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2023.09.11

G20ニューデリー首脳会議と習近平主席の立場

 ニューデリーで開催されているG20首脳会議においてウクライナ侵略がどのように扱われるか、意見の対立が大きすぎて首脳宣言が出せなくなるのではないかと注目されていたが、モディ首相の手腕により首脳宣言が無事合意された。だが、昨年インドネシアのバリ島で採択された首脳宣言にあった、ウクライナ侵攻を「ロシアの侵略」とした表現や「ウクライナ領土からの完全かつ無条件の撤退を要求」との文言がなくなったので、今回は昨年より後退したと評された。
 インドのジャイシャンカル外相は9日午後の会見で今回の宣言で表現が変わった理由を問われ、「バリ(昨年のサミット開催地)はバリ。ニューデリーはニューデリーだ」と微妙な言い回しで対応した。一応突っぱねてはいたが、防戦に努めていたのは明らかであった。

 しかし、議長国インドの努力を評価する国も少なくなかった。ロシアのラブロフ外相は、首脳会議閉幕後の記者会見で、「全加盟国にとって無条件の成功だ」と高く評価した。ロシアにとってロシア非難は弱ければ弱いほど良いので、ラブロフ外相のコメントはなんら驚きでなかった。

 米国のサリバン大統領補佐官は、首脳宣言が「領土の保全や主権に反する領土の獲得のために武力を用いてはならない」「核兵器の使用や威嚇は許されない」といった原則に触れていると指摘しつつ、「(首脳宣言採択は)議長国のインドにとって重要で、画期的な出来事だ」「とてもよい仕事をしている」とも指摘したので誤解を招いた。サリバン氏としてはインドの長年にわたるロシアとの軍事面での協力がある一方、米国や日本との協力を深めつつあることに配慮した発言であったが、ウクライナ侵攻を強く批判する米国と侵攻の張本人であるロシアがともに首脳宣言を評価するという奇妙な形になった。だが、ウクライナ侵攻についての米ロ両国の立場が変わったわけではない。米ロがともに首脳宣言を評価したのは異なる解釈によることであり、深刻な問題でない。

 今回のG20首脳会議に中国の習近平主席は欠席した。習氏はこれまでいつも出席しており、G20を評価する発言を行ったこともあるし、「小さい会議」の影響力は限られているという趣旨の発言をしたこともあった。先般開かれたBRICS(中、ロ、インド、ブラジルおよび南ア)では参加国を6か国増加することが合意されたが、中国はその旗振りを務めたといわれている。習主席がG7に対抗意識を抱いているのは明らかである。

 G20はそのような姿勢を誇示する格好の機会である。それだけに習主席が今回の首脳会議に欠席したのは不可解といわざるをえなかった。今次会議の直前、中国は南シナ海、台湾、尖閣諸島など他国の領土を中国領とする地図(最新官製地図)を公表したので、関係各国は反発し、批判も行った。
 また、日本による処理水の海洋放出について、多数の国は中国の立場を支持しない、日本を支持するとの表明を行った。そのようなことからG20首脳会議に出るとその場で、あるいはその際開かれる2国間会議において中国が批判される懸念があったので習主席は欠席することにしたという見方もあるようだが、そんなことでひるむような中国でない。

 習主席がG20を欠席したのは、むしろ内政上の理由からではないかと思う。特に経済問題である。中国経済はコロナ禍以前から下降線をたどっており、2019年は 5.95%、22年は3・0%と、目標の「5・5%前後」に届かず、世界平均(3・4%)をも40年超ぶりに下回った。
 2022年12月、中国政府は「ゼロコロナ」政策を突然打ち切ったが、経済は思ったほど回復しなかった。勢いがないことを示すデータが次々に公表され、「予想外の息切れ」ともいわれた。そして不動産業界の混乱が表面化した。不動産業はGDPの約10%を占めており、その混乱は中国経済に大きな影響を及ぼす。日本が20数年前に経験したよりひどいバブル崩壊が起こるともいわれている。もっとも中国政府は強権的手法を使ってでも混乱を防ぐだろうから直ちに数字になって表れることはないかもしれないが、中国経済の矛盾は今後増大していくだろう。経済は李克強前首相以下が担当していたが、習主席は関与しなかったわけでない。とくに不動産業の救済立て直しが国家的課題となると、習氏としても関与を強めていく必要が出てくるだろう。

 それに7月末から8月初めにかけ北京市、天津市、河北省、福建省などで発生した集中豪雨と大洪水である。北京では過去140年間で最大の降水量であったという。習主席は7月末から水害対策の指示を出していたと抗弁したが、現地へ赴くことはなく、そのためネットで批判された。習近平氏が現地を視察したのは9月6~8日の黒竜江が初めてであったらしい。
習近平政権は批判に対して敏感である。詳細は我々には不明であるが、洪水対策と復興支援の不調が政権の足を引っ張った可能性がある。中国メディアの報道からもそのような問題がうかがわれた。

 おりしもコロナの蔓延はやはり武漢の研究所から始まったのだとする説が流れ始め、この問題に関連して習近平主席には誤算があったともいわれている。真偽のほどはわからないが、この問題も今後尾を引く危険がある。

 習氏は今回のG20首脳会議を欠席したので、バイデン大統領と習主席が会う機会があるのは11月にバンコクで開かれるAPEC首脳会議である。ただし、習主席は出席を決めているわけでない。

 また、米国は2026年のG20首脳会議を米国で開催したいとしているが、中国は反対している。APECは別の会議であるが、この問題についても話し合われるだろう。


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