オピニオン
2018.11.08
第三国もイランと原油取引をすれば制裁対象となるが、日本、中国、韓国、インド、トルコ、イタリア、ギリシャ、台湾だけは180日間に限って適用除外とされた。この期間が経過すれば例外でなくなり制裁の対象になる。
イラン核合意の当事国(P5+1)で、制裁の発動に反対している英仏独は除外されなかった。
15年前、米国がイラク戦争に踏み切った時と状況が似てきた。その時、英国は米国とともにイラク攻撃に参加したので今回とは違っていたが、独仏は反対した。
今回英も反対したのは、イラン合意の当事国であり、合意を尊重すべきであるという考えだったからだろう。
査察も似ているところがある。イラクに対する攻撃は、「特別査察」が行われている途中で、まだ結論が出ていないのにはじめられた。
イランについても「通常査察」が行われている途中であり、今まで問題はなかったが制裁が再発動された。
どちらの場合においても、米国は国際的な査察にかまわず自国の主張を押し通したのだ。
イランに対する査察をもう少し詳しく説明しておこう。
イラン核合意に基づいて査察を行っているのは国際原子力機関(IAEA)である。その9月の理事会でイランに対する査察状況について報告が行われ、天野事務局長は、”Evaluations regarding the absence of undeclared nuclear material and activities for Iran remain ongoing. The Agency continues to evaluate Iran’s declarations under the Additional Protocol, and has conducted complementary accesses under the Additional Protocol to all the sites and locations in Iran which it needed to visit.”との声明を行った。
この声明は断定的ではなかったが、一般には、イランによる違反行為はないとの趣旨であったと受け止められた。自然な解釈だったと思う。
実際の交渉状況は承知していないが、米国はIAEAがイランの行為に問題がないと断定することに抵抗した可能性がある。かりに米国が反対しても、事務局長が逆の見解を述べることはあり得ないが、米国を完全に無視することもできないので少し奇妙な文章になったのだろう。
肝心の問題は、トランプ大統領がなぜイラン核合意の否定にこだわったかである。
トランプ氏は核合意が期限付きであることを問題視する発言をしたこともあるが、それは主要な問題でなさそうだ。
期限付きがどちらに有利かは視点の違いによるのであって、とくにイランに有利なわけでない。核合意はイランによる低濃度のウラン濃縮を認めており、これは医療用などに使えるが兵器にはできないものである。これはどの国も認められる原子力の平和利用である。イランとしては、そのようなことは期限付きでなくいつでも認められるべきことだと思うだろう。
しかし、米国は、他国と原子力に関する協力協定を結ぶ場合は、医療用であっても、ウラン濃縮や使用済み燃料の再処理を認めないことが多い。日本には例外的に認めている。つまり、各国に認められる原子力の平和利用の権利は否定されることはないが、米国から協力を受けるにはそのような条件に従わなければならないということである。米国に助けてもらうには米国が言うことを聞かないわけにいかないのだ。
イランの場合、両方の立場の中間をとって、15年にわたって、3.67%以下であればウランの濃縮を認めることとした。理想の内容ではなく暫定的なものだ。15年後には、P5+1の側からも、イランの側からも改訂を求めることがありうる。認めるかどうかは別にして、それぞれ理由はありうる。
なお、トランプ氏も期限付きのことに批判を集中させているのでない。
トランプ氏が批判するのはイランがイスラエルを敵視し、また、シリアではアサド政権を支援するなど中東地域で危険な行動をとっていることだ。トランプ氏の立場をわかりやすく言えば、「危険なイランに、低濃度であってもウラン濃縮を認めるべきでない」ということなのだ。
その背景にはイスラエル寄りの姿勢がある。また、米国はイランと対立するサウジにも緊密な関係を築こうとしている。
さらに、トランプ氏がイラン核合意をけなすのはオバマ大統領時代に成立したことだからだ。
また、ボルトン補佐官のような対イラン強硬派の意見が影響しているともいわれている。
以上の二つが、トランプ氏がイラン核合意を認めない主要な理由とみてよいだろう。 米国以外のP5+1はこのように偏った」考えのトランプ氏には同調できないので、米国が核合意から離脱し制裁を再発動するのに反対している。
日本の立場も容易でない。日本は制裁の再発動によって強い影響を受けるが、核合意の当事者でないので、どちらにつくか考えを表明しないのは賢明かもしれない。
しかし、日本は、トランプ氏のイスラエル寄りの姿勢には同調できないはずだ。トランプ氏はアラブ諸国と、さらには欧州諸国と争いになってもイスラエル支持を曲げないだろうが、日本は中立的でなけられならないからだ。
イラク戦争の場合、日本は「戦争には参加しない形で」参加した。今回もイランとの対立が高じ、武力紛争になる危険があり、実際に紛争になった場合に、トランプ大統領から自衛隊の出動を求められる可能性があるが、改正後の日本の安保法制では断れない。
そうなると、トランプ大統領にようなイスラエルに偏した立場はとれない日本は苦しい立場に追い込まれるのではないか。
日本としては、イラク戦争に「参加なき参加」をしたのは妥当であったか、憲法違反の疑いが濃い安保法制改正はすべきでなかったのではないか、複雑な中東情勢の中で日本の方針がトランプ氏によってゆがめれないか、平素から頭の整理をしておく必要がある。
トランプ大統領のイランに対する制裁の再発動
トランプ大統領は11月5日、さる5月にイラン核合意から離脱したのに引き続き、原油取引などを対象にした対イラン制裁を再発動した。第三国もイランと原油取引をすれば制裁対象となるが、日本、中国、韓国、インド、トルコ、イタリア、ギリシャ、台湾だけは180日間に限って適用除外とされた。この期間が経過すれば例外でなくなり制裁の対象になる。
イラン核合意の当事国(P5+1)で、制裁の発動に反対している英仏独は除外されなかった。
15年前、米国がイラク戦争に踏み切った時と状況が似てきた。その時、英国は米国とともにイラク攻撃に参加したので今回とは違っていたが、独仏は反対した。
今回英も反対したのは、イラン合意の当事国であり、合意を尊重すべきであるという考えだったからだろう。
査察も似ているところがある。イラクに対する攻撃は、「特別査察」が行われている途中で、まだ結論が出ていないのにはじめられた。
イランについても「通常査察」が行われている途中であり、今まで問題はなかったが制裁が再発動された。
どちらの場合においても、米国は国際的な査察にかまわず自国の主張を押し通したのだ。
イランに対する査察をもう少し詳しく説明しておこう。
イラン核合意に基づいて査察を行っているのは国際原子力機関(IAEA)である。その9月の理事会でイランに対する査察状況について報告が行われ、天野事務局長は、”Evaluations regarding the absence of undeclared nuclear material and activities for Iran remain ongoing. The Agency continues to evaluate Iran’s declarations under the Additional Protocol, and has conducted complementary accesses under the Additional Protocol to all the sites and locations in Iran which it needed to visit.”との声明を行った。
この声明は断定的ではなかったが、一般には、イランによる違反行為はないとの趣旨であったと受け止められた。自然な解釈だったと思う。
実際の交渉状況は承知していないが、米国はIAEAがイランの行為に問題がないと断定することに抵抗した可能性がある。かりに米国が反対しても、事務局長が逆の見解を述べることはあり得ないが、米国を完全に無視することもできないので少し奇妙な文章になったのだろう。
肝心の問題は、トランプ大統領がなぜイラン核合意の否定にこだわったかである。
トランプ氏は核合意が期限付きであることを問題視する発言をしたこともあるが、それは主要な問題でなさそうだ。
期限付きがどちらに有利かは視点の違いによるのであって、とくにイランに有利なわけでない。核合意はイランによる低濃度のウラン濃縮を認めており、これは医療用などに使えるが兵器にはできないものである。これはどの国も認められる原子力の平和利用である。イランとしては、そのようなことは期限付きでなくいつでも認められるべきことだと思うだろう。
しかし、米国は、他国と原子力に関する協力協定を結ぶ場合は、医療用であっても、ウラン濃縮や使用済み燃料の再処理を認めないことが多い。日本には例外的に認めている。つまり、各国に認められる原子力の平和利用の権利は否定されることはないが、米国から協力を受けるにはそのような条件に従わなければならないということである。米国に助けてもらうには米国が言うことを聞かないわけにいかないのだ。
イランの場合、両方の立場の中間をとって、15年にわたって、3.67%以下であればウランの濃縮を認めることとした。理想の内容ではなく暫定的なものだ。15年後には、P5+1の側からも、イランの側からも改訂を求めることがありうる。認めるかどうかは別にして、それぞれ理由はありうる。
なお、トランプ氏も期限付きのことに批判を集中させているのでない。
トランプ氏が批判するのはイランがイスラエルを敵視し、また、シリアではアサド政権を支援するなど中東地域で危険な行動をとっていることだ。トランプ氏の立場をわかりやすく言えば、「危険なイランに、低濃度であってもウラン濃縮を認めるべきでない」ということなのだ。
その背景にはイスラエル寄りの姿勢がある。また、米国はイランと対立するサウジにも緊密な関係を築こうとしている。
さらに、トランプ氏がイラン核合意をけなすのはオバマ大統領時代に成立したことだからだ。
また、ボルトン補佐官のような対イラン強硬派の意見が影響しているともいわれている。
以上の二つが、トランプ氏がイラン核合意を認めない主要な理由とみてよいだろう。 米国以外のP5+1はこのように偏った」考えのトランプ氏には同調できないので、米国が核合意から離脱し制裁を再発動するのに反対している。
日本の立場も容易でない。日本は制裁の再発動によって強い影響を受けるが、核合意の当事者でないので、どちらにつくか考えを表明しないのは賢明かもしれない。
しかし、日本は、トランプ氏のイスラエル寄りの姿勢には同調できないはずだ。トランプ氏はアラブ諸国と、さらには欧州諸国と争いになってもイスラエル支持を曲げないだろうが、日本は中立的でなけられならないからだ。
イラク戦争の場合、日本は「戦争には参加しない形で」参加した。今回もイランとの対立が高じ、武力紛争になる危険があり、実際に紛争になった場合に、トランプ大統領から自衛隊の出動を求められる可能性があるが、改正後の日本の安保法制では断れない。
そうなると、トランプ大統領にようなイスラエルに偏した立場はとれない日本は苦しい立場に追い込まれるのではないか。
日本としては、イラク戦争に「参加なき参加」をしたのは妥当であったか、憲法違反の疑いが濃い安保法制改正はすべきでなかったのではないか、複雑な中東情勢の中で日本の方針がトランプ氏によってゆがめれないか、平素から頭の整理をしておく必要がある。
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