オピニオン
2017.08.04
小野寺は安倍内閣で2回目の防衛相であり、能力、人柄、他国への配慮などいずれの点においても優れた人物であり、2012年から2年間の防衛相時代には高い信頼を勝ち得ていた。防衛省内で好かれていたからと言ってりっぱな防衛相とは限らないが、小野寺はどの角度から見ても優れた防衛相だった。安倍首相が稲田に替え、小野寺を防衛相に再任したのは、激しく傷ついた防衛省・自衛隊を立て直すのに賢明な人事であった。
しかるに、南スーダンへの自衛隊の派遣から発した防衛省・自衛隊の問題はこの人事で半分は解消されたが、あと半分は未解決のまま残っている。具体的には、稲田防衛相の下で発生した二つの問題、すなわち防衛省・自衛隊における隠ぺいと、いわゆる「文民統制(シビリアン・コントロール)」の欠如である。
自衛隊への期待は大きい。よりよい自衛隊になってもらいたい。その重要な任務にふさわしい法的根拠を整備したい。自衛隊員には誇りをもって任務についてほしい、またそのために必要な待遇をしてあげたいと思う。
しかし、自衛隊員を神格化して、過ちを犯すことはないという前提に立ってはならない。彼らも我々と同じ人間であり、過ちを犯すことも、それを隠蔽しようとすることもある。その前提で見ると、防衛相直轄の防衛監察は十分機能しないことが、今回露呈されたのではないか。
防衛監察は平成19年に設立された制度であり、その目的は、「不正や非違行為」、あるいはそれにつながる行為がある場合、あるいはあると疑いをもたれる場合に事実関係を調査すること、あるいは問題となる行為を未然に防止することなどである。この防衛監察は防衛大臣の直轄として行われ、その職員は事務官等と陸海空の自衛官、および検察庁、公正取引委員会からの出向者、公認会計士等から構成されている。
この職員構成を見ると、前述した防衛省員・自衛隊員も過ちを犯すことがあるという認識に立っているように見える。
また、防衛省・自衛隊は制度だけでは足りないことがありうるので、防衛省員や自衛隊員などに対して、「業務上の問題点、見聞きした不正行為等、コンプライアンス(注 法律順守)に関する問題点について、幅広い情報提供をお願いします」と呼び掛けている。いわゆる内部告発も奨励しているわけであるが、情報提供の方法としては「ホットライン・ボタンからの提供」を指示している。
これらの制度はよく考えられていると見えるが、ざんねんながら、今回のPKO部隊の日報隠ぺいに関しては機能したとはいいがたい。とくに、稲田防衛相が日報を不公表とすることを了承したか否かという最大問題については、不公表の決定が行われた際の状況は不明としつつ、「大臣が不公表を了承したという事実はない」、と結論だけ明言した。つまり、全体は不明としつつ、その中の一点だけ明確だとしたのであり、監察の信頼性に疑問を持たれたのは当然であった。状況が分からないのであれば、稲田大臣の関与についても断言できないとすべきだったのである。
ここに書いたことについては、不正確な点があるかもしれない。そうであれば、今後の審議において事実関係が明らかにされるにしたがい、当然訂正しなければならない。そのことを断ったうえであるが、特別監察には限界があることを指摘したい。それは今回の特別監察の報告書にも記載されていることである。
今すぐでないかもしれないが、自衛隊の活動は状況いかんで海外にも広がりうる。国会での答弁ではそのようなことはないというような趣旨の説明がなされたが、法律にはそれが可能だと記載されている。いわゆる「存立危機事態」である。その際、自衛隊は、例えば、北朝鮮軍と対峙し、北朝鮮軍か、日本の自衛隊か、どちらが先に発砲したか問題になることがありうる。そのような場合、だれからも、どの国から疑われても耐えうる真実の証明はできるか。もし今回の監察報告のような説得力のない結論だけ、つまり、自衛隊は先に発砲していないという結論だけ言っても到底信用してもらえないだろう。さらに言えば、本当に機能しない制度は、真実を隠蔽するには役に立つかもしれないが、実は真実の追及をそらすだけに罪が重い。
今後、防衛省・自衛隊において過ちが発生する場合に備えて、真の意味で第三者から構成される調査メカニズムを構築することが必要である。国の防衛にかかわることであり、いつもガラス張りにできないのは当然だが、どうしても必要な場合、総理大臣の判断で、あるいは国民の一定数、たとえば10万人が要求した場合、純粋に第三者の機関が、法的権限を持って、防衛相の管轄下でなく、独立して調査することが絶対的に必要である。それは、自衛隊を強くするためにも必要である。
内閣改造と自衛隊①
8月3日の内閣改造により、防衛相は稲田朋美から小野寺五典に交替した。稲田はPKO部隊の派遣、とくにいわゆる日報問題などをめぐり防衛省内の隠ぺいを防げず、国会では一貫した説明をできなかった。また、かねてからの個人的主義主張との整合性のなさを指摘されると落涙したり、シンガポールでのシャングリラ対話に出席した際は女性であることを誇示する発言をして顰蹙を買うなど国の安全保障に責任を持つ人物にはふさわしくない振る舞いを繰り返した。さらに森友学園問題など所管外のことについても自らの関与を問われ、一貫した説明をできなかった。小野寺は安倍内閣で2回目の防衛相であり、能力、人柄、他国への配慮などいずれの点においても優れた人物であり、2012年から2年間の防衛相時代には高い信頼を勝ち得ていた。防衛省内で好かれていたからと言ってりっぱな防衛相とは限らないが、小野寺はどの角度から見ても優れた防衛相だった。安倍首相が稲田に替え、小野寺を防衛相に再任したのは、激しく傷ついた防衛省・自衛隊を立て直すのに賢明な人事であった。
しかるに、南スーダンへの自衛隊の派遣から発した防衛省・自衛隊の問題はこの人事で半分は解消されたが、あと半分は未解決のまま残っている。具体的には、稲田防衛相の下で発生した二つの問題、すなわち防衛省・自衛隊における隠ぺいと、いわゆる「文民統制(シビリアン・コントロール)」の欠如である。
自衛隊への期待は大きい。よりよい自衛隊になってもらいたい。その重要な任務にふさわしい法的根拠を整備したい。自衛隊員には誇りをもって任務についてほしい、またそのために必要な待遇をしてあげたいと思う。
しかし、自衛隊員を神格化して、過ちを犯すことはないという前提に立ってはならない。彼らも我々と同じ人間であり、過ちを犯すことも、それを隠蔽しようとすることもある。その前提で見ると、防衛相直轄の防衛監察は十分機能しないことが、今回露呈されたのではないか。
防衛監察は平成19年に設立された制度であり、その目的は、「不正や非違行為」、あるいはそれにつながる行為がある場合、あるいはあると疑いをもたれる場合に事実関係を調査すること、あるいは問題となる行為を未然に防止することなどである。この防衛監察は防衛大臣の直轄として行われ、その職員は事務官等と陸海空の自衛官、および検察庁、公正取引委員会からの出向者、公認会計士等から構成されている。
この職員構成を見ると、前述した防衛省員・自衛隊員も過ちを犯すことがあるという認識に立っているように見える。
また、防衛省・自衛隊は制度だけでは足りないことがありうるので、防衛省員や自衛隊員などに対して、「業務上の問題点、見聞きした不正行為等、コンプライアンス(注 法律順守)に関する問題点について、幅広い情報提供をお願いします」と呼び掛けている。いわゆる内部告発も奨励しているわけであるが、情報提供の方法としては「ホットライン・ボタンからの提供」を指示している。
これらの制度はよく考えられていると見えるが、ざんねんながら、今回のPKO部隊の日報隠ぺいに関しては機能したとはいいがたい。とくに、稲田防衛相が日報を不公表とすることを了承したか否かという最大問題については、不公表の決定が行われた際の状況は不明としつつ、「大臣が不公表を了承したという事実はない」、と結論だけ明言した。つまり、全体は不明としつつ、その中の一点だけ明確だとしたのであり、監察の信頼性に疑問を持たれたのは当然であった。状況が分からないのであれば、稲田大臣の関与についても断言できないとすべきだったのである。
ここに書いたことについては、不正確な点があるかもしれない。そうであれば、今後の審議において事実関係が明らかにされるにしたがい、当然訂正しなければならない。そのことを断ったうえであるが、特別監察には限界があることを指摘したい。それは今回の特別監察の報告書にも記載されていることである。
今すぐでないかもしれないが、自衛隊の活動は状況いかんで海外にも広がりうる。国会での答弁ではそのようなことはないというような趣旨の説明がなされたが、法律にはそれが可能だと記載されている。いわゆる「存立危機事態」である。その際、自衛隊は、例えば、北朝鮮軍と対峙し、北朝鮮軍か、日本の自衛隊か、どちらが先に発砲したか問題になることがありうる。そのような場合、だれからも、どの国から疑われても耐えうる真実の証明はできるか。もし今回の監察報告のような説得力のない結論だけ、つまり、自衛隊は先に発砲していないという結論だけ言っても到底信用してもらえないだろう。さらに言えば、本当に機能しない制度は、真実を隠蔽するには役に立つかもしれないが、実は真実の追及をそらすだけに罪が重い。
今後、防衛省・自衛隊において過ちが発生する場合に備えて、真の意味で第三者から構成される調査メカニズムを構築することが必要である。国の防衛にかかわることであり、いつもガラス張りにできないのは当然だが、どうしても必要な場合、総理大臣の判断で、あるいは国民の一定数、たとえば10万人が要求した場合、純粋に第三者の機関が、法的権限を持って、防衛相の管轄下でなく、独立して調査することが絶対的に必要である。それは、自衛隊を強くするためにも必要である。
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