オピニオン
2017.11.14
米国の大統領がこれだけ長く母国を離れることは珍しいことであったという。
事前には北朝鮮と貿易の二つが最大の注目点になっていたが、結局、貿易の比重が大きくなった。トランプ氏は日本、韓国及び中国において貿易面で大きな成果を上げ、中国とは28兆円にのぼる企業間契約を締結させた。また、APECでは、二国間主義を貫こうとするトランプ大統領に一定の配慮が払われ、非難めいたことは宣言に盛り込まれなかった。
一方、北朝鮮問題が大きな問題にならなかったことは、ある意味、喜ぶべきことだろう。しかし、一連の会議においてではなかったが、トランプ氏は12日、ツイッターで、金正恩委員長について、「金正恩氏はなぜ私を『年寄り』と侮辱するのだろうか。私は彼を『チビでデブ』と決して呼ばないのに」と記した。さらに、ベトナムのチャン・ダイ・クアン国家主席との共同記者会見で、金正恩氏と友人になる可能性を問われ、トランプ氏は「あらゆることに可能性はある。人生、不思議なことが起きる。もし友人になれば、北朝鮮にとって、世界にとって良いことだろう。可能性は確かにある。そうなるかは分からないが、そうなれば非常に素晴らしいことだ」と回答したのは実に興味深い発言であった。
トランプ氏が、条件付きであったとはいえ、金正恩氏と友人になれる可能性に言及したのは初めてだと思う。この発言は、トランプ大統領が、北朝鮮問題については圧力の強化を重視しつつも、かなり幅のある見方をしていることの新たな証左である。
トランプ大統領以上に満足したのは習近平主席であった。何が飛び出すか分からないところがあるトランプ氏の訪中を大成功で終わらせることができたからである。トランプ氏をどのように遇するのがよいか、周到に準備したのは当たり前であったが、非常に巧妙であった。トランプ氏が理屈よりも「力」を重視する傾向があることを踏まえ、中国は米国よりはるかに長い歴史があること、中国のパワーは侮れないことを強く印象付け、さらに超大規模な企業間契約を成立させるなどしてトランプ氏を喜ばせた。また、中国は米国とともに世界の平和と安定を守っていくことを強調しつつ、処々に「大国中国」を印象付けた。
これに対しトランプ氏は、会見で貿易不均衡問題に言及し、「我々は貿易上の問題を解決するために着実に行動しなければならない。米国企業が中国で公平に競争できるようにさせなければならない」と説く一方、「貿易不均衡は中国の責任ではない。その責任は放置してきた歴代の米大統領にある」と異例の発言まで行って歓待してくれた習近平主席にこたえた。
そして習氏は、APECでトランプ氏が二国間主義にこだわるのをしり目に、中国は多国間協調を重視し、グローバル化を尊重しつつ積極的な役割をはたす姿勢であることを強調した。
一方、各国から批判されやすい南シナ海問題については、ASEAN首脳会議は中国への配慮を示し、昨年言及した中国の活動への「懸念」は議長声明に盛り込まない見通しとなっている。
安倍首相と習主席の会談では、今後の関係改善につながる希望が高まった。安倍首相が南シナ海の問題を封印するなどして中国との関係改善に積極的な姿勢を示したことが今回の会談成功に貢献したのはもちろんだが、習近平主席が笑顔で応じたのは、中国内では第19回党大会を成功させ、対外面ではトランプ大統領の訪中とAPECおよびASEANの首脳会議で大国らしい役割を果たしえた満足感が背景となっていたと思われる。
トランプ大統領のアジア歴訪
トランプ米大統領は11月5日からの日本訪問を皮切りに、韓国、中国と相次いで訪問し、さらにアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席するためベトナム(ダナン)、ついでASEAN首脳会議拡大会議のためにフィリピンへと足を延ばした。ベトナムでは、環太平洋経済連携協定(TPP)の首脳会議がAPECと並行して開催される予定であり、米国は離脱を表明しているのでトランプ氏は直接関係ない立場であったが、やはり注目された。米国の大統領がこれだけ長く母国を離れることは珍しいことであったという。
事前には北朝鮮と貿易の二つが最大の注目点になっていたが、結局、貿易の比重が大きくなった。トランプ氏は日本、韓国及び中国において貿易面で大きな成果を上げ、中国とは28兆円にのぼる企業間契約を締結させた。また、APECでは、二国間主義を貫こうとするトランプ大統領に一定の配慮が払われ、非難めいたことは宣言に盛り込まれなかった。
一方、北朝鮮問題が大きな問題にならなかったことは、ある意味、喜ぶべきことだろう。しかし、一連の会議においてではなかったが、トランプ氏は12日、ツイッターで、金正恩委員長について、「金正恩氏はなぜ私を『年寄り』と侮辱するのだろうか。私は彼を『チビでデブ』と決して呼ばないのに」と記した。さらに、ベトナムのチャン・ダイ・クアン国家主席との共同記者会見で、金正恩氏と友人になる可能性を問われ、トランプ氏は「あらゆることに可能性はある。人生、不思議なことが起きる。もし友人になれば、北朝鮮にとって、世界にとって良いことだろう。可能性は確かにある。そうなるかは分からないが、そうなれば非常に素晴らしいことだ」と回答したのは実に興味深い発言であった。
トランプ氏が、条件付きであったとはいえ、金正恩氏と友人になれる可能性に言及したのは初めてだと思う。この発言は、トランプ大統領が、北朝鮮問題については圧力の強化を重視しつつも、かなり幅のある見方をしていることの新たな証左である。
トランプ大統領以上に満足したのは習近平主席であった。何が飛び出すか分からないところがあるトランプ氏の訪中を大成功で終わらせることができたからである。トランプ氏をどのように遇するのがよいか、周到に準備したのは当たり前であったが、非常に巧妙であった。トランプ氏が理屈よりも「力」を重視する傾向があることを踏まえ、中国は米国よりはるかに長い歴史があること、中国のパワーは侮れないことを強く印象付け、さらに超大規模な企業間契約を成立させるなどしてトランプ氏を喜ばせた。また、中国は米国とともに世界の平和と安定を守っていくことを強調しつつ、処々に「大国中国」を印象付けた。
これに対しトランプ氏は、会見で貿易不均衡問題に言及し、「我々は貿易上の問題を解決するために着実に行動しなければならない。米国企業が中国で公平に競争できるようにさせなければならない」と説く一方、「貿易不均衡は中国の責任ではない。その責任は放置してきた歴代の米大統領にある」と異例の発言まで行って歓待してくれた習近平主席にこたえた。
そして習氏は、APECでトランプ氏が二国間主義にこだわるのをしり目に、中国は多国間協調を重視し、グローバル化を尊重しつつ積極的な役割をはたす姿勢であることを強調した。
一方、各国から批判されやすい南シナ海問題については、ASEAN首脳会議は中国への配慮を示し、昨年言及した中国の活動への「懸念」は議長声明に盛り込まない見通しとなっている。
安倍首相と習主席の会談では、今後の関係改善につながる希望が高まった。安倍首相が南シナ海の問題を封印するなどして中国との関係改善に積極的な姿勢を示したことが今回の会談成功に貢献したのはもちろんだが、習近平主席が笑顔で応じたのは、中国内では第19回党大会を成功させ、対外面ではトランプ大統領の訪中とAPECおよびASEANの首脳会議で大国らしい役割を果たしえた満足感が背景となっていたと思われる。
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