平和外交研究所

ブログ

オピニオン

2018.03.12

米朝首脳会談と日本の立場

 トランプ大統領は金正恩委員長と会談することになった。時期と場所は今後決めるそうだ。読みにくくなるが、金委員長が3月5日、韓国大統領府の鄭義溶(チョンウィヨン)国家安保室長らに対し述べたことと、鄭国家安保室長がトランプ大統領に報告した際に伝えられたこと(のちの報道)を対比させると次のようになる。
〇金氏は鄭氏に対し、「軍事的脅威が解消され、体制の安全が保証されれば、核を保有する理由がない」と述べた。後の報道では、鄭国家安保室長らは、金委員長が「非核化の意思を表明した」と伝えた。
〇金氏は、「非核化問題の協議と米朝関係の正常化のため、米国と虚心坦懐(たんかい)に対話する用意がある」と述べた。後の報道では、金委員長は、「可能な限り早くトランプ氏と会いたい」と述べた。
〇米韓合同軍事演習について、金氏は「4月に例年通りの水準で実施することを理解する」と述べた。 
〇核とミサイルの実験については、金氏と鄭氏の会談説明では明確でなかったが、後の報道では、金氏は「停止は継続する」と述べた。トランプ氏は13日の演説で、「対話をしている間は、北朝鮮はミサイルを発射しないと(金氏が)言った」と発言した。

 鄭国家安保室長らは3月8日、金正恩委員長の考えを伝えたのに対し、トランプ大統領は金委員長との会談をその場で受け入れたという。トランプ氏は翌日、ツイッターで「北朝鮮とのディール(取引)は進展しており、うまくいけば世界にとってすばらしいものになる」「首脳会談の時期と場所はこれから決まる」と書き込んだ。「5月までに会談する」と応じたとも伝えられた。

 金委員長は鄭国家安保室長らと、4月末に、南北軍事境界線上にある板門店の韓国側施設「平和の家」で文在寅大統領と会談を行うことに合意しているので、トランプ・金会談はその後になるのだろう。

 日本政府はこれまで「圧力」一本やりであり、「対話」については消極的な姿勢をとり続けてきた。米国に対して、「対話」をすべきでないと働きかけたこともある。
 今回の米朝首脳会談合意の後、安倍首相は9日朝、トランプ大統領と約30分間電話で協議し、4月初旬に急きょ訪米してトランプ大統領と今後の北朝鮮対応について話すことを決めた。また協議後、記者団に「北朝鮮が非核化を前提に話し合いを始めると申し出た。この変化を評価する」と述べ、さらに「日米はこれからも100%共にある、という点でも一致した」と説明した。
 一方、トランプ米大統領は10日の演説で、「対話をしている間は、北朝鮮はミサイルを発射しないと言った。多くのミサイルが発射されてきた。国土の上空をミサイルが飛んでいった日本は、私のしていることを、とても喜んでいる」と語った。
 
 日本として今後重要なことは、米朝首脳会談についてどのような姿勢で臨むかである。安倍首相が訪米することは、米韓が主役となったことに第三国が注文を付けるような印象があるという点ではしないほうがよいと思うが、日米間にはTPPなど他にも重要案件があるので、トランプ大統領の会談は有益なものとなりうる。
 トランプ大統領が金委員長と「対話」することについては、安倍首相は積極的な意義があると位置づけていることを示すことが必要である。そして、これを機会に、日本としても「圧力一本やり」政策を修正し、「対話」重視に転じるべきである。米朝両首脳の「対話」が行われているのに、日本が「対話」について消極的姿勢をとり続けることはあり得ない。
 それと同時に、日本にとって安全保障上重要な問題について、日本にあらかじめ相談することなく第三国と話すのは認められないことを、予防的に、くぎを刺しておくべきである。日米間には、とくに、トランプ大統領と安倍首相の関係に絞っても、違いがあることは明らかである。日米両国は100%一致していると強弁し続けるなどもってのほかである。

 このような政策転換は容易に行えることでないのはもちろんだが、日本の外交手段を狭めないために必要だと思う。


 

アーカイブ

検索

このページのトップへ

Copyright©平和外交研究所 All Rights Reserved.