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2017.12.13

前提条件なしの米朝対話

 ティラーソン米国務長官は12月12日、シンクタンク「アトランティック・カウンシル(Atlantic Council)」の政策フォーラムで、「われわれは前提条件なしに北朝鮮と第1回会合を行う用意がある。会うだけ会って、話したければ天気の話でもして、気分が乗れば、会合のテーブルを四角いのにするか円いのにするか話せばいい」と発言した。これは評価すべき発言である。
 米国の立場は、公式な場では、対話を始めるには、北朝鮮が「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)」を実行しなければならないというものであり、この方針は日本も共有している。
 しかし、実際にはこの方針を維持したまま北朝鮮の非核化を実現できるとはだれも思わない状況になっていた。
 その中で、ティラーソン長官はかねてより、北朝鮮に対して圧力をかける方針を維持しつつ、対話についても前向きの姿勢を示していたが、今回の発言のように、前提条件を付けずに話し合いに応じる姿勢を示したのは初めてであり、非常に注目される。ティラーソン長官は北朝鮮との関係において一歩前に踏み出したと言える。

 当然、トランプ大統領の姿勢が問われる。同大統領は表面的には安倍首相と全く同じであり、「今、対話をすべきでない。あくまで圧力を強める必要がある」ということであるが、トランプ氏は対話について幅のある姿勢であり、一方で、圧力を強くすることだけを主張する安倍首相に同意しつつ、他方、文在寅大統領には、対話によって解決を図る可能性にも言及し、また習近平主席にも安倍首相とは異なる物言いをしていた(詳しくは『世界』2018年新年号「トランプ大統領のアジア歴訪と安倍外交」を参照されたい)。
 ティラーソン長官が今回の発言を行うに際して、事前にトランプ大統領の了解を得ていたか不明であるが、トランプ氏と協議していなくてもトランプ氏の幅のある対応から判断すれば、了解してもらえると考えていた可能性がある。

 ただし、今回の発言だけでは事態がさらに前進するとはまだ言えないだろう。ティラーソン氏の国務長官としての地位は不安定であり、近日中に辞職するとも、しないともいわれている。
 そんな問題もあるが、北朝鮮は今回のティラーソン氏の発言を重く受け止めるべきである。北朝鮮が何らかの肯定的反応を示せれば、朝鮮半島、さらには東アジア全域におよぶ大惨事を回避するきっかけとなりうる。北朝鮮側では、核とミサイルの実験を控えることが考えられるが、積極的にティラーソン発言を受け止めていることを示すだけならば、他にも方法があろう。
 米国としてもさらになすべきことがある。北朝鮮は猜疑的な見方をするので、さらなるサインを出すことが望ましい。韓国との合同演習を暫定的であってもよい、停止することなどもあるが、トランプ大統領自身が前向きの姿勢を示すことができれば事態は大きく変わってくる。あるいはそこへ至る前に、ティラーソン長官が李容浩外相と前提条件なく話し合うのが現実的な方策かもしれない。

 米朝関係は1950年以来、あまりにもこじれ、複雑化しているだけに、今回の前提条件なしの話し合い提案は貴重である。緊張がかつてなく高まっている今日、双方が危険回避に向けさらなる一歩を踏み出すことを期待したい。
 日本政府には、緊張激化と偶発戦争の危険しか見えてこない「圧力一本やり」と、戦争許容を含む「すべての選択肢支持」をやめてもらいたい。

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