2月, 2015 - 平和外交研究所 - Page 5
2015.02.07
「先日は『原発安全革命』を送っていただきありがとうございました。こちらからの連絡が遅れて申し訳ありません。
私は技術のことは素人ですが、原発の安全性というか、安全なエネルギーを確保することには関心があり、古川さんがトリウム炉を提唱されていることも聞いていました。また、私が昨年末まで勤めていたキヤノングローバル戦略研究所の高温ガス炉研究会にも一度だけですが、顔を出したこともあります。このような関係から、軽水炉原発が日本としてよい選択であったか、米国、とくに産業界にしてやられたのではないか、今後も軽水炉でよいのか、など一応疑問を持っています。経産省がこれまでエネルギー確保のために努めてきたことは正当に評価すべきですが、原子力発電に関する同省行政の在り方については東日本大震災以降強い疑問を持ち、関係企業との癒着、ないしはなれ合いがあるのではないかという気持ちを払しょくできません。しかし、私の得意な分野でないためか、原発の安全性について自分で問題を調べたり、行動を起こしたりはしていません。
前置きが長くなりましたが、古川さんの本には興味深いことがいっぱい書いてあります。全部は理解できていませんが、拝読していて、政府が決定したエネルギー政策、核燃料サイクルの問題点をどのように取り上げ、さらに将来的には変えていくか、国民の安全にかかわるこの重要で複雑な世界にどのようにメスを入れていくかといういつもの疑問がわいてきました。古川さんはおそらく小型溶融塩発電炉FUJIを進めるのがよい、それが突破口になるとお考えなのだと思います。私も素人ながら、FUJIを研究し、推進することに興味がありますが、軽水炉や高温ガス炉との比較考量もしたうえで、もっともよい方法を導き出さなければなりません。
FUJIに関する今後の検討は誰が進めていくのでしょうか。科学的知識のある専門家が必要なのは当然ですが、専門家だけでは物事を動かせません。専門家だけでは原子力政策という難問を解決することは無理で、結局軽水炉派にいいようにやられてしまうでしょう。政府と官僚機構の仕組みに通じている人でこの問題に熱意を持って取り組める人の協力が絶対的に必要です。さらには広く国民の理解と協力も得ていかなければなりません。そのような大局的状況の中で、専門家の間でFUJIがどのように評価されているのかがまず問題になるでしょう。
さらに、私は、プルトニウムという危険物質を減少させることは日本の国益に照らしても重要と思っています。あれほど何回も事故を起こした高速増殖炉についていずれはうまくいくなどという話は聞きたくありません。
もう一つの問題は廃棄物の処理場が出てこないことです。これも極めつけの難問であることは世界中が知っています。しかし、現実には問題は未解決ですが、原発は再開されようとしており、そうなると行き場のない廃棄物が増加するのは不可避です。このことはすでに政治のレベルでも指摘されていますが、同調する人は思ったほど増えていない印象があります。
以上、私の関心事を簡単に列挙しました。今後、どう考えればよいか、また、どうしたらよいか、教えていただけると助かります。」
原発の安全性とトリウム炉
友人から、トリウム炉がもっともすぐれているという趣旨の、古川和男氏の『原発安全革命』を送ってもらいました。以下はそれに対する私のメールです。「先日は『原発安全革命』を送っていただきありがとうございました。こちらからの連絡が遅れて申し訳ありません。
私は技術のことは素人ですが、原発の安全性というか、安全なエネルギーを確保することには関心があり、古川さんがトリウム炉を提唱されていることも聞いていました。また、私が昨年末まで勤めていたキヤノングローバル戦略研究所の高温ガス炉研究会にも一度だけですが、顔を出したこともあります。このような関係から、軽水炉原発が日本としてよい選択であったか、米国、とくに産業界にしてやられたのではないか、今後も軽水炉でよいのか、など一応疑問を持っています。経産省がこれまでエネルギー確保のために努めてきたことは正当に評価すべきですが、原子力発電に関する同省行政の在り方については東日本大震災以降強い疑問を持ち、関係企業との癒着、ないしはなれ合いがあるのではないかという気持ちを払しょくできません。しかし、私の得意な分野でないためか、原発の安全性について自分で問題を調べたり、行動を起こしたりはしていません。
前置きが長くなりましたが、古川さんの本には興味深いことがいっぱい書いてあります。全部は理解できていませんが、拝読していて、政府が決定したエネルギー政策、核燃料サイクルの問題点をどのように取り上げ、さらに将来的には変えていくか、国民の安全にかかわるこの重要で複雑な世界にどのようにメスを入れていくかといういつもの疑問がわいてきました。古川さんはおそらく小型溶融塩発電炉FUJIを進めるのがよい、それが突破口になるとお考えなのだと思います。私も素人ながら、FUJIを研究し、推進することに興味がありますが、軽水炉や高温ガス炉との比較考量もしたうえで、もっともよい方法を導き出さなければなりません。
FUJIに関する今後の検討は誰が進めていくのでしょうか。科学的知識のある専門家が必要なのは当然ですが、専門家だけでは物事を動かせません。専門家だけでは原子力政策という難問を解決することは無理で、結局軽水炉派にいいようにやられてしまうでしょう。政府と官僚機構の仕組みに通じている人でこの問題に熱意を持って取り組める人の協力が絶対的に必要です。さらには広く国民の理解と協力も得ていかなければなりません。そのような大局的状況の中で、専門家の間でFUJIがどのように評価されているのかがまず問題になるでしょう。
さらに、私は、プルトニウムという危険物質を減少させることは日本の国益に照らしても重要と思っています。あれほど何回も事故を起こした高速増殖炉についていずれはうまくいくなどという話は聞きたくありません。
もう一つの問題は廃棄物の処理場が出てこないことです。これも極めつけの難問であることは世界中が知っています。しかし、現実には問題は未解決ですが、原発は再開されようとしており、そうなると行き場のない廃棄物が増加するのは不可避です。このことはすでに政治のレベルでも指摘されていますが、同調する人は思ったほど増えていない印象があります。
以上、私の関心事を簡単に列挙しました。今後、どう考えればよいか、また、どうしたらよいか、教えていただけると助かります。」
2015.02.05
富山大学極東地域研究センターの堀江典生教授は、「ロシア極東地域は中国からの経済圧力と人口圧力を脅威とする中国脅威論が盛んに議論されてきた地域である。ロシア極東地域の農地活用において中国との協力に期待を寄せつつも、いざ中国からの投資を呼び込もうとするとある種のブレーキがかかる文脈がこの地域にはある」と指摘している。どのようなブレーキかについては、「ロシア極東地域側の受け止め方は複雑である。中国企業のアムール州進出では化学肥料・農薬の大量投入により農地が傷んだり、アムール州の農業企業で雇われる中国人労働者が不法移民であったりすることが、頻繁にロシアで報道されている。」そして、「アムール州では、農業労働力を外国人労働力、特に中国人労働力に依存していると言われているなか、2013年に中国人農業労働者への外国人労働許可割当をゼロとする思い切った方針を打ち出した。アムール州は、太平洋への出口として良好な港をもつ沿海地方やハバロフスク地方とは異なり、中国にしか国際的な出口がない。それゆえ、中国国境地域と本来強い補完性を労働力においても貿易においてももつアムール州のこうした動きは、進展するロシア極東地域開発において、新たな中国脅威論の火種となる可能性をもつ。ただし、こうした中国人農業労働者の動向を伝える報道は、しっかりとした根拠に基づいたものばかりとは限らず、農業部門に限った中国人農業労働者の就労実態について学術的な分析はまだまだ限られている。」と述べている。
(堀江教授の論文「アムール州にみるロシア極東農業と外国人労働者問題」から抜粋)
香港の鳳凰台(フェーニックスTV)や米国に本拠を置く多維新聞(それぞれ1月27日、28日)は土地の無償提供のニュースに敏感に反応して、要旨次のように報道した。
○極東地域の土地を無償で提供するという提案は、極東連邦区のトゥルトゥネフ代表によって行われた。この地域の労働力は激しい減少傾向にあるからである。対象となるのはロシア人である。使途に制限はなく、農業、林業、狩猟場あるいはリゾートなど何でもよい。提供される土地の広さは1人につき1ヘクタールである。
○中国人でも極東地域に10年以上居住している者は土地を得る資格がある。10年に満たなければ、土地をロシア人から賃借することができるであろうから、この提案は中国人労働者にとって大きな意味がある。
○極東地域に居住する中国人の数は20万人を超える。さらに多数の中国人労働者がロシア領内に来る可能性がある。2013年、国境を越えてロシアに入境した中国人の数は68・9万人であった。そのうち居住許可を得たのはわずかに1240人であり、この他、8・2万人が労働許可を得た。したがって、入境した中国人の88%は違法移民であったことも問題である。
○中国の国家開発銀行はこの地でのインフラ建設などのために50億米ドルを投資する予定である。
○このような状況からロシアでは警戒心が強まり、現在大議論になっている。土地を得たロシア人が将来中国人に売却する可能性もあり、将来中国人によって主権を奪われる結果になると心配する者もいる。
○しかし、極東地域は中国人労働力に依存せざるをえない。日本や韓国の企業も参入しているが、それだけでは足りない。2012年5月にも、ロシアの経済発展部門は極東沿海地域の数百万ヘクタールの土地を中国人に長期賃貸し、農業の市場化に役立てる方針を発表した経緯がある。
中国に膨大な労働力があることは、かつては必ずしも利点でなかったが、今や中国の力の源泉になっている。そのことが顕著に表れるのがロシアの極東地域である。ロシアの力が弱まっていると即断することはできないが、石油価格の下落やウクライナ問題に加えこのような極東地域の状況を見ていると、「勢いのある中国」と「受け身のロシア」というコントラストになっていると思われてならない。
ロシアにおける中国人労働者
最近、ロシア極東地域で住民に土地を無償で与えるという提案が行われた。プーチン大統領は原則賛成らしい。かなり特殊な提案であるが、ロシアと中国の両方にまたがる問題が背景にある。富山大学極東地域研究センターの堀江典生教授は、「ロシア極東地域は中国からの経済圧力と人口圧力を脅威とする中国脅威論が盛んに議論されてきた地域である。ロシア極東地域の農地活用において中国との協力に期待を寄せつつも、いざ中国からの投資を呼び込もうとするとある種のブレーキがかかる文脈がこの地域にはある」と指摘している。どのようなブレーキかについては、「ロシア極東地域側の受け止め方は複雑である。中国企業のアムール州進出では化学肥料・農薬の大量投入により農地が傷んだり、アムール州の農業企業で雇われる中国人労働者が不法移民であったりすることが、頻繁にロシアで報道されている。」そして、「アムール州では、農業労働力を外国人労働力、特に中国人労働力に依存していると言われているなか、2013年に中国人農業労働者への外国人労働許可割当をゼロとする思い切った方針を打ち出した。アムール州は、太平洋への出口として良好な港をもつ沿海地方やハバロフスク地方とは異なり、中国にしか国際的な出口がない。それゆえ、中国国境地域と本来強い補完性を労働力においても貿易においてももつアムール州のこうした動きは、進展するロシア極東地域開発において、新たな中国脅威論の火種となる可能性をもつ。ただし、こうした中国人農業労働者の動向を伝える報道は、しっかりとした根拠に基づいたものばかりとは限らず、農業部門に限った中国人農業労働者の就労実態について学術的な分析はまだまだ限られている。」と述べている。
(堀江教授の論文「アムール州にみるロシア極東農業と外国人労働者問題」から抜粋)
香港の鳳凰台(フェーニックスTV)や米国に本拠を置く多維新聞(それぞれ1月27日、28日)は土地の無償提供のニュースに敏感に反応して、要旨次のように報道した。
○極東地域の土地を無償で提供するという提案は、極東連邦区のトゥルトゥネフ代表によって行われた。この地域の労働力は激しい減少傾向にあるからである。対象となるのはロシア人である。使途に制限はなく、農業、林業、狩猟場あるいはリゾートなど何でもよい。提供される土地の広さは1人につき1ヘクタールである。
○中国人でも極東地域に10年以上居住している者は土地を得る資格がある。10年に満たなければ、土地をロシア人から賃借することができるであろうから、この提案は中国人労働者にとって大きな意味がある。
○極東地域に居住する中国人の数は20万人を超える。さらに多数の中国人労働者がロシア領内に来る可能性がある。2013年、国境を越えてロシアに入境した中国人の数は68・9万人であった。そのうち居住許可を得たのはわずかに1240人であり、この他、8・2万人が労働許可を得た。したがって、入境した中国人の88%は違法移民であったことも問題である。
○中国の国家開発銀行はこの地でのインフラ建設などのために50億米ドルを投資する予定である。
○このような状況からロシアでは警戒心が強まり、現在大議論になっている。土地を得たロシア人が将来中国人に売却する可能性もあり、将来中国人によって主権を奪われる結果になると心配する者もいる。
○しかし、極東地域は中国人労働力に依存せざるをえない。日本や韓国の企業も参入しているが、それだけでは足りない。2012年5月にも、ロシアの経済発展部門は極東沿海地域の数百万ヘクタールの土地を中国人に長期賃貸し、農業の市場化に役立てる方針を発表した経緯がある。
中国に膨大な労働力があることは、かつては必ずしも利点でなかったが、今や中国の力の源泉になっている。そのことが顕著に表れるのがロシアの極東地域である。ロシアの力が弱まっていると即断することはできないが、石油価格の下落やウクライナ問題に加えこのような極東地域の状況を見ていると、「勢いのある中国」と「受け身のロシア」というコントラストになっていると思われてならない。
2015.02.03
江沢民元国家主席へも運動の影響が及ぶか、まだ明確になっていないが、その側近には取り締まりの対象となる者が出ており、周永康もその一人である。江沢民の軍内の秘書であった賈廷安上將も1月23日、中央規律検査委員会によって連行された。同人は軍人であるので、軍の規律検査委員会が扱うべきであるという声が軍内で出ている。中央規律検査委員会と軍の規律検査委員会とのライバル関係については、1月24日の当HP記事を参照願いたい。
江沢民の子である江綿恒は、中国科学院上海分院長の職を解任された。定年が理由とされているが、中国では次官クラスは60歳、大臣クラスは65歳が定年であり、江綿恒は今年の4月で64歳になる。同人はどちらのクラスであれ、この時点で解任されるのは異常である。ただし、上海科学技術大学の学長だけは保持している。
李鵬元首相の子、李小鹏についてもうわさが絶えない。同人は電力畑出身であり、山西省長であったが、最近の人事で、「山西省人民政府の活動全般を指導する」こととなった。これは降格であると見られている。このことを報じたインターネットのサイトはすぐに閉鎖された。電力事業についてはかねてから改革の必要性が叫ばれていたが、進捗していない。なぜうまくいかないのか江沢民自身が問い詰めたこともあったが、明確な答えは得られなかったと言われている。電力関係部署の病巣は根が深そうである。
一方、習近平の反腐敗運動は、いわゆる「紅色家族(中国革命の功労者の家族)」や「紅二代(功労者の子)」には追及が甘いことを示唆する意見が出始めている。『紅旗文稿』2015年第二期の「2014年思想理論領域的九大熱點問題」は、反腐敗運動の深化にともない、この運動は「政治闘争である」という議論が出てきていることを指摘している。
「安邦保険」は約10年前に設立された新しい会社であるが、急成長し、すでに中国最大の保険会社となっている。保険業務自体はとくに優れているわけでないが、相次ぐ吸収合併で巨大化しており、ニューヨークの超有名なホテル「ウォルドーフ・アストリア」を買収して世間の耳目を集めた。このような急成長ができたのは、典型的な「紅二代」である陳小魯(中国革命の功労者である陳毅元帥の子)がいるからである。
「安邦保険」を牛耳っているのは陳小魯と現在のCEOの呉小暉であり、呉小暉は鄧小平の孫娘、鄧卓苒の前夫である。卓苒は親族と協議して「安邦保険」関係の株をすべて手放したが、そうしたのは2ヵ月目にもならない2014年12月であった。このようなことから、中国では鄧小平の親族と「安邦保険」との関係が話題になっている。
この保険会社の大株主は「民生銀行」であり、この銀行も後述するように反腐敗運動の対象となっており、これらを含めた汚職の構造はかなり複雑なようだ。
「安邦保険」も「民生銀行」も私営企業であるが、共産党の組織があるらしく、共産党員の汚職とは無縁というわけにはいかないようである。
反腐敗運動の影響は社会生活にも及んでいる。昨年の大晦日、上海のバンド(陳毅広場)で群衆が押しかけ多数の死傷者が出る事故が起こったが、この時、所轄の警察署員は付近の高級レストランで宴会中であったので対応が遅れ、世間の厳しい批判にさらされた。身分を隠して取材していた記者が見破られ、殴打されたこともあった。すでに14人の警察官が職務停止などの処分を受けているが、上海市の規律検査委員会はこの事件を重視し、調査しようとしている。
最近の反腐敗運動のあおりを受けて高級レストランの収入が減少しており、五つ星の(最高級)レストランの中にも破産するところが出ている。
取り締まりが厳しくなったので、自殺が増えている。昨年11月、海軍の政治委員馬発祥が取り調べを受けることとなって投身自殺した。習近平は海軍のハイレベルでもそのような問題が起こっていることなど想像もしていなかったと言ったそうである。
多くの地方政府・単位では第18回党大会以降の「非正常死亡」の党員幹部の統計を作成するよう指示が出されており、そのなかには基本的事実関係のほか、死亡原因、自殺か他殺か、工場での事故、交通事故、医療事故、火災など死亡の態様などの説明も求められている。
最後に、次官クラス以上で次のような者が取り調べを受け、あるいは降格された(網羅的でない)と報道されている。
元雲南省書記 白恩培
海南省書記 蒋定之(江蘇省のナンバー2に降格)
元南京市書記 楊衛澤
軍総政治部副主任 贾廷安
元海軍副司令員 王守業
廣州市政協原副主席 潘勝燊
陽江市政治協商会議主席 偉麗坤
国家安全部副部長 馬建
中央弁公庁秘書局局长 霍克
中央対外宣伝弁公室五局副局長 高剣雲
民生銀行行長 毛暁峰(民生銀行は私営企業であるが、共産党の組織があり、毛はその書記であった。同銀行内には毛の他にも調査の対象になっているものが数名いる。)
反腐敗運動と「紅色家族」
反腐敗運動はますます激しくなっている感がある。周永康元政治局常務委員、徐才厚元中央軍事委員会副主席、令計画元中央弁公庁主任など大物については昨年中に処分が決定し一段落したが、習近平政権はその後も運動を緩めない。本HPでは、今年になってからすでに2回書いたが(それぞれ1月7日、24日)、それでも足りない。江沢民元国家主席へも運動の影響が及ぶか、まだ明確になっていないが、その側近には取り締まりの対象となる者が出ており、周永康もその一人である。江沢民の軍内の秘書であった賈廷安上將も1月23日、中央規律検査委員会によって連行された。同人は軍人であるので、軍の規律検査委員会が扱うべきであるという声が軍内で出ている。中央規律検査委員会と軍の規律検査委員会とのライバル関係については、1月24日の当HP記事を参照願いたい。
江沢民の子である江綿恒は、中国科学院上海分院長の職を解任された。定年が理由とされているが、中国では次官クラスは60歳、大臣クラスは65歳が定年であり、江綿恒は今年の4月で64歳になる。同人はどちらのクラスであれ、この時点で解任されるのは異常である。ただし、上海科学技術大学の学長だけは保持している。
李鵬元首相の子、李小鹏についてもうわさが絶えない。同人は電力畑出身であり、山西省長であったが、最近の人事で、「山西省人民政府の活動全般を指導する」こととなった。これは降格であると見られている。このことを報じたインターネットのサイトはすぐに閉鎖された。電力事業についてはかねてから改革の必要性が叫ばれていたが、進捗していない。なぜうまくいかないのか江沢民自身が問い詰めたこともあったが、明確な答えは得られなかったと言われている。電力関係部署の病巣は根が深そうである。
一方、習近平の反腐敗運動は、いわゆる「紅色家族(中国革命の功労者の家族)」や「紅二代(功労者の子)」には追及が甘いことを示唆する意見が出始めている。『紅旗文稿』2015年第二期の「2014年思想理論領域的九大熱點問題」は、反腐敗運動の深化にともない、この運動は「政治闘争である」という議論が出てきていることを指摘している。
「安邦保険」は約10年前に設立された新しい会社であるが、急成長し、すでに中国最大の保険会社となっている。保険業務自体はとくに優れているわけでないが、相次ぐ吸収合併で巨大化しており、ニューヨークの超有名なホテル「ウォルドーフ・アストリア」を買収して世間の耳目を集めた。このような急成長ができたのは、典型的な「紅二代」である陳小魯(中国革命の功労者である陳毅元帥の子)がいるからである。
「安邦保険」を牛耳っているのは陳小魯と現在のCEOの呉小暉であり、呉小暉は鄧小平の孫娘、鄧卓苒の前夫である。卓苒は親族と協議して「安邦保険」関係の株をすべて手放したが、そうしたのは2ヵ月目にもならない2014年12月であった。このようなことから、中国では鄧小平の親族と「安邦保険」との関係が話題になっている。
この保険会社の大株主は「民生銀行」であり、この銀行も後述するように反腐敗運動の対象となっており、これらを含めた汚職の構造はかなり複雑なようだ。
「安邦保険」も「民生銀行」も私営企業であるが、共産党の組織があるらしく、共産党員の汚職とは無縁というわけにはいかないようである。
反腐敗運動の影響は社会生活にも及んでいる。昨年の大晦日、上海のバンド(陳毅広場)で群衆が押しかけ多数の死傷者が出る事故が起こったが、この時、所轄の警察署員は付近の高級レストランで宴会中であったので対応が遅れ、世間の厳しい批判にさらされた。身分を隠して取材していた記者が見破られ、殴打されたこともあった。すでに14人の警察官が職務停止などの処分を受けているが、上海市の規律検査委員会はこの事件を重視し、調査しようとしている。
最近の反腐敗運動のあおりを受けて高級レストランの収入が減少しており、五つ星の(最高級)レストランの中にも破産するところが出ている。
取り締まりが厳しくなったので、自殺が増えている。昨年11月、海軍の政治委員馬発祥が取り調べを受けることとなって投身自殺した。習近平は海軍のハイレベルでもそのような問題が起こっていることなど想像もしていなかったと言ったそうである。
多くの地方政府・単位では第18回党大会以降の「非正常死亡」の党員幹部の統計を作成するよう指示が出されており、そのなかには基本的事実関係のほか、死亡原因、自殺か他殺か、工場での事故、交通事故、医療事故、火災など死亡の態様などの説明も求められている。
最後に、次官クラス以上で次のような者が取り調べを受け、あるいは降格された(網羅的でない)と報道されている。
元雲南省書記 白恩培
海南省書記 蒋定之(江蘇省のナンバー2に降格)
元南京市書記 楊衛澤
軍総政治部副主任 贾廷安
元海軍副司令員 王守業
廣州市政協原副主席 潘勝燊
陽江市政治協商会議主席 偉麗坤
国家安全部副部長 馬建
中央弁公庁秘書局局长 霍克
中央対外宣伝弁公室五局副局長 高剣雲
民生銀行行長 毛暁峰(民生銀行は私営企業であるが、共産党の組織があり、毛はその書記であった。同銀行内には毛の他にも調査の対象になっているものが数名いる。)
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