オピニオン
2017.11.07
しかしながら、そのようなときだからこそ、米国の、というよりトランプ大統領の対日戦略は何かをあらためて見ておきたい。
北朝鮮問題が今回の首脳会談の主要議題の一つであり、北朝鮮に対して「最大限の圧力」を加える必要があるとの認識で両首脳は一致した。これは事前の予想通りの結果であった。安倍首相は「日米が100%ともにあることを力強く確認した」と表明し、また、トランプ大統領も安倍首相の発言にうなずくなど、両者は北朝鮮問題で完全に一致していることを強くアピールして見せた。
しかし、北朝鮮に関する両者の見解はほんとうに一致しているのか。安倍首相は北朝鮮に対して、かねてから「圧力を強化する必要がある」との一点張りであるが、トランプ氏はちょっと違うのではないか。
トランプ氏は、就任後間もない2月にフロリダで行われた安倍首相との会談で、北朝鮮問題については100%安倍首相を支持すると述べた。そしてその後もその発言を繰り返してきたらしい。安倍首相の、日米両国は100%ともにあるとの発言はその反映のように思われる。
しかし、トランプ氏の北朝鮮に対する認識にはかなりの幅がある。トランプ氏は、たしかに金正恩委員長を強く批判し、「リトル・ロケットマン」と嘲笑し、さらに米軍の圧倒的な軍事力を背景に恫喝的な発言までしているが、他方では、金正恩氏と対話する考えを漏らしたことがある。米朝両国が対話に進むか否かが問題になっている今は、さすがに言わなくなっているが、はたして本当に考えを変えたか、対話は望まなくなっているか疑問である。
また、トランプ氏は金正恩氏を一定程度理解する考えを示したこともある。たとえば、去る4月末にCBSとのインタビューでの発言である。
もしそうであれば、トランプ氏はなぜ安倍首相に100%支持するとまで表明するのか。
それは、安倍首相がトランプ氏に、北朝鮮の脅威を説き、圧力強化に集中することが必要だと説得した結果かもしれない。
しかし、それだけでなく、トランプ氏は安倍首相の強硬策が米国にとって都合がよいとみているのではないか。北朝鮮の脅威が高まり、日本が安全保障上米国への依存度をさらに深めると、米国が日本と貿易・通商面で交渉するのに有利になり、高価な武器を日本に売りつけるのにも役立つからだ。今回の首脳会談ではそのような考えが露骨に示された。トランプ大統領が武器売却に言及した際にみせた生き生きとした顔は印象的であったという。
もう一つ注目されるのは、トランプ政権には日本や中国との交渉に臨む際には一定の方針があるが、アジア・太平洋についての戦略はないことである。「アジアへのリバランス」を謳ったオバマ政権とは違っているのである。
現在、ホワイトハウスにも国務省にも、アジア・太平洋における戦略についてトランプ大統領に説得できる補佐がいないことも影響しているのだろう。
しかし、より本質的なことは、トランプ氏が多角的、地域的戦略を好まないことである。トランプ氏には、日本、中国、韓国などとどのように交渉するのがよいかについてはかなり明確な方針があるようだが、多角的、地域的戦略は見えてこない。見えてくるのは、「米国第一」と「偉大な米国の復活」への強い志向であり、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)や地球温暖化に関するパリ協定などを退けようとする姿勢である。
多角的、地域的バランスを重視しないトランプ政権の下で、米国の日本との同盟の絆が一層強まることは自然な流れであり、必然的なこととさえ思われる。しかし、そこに危険はないか。
理論の問題でない。トランプ政権の下で現実にどのような状況が生まれるか、明確な見通しを以って対応していく必要がある。
トランプ政権は、「すべての選択肢はテーブルの上にある」と言い、安倍首相は、前述したとおり、それを支持して、「日米が100%ともにあることを力強く確認した」と表明した。
しかるに、すべての選択肢のなかに北朝鮮に対する軍事行動が含まれているのは明らかであり、その意味合いを承知の上で安倍首相が米国を支持するのは危険なことであり、国民として容認できない。日本はあくまで米国が軍事行動に出ることに反対すべきである。それは地域的に必要なことでもある。米軍による軍事行動への支持は、「圧力を強化する」との表明よりも何倍も罪が重い。
安倍氏とトランプ氏は馬があうようだが、深層心理においては非常に違っている。安倍氏は先の大戦での我が国の行動は他国に対する侵略ではなかったという考えであろう。
一方、トランプ氏は「リメンバー・パールハーバー」を口にする米国人の一人である。今回の訪日に先立ってハワイを訪れた際にも、また、時間は前後するが、オバマ氏が米国大統領として初めて広島を訪問した際にもこの言葉を口にして批判した。
トランプ氏は、1941年の日本軍による真珠湾攻撃を忘れていないのだが、ただ単に忘れていないのでなく、現在の政治状況の中でもそのことを問題視しているのではないか。
また、トランプ氏はかつて日系人の強制収用は反省する必要がないという趣旨の発言をしたことがある。そこには、イスラムに対するのと同様、人種主義的な偏見があるのではないか。
現在と将来の日米関係を語るたびに「リメンバー・パールハーバー」と日系人の強制収容のことを持ち出すべきとは思わないが、トランプ氏の根底にあるこだわりや偏見を忘れるわけにはいかない。
米側でも安倍首相の戦争観を忘れていないだろう。日米間の同盟関係はゆるぎないものとなっているとしても、そのような側面があることには留意が必要である。
平時においては、両者のそのような違いは問題にならず、相性の良さばかりが目立つだろうが、北朝鮮をめぐって軍事衝突が起こるとそうはいかなくなる。米国が日本に対し自衛隊の派遣を求めてくれば日本としてどのように対応するか。2015年に改訂された安保法制に従えば、自衛隊は朝鮮半島へ出動することが、厳しい要件が満たされる場合であるが、可能になっている。しかし、国会の質疑においては、安倍首相は自衛隊が海外に派遣されることはないと断言した。トランプ氏が自衛隊の出動を求めてきた場合に日本としてどのように対応するのか。このようなことも考えて北朝鮮問題に対応する必要があるのではないか。
トランプ大統領の訪日
トランプ大統領の訪日(11月5~7日)は大成功であった。安倍首相とトランプ大統領の特別に緊密な関係には日本国民のみならず、世界が注目しただろう。米国の大統領がトランプ氏ほど日本に対する好意を表したことはかつてなかったと思われる。東アジアのみならず、世界の平和と安定にとって重要な役割を果たしている日米関係が一層固められたことは誠に喜ばしい。しかしながら、そのようなときだからこそ、米国の、というよりトランプ大統領の対日戦略は何かをあらためて見ておきたい。
北朝鮮問題が今回の首脳会談の主要議題の一つであり、北朝鮮に対して「最大限の圧力」を加える必要があるとの認識で両首脳は一致した。これは事前の予想通りの結果であった。安倍首相は「日米が100%ともにあることを力強く確認した」と表明し、また、トランプ大統領も安倍首相の発言にうなずくなど、両者は北朝鮮問題で完全に一致していることを強くアピールして見せた。
しかし、北朝鮮に関する両者の見解はほんとうに一致しているのか。安倍首相は北朝鮮に対して、かねてから「圧力を強化する必要がある」との一点張りであるが、トランプ氏はちょっと違うのではないか。
トランプ氏は、就任後間もない2月にフロリダで行われた安倍首相との会談で、北朝鮮問題については100%安倍首相を支持すると述べた。そしてその後もその発言を繰り返してきたらしい。安倍首相の、日米両国は100%ともにあるとの発言はその反映のように思われる。
しかし、トランプ氏の北朝鮮に対する認識にはかなりの幅がある。トランプ氏は、たしかに金正恩委員長を強く批判し、「リトル・ロケットマン」と嘲笑し、さらに米軍の圧倒的な軍事力を背景に恫喝的な発言までしているが、他方では、金正恩氏と対話する考えを漏らしたことがある。米朝両国が対話に進むか否かが問題になっている今は、さすがに言わなくなっているが、はたして本当に考えを変えたか、対話は望まなくなっているか疑問である。
また、トランプ氏は金正恩氏を一定程度理解する考えを示したこともある。たとえば、去る4月末にCBSとのインタビューでの発言である。
もしそうであれば、トランプ氏はなぜ安倍首相に100%支持するとまで表明するのか。
それは、安倍首相がトランプ氏に、北朝鮮の脅威を説き、圧力強化に集中することが必要だと説得した結果かもしれない。
しかし、それだけでなく、トランプ氏は安倍首相の強硬策が米国にとって都合がよいとみているのではないか。北朝鮮の脅威が高まり、日本が安全保障上米国への依存度をさらに深めると、米国が日本と貿易・通商面で交渉するのに有利になり、高価な武器を日本に売りつけるのにも役立つからだ。今回の首脳会談ではそのような考えが露骨に示された。トランプ大統領が武器売却に言及した際にみせた生き生きとした顔は印象的であったという。
もう一つ注目されるのは、トランプ政権には日本や中国との交渉に臨む際には一定の方針があるが、アジア・太平洋についての戦略はないことである。「アジアへのリバランス」を謳ったオバマ政権とは違っているのである。
現在、ホワイトハウスにも国務省にも、アジア・太平洋における戦略についてトランプ大統領に説得できる補佐がいないことも影響しているのだろう。
しかし、より本質的なことは、トランプ氏が多角的、地域的戦略を好まないことである。トランプ氏には、日本、中国、韓国などとどのように交渉するのがよいかについてはかなり明確な方針があるようだが、多角的、地域的戦略は見えてこない。見えてくるのは、「米国第一」と「偉大な米国の復活」への強い志向であり、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)や地球温暖化に関するパリ協定などを退けようとする姿勢である。
多角的、地域的バランスを重視しないトランプ政権の下で、米国の日本との同盟の絆が一層強まることは自然な流れであり、必然的なこととさえ思われる。しかし、そこに危険はないか。
理論の問題でない。トランプ政権の下で現実にどのような状況が生まれるか、明確な見通しを以って対応していく必要がある。
トランプ政権は、「すべての選択肢はテーブルの上にある」と言い、安倍首相は、前述したとおり、それを支持して、「日米が100%ともにあることを力強く確認した」と表明した。
しかるに、すべての選択肢のなかに北朝鮮に対する軍事行動が含まれているのは明らかであり、その意味合いを承知の上で安倍首相が米国を支持するのは危険なことであり、国民として容認できない。日本はあくまで米国が軍事行動に出ることに反対すべきである。それは地域的に必要なことでもある。米軍による軍事行動への支持は、「圧力を強化する」との表明よりも何倍も罪が重い。
安倍氏とトランプ氏は馬があうようだが、深層心理においては非常に違っている。安倍氏は先の大戦での我が国の行動は他国に対する侵略ではなかったという考えであろう。
一方、トランプ氏は「リメンバー・パールハーバー」を口にする米国人の一人である。今回の訪日に先立ってハワイを訪れた際にも、また、時間は前後するが、オバマ氏が米国大統領として初めて広島を訪問した際にもこの言葉を口にして批判した。
トランプ氏は、1941年の日本軍による真珠湾攻撃を忘れていないのだが、ただ単に忘れていないのでなく、現在の政治状況の中でもそのことを問題視しているのではないか。
また、トランプ氏はかつて日系人の強制収用は反省する必要がないという趣旨の発言をしたことがある。そこには、イスラムに対するのと同様、人種主義的な偏見があるのではないか。
現在と将来の日米関係を語るたびに「リメンバー・パールハーバー」と日系人の強制収容のことを持ち出すべきとは思わないが、トランプ氏の根底にあるこだわりや偏見を忘れるわけにはいかない。
米側でも安倍首相の戦争観を忘れていないだろう。日米間の同盟関係はゆるぎないものとなっているとしても、そのような側面があることには留意が必要である。
平時においては、両者のそのような違いは問題にならず、相性の良さばかりが目立つだろうが、北朝鮮をめぐって軍事衝突が起こるとそうはいかなくなる。米国が日本に対し自衛隊の派遣を求めてくれば日本としてどのように対応するか。2015年に改訂された安保法制に従えば、自衛隊は朝鮮半島へ出動することが、厳しい要件が満たされる場合であるが、可能になっている。しかし、国会の質疑においては、安倍首相は自衛隊が海外に派遣されることはないと断言した。トランプ氏が自衛隊の出動を求めてきた場合に日本としてどのように対応するのか。このようなことも考えて北朝鮮問題に対応する必要があるのではないか。
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