中国
2023.04.19
ロシア側の歓待ぶりは異例であった。プーチン大統領は李国防相がモスクワに到着したその日にクレムリンで会談した。ショイグ・ロシア国防相が同席した。しかもプーチン大統領にとって中国の国防相は2段階くらい格下である。プーチン大統領は異常なほど気を使っていた。
プーチン大統領は李国防相だけを歓待したのではない。さる2月には王毅外務委員が訪ロした際も同様に対応・歓待した。
3月20~22日には習近平国家主席がロシアを訪問した。この時も、中国がロシアに武器などを供与するのではないかと注目されたが、その合意はなかったらしい。中ロ両国はウクライナに一方的に対話を迫ったにとどまった。
それから1か月もたたないうちに李国防相がロシアを訪問したのである。王毅国務委員、習近平主席、それに今回の李尚福国防相と、中国外交のトップスリーが相次いで訪ロしたのであり、中国側の行動も異例であった。
この事実をどう読むべきか。中国がロシアに武器等供与を決定したからでない。事実は逆であって、中国は武器・弾薬は供与しないという立場を維持しているからこそ、ロシアに気を使っているのではないか。ロシアとの軍事協力はこれからも重視し、継続していく。合同軍事演習も行う。これらであればウクライナを支援する各国を過度に刺激しないで済む。両国はクレムリンでの会談で話し合ったであろう。軍事技術についての協力も進めていくことにしたのではないか。
中国の立場は2月24日に公表された「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」であり、習近平主席の訪ロの際も変わっておらず、また李国防相の訪ロにおいても変わっていなかったことが読み取れる。その要旨を念のため再掲しておこう。
(1)各国の主権の尊重。国連憲章の趣旨と原則を含む、広く認められた国際法は厳格に遵守されるべきであり、各国の主権、独立、及び領土的一体性はいずれも適切に保障されるべきだ。
(2)冷戦思考の放棄。一国の安全が他国の安全を損なうことを代償とすることがあってはならず、地域の安全が軍事ブロックの強化、さらには拡張によって保障されることはない。各国の安全保障上の理にかなった利益と懸念は、いずれも重視され、適切に解決されるべきだ。
(3)停戦。各国は理性と自制を保ち、火に油を注がず、対立を激化させず、ウクライナ危機の一層の悪化、さらには制御不能化を回避し、ロシアとウクライナが向き合って進み、早急に直接対話を再開し、情勢の緩和を一歩一歩推し進め、最終的に全面的な停戦を達成することを支持するべきだ。
(4)和平交渉の開始。対話と交渉はウクライナ危機を解決する唯一の実行可能な道だ。
(5)人道的危機の解消。人道的危機の緩和に資する全ての措置は、いずれも奨励され、支持されるべきだ。
(6)民間人や捕虜の保護。紛争当事国は国際人道法を厳格に遵守し、民間人及び民生用施設への攻撃を避け、女性や子どもなど紛争の被害者を保護し、捕虜の基本的権利を尊重するべきだ。
(7)原子力発電所の安全確保。原子力発電所など平和的原子力施設への武力攻撃に反対する。
(8)戦略的リスクの低減。核兵器の使用及び使用の威嚇に反対するべきだ。
(9)食糧の外国への輸送の保障。各国はロシア、トルコ、ウクライナ、国連の署名した、黒海を通じた穀物輸出に関する合意を均衡ある、全面的かつ有効な形で履行し、国連がこのために重要な役割を果たすことを支持するべきだ。
(10)一方的制裁の停止。国連安保理の承認を経ていないいかなる一方的制裁にも反対する。
(11)産業チェーンとサプライチェーンの安定確保。各国は既存の世界経済体制をしっかりと維持し、世界経済の政治化、道具化、武器化に反対するべきだ。
(12)戦後復興の推進。国際社会は紛争地域の戦後復興への支援措置を講じるべきだ。中国はこれに助力し、建設的役割を果たすことを望んでいる。
「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」は中国の隠れ蓑として使われるかもしれないが、ロシアとの駆け引きなどにおいても役立つであろう。
一方、ロシアとして武器・弾薬の供与を中国に求めているならば、中国側にロシアに来させたのは賢明でなかった。もっとも中露間でどのようなやり取りがあったか我々には分からない。ロシア側から「中国へ行く、受け入れてほしい」と要請したが、中国はことわり、「こちらか行く」として相次ぐ訪ロになったのかもしれない。中国としてはロシアが100%満足する回答を与えることはできないからである。
なお、米国は中国製の武器・弾薬が一部すでにロシアにわたっており、今後もさらに供与される可能性があると認識していることが最近の情報漏洩の中で伝えられている。だが、我々が承知している限り、米国の見解も明確でないところがあり、中国は大規模な武器・弾薬の供与を決断するに至っていないと考えているのではないか。
以上の解釈には推測が混じるが、今後もこれまでの経緯を踏まえつつ中ロ関係、とくに武器・弾薬の供与問題を見ていく必要がある。
中国国防相のロシア訪問
中国の李尚福国務委員兼国防相は4月16日から19日までロシアを訪問した。ロシア側との間でどのような会談が行われ、また合意されたか。特に、中国はロシアに対し武器・弾薬の供与に合意したか。信頼できる情報は乏しいが、注目すべき点が二、三ある。ロシア側の歓待ぶりは異例であった。プーチン大統領は李国防相がモスクワに到着したその日にクレムリンで会談した。ショイグ・ロシア国防相が同席した。しかもプーチン大統領にとって中国の国防相は2段階くらい格下である。プーチン大統領は異常なほど気を使っていた。
プーチン大統領は李国防相だけを歓待したのではない。さる2月には王毅外務委員が訪ロした際も同様に対応・歓待した。
3月20~22日には習近平国家主席がロシアを訪問した。この時も、中国がロシアに武器などを供与するのではないかと注目されたが、その合意はなかったらしい。中ロ両国はウクライナに一方的に対話を迫ったにとどまった。
それから1か月もたたないうちに李国防相がロシアを訪問したのである。王毅国務委員、習近平主席、それに今回の李尚福国防相と、中国外交のトップスリーが相次いで訪ロしたのであり、中国側の行動も異例であった。
この事実をどう読むべきか。中国がロシアに武器等供与を決定したからでない。事実は逆であって、中国は武器・弾薬は供与しないという立場を維持しているからこそ、ロシアに気を使っているのではないか。ロシアとの軍事協力はこれからも重視し、継続していく。合同軍事演習も行う。これらであればウクライナを支援する各国を過度に刺激しないで済む。両国はクレムリンでの会談で話し合ったであろう。軍事技術についての協力も進めていくことにしたのではないか。
中国の立場は2月24日に公表された「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」であり、習近平主席の訪ロの際も変わっておらず、また李国防相の訪ロにおいても変わっていなかったことが読み取れる。その要旨を念のため再掲しておこう。
(1)各国の主権の尊重。国連憲章の趣旨と原則を含む、広く認められた国際法は厳格に遵守されるべきであり、各国の主権、独立、及び領土的一体性はいずれも適切に保障されるべきだ。
(2)冷戦思考の放棄。一国の安全が他国の安全を損なうことを代償とすることがあってはならず、地域の安全が軍事ブロックの強化、さらには拡張によって保障されることはない。各国の安全保障上の理にかなった利益と懸念は、いずれも重視され、適切に解決されるべきだ。
(3)停戦。各国は理性と自制を保ち、火に油を注がず、対立を激化させず、ウクライナ危機の一層の悪化、さらには制御不能化を回避し、ロシアとウクライナが向き合って進み、早急に直接対話を再開し、情勢の緩和を一歩一歩推し進め、最終的に全面的な停戦を達成することを支持するべきだ。
(4)和平交渉の開始。対話と交渉はウクライナ危機を解決する唯一の実行可能な道だ。
(5)人道的危機の解消。人道的危機の緩和に資する全ての措置は、いずれも奨励され、支持されるべきだ。
(6)民間人や捕虜の保護。紛争当事国は国際人道法を厳格に遵守し、民間人及び民生用施設への攻撃を避け、女性や子どもなど紛争の被害者を保護し、捕虜の基本的権利を尊重するべきだ。
(7)原子力発電所の安全確保。原子力発電所など平和的原子力施設への武力攻撃に反対する。
(8)戦略的リスクの低減。核兵器の使用及び使用の威嚇に反対するべきだ。
(9)食糧の外国への輸送の保障。各国はロシア、トルコ、ウクライナ、国連の署名した、黒海を通じた穀物輸出に関する合意を均衡ある、全面的かつ有効な形で履行し、国連がこのために重要な役割を果たすことを支持するべきだ。
(10)一方的制裁の停止。国連安保理の承認を経ていないいかなる一方的制裁にも反対する。
(11)産業チェーンとサプライチェーンの安定確保。各国は既存の世界経済体制をしっかりと維持し、世界経済の政治化、道具化、武器化に反対するべきだ。
(12)戦後復興の推進。国際社会は紛争地域の戦後復興への支援措置を講じるべきだ。中国はこれに助力し、建設的役割を果たすことを望んでいる。
「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」は中国の隠れ蓑として使われるかもしれないが、ロシアとの駆け引きなどにおいても役立つであろう。
一方、ロシアとして武器・弾薬の供与を中国に求めているならば、中国側にロシアに来させたのは賢明でなかった。もっとも中露間でどのようなやり取りがあったか我々には分からない。ロシア側から「中国へ行く、受け入れてほしい」と要請したが、中国はことわり、「こちらか行く」として相次ぐ訪ロになったのかもしれない。中国としてはロシアが100%満足する回答を与えることはできないからである。
なお、米国は中国製の武器・弾薬が一部すでにロシアにわたっており、今後もさらに供与される可能性があると認識していることが最近の情報漏洩の中で伝えられている。だが、我々が承知している限り、米国の見解も明確でないところがあり、中国は大規模な武器・弾薬の供与を決断するに至っていないと考えているのではないか。
以上の解釈には推測が混じるが、今後もこれまでの経緯を踏まえつつ中ロ関係、とくに武器・弾薬の供与問題を見ていく必要がある。
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