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2016.09.19

(短評)ミャンマー新政権の滑り出しは順調か

  アウン・サン・スー・チー国家顧問が訪米し、9月14日、オバマ大統領と会談した。オバマ大統領はミャンマーに対する制裁を解除することとしたと伝え、スー・チー国家顧問が率いる民主的政権を支持する姿勢を鮮明にした。同氏の訪米は実り多いものとなったと見てよいだろう。
 米国には、他国と比べミャンマーへの企業進出が遅れているという認識があるようだが、今後は米国資本が自由に進出できるようになる。ミャンマーの経済発展に貢献するだろう。
 スー・チー最高顧問は訪米の途中英国にも立ち寄り、メイ首相から1億ドル以上の援助約束を得たと報道されている。

 スー・チー国家顧問は訪米の前に(8月)中国を訪問した。最初の外国訪問が中国となったので一部の報道で注目されたが、米国はとくに意に介さなかったようだ。大人の態度であった。
 ミャンマーにとって中国との関係は重要だ。とくに一部の少数民族との関係が深いからだ。ミャンマー政府は関係がよくない部族を抑えるのに中国の力を必要としている。

 8月31日にミャンマーで「21世紀のパンロン会議」が開催された。スー・チー氏が重視する諸民族の大同団結会議だ。ミャンマーでは諸民族の和解が進まないと軍の特権を維持せざるをえない状況にあり、そうすると民主化も進まなくなる(当研究所HP8月22日付「ミャンマー・中国関係‐アウン・サン・スー・チー国家顧問の訪中」)。
 期待が高まる中で開催されたパンロン会議であったが、ワ州連合軍(UWSA)の代表が中途退場するなど、一部の部族はパンロン会議に協力することをためらっており、きびしい門出となった。もちろんこれで諸民族の和解が失敗したと見るべきでない。70年間解決しなかった問題でありそう簡単にはいかないとしても不思議でない。パンロン会議は今後も半年に1回の頻度で開催されることになっており、その推移を見守る必要がある。
 スー・チー最高顧問が率いる新政権は民主化の推進に熱心であるが、少数民族問題が解決しない限り民主化推進派、軍、少数民族の三つどもえ的な関係は変わらない。米国の制裁撤廃については、民主派の軍に対するテコをなくすることになるとして反対する声もあるが、ミャンマーのこのような現状を見ればそうも言えないのではないか。
 また、少数民族の中には、バングラデシュと国境を接するラカイン州のロヒンギャの問題もある。2015年春に数千人のロヒンギャ難民がどの国からも拒否され海上をさまよった事件で有名になった。オバマ大統領はスー・チー氏に対し少数民族問題の解決を望んでいると表明するとともに、この問題をミャンマー政府が善処することを促した。
 一方、ミャンマー政府はロヒンギャをミャンマー国内の少数民族と認めておらず、バングラデシュからの難民と位置付けており、国籍も付与せず、「(不法移民の)ベンガル人」という呼称を用い続けているので、スー・チー最高顧問は「ラカイン州の問題の解決を政府として重視している」と応じるにとどまった。この問題解決の道のりはまだ遠そうだ。

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