オピニオン
2013.11.18
「最近、軍事用の無人機のことを聞く機会がめっきり増えてきた。米海軍の無人実験機X-47Bが空母への着陸に成功したニュースが伝えられた翌々日には、F16戦闘機が超音速の無人飛行に成功したことが発表されるといった具合である。戦闘機が地上や艦船からの操縦で自由自在に動けるようになるのも遠い将来のことではなさそうである。
無人機は長らく偵察用に使われていたが、最近は攻撃用に使われるようになった。これが大問題である。しかも、情報技術の発達により、パイロットは数千キロも離れた場所にいながら、無人機のテレビカメラから送られてくる映像を見て目標に狙いをつけ、攻撃する。言わばゲーム感覚で人を殺傷することになるそうである。
無人機の開発と利用が最も進んでいるのはやはり米国であり、何十種類もの無人機を合計1万機以上使っている。
中国も潤沢な資金を使って無人機開発を進めており、すでに「藍狐」「翼龍」など数種類の無人機を完成、ないしそれに近いところまで開発している。中国の開発能力は米国を凌ぎつつあると、米国防省の国防科学委員会が警鐘を鳴らしたこともあった。偵察用だけでなく、攻撃用も開発しているらしい。「中国は、13人の中国人を殺害したミャンマーの麻薬ボスを無人機で殺害しようと検討した。最終的には生け捕りにすることにしたが、中国の無人機技術がそこまで進歩したことを示唆している」とNY Timesが報道したこともあった(2013年2月20日付 中国の『環球時報』の記事を報道したもの)。
北朝鮮も無人機の訓練を行なっているそうである。韓国はグローバル・ホーク偵察機を購入する話し合いを続けている。この種の偵察機は現在グアムに配備され、北朝鮮に関する情報収集などを行なっている。また、日本の防衛省は、来年度予算でグローバル・ホークの調査費を要求する方針であると伝えられている。無人機の開発・取得合戦になりつつあるのだ。
無人機の性能がよくなったと言っても、パイロットが現場で目視して判断するのとは違っており、子供や女性を兵士と誤認して攻撃する事故が多発している。家族を殺害された者には強い憎しみが生まれるだろうし、そうなれば無人機を使用する側も安全でなくなるかもしれない。また、遠隔操作を行なう兵士の側でも、心理的な葛藤を覚え、神経に異常をきたす者がいるそうである。
米国の大統領補佐官は、無人飛行機を使った対テロ作戦はあくまで合法的なものだと米国の立場を説明している(2012年4月30日 IHT)が、無人機攻撃により深刻な人道問題が起こっていることは、どの国も目をつぶることのできない事実である。
無人機による攻撃を規制しなければならないという考えが強まってきたのはごく最近のことであるが、国連が無人機問題に強い関心を抱いているのは心強い。また、Drones Campaign Network、Global Drones Watch、Network to Stop Drone Surveillance and Warfare (NSDSW)などのグループやネットワークは無人機規制を進める運動を熱心に展開している。彼らは今年の9月、ニューヨークで無人機規制集会を開催し、国連総会に対してメッセージを送り、各国政府に積極的な取り組みを促した。
しかし、規制するとなると、無人機が汎用品であることが問題となる。農薬を散布するにも無人機が利用されている。米国では税関の国境警備局に導入され、密輸業者や不法移民の発見に使われている。災害状況の調査など科学的データを収集するのにも無人機が使われている。趣味のラジコンも無人機である。このような民生用無人機は必要なものであり、規制すべきでない。米連邦航空局は無人機の利用増大に備えて、関連の規制を2015年に緩和するそうである。
では、軍事用ならば規制してよいかというと、それにも問題がある。偵察用も攻撃用と同様規制すべきであるという意見もあるが、無人機による写真撮影は自然災害の例などを見ても今や不可欠であり、本質的にこれと異ならない偵察用の無人機を禁止するのは現実的とは思えない。
無人機がミサイルのように直接目標に体当たりするようになりつつあることは前述した。ミサイルについては拡散を防止するメカニズムは作られているが、兵器として禁止されているわけでない。無人機だけを規制できるかということも、これまた問題になるであろう。
無人機による攻撃を規制すると言っても、このような諸困難があるが、なんとかして問題点を絞り込み、規制を実現すべきである。今後どのような工夫ができるか。個人的には、たとえば電子媒体に残っているデータを国連などに提出させることなどは一案と思っている。軍としては攻撃の実態を明るみに出すことになり、当然激しく抵抗するであろうし、簡単でないのは承知の上であるが、安全な環境にいながら敵を攻撃する代償と考えれば、あながち荒唐無稽でないのではないか。
ともかく、この問題に多くの人たちが関心を持ち、また積極的に関与していくことが期待される。」
無人攻撃機を規制しよう
軍縮学会ニュースレター15号(11月13日付)に寄稿した一文「最近、軍事用の無人機のことを聞く機会がめっきり増えてきた。米海軍の無人実験機X-47Bが空母への着陸に成功したニュースが伝えられた翌々日には、F16戦闘機が超音速の無人飛行に成功したことが発表されるといった具合である。戦闘機が地上や艦船からの操縦で自由自在に動けるようになるのも遠い将来のことではなさそうである。
無人機は長らく偵察用に使われていたが、最近は攻撃用に使われるようになった。これが大問題である。しかも、情報技術の発達により、パイロットは数千キロも離れた場所にいながら、無人機のテレビカメラから送られてくる映像を見て目標に狙いをつけ、攻撃する。言わばゲーム感覚で人を殺傷することになるそうである。
無人機の開発と利用が最も進んでいるのはやはり米国であり、何十種類もの無人機を合計1万機以上使っている。
中国も潤沢な資金を使って無人機開発を進めており、すでに「藍狐」「翼龍」など数種類の無人機を完成、ないしそれに近いところまで開発している。中国の開発能力は米国を凌ぎつつあると、米国防省の国防科学委員会が警鐘を鳴らしたこともあった。偵察用だけでなく、攻撃用も開発しているらしい。「中国は、13人の中国人を殺害したミャンマーの麻薬ボスを無人機で殺害しようと検討した。最終的には生け捕りにすることにしたが、中国の無人機技術がそこまで進歩したことを示唆している」とNY Timesが報道したこともあった(2013年2月20日付 中国の『環球時報』の記事を報道したもの)。
北朝鮮も無人機の訓練を行なっているそうである。韓国はグローバル・ホーク偵察機を購入する話し合いを続けている。この種の偵察機は現在グアムに配備され、北朝鮮に関する情報収集などを行なっている。また、日本の防衛省は、来年度予算でグローバル・ホークの調査費を要求する方針であると伝えられている。無人機の開発・取得合戦になりつつあるのだ。
無人機の性能がよくなったと言っても、パイロットが現場で目視して判断するのとは違っており、子供や女性を兵士と誤認して攻撃する事故が多発している。家族を殺害された者には強い憎しみが生まれるだろうし、そうなれば無人機を使用する側も安全でなくなるかもしれない。また、遠隔操作を行なう兵士の側でも、心理的な葛藤を覚え、神経に異常をきたす者がいるそうである。
米国の大統領補佐官は、無人飛行機を使った対テロ作戦はあくまで合法的なものだと米国の立場を説明している(2012年4月30日 IHT)が、無人機攻撃により深刻な人道問題が起こっていることは、どの国も目をつぶることのできない事実である。
無人機による攻撃を規制しなければならないという考えが強まってきたのはごく最近のことであるが、国連が無人機問題に強い関心を抱いているのは心強い。また、Drones Campaign Network、Global Drones Watch、Network to Stop Drone Surveillance and Warfare (NSDSW)などのグループやネットワークは無人機規制を進める運動を熱心に展開している。彼らは今年の9月、ニューヨークで無人機規制集会を開催し、国連総会に対してメッセージを送り、各国政府に積極的な取り組みを促した。
しかし、規制するとなると、無人機が汎用品であることが問題となる。農薬を散布するにも無人機が利用されている。米国では税関の国境警備局に導入され、密輸業者や不法移民の発見に使われている。災害状況の調査など科学的データを収集するのにも無人機が使われている。趣味のラジコンも無人機である。このような民生用無人機は必要なものであり、規制すべきでない。米連邦航空局は無人機の利用増大に備えて、関連の規制を2015年に緩和するそうである。
では、軍事用ならば規制してよいかというと、それにも問題がある。偵察用も攻撃用と同様規制すべきであるという意見もあるが、無人機による写真撮影は自然災害の例などを見ても今や不可欠であり、本質的にこれと異ならない偵察用の無人機を禁止するのは現実的とは思えない。
無人機がミサイルのように直接目標に体当たりするようになりつつあることは前述した。ミサイルについては拡散を防止するメカニズムは作られているが、兵器として禁止されているわけでない。無人機だけを規制できるかということも、これまた問題になるであろう。
無人機による攻撃を規制すると言っても、このような諸困難があるが、なんとかして問題点を絞り込み、規制を実現すべきである。今後どのような工夫ができるか。個人的には、たとえば電子媒体に残っているデータを国連などに提出させることなどは一案と思っている。軍としては攻撃の実態を明るみに出すことになり、当然激しく抵抗するであろうし、簡単でないのは承知の上であるが、安全な環境にいながら敵を攻撃する代償と考えれば、あながち荒唐無稽でないのではないか。
ともかく、この問題に多くの人たちが関心を持ち、また積極的に関与していくことが期待される。」
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