オピニオン
2017.10.06
米国が北朝鮮と対話のルートを維持していることはかねてから知られていたが、さらに、10月19-21日にモスクワで開催される核不拡散をテーマにした国際会議において、北朝鮮外務省の崔善姫米州局長が米国のシャーマン元国務次官ら会談する可能性があるとも言われている。
ところが、トランプ大統領は1日、「素晴らしい国務長官のレックス・ティラーソンに、リトル・ロケットマンと交渉しようとしているのは時間の無駄だと伝えた」「レックス、労力を無駄にしないで。やらなくてはならないことをやるから!」などとツイートした。リトル・ロケットマンとはトランプ大統領が先に国連総会で行った演説で用いた言葉であり、金正恩委員長のことである。
国務長官による北朝鮮との対話を模索する努力を「時間の無駄」と切り捨てたのは、トランプ政権でなければ起こりえない醜態である。日本で同じことが起こったならば、閣内不一致として大騒ぎになったであろう。
トランプ大統領が北朝鮮との対話を「時間の無駄」と言い始めたのは、安倍首相の影響があったからではないかと思われる。安倍首相は9月17日付『ニューヨーク・タイムズ』紙に北朝鮮との対話は時間の無駄だという趣旨の投稿を行い、また、20日には国連総会で同様の趣旨の演説を行った。これだけでも異例であるが、さらに安倍首相は、電話でトランプ大統領に対し、「時間の無駄」だと強調したのではないか。
安倍首相は9月3日、記者会見で、「北朝鮮情勢を受けて、この1週間でトランプ大統領と3度、電話首脳会談を行いました。今日の電話首脳会談においては、最新の情勢の分析、そして、それへの対応について改めて協議を行いました。
北朝鮮が挑発行動を一方的にエスカレートさせている中において、韓国を含めた日米韓の緊密な連携が求められています。今後、日米韓、しっかりと連携しながら、さらには国際社会とともに、緊密に協力して北朝鮮に対する圧力を高め、北朝鮮の政策を変えさせていかなければならない、その点で完全に一致したところであります。
様々な情報に接しているわけでありますが、我々は冷静にしっかりと分析をしながら、対応策を各国と連携して協議し、そして、国民の命、財産を守るために万全を期していきたいと思います。」と述べていた。
これが公表されているすべてであり、これだけでは安倍首相がトランプ大統領に「時間の無駄」を説得したか明確でないが、1週間に3回の米国大統領との電話会談は異様である。
一方、マティス長官は10月3日、上院軍事委員会での公聴会に出席し、「国防総省はティラーソン氏の外交解決策を引き出す努力を完全に支持するが、米国と同盟国の防衛を今後も重視する」と発言した。トランプ大統領のツイッターとは正反対の態度を示したのであり、トランプ大統領が主要閣僚から信頼されていないことが浮き彫りになった。
ティラーソン長官はかねてから辞任のうわさがあり、今回の大統領との発言の食い違いをきっかけに4日、記者からあらためて辞任の可能性について問われ、「辞任を検討したことはない。トランプ大統領が掲げる議題(agendaであり、意味としては「問題」により近い)に現在も就任時と同様にコミットしている」と述べたと伝えられた。
しかし、米国のメディアはティラーソン氏の辞任の可能性に強い関心を見せ、NBCニュースは、「ペンス副大統領を含む政権高官が7月、ティラーソン氏に辞任しないよう説得していた。国防総省で開かれた安全保障チームと閣僚らとの会合でティラーソン氏はトランプ氏を「能なし(moron)」と呼んで批判した」などと報じた。
この報道に関し、ティラーソン氏は国務省で急遽記者会見し、「辞任を検討したことはない」とし、「トランプ大統領が自身の目標達成に向け役に立つと考える限り、国務長官のポストにとどまる」「トランプ氏は賢明な人物だ。彼は結果を出すことを要求する」などと述べた。また、トランプ氏を「能なし」と呼んだかについては、「そのような取るに足らない事項については語らない」とし、直接的な言及は避けた。
ティラーソン氏を説得したと言われたペンス副大統領は、声明を発表し、「辞任を巡りティラーソン氏と話し合ったことは一度もない」と述べた。そしてトランプ大統領はツイッターでNBCに対し謝罪を要求した。これに対しNBC側は、「ティラーソン長官は報道内容の主要な点について直接否定していないため、NBCは謝罪しない」とツイートした。NBCの今回の報道には複数の記者が関わったそうだ。
感想に過ぎないが、北朝鮮問題に関し、トランプ大統領は安倍首相の見解をほぼそのまま受け入れる一方、国務長官や国防長官からはまったく違った見解が示される形になっている。このような状況ははたして今後も続くのか。危惧を覚えてならない。
北朝鮮政策に関する米政権内の不協和音
北朝鮮に関する政策、とくに米国として北朝鮮との対話に臨むべきか否かに関して、トランプ大統領とティラーソン国務長官の発言が食い違ってきている。とくに目立ってきたのはティラーソン長官が中国訪問中の9月30日、「北朝鮮との対話ルートがある」、「状況は真っ暗と言うわけではない」、「北朝鮮との対話の可能性を模索している」などと発言してからであった。対話ルートの存在は、国務省も「北朝鮮当局者は非核化について交渉に興味がある、もしくは用意があるという様子を、まったく示していない」と慎重な姿勢を示しつつであったが、確認はしたという。米国が北朝鮮と対話のルートを維持していることはかねてから知られていたが、さらに、10月19-21日にモスクワで開催される核不拡散をテーマにした国際会議において、北朝鮮外務省の崔善姫米州局長が米国のシャーマン元国務次官ら会談する可能性があるとも言われている。
ところが、トランプ大統領は1日、「素晴らしい国務長官のレックス・ティラーソンに、リトル・ロケットマンと交渉しようとしているのは時間の無駄だと伝えた」「レックス、労力を無駄にしないで。やらなくてはならないことをやるから!」などとツイートした。リトル・ロケットマンとはトランプ大統領が先に国連総会で行った演説で用いた言葉であり、金正恩委員長のことである。
国務長官による北朝鮮との対話を模索する努力を「時間の無駄」と切り捨てたのは、トランプ政権でなければ起こりえない醜態である。日本で同じことが起こったならば、閣内不一致として大騒ぎになったであろう。
トランプ大統領が北朝鮮との対話を「時間の無駄」と言い始めたのは、安倍首相の影響があったからではないかと思われる。安倍首相は9月17日付『ニューヨーク・タイムズ』紙に北朝鮮との対話は時間の無駄だという趣旨の投稿を行い、また、20日には国連総会で同様の趣旨の演説を行った。これだけでも異例であるが、さらに安倍首相は、電話でトランプ大統領に対し、「時間の無駄」だと強調したのではないか。
安倍首相は9月3日、記者会見で、「北朝鮮情勢を受けて、この1週間でトランプ大統領と3度、電話首脳会談を行いました。今日の電話首脳会談においては、最新の情勢の分析、そして、それへの対応について改めて協議を行いました。
北朝鮮が挑発行動を一方的にエスカレートさせている中において、韓国を含めた日米韓の緊密な連携が求められています。今後、日米韓、しっかりと連携しながら、さらには国際社会とともに、緊密に協力して北朝鮮に対する圧力を高め、北朝鮮の政策を変えさせていかなければならない、その点で完全に一致したところであります。
様々な情報に接しているわけでありますが、我々は冷静にしっかりと分析をしながら、対応策を各国と連携して協議し、そして、国民の命、財産を守るために万全を期していきたいと思います。」と述べていた。
これが公表されているすべてであり、これだけでは安倍首相がトランプ大統領に「時間の無駄」を説得したか明確でないが、1週間に3回の米国大統領との電話会談は異様である。
一方、マティス長官は10月3日、上院軍事委員会での公聴会に出席し、「国防総省はティラーソン氏の外交解決策を引き出す努力を完全に支持するが、米国と同盟国の防衛を今後も重視する」と発言した。トランプ大統領のツイッターとは正反対の態度を示したのであり、トランプ大統領が主要閣僚から信頼されていないことが浮き彫りになった。
ティラーソン長官はかねてから辞任のうわさがあり、今回の大統領との発言の食い違いをきっかけに4日、記者からあらためて辞任の可能性について問われ、「辞任を検討したことはない。トランプ大統領が掲げる議題(agendaであり、意味としては「問題」により近い)に現在も就任時と同様にコミットしている」と述べたと伝えられた。
しかし、米国のメディアはティラーソン氏の辞任の可能性に強い関心を見せ、NBCニュースは、「ペンス副大統領を含む政権高官が7月、ティラーソン氏に辞任しないよう説得していた。国防総省で開かれた安全保障チームと閣僚らとの会合でティラーソン氏はトランプ氏を「能なし(moron)」と呼んで批判した」などと報じた。
この報道に関し、ティラーソン氏は国務省で急遽記者会見し、「辞任を検討したことはない」とし、「トランプ大統領が自身の目標達成に向け役に立つと考える限り、国務長官のポストにとどまる」「トランプ氏は賢明な人物だ。彼は結果を出すことを要求する」などと述べた。また、トランプ氏を「能なし」と呼んだかについては、「そのような取るに足らない事項については語らない」とし、直接的な言及は避けた。
ティラーソン氏を説得したと言われたペンス副大統領は、声明を発表し、「辞任を巡りティラーソン氏と話し合ったことは一度もない」と述べた。そしてトランプ大統領はツイッターでNBCに対し謝罪を要求した。これに対しNBC側は、「ティラーソン長官は報道内容の主要な点について直接否定していないため、NBCは謝罪しない」とツイートした。NBCの今回の報道には複数の記者が関わったそうだ。
感想に過ぎないが、北朝鮮問題に関し、トランプ大統領は安倍首相の見解をほぼそのまま受け入れる一方、国務長官や国防長官からはまったく違った見解が示される形になっている。このような状況ははたして今後も続くのか。危惧を覚えてならない。
アーカイブ
- 2025年1月
- 2024年10月
- 2024年8月
- 2024年7月
- 2024年6月
- 2024年5月
- 2024年4月
- 2024年3月
- 2024年2月
- 2024年1月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2023年10月
- 2023年9月
- 2023年8月
- 2023年7月
- 2023年6月
- 2023年5月
- 2023年4月
- 2023年3月
- 2023年2月
- 2022年12月
- 2022年11月
- 2022年10月
- 2022年9月
- 2022年8月
- 2022年7月
- 2022年6月
- 2022年5月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年10月
- 2021年9月
- 2021年8月
- 2021年7月
- 2021年6月
- 2021年5月
- 2021年4月
- 2021年3月
- 2021年2月
- 2021年1月
- 2020年12月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年7月
- 2020年6月
- 2020年5月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年9月
- 2019年8月
- 2019年7月
- 2019年6月
- 2019年5月
- 2019年4月
- 2019年3月
- 2019年2月
- 2019年1月
- 2018年12月
- 2018年11月
- 2018年10月
- 2018年9月
- 2018年8月
- 2018年7月
- 2018年6月
- 2018年5月
- 2018年4月
- 2018年3月
- 2018年2月
- 2018年1月
- 2017年12月
- 2017年11月
- 2017年10月
- 2017年9月
- 2017年8月
- 2017年7月
- 2017年6月
- 2017年5月
- 2017年4月
- 2017年3月
- 2017年2月
- 2017年1月
- 2016年12月
- 2016年11月
- 2016年10月
- 2016年9月
- 2016年8月
- 2016年7月
- 2016年6月
- 2016年5月
- 2016年4月
- 2016年3月
- 2016年2月
- 2016年1月
- 2015年12月
- 2015年11月
- 2015年10月
- 2015年9月
- 2015年8月
- 2015年7月
- 2015年6月
- 2015年5月
- 2015年4月
- 2015年3月
- 2015年2月
- 2015年1月
- 2014年12月
- 2014年11月
- 2014年10月
- 2014年9月
- 2014年8月
- 2014年7月
- 2014年6月
- 2014年5月
- 2014年4月
- 2014年3月
- 2014年2月
- 2014年1月
- 2013年12月
- 2013年11月
- 2013年10月
- 2013年9月
- 2013年8月
- 2013年7月
- 2013年6月
- 2013年5月
- 2013年4月