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2016.01.03

(短評)ロシアの新安全保障戦略

 12月31日、プーチン大統領が承認した「ロシアの新安全保障戦略(以下「新戦略」)」は、2009年に策定された「2020年までの国家安全保障戦略(以下「旧戦略」)」を大きく改訂するものであり、現在のロシアの国際情勢認識をよく反映している。
 旧戦略は、プーチン大統領がエリツイン時代の混乱を収束させ、新政権としての基本認識を打ち出すために2002年に起案を命じたが、ロシアの安全保障戦略にとって最も重要な米国の状況がアフガニスタンやイラクなどでの戦争のため流動的であり、様子を見守っていたのだろう。チェチェンやグルジアなどロシア国内の問題の処理に忙殺されていたことも影響していたかもしれない。ともかく、旧戦略が承認されたのはオバマ政権が発足した後であった。
 今回の改訂は、クリミア併合以降、ロシアを巡る国際環境が格段に厳しくなったからである。G8からは排除された。ロシアはG8には戻らないと強がりを言っているが、客観的にはロシアの国際的地位が著しく悪化したことは明らかだ。ロシアと米欧の関係が冷戦時代をほうふつさせる程度にまで悪化しているのはロシアにとっても問題であり、新戦略の策定はそれを物語っている。
 一方、旧戦略が検討されていたころ、中国はまだ高度成長のさなかであり、旧戦略は中国との関係に注目しつつも中国をロシアにとって特別の存在であるという認識にはしていなかった。
 旧戦略の特徴は世界を多極化していると捉えていたことだ。米国一国の影響力増大を嫌うロシアとして好ましい状況であるという気持ちもあったのだろう。ロシアは中国と合同軍事演習を始めていたが、米国をけん制する姿勢は抑えていた。米国を刺激しすぎないようにとの配慮はあったのだ。 

 新戦略では中国とインドの位置づけががらりと変わり、力を入れて描写した。とくに、中国については「全面的なパートナー関係と戦略的な協力関係を発展させる。世界と地域の安定のカギだと考える」と持ち上げた。今やロシアとしては世界は多角化しているということではすまなくなっており、それに代わって中国との関係が重要だと言っている。
 なお、日本については旧戦略も同様であったが、新戦略は何も言及しなかった。上述したようなロシアの世界情勢認識からすればそうなるのだろう。

 それはともかく、新戦略のもう一つの特徴は、「『色の革命』の扇動」「伝統的なロシアの精神的・道徳的価値の破壊」「汚職」などもロシアにとって脅威だとしたことである。「色の革命」とはウクライナの「オレンジ革命」などのことであり、これを扇動する者がいると言っているだが、どういうことか気になる言及だ。

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