中国
2023.08.28
BRICSの加盟国はこれまでブラジル、ロシア、インド、中国、南アであったが、アルゼンチン、エジプト、イラン、エチオピア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の6か国の加盟が認められ、BRICSは2024年1月1日から11か国体制となる。今回加盟が決まった6か国以外にも約40か国が公式に、あるいは非公式に加盟を希望しているという。
6か国の加盟後、BRICSは世界人口の46%、国内総生産(GDP)の28%を占めることとなる。たしかに大きなフォーラムとなるが、これらは各国の統計を合算した結果であり、世界における影響力を示すわけではない。
BRICSは国際機関でなく、その都度加盟国間の協議で首脳会議の開催地と開催時期が決定されるが、最近はG7主要国首脳会議のように順番の開催になっていたようだ。今年の南アからさかのぼると、中国、インド、ロシア、ブラジルであった。昨年までコロナ禍の影響でオンライン会議であったが、今年は4年ぶりに加盟国が一堂に会した。
問題は11か国の経済規模も政治体制も様々なことである。文化や宗教も大きく異なる。イランのライシ大統領は米国に対抗する姿勢を鮮明にする一方、ブラジルのルラ大統領は米国に対抗するものではないと強調したという。サウジのファイサル外相はBRICSの性格や構成など詳細が判明してから加盟の招待を受けるかどうか判断すると表明している。
ロシアによるウクライナ侵攻については、大多数の加盟国はロシア非難を控えているが、ブラジルは2022年3月3日の国連総会決議において、他のBRICS諸国が棄権するのと違って賛成に回った。
インドの動きは複雑である。ロシア非難は避け、国連総会でも決議には棄権し、ロシア寄りだとみられていた。しかし2022年9月16日、ウズベキスタンのサマルカンドで上海協力機構の首脳会議が開かれた際、インドのモディ首相はプーチン大統領と会談し、「今は戦争の時ではない」と述べ、ウクライナ侵攻について公に批判した。モディ首相の発言はそれまでのインドの姿勢とはかなり趣が異なっていたが、インドとロシアとの軍事関係は歴史的に深く、その後もインドはロシア批判になるのを控えている。
一方、インドと中国は安全保障面で利害が一致しておらず、インドは中国軍の艦艇がインド洋へ進出するのを警戒している。また、両国軍はカシミール問題をめぐって武力衝突を繰り返している。さらにインドは日米豪印によるQUAD(日米豪印戦略対話)の一員になっている。
このように加盟国の利益が一致しないことがあるが、それでもBRICSとして連携するのは、利害の違いを上回る利益があるとみているからであろう。それは自由や民主主義といった価値観を重視する米欧への対抗軸とも、また、米欧中心の国際秩序からの脱却ともいわれる。いずれもそれなりに正しい指摘であるが、中心の狙いはやはり米欧、特に米国との関係においてBRICS諸国の立場を強くすることにある。つまり、BRICS諸国はそれぞれ米国との関係を自国に有利に運ぶためにBRICSとしての連帯が有利に働くと考えているのである。BRICSが拡大するのは明らかだが、新しい国際秩序というより、BRICS加盟国の利益を優先させるための緩やかな連携が広がることとなったとみるべきではないか。
中でも際立っているのは中国の積極姿勢であり、加盟国拡大の旗を振ったのも中国であった。最終日の記者会見で習近平国家主席は「今回の拡大は歴史的だ」と強調し、また「BRICSは国際情勢を形成する重要な力となっている。新興市場・途上国の共通の利益にも合致する。互いに助け合う大家族だ」と胸を張る一方、主要7か国(G7)などの枠組みを「排他的な小グループ」と嘲笑した。
中国の動きについては2つの点が注目される。その1つは、BRICSは中国の戦略重視と実行力を象徴する場であったことであるが、米欧に対抗するという政治目標に向かって進むことができるか、現段階では何とも言えない感じである。
他の1つは、中国経済が過去30数年間と違って下降傾向に入り、一昔前の日本のようにバブルがはじける危険に直面していることである。中国が大ぶろしきを広げて世界を驚かせた「一帯一路」についても問題は増大しており、イタリアなどは脱退する意向である。中国内の経済はさらに危険が大きいかもしれない。
前述した上海協力機構(SCO)は冷戦終了後、特に中央アジアの安全保障の立て直しを図って2001年に中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンおよびウズベキスタンの6カ国によって設立された。BRICS4か国が首脳会議を開催したのは2009年であり、ざっと比較してSCOが数年早かったが、最近は非国連・非欧米の地域協力として併存してきた。しかし、ウクライナ侵攻が始まるとSCO内の協力にはほころびが生じ、プーチン大統領の中央アジア諸国に対する姿勢も顕著に変わってきたといわれる。
BRICSは前述したように、初めから加盟国間の利害の不一致を内包しており、今後のBRICSがどうなるか。予定通りに拡大を続けるか、共通通貨の議論は進むかなど見通すのは困難であるが、首脳会議以外にもいくつもの会議があり、BRICSは「実体化」してきた面もある。BRICSには明るい将来がないと決めつけるのは危険であり、長い目で、幅広く、柔軟に見ていくことが必要であろう。
BRICS首脳会議
南アフリカ・ヨハネスブルグで開催されたBRICS首脳会議が8月24日、閉幕した。ウクライナ侵攻をめぐって国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ているロシアのプーチン大統領はオンライン参加した。BRICSの加盟国はこれまでブラジル、ロシア、インド、中国、南アであったが、アルゼンチン、エジプト、イラン、エチオピア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の6か国の加盟が認められ、BRICSは2024年1月1日から11か国体制となる。今回加盟が決まった6か国以外にも約40か国が公式に、あるいは非公式に加盟を希望しているという。
6か国の加盟後、BRICSは世界人口の46%、国内総生産(GDP)の28%を占めることとなる。たしかに大きなフォーラムとなるが、これらは各国の統計を合算した結果であり、世界における影響力を示すわけではない。
BRICSは国際機関でなく、その都度加盟国間の協議で首脳会議の開催地と開催時期が決定されるが、最近はG7主要国首脳会議のように順番の開催になっていたようだ。今年の南アからさかのぼると、中国、インド、ロシア、ブラジルであった。昨年までコロナ禍の影響でオンライン会議であったが、今年は4年ぶりに加盟国が一堂に会した。
問題は11か国の経済規模も政治体制も様々なことである。文化や宗教も大きく異なる。イランのライシ大統領は米国に対抗する姿勢を鮮明にする一方、ブラジルのルラ大統領は米国に対抗するものではないと強調したという。サウジのファイサル外相はBRICSの性格や構成など詳細が判明してから加盟の招待を受けるかどうか判断すると表明している。
ロシアによるウクライナ侵攻については、大多数の加盟国はロシア非難を控えているが、ブラジルは2022年3月3日の国連総会決議において、他のBRICS諸国が棄権するのと違って賛成に回った。
インドの動きは複雑である。ロシア非難は避け、国連総会でも決議には棄権し、ロシア寄りだとみられていた。しかし2022年9月16日、ウズベキスタンのサマルカンドで上海協力機構の首脳会議が開かれた際、インドのモディ首相はプーチン大統領と会談し、「今は戦争の時ではない」と述べ、ウクライナ侵攻について公に批判した。モディ首相の発言はそれまでのインドの姿勢とはかなり趣が異なっていたが、インドとロシアとの軍事関係は歴史的に深く、その後もインドはロシア批判になるのを控えている。
一方、インドと中国は安全保障面で利害が一致しておらず、インドは中国軍の艦艇がインド洋へ進出するのを警戒している。また、両国軍はカシミール問題をめぐって武力衝突を繰り返している。さらにインドは日米豪印によるQUAD(日米豪印戦略対話)の一員になっている。
このように加盟国の利益が一致しないことがあるが、それでもBRICSとして連携するのは、利害の違いを上回る利益があるとみているからであろう。それは自由や民主主義といった価値観を重視する米欧への対抗軸とも、また、米欧中心の国際秩序からの脱却ともいわれる。いずれもそれなりに正しい指摘であるが、中心の狙いはやはり米欧、特に米国との関係においてBRICS諸国の立場を強くすることにある。つまり、BRICS諸国はそれぞれ米国との関係を自国に有利に運ぶためにBRICSとしての連帯が有利に働くと考えているのである。BRICSが拡大するのは明らかだが、新しい国際秩序というより、BRICS加盟国の利益を優先させるための緩やかな連携が広がることとなったとみるべきではないか。
中でも際立っているのは中国の積極姿勢であり、加盟国拡大の旗を振ったのも中国であった。最終日の記者会見で習近平国家主席は「今回の拡大は歴史的だ」と強調し、また「BRICSは国際情勢を形成する重要な力となっている。新興市場・途上国の共通の利益にも合致する。互いに助け合う大家族だ」と胸を張る一方、主要7か国(G7)などの枠組みを「排他的な小グループ」と嘲笑した。
中国の動きについては2つの点が注目される。その1つは、BRICSは中国の戦略重視と実行力を象徴する場であったことであるが、米欧に対抗するという政治目標に向かって進むことができるか、現段階では何とも言えない感じである。
他の1つは、中国経済が過去30数年間と違って下降傾向に入り、一昔前の日本のようにバブルがはじける危険に直面していることである。中国が大ぶろしきを広げて世界を驚かせた「一帯一路」についても問題は増大しており、イタリアなどは脱退する意向である。中国内の経済はさらに危険が大きいかもしれない。
前述した上海協力機構(SCO)は冷戦終了後、特に中央アジアの安全保障の立て直しを図って2001年に中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンおよびウズベキスタンの6カ国によって設立された。BRICS4か国が首脳会議を開催したのは2009年であり、ざっと比較してSCOが数年早かったが、最近は非国連・非欧米の地域協力として併存してきた。しかし、ウクライナ侵攻が始まるとSCO内の協力にはほころびが生じ、プーチン大統領の中央アジア諸国に対する姿勢も顕著に変わってきたといわれる。
BRICSは前述したように、初めから加盟国間の利害の不一致を内包しており、今後のBRICSがどうなるか。予定通りに拡大を続けるか、共通通貨の議論は進むかなど見通すのは困難であるが、首脳会議以外にもいくつもの会議があり、BRICSは「実体化」してきた面もある。BRICSには明るい将来がないと決めつけるのは危険であり、長い目で、幅広く、柔軟に見ていくことが必要であろう。
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