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2014.10.23

「イスラム国」空爆と「保護する責任」

さる8月、過激派組織「イスラム国」に対して米国が始めた空爆は安保理の決議を経ていなかったが、世界の多数の国から支持された。以前、米国やNATOなどが軍事行動を起こした場合、それを承認する安保理決議があったか否か、何回も問題になったことがある。イラク戦争の場合は米英などがイラクに対する攻撃を承認する安保理決議を獲得しようと努めたが、それは果たせないまま開戦に踏み切り問題になった。そのためイラク戦争は違法であるとする主張が生まれた。一方、米英は、1990年以来何回もイラクの対する決議が採択されており、2003年の攻撃も承認されていると主張した。今回の「イスラム国」に対する攻撃については、承認する安保理の決議はまったくなく、議論が分かれる余地はなかったのである。
しかし、米国の空爆を多数の国が支持し、また近隣諸国を含め米軍の作戦に協力する国家も出てきた。米国はそ空爆について、集団的自衛権の行使であるとも説明したが、多数の国はそのために支持したのではなかった。「イスラム国」が占拠している地域で非人道的な扱いを受けている住民を助けることに各国が賛同し、空爆に積極的な意義を認めたからである。
このケースは、安保理決議のあり方にも一石を投じた。国連は国際の平和と安定の維持を脅かす行為について、非強制的および強制的措置を取ってたいおうすると定めている。前者は勧告などであり、後者は制裁措置や軍事行動などである。軍事的な方法とはいわゆる国連軍の派遣であるが、これは実現していない。ともかく国連は、侵略を想定し、それに対する対処を定めているが、人道問題の特殊性を考慮した特別の対応は想定していない。つまり、人道問題が生じても侵略行為がなければ安保理は対応しないのが国連憲章の建前である。
今回の空爆は国連が想定しているこのような平和維持の仕組みに合致しない行動であっても圧倒的多数の国が支持するケースがありうることを示した。それは深刻な人道侵害を防ぎ、あるいはさらなる悪化を防ぐ目的で行なわれる行動である。
深刻な人道問題が発生している場合に、他に方法がないなどの要件を満たさなければならないが、各国の主権の壁を越えて軍事的な介入が必要となる場合があるという考えが21世紀に入る頃から徐々に強まってきた。英語ではresponsibility to protect(R2P)、日本語では「保護する責任」として論じられている問題である。今後、深刻な人道問題が発生した場合には安保理のこれまでのあり方を超えて、人道的行動を積極的に認めるケースが増えてくるのではないかと思われる。

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