オピニオン
2017.11.21
昨年7月、国際仲裁裁判所は、フィリピンが申し立てていたスカーボロー礁(中国名「黄岩岛」以下同)やスプラトリー諸島(南沙諸島)などにおける中国との紛争について、ほぼ全面的に中国の主張を退ける判決を下した。
スカーボロー礁では1990年代の終わりころから両国間で紛争があり、2012年には双方が艦船を派遣してにらみ合う状況に陥り、後にフィリピン側は引き上げたが、中国船は居残った。
また、スプラトリー諸島では、やはり1990年代から紛争があり、2015年に入ると中国は埋め立てや建設工事を急ピッチで進めたので、フィリピンが国際仲裁裁判所に提訴したのであった。
米国は国際法を無視した中国の行動は認めない、それによって南シナ海における航行の自由がさまたげられてはならないとして、いわゆる「航行の自由」作戦を断続的に行ってきた。
また日本も基本的には米国と同じ立場であり、中国は仲裁判決を受け入れるべきであると表明してきた。
しかし、中国は強く反発し、東南アジア諸国にこの判決を無視するよう求めた。これにとくに積極的に応じたのはフィリピンであった。新任のドゥテルテ大統領は、国内でテロや犯罪への対応に追われる一方、対外面では中国とできるだけ事を構えず、フィリピン漁民の安全操業、中国のフィリピンに対する経済協力など経済面での関係改善を重視し、仲裁判決など国際法的な立場を前面に出すことを控えてきた。
今年のASEAN首脳会議が中国に融和的な姿勢をとるのにフィリピンは比較的大きな役割を果たしたものとみられる。
今次会議については、「懸念」以外にいくつか注目すべき点がある。
第1に、国際仲裁裁判所の判決について、ASEAN諸国が中国にその履行を求めることを控えたのは明らかだ。このことについて、ASEAN諸国と中国は判決を「棚上げ」した、と評される可能性があるが、それは正確でないだろう。「棚上げ」の合意はなかった。中国とASEAN諸国は、基本的にはそれぞれの立場でこの問題を大事にしないほうが得策だと判断したに過ぎない。
第2に、南シナ海問題について、ASEAN諸国が経済的な利害を重視したのは明らかだが、政治的、国際法的に正しい解決を目指すことを放棄したのではなく、いわば休戦状態になっているに過ぎない。仮に中国があらたな埋め立てや建設工事を始めると緊張状態は復活する。また、漁業をめぐって偶発的な衝突が発生する危険もある。
第3に、南シナ海でかねてから懸案となってきた「行動綱領(COC)」については、中国の恣意的な政治的影響力の行使を制限したいASEAN諸国と、それを嫌う中国という基本的対立があるため作成作業は遅々として進んでいないが、双方とも、その完成に向け努力を継続することにしている。
第4に、中国は今後、南シナ海より、台湾への攻勢を強める可能性がある。習近平政権はこれまでかくかくたる成果を上げ、さきの第19回共産党大会でその業績が改めて承認され、独裁的とも評される地位を確立したが、台湾問題はあまり進展(中国から見て)しなかった。今後5年間の第2期目においては、南シナ海よりも台湾との関係で現状の打開を図ろうとするのではないか。中国は台湾が外交関係を維持してきた中米諸国に対する働きかけをすでに強めている。
南シナ海問題についてASEANサミットは融和的であったか
中国が国際法を無視して権利のない島や岩礁で埋め立て工事を行い、また飛行場を建設するなどしてきた南シナ海について、2017年11月、フィリピンで開催されたASEAN首脳会議の議長声明は「懸念」の表明をしなかった。2014年5月の首脳会議で「深刻な懸念」を表明して以来、「懸念の維持」「懸念を共有」などと表現は多少変えながらも毎回維持してきたキーワードだが、今回はまったく姿を消したのである。もっとも、当然のことながら、このような結論を導くのは容易でなかったのだろう。今回の議長声明は会議が終了してから3日後にようやく発表された。会議が終わってもすぐに議長声明が発表されないのはよくあることだが、3日もの遅れはまれであった。昨年7月、国際仲裁裁判所は、フィリピンが申し立てていたスカーボロー礁(中国名「黄岩岛」以下同)やスプラトリー諸島(南沙諸島)などにおける中国との紛争について、ほぼ全面的に中国の主張を退ける判決を下した。
スカーボロー礁では1990年代の終わりころから両国間で紛争があり、2012年には双方が艦船を派遣してにらみ合う状況に陥り、後にフィリピン側は引き上げたが、中国船は居残った。
また、スプラトリー諸島では、やはり1990年代から紛争があり、2015年に入ると中国は埋め立てや建設工事を急ピッチで進めたので、フィリピンが国際仲裁裁判所に提訴したのであった。
米国は国際法を無視した中国の行動は認めない、それによって南シナ海における航行の自由がさまたげられてはならないとして、いわゆる「航行の自由」作戦を断続的に行ってきた。
また日本も基本的には米国と同じ立場であり、中国は仲裁判決を受け入れるべきであると表明してきた。
しかし、中国は強く反発し、東南アジア諸国にこの判決を無視するよう求めた。これにとくに積極的に応じたのはフィリピンであった。新任のドゥテルテ大統領は、国内でテロや犯罪への対応に追われる一方、対外面では中国とできるだけ事を構えず、フィリピン漁民の安全操業、中国のフィリピンに対する経済協力など経済面での関係改善を重視し、仲裁判決など国際法的な立場を前面に出すことを控えてきた。
今年のASEAN首脳会議が中国に融和的な姿勢をとるのにフィリピンは比較的大きな役割を果たしたものとみられる。
今次会議については、「懸念」以外にいくつか注目すべき点がある。
第1に、国際仲裁裁判所の判決について、ASEAN諸国が中国にその履行を求めることを控えたのは明らかだ。このことについて、ASEAN諸国と中国は判決を「棚上げ」した、と評される可能性があるが、それは正確でないだろう。「棚上げ」の合意はなかった。中国とASEAN諸国は、基本的にはそれぞれの立場でこの問題を大事にしないほうが得策だと判断したに過ぎない。
第2に、南シナ海問題について、ASEAN諸国が経済的な利害を重視したのは明らかだが、政治的、国際法的に正しい解決を目指すことを放棄したのではなく、いわば休戦状態になっているに過ぎない。仮に中国があらたな埋め立てや建設工事を始めると緊張状態は復活する。また、漁業をめぐって偶発的な衝突が発生する危険もある。
第3に、南シナ海でかねてから懸案となってきた「行動綱領(COC)」については、中国の恣意的な政治的影響力の行使を制限したいASEAN諸国と、それを嫌う中国という基本的対立があるため作成作業は遅々として進んでいないが、双方とも、その完成に向け努力を継続することにしている。
第4に、中国は今後、南シナ海より、台湾への攻勢を強める可能性がある。習近平政権はこれまでかくかくたる成果を上げ、さきの第19回共産党大会でその業績が改めて承認され、独裁的とも評される地位を確立したが、台湾問題はあまり進展(中国から見て)しなかった。今後5年間の第2期目においては、南シナ海よりも台湾との関係で現状の打開を図ろうとするのではないか。中国は台湾が外交関係を維持してきた中米諸国に対する働きかけをすでに強めている。
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