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2016.12.31

稲田防衛相の靖国神社参拝

 稲田防衛相は、安倍首相の真珠湾訪問に同行して帰国した後、靖国神社に参拝した。12月29日であった。
 この参拝について感想を求められた「米国務省員は、米政府は癒しと和解を進めていくことが重要だということを強調し続けるとコメントした」と、ウォールストリート・ジャーナル紙は29日報道した。

 我が国の閣僚による靖国神社参拝については、中国および韓国とともに米国の見解にも注意を払うことが必要である。日本国民の一部がかりに先の戦争を正当化しようとすれば、米国は賛同しないどころか強く批判するだろうからである。
 首相や閣僚が靖国神社に参拝することは、直接的には戦争の正当化でないとしても、そういう意味があると解される恐れがあり、そうなると戦争において多大の犠牲を払った中国など近隣諸国の感情は再度傷つけられ、ひいては日本との和解が困難になるので、米国はやはり警戒する。このような米国の姿勢はかねてから様々な機会に示されており、疑う余地はない。

 日本は米国と同様主権国家であり、同等の立場に立っているのでそのような米国の考えや批判に屈服する必要はないという反発があるかもしれないが、先の戦争に関するかぎり日本はそのような主張をすることはできない。日本が独立を回復した平和条約で日本は極東軍事裁判を含め戦争の処理を受け入れているからであり、また、そのことを無視して米国と対立すれば日本を守ってもらうことなど期待できなくなるからだ。

 稲田防衛相は靖国神社参拝について「未来志向に立ってしっかり日本と世界の平和を築いていきたいという思いで参拝をした」と説明している。また、「戦死者を慰霊することはどの国でも行っていることであり問題ない」ということも述べている。しかし、この未来志向も、戦死者の慰霊も米国が問題視していることでない。
 米国は戦争を美化すること、それにつながるようなことに反対しているのであり、もし、稲田防衛相が戦争指導者を祀っている靖国神社参拝にはそう意味がないという信ずるのであればそのことを説明すべきである。そのことにふれずに、どの国でも行っていることという側面だけを論じるのは論点のすり替えだ。

 この問題は安倍首相にも無縁のことでない。また、稲田防衛相以外の閣僚も繰り返してきたことであり、かれらの靖国神社参拝についても同じ問題がある。戦争を指導した人たちについての考えを整理したうえで、なおかつ靖国神社参拝は純粋に戦死者の慰霊のためだけだと思っているのなら、戦争指導者を神社がまつることの意味を堂々と説明してほしい。そうしないで、米国などの諸国が問題にしていることには沈黙を決め込んで、都合のよいことだけを口にするのは米国を軽視し、ひいては国益を害することにならないか。

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