オピニオン
2016.12.26
「 トランプ政権の駐日大使に元ロッテ監督のボビー・バレンタイン氏が任命される案が出ているようです。野球一筋に生きてきたバレンタイン氏は外交や行政とまったく無縁の人ですが、よい大使になるかもしれません。
現在の米国大使はキャロライン・ケネディ氏で、故ジョン・F・ケネディ大統領の長女として日本でもよく知られていましたが、大使としても日本人に親しまれています。これは大使として成功する一つの重要な条件です。
大使とは何か、一言で大使と言っても、役割や位置づけは様々であり、必ずしも理解されているとは限りません。一般的に言って、大使には次のような特徴があります。
第1に、大使はどの業界の代弁者でもなく、強いて言えば母国の代弁者です。つまり、特徴がないのが大使の特徴です。大使が特定の企業の代弁者となるべきでないことはだれにも明らかでしょう。業界についても基本的には同じことであり、特定の業界の利益を代弁すると、それと競合関係にある業界の利益を損なう恐れがあるからです。
もっとも、状況次第で特定の企業に関して行動することはあります。私はかつてユーゴスラビア、現在のセルビア、モンテネグロおよびコソボの大使でした。その時同国首相の要請を受け、ある日本の自動車会社に対してユーゴスラビアへ進出してほしいと頼んだことがありました。しかし、それは競争や競合関係がまったくない状況だったので可能であり、また、そうすることが日本とユーゴスラビアとの関係増進に役立つと判断したからでした。
第2に、大使は母国の利益を代弁しますが、赴任先の国の事情を母国に正しく伝えるのも重要な任務であり、そのため、表面的には母国よりも赴任国を重視していると見える場合もあります。しかし、母国で沸き起こる感情論的なものに流されると危険であり、相手国の正しい理解に基づいた政策を講じることは絶対的に必要です。大使はそのために母国にとって辛口のことでも進言しなければなりません。かつて米国の自動車産業が不況に陥った時にもそのようなことがあったと思います。
主にカーター政権時代の1970年代の後半から10年以上も米国の駐日大使を務めたマイケル・マンスフィールド氏は日本のことを米国に向かって何回も代弁してくれました。たとえば大使の任期中日米間には激しい経済摩擦がありましたが、何とか大事に至らずに収めることができたのは同大使の尽力があったからだと言われています。
第3に、とくに米国の場合は、大使の任命に政治的な考慮が強く働くことがあります。たとえば、大統領選挙で尽力した人を大使とすることもあります。そういう人たちは能力的には問題ありませんが、プロの外交官ではないので周囲の人がよく補佐する必要があります。言葉の面でも、米国の職業外交官は外国語も堪能ですが、政治任命の大使は外国語が得意でない人が少なくありません。ルース元米国大使は東日本大震災の際に米国が積極的に協力するのに尽力しました。オバマ大統領に広島訪問を勧めたことでも有名です。
なお、このような政治任命の大使は先進国に派遣されるのが通例です。相手が難しい国の場合、やはり職業外交官が大使になるようです。日本の場合は気候などの関係で「困難な国(hardship post)」とみなされ、西欧のように大物が派遣されることはまれでしたが、そのような傾向はすでになくなっていると思います。
ボビー・バレンタイン氏は周知のごとく、ロッテ球団の監督を2回務め、合計約7年間日本に滞在したので、野球を通じてですが日本のことをよく経験しました。さらに、米国でメージャーリーグ・チームの監督を務めたのも、また、日本チームの監督を2回も務めたのも高い管理能力があったからでした。たとえば、選手の起用も巧みで、「ボビーマジック」と呼ばれたことは同氏の非凡な能力をよく表していました。
バレンタイン氏は、公職の経験はありませんが、外交経験や日本の政治経済状況の知識などについて周囲の補佐よろしきを得れば、日本での経験を活かし、その個性的かつ高い能力を発揮して素晴らしい大使になると期待されます。
米新政権の駐日大使
米新政権の駐日大使として名前が挙がっている一人である元ロッテ監督のボビー・バレンタイン氏についての一文をTHE PAGEに寄稿した。「 トランプ政権の駐日大使に元ロッテ監督のボビー・バレンタイン氏が任命される案が出ているようです。野球一筋に生きてきたバレンタイン氏は外交や行政とまったく無縁の人ですが、よい大使になるかもしれません。
現在の米国大使はキャロライン・ケネディ氏で、故ジョン・F・ケネディ大統領の長女として日本でもよく知られていましたが、大使としても日本人に親しまれています。これは大使として成功する一つの重要な条件です。
大使とは何か、一言で大使と言っても、役割や位置づけは様々であり、必ずしも理解されているとは限りません。一般的に言って、大使には次のような特徴があります。
第1に、大使はどの業界の代弁者でもなく、強いて言えば母国の代弁者です。つまり、特徴がないのが大使の特徴です。大使が特定の企業の代弁者となるべきでないことはだれにも明らかでしょう。業界についても基本的には同じことであり、特定の業界の利益を代弁すると、それと競合関係にある業界の利益を損なう恐れがあるからです。
もっとも、状況次第で特定の企業に関して行動することはあります。私はかつてユーゴスラビア、現在のセルビア、モンテネグロおよびコソボの大使でした。その時同国首相の要請を受け、ある日本の自動車会社に対してユーゴスラビアへ進出してほしいと頼んだことがありました。しかし、それは競争や競合関係がまったくない状況だったので可能であり、また、そうすることが日本とユーゴスラビアとの関係増進に役立つと判断したからでした。
第2に、大使は母国の利益を代弁しますが、赴任先の国の事情を母国に正しく伝えるのも重要な任務であり、そのため、表面的には母国よりも赴任国を重視していると見える場合もあります。しかし、母国で沸き起こる感情論的なものに流されると危険であり、相手国の正しい理解に基づいた政策を講じることは絶対的に必要です。大使はそのために母国にとって辛口のことでも進言しなければなりません。かつて米国の自動車産業が不況に陥った時にもそのようなことがあったと思います。
主にカーター政権時代の1970年代の後半から10年以上も米国の駐日大使を務めたマイケル・マンスフィールド氏は日本のことを米国に向かって何回も代弁してくれました。たとえば大使の任期中日米間には激しい経済摩擦がありましたが、何とか大事に至らずに収めることができたのは同大使の尽力があったからだと言われています。
第3に、とくに米国の場合は、大使の任命に政治的な考慮が強く働くことがあります。たとえば、大統領選挙で尽力した人を大使とすることもあります。そういう人たちは能力的には問題ありませんが、プロの外交官ではないので周囲の人がよく補佐する必要があります。言葉の面でも、米国の職業外交官は外国語も堪能ですが、政治任命の大使は外国語が得意でない人が少なくありません。ルース元米国大使は東日本大震災の際に米国が積極的に協力するのに尽力しました。オバマ大統領に広島訪問を勧めたことでも有名です。
なお、このような政治任命の大使は先進国に派遣されるのが通例です。相手が難しい国の場合、やはり職業外交官が大使になるようです。日本の場合は気候などの関係で「困難な国(hardship post)」とみなされ、西欧のように大物が派遣されることはまれでしたが、そのような傾向はすでになくなっていると思います。
ボビー・バレンタイン氏は周知のごとく、ロッテ球団の監督を2回務め、合計約7年間日本に滞在したので、野球を通じてですが日本のことをよく経験しました。さらに、米国でメージャーリーグ・チームの監督を務めたのも、また、日本チームの監督を2回も務めたのも高い管理能力があったからでした。たとえば、選手の起用も巧みで、「ボビーマジック」と呼ばれたことは同氏の非凡な能力をよく表していました。
バレンタイン氏は、公職の経験はありませんが、外交経験や日本の政治経済状況の知識などについて周囲の補佐よろしきを得れば、日本での経験を活かし、その個性的かつ高い能力を発揮して素晴らしい大使になると期待されます。
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