見で、安倍首相は、「ロシアには、責任ある国家として、国際社会の様々な課題に建設的に関与してもらいたい。そのためは、私は、プーチン大統領との対話を、これからも続けていく考えであります」「ロシアとは、戦後70年経った現在も、いまだに平和条約が締結できていないという現実があります。北方領土の問題を前に進めるため、プーチン大統領の訪日を、本年の適切な時期に実現したいと考えています。 具体的な日程については、今後、準備状況を勘案しつつ、種々の要素を総合的に考慮して検討していく考えであります」と、ロシアとの関係改善、北方領土問題の解決、プーチン大統領訪日にかける熱い気持ちを語っています。
しかし、問題のウクライナ情勢はまだ混とんとしており、今後数カ月以内にG7諸国が制裁を強化することが必要となる事態に陥らないという保証はありません。かりにそうなれば、日本としても米欧諸国と並んで制裁の強化が必要となるでしょう。
来年のG7サミットは日本で開催されます。ロシアのG7への参加はクリミア併合以降停止されています。日本としては、ウクライナの問題を解決し、ロシアとの関係を進めて伊勢志摩サミットにプーチン大統領を迎えたいところですが、残念ながら事態はまだまだ流動的と言わざるをえません。
2015.06.18
思い切って書いた理由の第1は、辺野古への移転に関してすべてのことを知っている人はまずいないことである。防衛・外務両省の人たちでもすべて知っているわけではないだろう。長年、防衛省で普天間問題に取り組んできた守屋武昌氏の著作からもそのようなことがうかがえる。
第2に、あくまで辺野古での飛行場建設を強行するならば流血の事態が発生する恐れがある。政府として、時には強硬手段もやむをえない場合があることは承知しているが、21世紀に入って15年、日本人の大多数が基本的には豊かで安全な生活を送っている今日、米軍が使う飛行場を建設するために流血の犠牲を払ってでも強行しなければならないとはどうしても思えない。この日本にそのようなことが起こってはならないのではないか。国際約束であっても、そんなことをすれば末代まで悔いが残るだろう
第3に、辺野古移転しか解決の方法はない、と政府は説明するが、そんなことが言えるか、他の方法を真剣に検討したのか、どうしても疑問が残る。
では具体的にどうするのがよいかであるが、辺野古に新しい飛行場を作るのではなく、普天間飛行場は残し、周囲の危険な場所に住んでいる人たちの移住により解決を図るという考えに賛成である。
このような意見は沖縄ですでに出ているようであるが、なぜかあまり広がっていない。辺野古案と住民移転案の費用比較、沖縄への政府からの補助への影響、運動を推進している政党の問題などさまざまな事情が絡んでいるのだろうが、細かい損得勘定はともかくとして、飛行場移転より住民移転のほうが痛みは少ないということはきわめて重要なことであり、国民の政治的信条、政党の主張などを超えて合意を形成できる案であると考える。
(短文)辺野古へ移転しないでよいのではないか
普天間飛行場の辺野古への移設問題について書くのはちょっと勇気がいる。複雑な経緯があり、歴代の政府、防衛省や外務省、米軍などで智慧を絞って出された結論について、事情を十分承知していない者が軽々に物を言うのははばかられるが、次の理由から辺野古移転不要論を率直に書いてみた。このHPの「ご意見・お問い合わせ」を通じてご叱正いただければ幸甚である。思い切って書いた理由の第1は、辺野古への移転に関してすべてのことを知っている人はまずいないことである。防衛・外務両省の人たちでもすべて知っているわけではないだろう。長年、防衛省で普天間問題に取り組んできた守屋武昌氏の著作からもそのようなことがうかがえる。
第2に、あくまで辺野古での飛行場建設を強行するならば流血の事態が発生する恐れがある。政府として、時には強硬手段もやむをえない場合があることは承知しているが、21世紀に入って15年、日本人の大多数が基本的には豊かで安全な生活を送っている今日、米軍が使う飛行場を建設するために流血の犠牲を払ってでも強行しなければならないとはどうしても思えない。この日本にそのようなことが起こってはならないのではないか。国際約束であっても、そんなことをすれば末代まで悔いが残るだろう
第3に、辺野古移転しか解決の方法はない、と政府は説明するが、そんなことが言えるか、他の方法を真剣に検討したのか、どうしても疑問が残る。
では具体的にどうするのがよいかであるが、辺野古に新しい飛行場を作るのではなく、普天間飛行場は残し、周囲の危険な場所に住んでいる人たちの移住により解決を図るという考えに賛成である。
このような意見は沖縄ですでに出ているようであるが、なぜかあまり広がっていない。辺野古案と住民移転案の費用比較、沖縄への政府からの補助への影響、運動を推進している政党の問題などさまざまな事情が絡んでいるのだろうが、細かい損得勘定はともかくとして、飛行場移転より住民移転のほうが痛みは少ないということはきわめて重要なことであり、国民の政治的信条、政党の主張などを超えて合意を形成できる案であると考える。
2015.06.17
中国側は事前にそのような扱いについて米側から通報を受け、不承不承であろうが、了承していたはずである。中国側は米側に、今回の范長龍副主席の訪米について最低限必要なこと以外はプレス発表しないでほしいと要請する一方、中国系のメディアには范長龍副主席訪米の事務的な側面を強調して、米側が冷たく扱ったという印象が目立たないよう努めていた。しかし、それはしょせん弥縫策であり、米側が范長龍副主席に対して示した強い姿勢を覆い隠すことはできなかった。
米中間には協力が必要な事柄も少なくない。今年の9月には習近平主席の訪米が控えており、米国政府はこれを重要な行事として扱うであろうし、米中両国はお互いに重視し合っている。
しかし、中国が南シナ海でしたい放題の行動を行なったことは米国政府や議会の中で蓄積されていくだろう。それがどのような結果をもたらすか、まだ見えてこないが、米国だけの問題にとどまらない。中国軍の問題行動は国際社会における中国の声望を改善しないのではないか。
(短文)范長龍中国中央軍事員会副主席を米国はどう扱ったか
范長龍中央軍事員会副主席が訪米し、6月11日、カーター国防長官と会談した。米側の対応は決して熱烈歓迎でなく、むしろ「冷淡」に近かったようだ。過去、中国の軍事委員会副主席が訪中した際は大統領も会っていたが、今回これはなく、国防総省での歓迎行事では儀仗(儀仗隊が整列する前を通って栄誉を受けること)は行なわれず、19発の礼砲もなかった。米国は南シナ海での中国の行動を強く問題視しているからである。中国側は事前にそのような扱いについて米側から通報を受け、不承不承であろうが、了承していたはずである。中国側は米側に、今回の范長龍副主席の訪米について最低限必要なこと以外はプレス発表しないでほしいと要請する一方、中国系のメディアには范長龍副主席訪米の事務的な側面を強調して、米側が冷たく扱ったという印象が目立たないよう努めていた。しかし、それはしょせん弥縫策であり、米側が范長龍副主席に対して示した強い姿勢を覆い隠すことはできなかった。
米中間には協力が必要な事柄も少なくない。今年の9月には習近平主席の訪米が控えており、米国政府はこれを重要な行事として扱うであろうし、米中両国はお互いに重視し合っている。
しかし、中国が南シナ海でしたい放題の行動を行なったことは米国政府や議会の中で蓄積されていくだろう。それがどのような結果をもたらすか、まだ見えてこないが、米国だけの問題にとどまらない。中国軍の問題行動は国際社会における中国の声望を改善しないのではないか。
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