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2016.07.11

憲法改正の論点①

 私は憲法を改正できないとは考えない。改正すべきところは改正したい。頻繁な改正で有名なスイスの憲法について一冊の本を出版したこともある(『スイス 歴史が生んだ異色の憲法』)。
 しかし、改正内容について十分な議論なく、ただ国会における数の力で改正をすべきではない。特定秘密保護法や安保関連法改正の場合のようにろくに審議されずに成立させられてはならない。後者の場合に、審議にかけた時間をもって十分議論したという主張があったが、改正の重要点について問題点を掘り下げる審議はなさけないほど乏しかった。改正案の内容とまるで違う内容の答弁も繰り返し行われた。
 
 自民党の改正案は具体的な問題点を検討するのに便利だ。今後何回かにわたって指摘していきたい。

自民党改正案前文

疑問と問題点
○「日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。」について。
 「国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り」とあるが、たとえば、イラク戦争の際の自衛隊の行動について、日本の判断は間違いであった、日本は米英と同様過ちを認める勇気を持つべきだという意見がある(当研究所HP 2016.07.08 「イラク戦争参加に関する英国の反省」)。このような意見が妥当か否かについては異なる考えがありうるが、日本政府の過去の行動を批判することは、「国と郷土を誇りと気概を持って自ら守る」ことに反しているとして排除されたり、抑圧されたりする恐れはないか。
 「和を尊び」についてはさらにその疑問が強い。「和を尊ぶ」ことは文化的伝統であり、自然にふるまう中で日本人の特徴としてあらわれることだ。しかし、それを法的規範として援用すべきでない。日本の歴史において、「和を尊び」つつ、少数意見が述べられ、それが尊重されたことはいくらもある。それを上からの目線で「和を尊ぶ」とか、尊んでいないなどというべきことでないし、日本人は「和を尊ぶ」ことをそのように扱ってきていない。
 しかも、今は民主主義の時代だ。少数意見であってもそれなりに耳を傾けなければならない。議論を尽くした結果、多数決で決定しなければならないことはあるが、それは「和を尊ぶ」ためでなく、民主主義のルール(の一つ)として国民が受け入れているからだ。
 さらに「国と郷土を誇りと気概を持って自ら守る」ことや「和を尊ぶ」ことに反していないか判断するのはだれか。時の政府、権力者ではないか。それが保守政権であれ、革新政権であれ、恣意的な解釈が権力を背景に国民に押し付けられる危険がある。
 日本文化については、改正案前文の冒頭の、「日 本 国 は 、 長 い 歴 史 と 固 有の 文 化 を 持 ち 」で十分であり、それ以上言及すべきでない。

○「象徴天皇制は、これを維持する」という表現、とくに「維持する」は弱い。それとも維持する、あるいは維持しないは選択肢として改正案は考えているのか。そんな言葉の問題ではないのではないか。改正案前文の冒頭の「国 民 統 合 の 象 徴 で あ る天 皇 を 戴 く 国 家 で あ る」をかえって弱めている。

○「美 し い 国 土 と 自 然 環 境 を 守 り つ つ」より「国土と自然環境を守りつつ」のほうがよい。「美しい」というのは一種の自己満足であり、幼稚に聞こえる。後者のほうが重々しいからだ。

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