オピニオン
2015.11.27
イランの核開発が国際問題化して以来すでに10年以上も経過している。交渉がそれだけ長引いたのはイランが国際原子力機関(IAEA)の査察に協力しなかったことが主たる原因だ。すべての責任がイランにあると決めつけるのも問題だが、イランが圧倒的に不利な状況にあったことは否定できない。したがって、イランとの最終合意が成立した後も懐疑論が渦巻いたのは避けがたいことであった。
合意された仕組みの査察が本当に有効か、イランが隠ぺいしようとしても阻止できるかという根本的な問題に関連していくつかの疑問が呈された。
米国の主要新聞各紙は査察の専門家に取材し、新合意の信頼性について疑問がある、楽観できないという趣旨の記事を流した。
イランの核開発の主要施設であるパルチンについて、イランによる自主査察を認める秘密合意が作られているということがひとしきり話題となった。これが本当であれば真の検証など期待できない。
米政府の高官が、査察に関してごまかしや怠慢があっても見抜く技術があると合意を擁護することもあった。
イスラエルの新聞が、オバマ大統領がイラン合意を達成した目的はイランの核兵器獲得を阻止することではなく、国内で共和党を悪者にするためであり、イランが核合意に違反すれば制裁を元に戻すというのも言葉だけで実際は実現しないなどと報道したこともあった。
これらの疑惑がすでに払しょくされたか、確かめることはできないが、合意の履行は始められている。
まず、合意の履行は10月18日に開始された。米国とイランの議会が了承したので合意が発効したのだ。懐疑論が強かった米議会が承認したことの意義は大きい。
イランに課せられていた原油関連取引や銀行決済に課せられていた制限を撤廃するにはかなりの時間が必要であり、来年の初めまでかかると見積もられている。オバマ大統領は合意発効後ただちに制裁解除の準備を指示し、合意実行を担保するため10月19日、合同委員会を立ち上げた。
一方、イランについては、合意の発効から約1カ月後、査察を担当するIAEAは、イランがウラン濃縮のための遠心分離機約1万9千基のうち4530機を撤去したと報告した。合意によればイランは5060基にまで減らす必要がある。
これに先立って、イランはIAEAに対し、「追加議定書」の暫定的適用を通知していた。これは重要な査察の仕組みであり、IAEAは「不意打ち査察」が可能となり、核兵器の開発を隠すことは困難になる。
IAEAはさらに、イランが過去に核兵器開発を試みた疑いについても検証作業を進めており、12月15日までに報告書をまとめることになっている。これで問題なかったという結果が出れば大きな前進となる。
なお、IAEAによれば、イランの査察には年間1047万ドルを要し、米、仏、英、独、日、フィンランド、豪州、カナダ、オランダ、ニュージーランドがすでに任意拠出を申し出ている。
以上のように見ていくと、今のところ、合意の履行はほぼ順調なようだ。さまざまな歴史があるだけに単純に楽観視することはできないが、来年初めに合意の履行が完成し、イランが原油の輸出を再開する公算が高くなっている。そうなるとイランの国際社会における発言力も大きくなるだろう。(本HP9月29日付「中東外交の焦点「イラン核合意」の正しい見方」)
イランはかねてからシリアとの関係が緊密であり、IS問題の解決のためユニークな役割を果たしうる。おりしも、プーチン大統領は11月23日、イランを訪問し、最高指導者ハメネイ師やローハニ大統領と会談した。シリアのアサドを支持するプーチン大統領にとってイランとの協力は重要なのだ。
ISをめぐって状況が錯綜している中でイランの存在に注目が集まりつつある。
イランの核開発合意は履行されつつある
イランの核開発問題についてさる7月14日にイランと6カ国が合意に達した後も、イランはこの合意を尊重するか、米議会やメディアなどでは懐疑的な見方が非常に多かった。イランの核開発が国際問題化して以来すでに10年以上も経過している。交渉がそれだけ長引いたのはイランが国際原子力機関(IAEA)の査察に協力しなかったことが主たる原因だ。すべての責任がイランにあると決めつけるのも問題だが、イランが圧倒的に不利な状況にあったことは否定できない。したがって、イランとの最終合意が成立した後も懐疑論が渦巻いたのは避けがたいことであった。
合意された仕組みの査察が本当に有効か、イランが隠ぺいしようとしても阻止できるかという根本的な問題に関連していくつかの疑問が呈された。
米国の主要新聞各紙は査察の専門家に取材し、新合意の信頼性について疑問がある、楽観できないという趣旨の記事を流した。
イランの核開発の主要施設であるパルチンについて、イランによる自主査察を認める秘密合意が作られているということがひとしきり話題となった。これが本当であれば真の検証など期待できない。
米政府の高官が、査察に関してごまかしや怠慢があっても見抜く技術があると合意を擁護することもあった。
イスラエルの新聞が、オバマ大統領がイラン合意を達成した目的はイランの核兵器獲得を阻止することではなく、国内で共和党を悪者にするためであり、イランが核合意に違反すれば制裁を元に戻すというのも言葉だけで実際は実現しないなどと報道したこともあった。
これらの疑惑がすでに払しょくされたか、確かめることはできないが、合意の履行は始められている。
まず、合意の履行は10月18日に開始された。米国とイランの議会が了承したので合意が発効したのだ。懐疑論が強かった米議会が承認したことの意義は大きい。
イランに課せられていた原油関連取引や銀行決済に課せられていた制限を撤廃するにはかなりの時間が必要であり、来年の初めまでかかると見積もられている。オバマ大統領は合意発効後ただちに制裁解除の準備を指示し、合意実行を担保するため10月19日、合同委員会を立ち上げた。
一方、イランについては、合意の発効から約1カ月後、査察を担当するIAEAは、イランがウラン濃縮のための遠心分離機約1万9千基のうち4530機を撤去したと報告した。合意によればイランは5060基にまで減らす必要がある。
これに先立って、イランはIAEAに対し、「追加議定書」の暫定的適用を通知していた。これは重要な査察の仕組みであり、IAEAは「不意打ち査察」が可能となり、核兵器の開発を隠すことは困難になる。
IAEAはさらに、イランが過去に核兵器開発を試みた疑いについても検証作業を進めており、12月15日までに報告書をまとめることになっている。これで問題なかったという結果が出れば大きな前進となる。
なお、IAEAによれば、イランの査察には年間1047万ドルを要し、米、仏、英、独、日、フィンランド、豪州、カナダ、オランダ、ニュージーランドがすでに任意拠出を申し出ている。
以上のように見ていくと、今のところ、合意の履行はほぼ順調なようだ。さまざまな歴史があるだけに単純に楽観視することはできないが、来年初めに合意の履行が完成し、イランが原油の輸出を再開する公算が高くなっている。そうなるとイランの国際社会における発言力も大きくなるだろう。(本HP9月29日付「中東外交の焦点「イラン核合意」の正しい見方」)
イランはかねてからシリアとの関係が緊密であり、IS問題の解決のためユニークな役割を果たしうる。おりしも、プーチン大統領は11月23日、イランを訪問し、最高指導者ハメネイ師やローハニ大統領と会談した。シリアのアサドを支持するプーチン大統領にとってイランとの協力は重要なのだ。
ISをめぐって状況が錯綜している中でイランの存在に注目が集まりつつある。
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