オピニオン
2015.10.02
改正法案が国会に提出された当初、自衛隊が日本の領域外に出て活動することが想定されていたのは、集団的自衛権の行使に関わる事例と、集団安全保障に関わる事例でした。法案は成立しましたが、これらの事例は自衛隊の新しい任務になるでしょうか。必ずしもそうではないようです。
とくに機雷の除去は、国会での審議が始まる前から重要な事例だとみなされていましたが、安倍首相は国会の会期末近くになって、「今の国際情勢に照らせば、現実問題として発生することは具体的に想定していない」と答弁したので、機雷除去は法改正により自動的に自衛隊の新任務になるのではないと思われます。
避難してきた日本人を乗せた米国の艦船が第三国から攻撃を受けた場合についても、中谷防衛相は、日本人でなくても自衛艦の派遣が考えられるという説明に変えましたが、将来も米艦への防護を行う点では変わらないようです。
国連決議に基づいて行われる「集団安全保障」の関係では、国連平和維持活動(PKO)といわゆる「多国籍軍」への協力が重要問題です。
PKOについては、国際紛争に巻き込まれる危険はありませんが、自衛隊は、これまでできなかったいわゆる「駆け付け警護」が可能となり、同じ場所で活動している他国の隊員が危険な状況に陥った場合救助に駆け付け、必要であれば武器も使用できることになりました。これによって自衛隊は各国のPKO部隊と同等の活動ができるようになり、我が国は国際社会における責務を十分に果たせるようになりました。今次法改正で積極的に評価できる面です。
一方、「多国籍軍」が組織あるいは派遣されるのは通常紛争が終わっていない場合であり、自衛隊がこれに協力すると国際紛争に巻き込まれる危険が大です。改正法は、自衛隊の活動を「非戦闘地域」に、かつ「後方支援」に限れば問題ないとの考えに立っていますが、やはり敵対行為とみなされるという有力な反論があります。
イラク戦争の際に自衛隊が派遣されたのは「多国籍軍」への協力のためでした。今後は、仮定の話ですが、過激派組織ISが勢力を拡大して中東の産油地帯を支配下に置き、そのため我が国などへの原油供給が大幅に減少するに至った場合、自衛隊は米軍などの空爆に協力できるかということなどが問題になりえます。改正法が定める要件を満たすと政府が判断すればそれも可能となりました。
米国など諸外国は日本の法改正をどのように評価するでしょうか。
安倍首相は国会での審議が始まるのに先立って訪米し、オバマ大統領に対してはもちろん、米議会でも法改正の趣旨を説明し、高い評価を得ました。改正された法律に従って自衛隊が米軍の活動に協力すれば、米軍の負担はかなり軽減されるでしょう。心強い味方となります。オバマ大統領の喜色満面の表情が今も目の前に浮かんできます。
わが国の国会審議では、今回の法改正により米国の日本に対する信頼感が高まり、第三国からの攻撃に対する抑止力がはたらくという趣旨の答弁が行なわれました。しかし、抑止力は程度問題であり、「これだけ措置すれば抑止力が得られる、そうでないと抑止力は働かない」というようなことはありません。
今回の法改正を米国は積極的に評価していますが、米国の我が国に対する期待感を完全に満たすものでないことは明白です。
たとえば、米国は、日本や欧州諸国が防衛にどれだけ予算を割いているか、かねてからよく研究しており、とくに欧州諸国に対しては予算を増加させるようおおっぴらに要求しています。防衛予算のGDP比は、米国自身は3・5%程度ですが、欧州諸国は、英仏など多い国でも2%程度であり、少ない部分を米国が肩代わりしていると考えているからです。このことはNATOでも主要問題の一つになっています。
日本の防衛予算は安倍政権下で微増していますが、GDPとの比率では1%をわずかに越えたレベルです。今後、米国は、防衛政策を大転換した日本に対して予算増、しかも、小数点以下の微増でなく、かなりの増額を求めてくる可能性があります。それは、論理的で、自然な考えだと思います。
これは一例にすぎません。米国には、米国本土が第三国から攻撃されても日本は米国の防衛に協力する義務はないことに不満を示す人も居ます。
米国による抑止力を高めるには、本当は日米安保条約を改定する必要があります。それをしないで、日本の法改正だけで抑止力ができるというのは事態をあまりにも単純化しています。
今回の安保関連法の改正は、集団的自衛権の行使を認めたという点ではたしかに日本の防衛政策の大転換でしたが、抑止力を高める必要があるというならば安保条約を改定し、日米が平等な立場に立つようにすべきか、国民的議論を行なうべきではないでしょうか。
また、それとの関連で、憲法についても改正が必要か議論になるでしょう。日本はこれまでどのような事態に対しても「自衛」という風船を膨らませることで対応してきましたが、それは限界を超えて破裂しているのが実態であり、見直すべき時が来ているとも考えられます。
安保関連法の改正後、日本の対外関係はどうなるか
安全保障関連法案の改正が成立したことによって我が国の対外関係にはどのような変化が生じるでしょうか。改正法案が国会に提出された当初、自衛隊が日本の領域外に出て活動することが想定されていたのは、集団的自衛権の行使に関わる事例と、集団安全保障に関わる事例でした。法案は成立しましたが、これらの事例は自衛隊の新しい任務になるでしょうか。必ずしもそうではないようです。
とくに機雷の除去は、国会での審議が始まる前から重要な事例だとみなされていましたが、安倍首相は国会の会期末近くになって、「今の国際情勢に照らせば、現実問題として発生することは具体的に想定していない」と答弁したので、機雷除去は法改正により自動的に自衛隊の新任務になるのではないと思われます。
避難してきた日本人を乗せた米国の艦船が第三国から攻撃を受けた場合についても、中谷防衛相は、日本人でなくても自衛艦の派遣が考えられるという説明に変えましたが、将来も米艦への防護を行う点では変わらないようです。
国連決議に基づいて行われる「集団安全保障」の関係では、国連平和維持活動(PKO)といわゆる「多国籍軍」への協力が重要問題です。
PKOについては、国際紛争に巻き込まれる危険はありませんが、自衛隊は、これまでできなかったいわゆる「駆け付け警護」が可能となり、同じ場所で活動している他国の隊員が危険な状況に陥った場合救助に駆け付け、必要であれば武器も使用できることになりました。これによって自衛隊は各国のPKO部隊と同等の活動ができるようになり、我が国は国際社会における責務を十分に果たせるようになりました。今次法改正で積極的に評価できる面です。
一方、「多国籍軍」が組織あるいは派遣されるのは通常紛争が終わっていない場合であり、自衛隊がこれに協力すると国際紛争に巻き込まれる危険が大です。改正法は、自衛隊の活動を「非戦闘地域」に、かつ「後方支援」に限れば問題ないとの考えに立っていますが、やはり敵対行為とみなされるという有力な反論があります。
イラク戦争の際に自衛隊が派遣されたのは「多国籍軍」への協力のためでした。今後は、仮定の話ですが、過激派組織ISが勢力を拡大して中東の産油地帯を支配下に置き、そのため我が国などへの原油供給が大幅に減少するに至った場合、自衛隊は米軍などの空爆に協力できるかということなどが問題になりえます。改正法が定める要件を満たすと政府が判断すればそれも可能となりました。
米国など諸外国は日本の法改正をどのように評価するでしょうか。
安倍首相は国会での審議が始まるのに先立って訪米し、オバマ大統領に対してはもちろん、米議会でも法改正の趣旨を説明し、高い評価を得ました。改正された法律に従って自衛隊が米軍の活動に協力すれば、米軍の負担はかなり軽減されるでしょう。心強い味方となります。オバマ大統領の喜色満面の表情が今も目の前に浮かんできます。
わが国の国会審議では、今回の法改正により米国の日本に対する信頼感が高まり、第三国からの攻撃に対する抑止力がはたらくという趣旨の答弁が行なわれました。しかし、抑止力は程度問題であり、「これだけ措置すれば抑止力が得られる、そうでないと抑止力は働かない」というようなことはありません。
今回の法改正を米国は積極的に評価していますが、米国の我が国に対する期待感を完全に満たすものでないことは明白です。
たとえば、米国は、日本や欧州諸国が防衛にどれだけ予算を割いているか、かねてからよく研究しており、とくに欧州諸国に対しては予算を増加させるようおおっぴらに要求しています。防衛予算のGDP比は、米国自身は3・5%程度ですが、欧州諸国は、英仏など多い国でも2%程度であり、少ない部分を米国が肩代わりしていると考えているからです。このことはNATOでも主要問題の一つになっています。
日本の防衛予算は安倍政権下で微増していますが、GDPとの比率では1%をわずかに越えたレベルです。今後、米国は、防衛政策を大転換した日本に対して予算増、しかも、小数点以下の微増でなく、かなりの増額を求めてくる可能性があります。それは、論理的で、自然な考えだと思います。
これは一例にすぎません。米国には、米国本土が第三国から攻撃されても日本は米国の防衛に協力する義務はないことに不満を示す人も居ます。
米国による抑止力を高めるには、本当は日米安保条約を改定する必要があります。それをしないで、日本の法改正だけで抑止力ができるというのは事態をあまりにも単純化しています。
今回の安保関連法の改正は、集団的自衛権の行使を認めたという点ではたしかに日本の防衛政策の大転換でしたが、抑止力を高める必要があるというならば安保条約を改定し、日米が平等な立場に立つようにすべきか、国民的議論を行なうべきではないでしょうか。
また、それとの関連で、憲法についても改正が必要か議論になるでしょう。日本はこれまでどのような事態に対しても「自衛」という風船を膨らませることで対応してきましたが、それは限界を超えて破裂しているのが実態であり、見直すべき時が来ているとも考えられます。
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