平和外交研究所

2014年5月

2014.05.31

シャングリラ対話での安倍首相演説

シンガポールで5月31日~6月1日開催されたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)において、安倍首相は名指しこそしなかったが、誰が聞いても中国を批判しているとわかる内容の、「法の支配」を何回も強調する演説を行った。主要点は次の通りであった。
海洋における法の支配のために、国家は法に基づいて行動すべきこと、力や威圧を加えてはならないこと、および紛争は平和的に解決しなければならないことの3つの原則を守るべきである。フィリピン、べトナムはこれらの原則を守っており、日本は強く支持する。
数年前温家宝首相との間で海や空での不測の事態を避けるため連絡しあうメカニズムを作ることに合意したが、その後実行されていない、話し合ってこの合意を実行しようではないか。
軍備に関して情報を開示し、透明性を高めることが重要である。軍備拡張はこの地域の安定を妨げる。
今や1か国だけでは平和は守れない。多数の国が協力することが必要であり、日本はこれまでの憲法の解釈を見直している。
日本では新しい日本人を育成するよう努めている。

これに対し、中国の代表の一人から、歴史に向き合う姿勢が重要であり、安倍首相は靖国神社に参拝した、中国や韓国では多数の人が殺された、これをどのように考えるか、という質問があった。
これに対する安倍首相の答えは、「国のために戦った人を祈るため手を合わせた。同時に、20世紀には多くの人が戦争で苦しんだ。日本は2度としないという不戦の誓いをした。先の大戦での痛切な反省に立つとともに、自由と民主主義を尊重する日本を目指すこととした。これからも日本は平和国家を目指していく」であった。
この回答の直後拍手が起こり、日本の一部新聞は、安倍首相の靖国神社参拝についての賛同であったように報道しているが、決して靖国神社に参拝することに対する賛同ではなかった。

また、尖閣諸島に関する争いを解決するために、仲裁など第三者的機関による解決を求める考えはないかという質問に対し、安倍首相は「日本は国際司法裁判所の強制管轄を受諾しているが、中国は受諾していない。ICJに訴えるのは要求している中国であろう。日本は実効支配しているので、日本から提訴する考えはない」と答えた。これは、玄葉外相がニューヨーク・タイムズに寄稿したものと全く同じ内容である。安倍首相が外務省の事務方の振り付けに忠実に説明したのには驚いた。
しかし、ICJでの解決についてそこまで考えているならば、このように一般人にはわかりにくい説明でなく、日本はICJでの解決を望んでいることを明言した方がよかった。外務省の用意している説明は、法的には正確かもしれないが、日本のICJでの解決について希望しているということは伝わらない。このような説明でとどまっていると、日本はかたくなだという印象を払しょくできないだろう。

2014.05.29

日米中ロ関係

ウクライナ情勢をめぐってロシアと米欧諸国の間に摩擦が生じている。ロシアはソチで予定していたG8の開催ができなくなり、一時的かもしれないが、G8から締め出される形になった。米欧は機会あるごとにロシアを非難し、また、制裁措置を加え、強化している。
ロシアはそもそもウクライナ内の政変に問題があること、ロシア人の保護や意思尊重の必要性、クリミアの歴史などを主張したが、客観的に見てロシアの分が悪いことは覆いえない。このような中にあってロシアとしては国際場裡においてロシアと同様保守的な立場である中国の支持が欲しかったであろうが、ウクライナ問題について中国はロシアの主張に賛同できない面があり、安保理での決議案採択においてもロシアに賛成せず、棄権が精いっぱいであった。
5月20-21日、上海で開催されたアジア信頼醸成会議は中ロ両国が関係を再び緊密化する機会となった。この会議は1992年国連総会で設立が決定され、4年に1回首脳会議が開催される。今年は中国が主催する番であり、プーチン大統領は同地で習近平主席と首脳会談を行なった。
アジアの信頼醸成が目的ならば、日本も米国も当然加盟しているはずであるが、経緯的に中央アジア諸国のイニシャチブでこの会議が始められたこともあり(常設の事務局はカザフスタンのアラムトに置かれている)、両国ともにオブザーバーの地位にとどまっている。一歩距離を置いて見ているという感じである。一方、ロシアと中国は26の加盟国の中でもっとも影響力が大きい。
この会議は、ロシアと中国にとってウクライナ問題のような立場の違いはなく、両国が信頼醸成という共通の課題に向かって協力していく場である。また、中国は各国が中国に参集して国際会議を開くことをこよなく重視しており、その意味でも中国にとって信頼醸成会議は重要な機会であった。
習近平主席は、ウクライナ問題については全面的にロシアに賛成するわけにいかないが、中国がロシアとの関係を重視していることに変わりないことをプーチン大統領との会談で示したであろう。しかも、中ロ両国はこの会議開催と同時に合同の軍事演習を始め、習近平主席とプーチン大統領がそのオープニングに臨席した。演習場所は上海沖であり、これは尖閣諸島の西北にあたる。当然中ロ両国の合同演習は日本との関係で刺激要因になりうる。約1ヵ月前、オバマ大統領は日本を訪問し、尖閣諸島に日米安保条約が適用されることを明言した。中国が激しく反発したことは記憶に新しい。中国は、日本や米国に対して、この合同軍事演習によりロシアが中国の味方についていると気勢をあげたのであり、オバマ大統領の訪日にしっぺ返しをしようとしたのではないか。
合同軍事演習は中ロ両国が毎年行なっているが、ロシアとしては、アジア信頼醸成会議と同時期に、しかも尖閣諸島からさほど遠くない海域で挙行することには慎重な考えがあったはずである。ロシアはウクライナ問題では米国や日本の姿勢を不快視しながらも、さらなる摩擦要因を作り出すことがロシアの利益になるか自信を持てなかったと思われる。中国のメディアからそのようなロシアのためらいが伝わってきていた。それでもプーチン大統領は結局このおぜん立てに合意した。中国との関係を再び緊密化しておくことは今後の米欧諸国との関係で重要なことと判断を優先させたのであろう。
そしてロシアは現ナマも取った。ロシアのヨーロッパへの天然ガス輸出はウクライナ問題のため減少気味になっており、米国のオイル・シェール開発を考えれば今後もこのような傾向を逆転させるのは困難であろう。このような情勢を背景に、プーチン大統領は習近平主席と中国への天然ガス輸出に合意するという成果を上げたのである。ロシアの国営天然ガス大手ガスプロムはペトロチャイナ(中国石油天然ガス)に、2018年から30年間にわたり毎年380億立方メートルの天然ガスを供給することになる。これは2018年の中国の需要見通しの約12%にあたり、今回の契約の意義は大きい。

2014.05.27

タイのデモと軍政

タイの情勢が混迷を深めている。昨年11月に大規模な反政府デモが起こって以来、インラック首相支持派との激しい対立が続いていたなかで、5月7日、憲法裁判所はインラック首相に対し人事権の乱用があったとする判決を下し、同首相は失職した。しかし、両派の対立は解消されず、こう着状態が続いたので軍は20日、戒厳令を発出し、さらに22日には全権を掌握して軍政を敷き、プラユット陸軍司令官が率いる国家平和秩序評議会を成立させた。そして、デモを禁止し、2百数十名のデモ指導者に対して出頭を命じた。インラック首相も命令に応じて出頭し、今は自宅に軟禁状態にあるそうである。
これまでタイでは、タクシン元首相派と反対派の対立から激しいデモが何回も起こり、また、軍が政治を掌握することもあった。今回も新しい事態ではないが、21世紀の今日、東南アジアの雄であるタイにおいて、軍は、一時的とはいえ、クーデタという問答無用の手段により政治の大権を掌握することについてどのような正統性を主張できるのか、不思議である。民主政治が成熟していないからだと簡単に片付けたくない。対立し、政治を動かなくしていた両派ともに主張と行動に問題があったのだろうが、それにしても軍が両派より優れた判断をできる保証はないのではないか。
このことはさておいて、今回のクーデタによりデモは禁止されたが、小規模デモはその後も多数継続している。それは自然発生的に起こるので軍としても取り締まりが困難なそうである。デモの呼びかけはツィッターなどで行なわれ、通りすがりを装い突如集まりデモになる。このような行動は「フラッシュモブ」と呼ばれるそうである。軍の取り締まりの強化、封鎖状況なども瞬時に広く伝えられている。参加した若者のなかには「クーデタが終わるまでこのようなデモを続ける」と言う者もあるそうだ。
軍はテレビなどで、「全国民に抗議のための集会を行わないよう要請する。民主的なプロセスにおける一般的な状況ではないからだ」などと訴えているが、手を焼いている様子が伝わってくる。25日にはバンコク中心部のショッピングモールで少人数がデモを始め、軍と長く激しいにらみ合いを続け、群衆は数百人に拡大した。
デモは首都バンコクのみならず、チェンマイや北東部のコンケンでも起きている。
軍は今回のクーデタについて国王の裁可を得たとして正統性を主張しているが、このような民衆による軍政の否定は健全なものだと思う。軍の対応は保守的である。クーデタから3日が過ぎたが、国家平和秩序評議会は公式ウェブサイトも立ち上げていない。
タクシン派と反タクシン派の対立は都市と農村の利害関係の違いに根差すもので、その解決は簡単でないのだろうが、軍政より、若者の感覚で新しい可能性が生まれることを期待したい。

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