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2019.07.10

中国軍による南シナ海でのミサイル発射実験

 中国海軍は7月初め、南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島周辺の人口施設からミサイルを発射した。米国防総省が提供した情報に基づき、3日の米メディアが報道した。中国政府はそのことを発表していないが、6月29日から7月3日にかけ、同諸島の北側海域で軍事訓練を行うとし、付近の船舶航行を禁じる通知を出していたので発射実験はその間に行ったとみられる。

 中国外務省の耿爽副報道局長は3日の会見で、実験へ直接の言及はしなかったが、「南シナ海に空母を派遣しているのは米国だ。誰が南シナ海の軍事化を進めて、波風を立てているのかは明らかだ」と述べ、米国を批判したという。

 ミサイルの発射実験については、2つの問題がある。

 1つは、発射実験は軍事目的であることだ。中国は南シナ海で陸地の造成や飛行場などの建設を進めた際、軍事目的でないと繰り返し説明していたが、そのような説明は真実でなかったことを今回のミサイル発射実験が証明したのである。

 もう1つの問題は、中国が政治的な意図から発射実験を行った可能性である。

 この点では、さらに2つの問題があり、第1は米国による台湾への武器供与との関連である。米政府は7月8日、台湾にM1A2エイブラムス戦車108両など22億ドル(約2400億円)相当の武器を売却することを承認し、米議会に通知した。
 台湾がかねてから強く欲しがっていた新型のF16V戦闘機についても、トランプ大統領は、非公式ではあるが、すでに売却を承認したという。これが事実ならば、戦車とは比較にならないほど大きな軍事戦略的な意義がある決定が行われたことになる。

 このような米国の動きに中国は強く反発した。中国外務省の耿爽副報道局長は9日の定例会見で「強烈な不満と断固たる反対を米側に伝えた。「主権と領土を守り抜く(中国の)決意を過小評価すべきではない」と発言している。

 第2は、香港で「犯罪人引渡条例案」に関し6月9日以降続いている激しいデモとの関連である。中国は不満であり、必要になれば強い態度で鎮圧することも辞さないことを武力をちらつかせながら香港に示そうとしたのではないか。

 台湾への武器供与も香港での激しいデモもミサイル発射実験とは別問題であるが、関連があるのではないかという仮説を立てることは必要だと思う。中国は1990年代の中葉、台湾の総統選挙の直前、台湾近海にミサイルを発射したことがあった。そのときも総統選とミサイル発射は関連していたのではないかと推測された。それ以来20年以上が経過したが、その推測が誤りであったこと示すものはない。中国が選挙結果を左右留守為発射実験を行ったことは今や常識になっている。今回も同様のケースではないかと考えるのは無理のないことであると思う。

 中国は大国であり、その軍事行動のもたらす影響力は大きい。中国は余計なお世話だと反発するかもしれないが、その行動には慎重であってほしい。
2019.07.05

安倍プーチン大阪会談

 2019年6月29日、G20大阪サミット終了後に行われた安倍首相とプーチン大統領の会談について、今後、参照することもあり得るので主要点を記しておく。

会談後の記者会見におけるプーチン大統領の北方領土問題についての発言。
「もちろん、安倍首相と平和条約問題に関する話をしました。外相同士の、簡単ではなく、センシティブな問題に関する対話も軌道に乗せたことを確認しました。その対話は続いていきますし、これからは露日関係を質的に新しいレベルにするために地道な作業を進めます。(以下はその作業の説明であり、省略)」

安倍首相の発言
「私とプーチン大統領は2018年11月にシンガポールで共に表明した1956年共同宣言を基礎として、平和条約交渉を加速させるとの決意の下で精力的に平和条約交渉が行われていることを歓迎し、引き続き交渉を進めていくことで一致しました。
(中略)本日は私とプーチン大統領との間で、こうした交渉の経過や今後の展望を含め、率直に議論を行いました。戦後70年以上残された困難な問題について、立場の隔たりを克服するのは簡単ではありません。しかし乗り越えるべき課題の輪郭は明確になってきています。私とプーチン大統領は、日露関係強化の戦略的重要性と平和条約締結が、それを大きく後押しすることを誰よりも深く理解しています。そのために着実に歩みを進めていかなければなりません。それを可能にするのは、私とプーチン大統領の強い決意です。そのことを本日、プーチン大統領との間で確認しました。日露両国は、私とプーチン大統領との間で引き続き着実に前進していくことができると信じています。ありがとうございました。スパシーバ。」

 両者の発言から何を読み取るべきか。両首脳ともに、今次会談で平和条約交渉が進んだとは一言も言わなかった。安倍首相は「引き続き交渉を進めていくことで一致した」とか、「乗り越えるべき課題の輪郭は明確になってきている」とかは述べたが、これらは体裁を繕った発言に過ぎない。進展があればそのことを間違いなく説明しただろう。進展があったにもかかわらずそう言わないのはありえないことである。今回の会談で平和条約交渉が進まなかったのは明らかだ。

 関連する諸事実にも注意が必要である。

 プーチン氏は、日本に北方領土を引き渡す考えはないことを、今次首脳会談のわずか1週間前にロシア国内で発言していた。
 6月20日にはロシア軍の爆撃機が日本の領空を侵犯した。

 にもかかわらず、安倍氏は国会や記者会見などで「北方四島」「日本固有の領土」といった、ロシアが嫌がる表現を使わないようにしてきた。

 しかも、ロシア軍の爆撃機による日本領空の侵犯については、いつも行っている抗議をしなかった。プーチン氏との会談を間近に控えていたためではなかったか。

 これら関連の諸状況をも併せ考えると、日露両国の平和条約交渉(北方領土問題を含む)は、常識的にはあり得ないひどい状況にあると考えざるを得ない。

 日本政府には、先人の努力を無視せず、また、功を焦ることなく堂々と交渉し、北方領土問題を解決していただきたい。

2019.07.03

韓国向け輸出の規制

 日本政府は7月1日、韓国への輸出を規制する措置を発表した。具体的な内容は、韓国の主要産業である半導体製造などに使われる化学製品3品目の輸出を難しくすることと、安全保障上問題がない国として輸出手続きを簡略化する優遇措置を廃止することである。

 規制される3品目とは、スマートフォンやテレビのディスプレーに使われるフッ化ポリイミド、半導体基板に塗る感光材のレジスト、半導体洗浄に使うフッ化水素であり、いずれも日本企業が世界的に高い生産シェアを持っている。輸出しないことにしたのではなく、企業ごとに一定期間を定めて包括的に許可を与えるというこれまでのやり方を変え、輸出1件ごとに審査や許可を必要にすることであるが、韓国企業にとっては大きなダメージとなろう。

 輸出手続きの簡略化については、日本政府は従来(2004年以来)安全保障上問題がない国は「ホワイト国」として、貿易管理上優遇措置を認めていたが、今回、韓国を「ホワイト国」のリストから外すこととした。とくに問題になるのは、本来民生用だが軍事転用が可能な技術や製品、いわゆる「汎用品」であり、今後は、3品目以外でも韓国に輸出する際には、原則個別に許可が必要になる。そうなると輸出に強いブレーキがかかることは必至である。
 
 日本政府は、今回の規制措置は元徴用工問題への対抗措置ではないと否定する一方で、韓国政府が仲裁など日韓請求権協定で決められている解決に応じようとしないことを問題視していることも述べている。政府はこのようによく分からない説明をしているが、今回の規制は韓国政府が責任を果たさないことへの対抗措置であることは誰の目にも明らかである。もし韓国政府の側に問題がないのであれば、今回の規制措置はまったく理由が立たない。

 今回の規制措置についてはWTOに提訴され、負ける危険が大きいと指摘されている。それも大事なことだが、要するに、韓国に対してこのような規制をするのが適切かが問題である。

 第1に、日本側の規制措置は、徴用工問題に関する韓国政府の対応(のまずさ)と比し、バランスが取れているか。バランスの取れない措置を取ってはならないことは国際関係の常識である。

 第2に、韓国政府は徴用工問題などについてこれまで理不尽な対応をして来たが、今回の規制措置により、日本政府はもっと問題のあることをすることになる。つまり、立場は逆転する。

 第3に、今回の措置に踏み切ったことについては、日本側に「韓国政府を懲らしめてやろう」という気持ちがあるのではないか。この観察が正しければ、日本政府は国際的に支持されないどころか、強い反発を受けるだろう。

 第4に、今回の措置について外交当局はどのような役割を果たしたのか疑問がわいてくる。この疑問はとりもなおさず、日本政府に対する疑問である。日本政府には国際感覚を軽視しないよう求めたい。

 第5に、今回の措置はできるだけ早期に撤廃すべきである。少しのきっかけでもよい。

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