5月, 2019 - 平和外交研究所 - Page 2
2019.05.15
オーストラリアに限ったことでない。中国系住民が増加している中小規模の国は、中国政府(共産党)、中国人、および中国マネーの三重の強い影響力に直面している。
まず、中国人の影響力である。オーストラリアの人口中、中国系は3.6%であり、ダントツに多い英国系(67.4%)、アイルランド系(8.7%)に次いでイタリアおよびドイツとともに3位タイである。2016年の国勢調査によると、中国系豪州人は121万3903人で人口の3.9%に上った。この数字だけ見れば中国の影響力はまだ大した問題になっていないようだが、中国からの移民が増加する可能性はイタリアやドイツなどとは比較にならないくらい大きい。中国系がアイルランド系を超えて2位になるのは遠い将来でないだろう。
中国はオーストラリアの50倍以上の人口があり、また、海外移住を望む国民の比率は高い。この点は日本人と全く異なる。英語圏であり、リベラルなオーストラリアやカナダなどには膨大な数の中国人が移住してくる可能性があるわけだ。
しかも、中国系住民は都市に集中する傾向があり、シドニーの中心場はチャイナタウンと化しているという。シドニー郊外のチャッツウッドでは中国系住民が34%に達しており、古くからの住民が「ハリケーン来襲のようだ」といっているそうだ。
中国系住民の急増はオーストラリア社会に複雑な影響を及ぼしている。いわゆる一世の中国系移民の多くは英語での意思疎通が困難であり、自然に中国人同士で中国語を話すことになる。中国語の新聞も必要になる。オーストラリアではすでに数種類の中国語新聞が発行されている。交通標識も中国語で表示されるようになっている。
政治の面でもこれまでになかった現象が起こっている。今回の選挙では中国系同士が対決する状況が生まれている。彼らが中語系住民の票を重視するのは当然だが、中国系でない候補者にとっても中国系住民の票を獲得できるかが課題となり、片言の中国語も使って、当選した暁には中国系住民のための政策を実行すると訴えるという。
モリソン首相は今年2月から中国人が使う無料通信アプリのWeChat(微信)で中国語での発信を始めた。そうすると労働党のショーテン党首も翌月、WeChat上で質問を受け付け、中国語で回答するなどのサービスを始めた。5月1日には中国語が堪能な同党のラッド元首相が中国語で政策を訴える動画を始めた。
オーストラリアの政治では、これまでアジア系住民には「竹の天井」があると言われてきた。しかし、今回の選挙はこれに穴が開くきっかけになると言われている。
欧州系住民の中にはオーストラリア社会の中国化と安全保障面での中国の影響の増大を懸念する人が出てきており、事態は深刻化しつつあることを示す事例が報告されている。
チャールズ・スタート大学のクライブ・ハミルトン教授の新著「静かなる侵略―豪州での中国の影響」の出版にも、また、その発表会の開催にも中国系住民、あるいは市民団体などから反対の圧力があったという。
2017年にはシドニー大学やニューカッスル大学などで、中国からの留学生が、「中国が国と認めない台湾を教員が「国」と言った」、「中国が領有を主張する地域がインド側に含まれた地図を授業で使用した」などを理由に教員を糾弾する事件が発生した。
中国系住民の政治的要求は経済的な圧力を伴うことがある。多くの大学は、日本と同様、中国からの留学生がいなくなると財政面で困難に陥るそうだ。
2017年11月には、野党・労働党のダスティアリ議員が中国人実業家から金銭を受とった見返りに、南シナ海問題で中国の立場を擁護する発言を行って物議をかもした。翌月、ターンブル首相(当時)は外国人からの献金を禁止すると発表した。
オーストラリア政府は2012年、連邦債などに約5億円を投資すれば永住権の申請資格を与える制度を導入した。取得者の87%が中国人だという。
中国政府の影響が及んでいるか、表面的にはなさそうだが、中国系住民も留学生も実際には中国政府の意向を体して動くことがよくあり、前述の南シナ海に関するケースを見ても中国系住民やその資力は事実上オーストラリア政府の外交にも影響を与え始めている。
オーストラリアで起こっていることをまとめたのは、他国にとってもモデルとなるからである。カナダはオーストラリアとよく似た状況にあり、オーストラリアで起こっている現象はほぼすべてカナダでも起こっている。カナダが中国人や中国企業にとって魅力ある国であることはファーウェイの孟晩舟副会長の逮捕事件の際にも見受けられたとおりである。
オーストラリアの中国化?
オーストラリアでは5月18日に行われる総選挙を前に、中国の影響力の増大に関心が高まっている。オーストラリアに限ったことでない。中国系住民が増加している中小規模の国は、中国政府(共産党)、中国人、および中国マネーの三重の強い影響力に直面している。
まず、中国人の影響力である。オーストラリアの人口中、中国系は3.6%であり、ダントツに多い英国系(67.4%)、アイルランド系(8.7%)に次いでイタリアおよびドイツとともに3位タイである。2016年の国勢調査によると、中国系豪州人は121万3903人で人口の3.9%に上った。この数字だけ見れば中国の影響力はまだ大した問題になっていないようだが、中国からの移民が増加する可能性はイタリアやドイツなどとは比較にならないくらい大きい。中国系がアイルランド系を超えて2位になるのは遠い将来でないだろう。
中国はオーストラリアの50倍以上の人口があり、また、海外移住を望む国民の比率は高い。この点は日本人と全く異なる。英語圏であり、リベラルなオーストラリアやカナダなどには膨大な数の中国人が移住してくる可能性があるわけだ。
しかも、中国系住民は都市に集中する傾向があり、シドニーの中心場はチャイナタウンと化しているという。シドニー郊外のチャッツウッドでは中国系住民が34%に達しており、古くからの住民が「ハリケーン来襲のようだ」といっているそうだ。
中国系住民の急増はオーストラリア社会に複雑な影響を及ぼしている。いわゆる一世の中国系移民の多くは英語での意思疎通が困難であり、自然に中国人同士で中国語を話すことになる。中国語の新聞も必要になる。オーストラリアではすでに数種類の中国語新聞が発行されている。交通標識も中国語で表示されるようになっている。
政治の面でもこれまでになかった現象が起こっている。今回の選挙では中国系同士が対決する状況が生まれている。彼らが中語系住民の票を重視するのは当然だが、中国系でない候補者にとっても中国系住民の票を獲得できるかが課題となり、片言の中国語も使って、当選した暁には中国系住民のための政策を実行すると訴えるという。
モリソン首相は今年2月から中国人が使う無料通信アプリのWeChat(微信)で中国語での発信を始めた。そうすると労働党のショーテン党首も翌月、WeChat上で質問を受け付け、中国語で回答するなどのサービスを始めた。5月1日には中国語が堪能な同党のラッド元首相が中国語で政策を訴える動画を始めた。
オーストラリアの政治では、これまでアジア系住民には「竹の天井」があると言われてきた。しかし、今回の選挙はこれに穴が開くきっかけになると言われている。
欧州系住民の中にはオーストラリア社会の中国化と安全保障面での中国の影響の増大を懸念する人が出てきており、事態は深刻化しつつあることを示す事例が報告されている。
チャールズ・スタート大学のクライブ・ハミルトン教授の新著「静かなる侵略―豪州での中国の影響」の出版にも、また、その発表会の開催にも中国系住民、あるいは市民団体などから反対の圧力があったという。
2017年にはシドニー大学やニューカッスル大学などで、中国からの留学生が、「中国が国と認めない台湾を教員が「国」と言った」、「中国が領有を主張する地域がインド側に含まれた地図を授業で使用した」などを理由に教員を糾弾する事件が発生した。
中国系住民の政治的要求は経済的な圧力を伴うことがある。多くの大学は、日本と同様、中国からの留学生がいなくなると財政面で困難に陥るそうだ。
2017年11月には、野党・労働党のダスティアリ議員が中国人実業家から金銭を受とった見返りに、南シナ海問題で中国の立場を擁護する発言を行って物議をかもした。翌月、ターンブル首相(当時)は外国人からの献金を禁止すると発表した。
オーストラリア政府は2012年、連邦債などに約5億円を投資すれば永住権の申請資格を与える制度を導入した。取得者の87%が中国人だという。
中国政府の影響が及んでいるか、表面的にはなさそうだが、中国系住民も留学生も実際には中国政府の意向を体して動くことがよくあり、前述の南シナ海に関するケースを見ても中国系住民やその資力は事実上オーストラリア政府の外交にも影響を与え始めている。
オーストラリアで起こっていることをまとめたのは、他国にとってもモデルとなるからである。カナダはオーストラリアとよく似た状況にあり、オーストラリアで起こっている現象はほぼすべてカナダでも起こっている。カナダが中国人や中国企業にとって魅力ある国であることはファーウェイの孟晩舟副会長の逮捕事件の際にも見受けられたとおりである。
2019.05.08
日本のホンダや日産はBrexitを目前に控えた英国からの撤退を発表して話題になったばかりである。日本企業だけでない。独BMWも生産休止を決めたし、英国自身の自動車最大手であるジャガー・ランドローバーは4500人を削減したという。生産停止と工場閉鎖はまったく同じでないが、英国のEUからの離脱の影響が及んでいる点では大きな違いはない。
日本企業とは逆に、中国企業は英国への進出を強めている。経緯的には、2015年10月に習近平中国主席が英国を訪問した際に結ばれた総額400億ポンド(約7兆4千億円)の契約の履行なのであろう。
英中接近の傾向は習主席の訪英前から目立っていた。メイ首相の前任者であったキャメロン首相は中国との関係増進に熱心であり、習近平主席の英国訪問の約半年前(2015年の3月)、英国は中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加を表目した。英国は米国から慎重に対応するようくぎを刺されていたにもかかわらず、そうしたのであった。英国の決定がきっかけとなり、他の欧州諸国が雪崩を打って参加したことは記憶に新しい。習主席の訪英は英中関係進展の象徴となり、習氏は英国で「両国関係は黄金時代に入った」と宣言した。
英国側に問題がないわけではない。習主席の訪英の際合意された、英国が進める原子力発電事業への中国からの投資は、英国はそこまでやるのかという印象を各国に与えた。後に、メイ首相も見直しすると表明している。
ファーウェイについても英国の安全保障上の理由から反対する声があり、英国政府も一枚岩でない。メイ首相は5月1日、ファーウェイに関する国家安全保障会議の討議内容を漏らしたとして、ウィリアムソン国防相を解任した。問題になったのは、英国がファーウェイに対し次世代通信規格「5G」ネットワーク構築への参入を制限付きで認める方針だという報道であった。
英国がEUから離脱することは、日本企業と同様中国企業にとっても懸念材料なはずであるが、それを補うメリットがあるのだろう。それはなにか。ファーウェイにとってはグローバルに事業を展開する上で英国は重要な拠点となるのであろう。その背景には中国政府と英国政府との関係強化があり、ファーウェイにとって中国政府は力強い後ろ盾になっている。
ファーウェイは米国からにらまれている。米司法省はさる1月末、同社と創業者任正非の娘で同社最高財務責任者(CFO)兼副会長の孟晩舟被告を、銀行詐欺、通信詐欺、司法妨害のほか、米通信機器大手Tモバイルから技術を盗もうとした罪で起訴した。
しかし、任正非は意気軒昂であり、「アメリカに押しつぶされるなどあり得ない」とBBCに語っている。それは口先だけの強がりではない。ファーウェイは中国政府の方針に従って行動しているのであり、庇護を受けるのは当然だという認識がある。
ファーウェイは、中国で何かと話題になる国有企業でなく、私企業である。各国では、任正非が以前解放軍の軍人であったことを理由に、中国政府の影響が強いと見られている。その通りだが、そのような事情がなくても中国政府と中国の私企業の関係は密接であり、やはり中国の「国家資本主義」の一環と見るべきである。
ファーウェイが日本やドイツの企業のようにBrexitを恐れないのは、損を被っても経営には響かない、また、損失以上に利益を得られるという認識があるからであろう。
ファーウェイによる英国への投資拡大に協力した英中両国政府とも非常にしたたかである。英国は、米国の強い警戒心にもかかわらず中国と関係改善をすれすれのところまで進めようとしている。日本におけるイメージと違って、英国には本件以外のところでも、日本などにはまねできない大胆なところがある。
中国については、発展途上にある欧州との関係が今後どのように展開していくか注目されるが、そのなかで、ファーウェイのような「私企業」をどのように見るべきか、WTO改革においても問われなければならない。
なぜ中国企業はBrexitを恐れないか
中国企業のファーウェイは英国ケンブリッジ郊外Sawstonに400人規模の工場を建設するという。当初は研究開発目的に限られるが、いずれ業務を拡大し、この地を中心に英国各地へ進出するとも言われている。日本のホンダや日産はBrexitを目前に控えた英国からの撤退を発表して話題になったばかりである。日本企業だけでない。独BMWも生産休止を決めたし、英国自身の自動車最大手であるジャガー・ランドローバーは4500人を削減したという。生産停止と工場閉鎖はまったく同じでないが、英国のEUからの離脱の影響が及んでいる点では大きな違いはない。
日本企業とは逆に、中国企業は英国への進出を強めている。経緯的には、2015年10月に習近平中国主席が英国を訪問した際に結ばれた総額400億ポンド(約7兆4千億円)の契約の履行なのであろう。
英中接近の傾向は習主席の訪英前から目立っていた。メイ首相の前任者であったキャメロン首相は中国との関係増進に熱心であり、習近平主席の英国訪問の約半年前(2015年の3月)、英国は中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加を表目した。英国は米国から慎重に対応するようくぎを刺されていたにもかかわらず、そうしたのであった。英国の決定がきっかけとなり、他の欧州諸国が雪崩を打って参加したことは記憶に新しい。習主席の訪英は英中関係進展の象徴となり、習氏は英国で「両国関係は黄金時代に入った」と宣言した。
英国側に問題がないわけではない。習主席の訪英の際合意された、英国が進める原子力発電事業への中国からの投資は、英国はそこまでやるのかという印象を各国に与えた。後に、メイ首相も見直しすると表明している。
ファーウェイについても英国の安全保障上の理由から反対する声があり、英国政府も一枚岩でない。メイ首相は5月1日、ファーウェイに関する国家安全保障会議の討議内容を漏らしたとして、ウィリアムソン国防相を解任した。問題になったのは、英国がファーウェイに対し次世代通信規格「5G」ネットワーク構築への参入を制限付きで認める方針だという報道であった。
英国がEUから離脱することは、日本企業と同様中国企業にとっても懸念材料なはずであるが、それを補うメリットがあるのだろう。それはなにか。ファーウェイにとってはグローバルに事業を展開する上で英国は重要な拠点となるのであろう。その背景には中国政府と英国政府との関係強化があり、ファーウェイにとって中国政府は力強い後ろ盾になっている。
ファーウェイは米国からにらまれている。米司法省はさる1月末、同社と創業者任正非の娘で同社最高財務責任者(CFO)兼副会長の孟晩舟被告を、銀行詐欺、通信詐欺、司法妨害のほか、米通信機器大手Tモバイルから技術を盗もうとした罪で起訴した。
しかし、任正非は意気軒昂であり、「アメリカに押しつぶされるなどあり得ない」とBBCに語っている。それは口先だけの強がりではない。ファーウェイは中国政府の方針に従って行動しているのであり、庇護を受けるのは当然だという認識がある。
ファーウェイは、中国で何かと話題になる国有企業でなく、私企業である。各国では、任正非が以前解放軍の軍人であったことを理由に、中国政府の影響が強いと見られている。その通りだが、そのような事情がなくても中国政府と中国の私企業の関係は密接であり、やはり中国の「国家資本主義」の一環と見るべきである。
ファーウェイが日本やドイツの企業のようにBrexitを恐れないのは、損を被っても経営には響かない、また、損失以上に利益を得られるという認識があるからであろう。
ファーウェイによる英国への投資拡大に協力した英中両国政府とも非常にしたたかである。英国は、米国の強い警戒心にもかかわらず中国と関係改善をすれすれのところまで進めようとしている。日本におけるイメージと違って、英国には本件以外のところでも、日本などにはまねできない大胆なところがある。
中国については、発展途上にある欧州との関係が今後どのように展開していくか注目されるが、そのなかで、ファーウェイのような「私企業」をどのように見るべきか、WTO改革においても問われなければならない。
2019.05.04
再検討会議の開催期間は準備委員会の約2倍の長さである。再検討会議にはオブザーバーとしてNGOも多数参加する。
再検討会議は1970年の条約発効以来、一度も欠かさず5年ごとに開催されてきたが、会議の結論が出せたのはその半分にも満たなかった。大きな会議であればあるほど人も資金もかかるのだが、会議を廃止するのは核兵器の拡散を防止する観点からもっとひどい結果になると考えられている。NPTで激しく対立している核兵器国と非核兵器国もこの点では考えが一致している。
NPTには成立当初からいくつか矛盾があった。最大の矛盾は、一部の国、すなわち米国、ロシア、英国、フランスおよび中国の5か国は核兵器の保有が認められているが、それ以外の国には認められていないことであり、NPTは不平等条約である。
なぜそんな条約を作ったのか。もともと核兵器を世界からなくしてしまおうという交渉が始められたが、どうしてもそれは成立しなかった。かといって、各国の核開発を野放しにするとあまりにも危険なので、次善の策として核兵器の拡散を禁止することとしたのであった。核兵器の完全廃棄を理想とすれば、拡散の防止は「次善の策」どころか「三善の策」くらいかもしれないが、ともかくそれしか現実的な方法はなかったのである。
NPTには拡散防止の効果があったと見られている。北朝鮮以外、NPTの加盟国で核兵器を開発した国はない。
北朝鮮の場合も条約違反とは言い切れない面がある。北朝鮮は、NPTに入っていたが、1993年に最初の脱退宣言、2003年に確定的な宣言をしていたからである。ただし、加盟国の中には北朝鮮の脱退宣言を認めざるをえないとする国とあくまで認めない国があり、我が国は認めない国の一つであるが、米国は認めている。
イスラエル、インド、パキスタンは核兵器を保有しているが、条約違反の問題はない。最初からNPTに参加していないからである。
南アフリカ共和国はかつて一時期核兵器を開発・保有していたが、のちに放棄してからNPTに参加したので、やはり条約上の問題は起きなかった。
肝心の核兵器の廃絶問題については、NPTはあきらめたのではなく、核兵器保有国に廃棄を義務付けた。しかし、期限は記載されておらず、また、条約の実際の文言は違っている(複雑)が、完全な世界政府が成立が条件になっていると解する余地がある。そのため、核兵器国による廃棄の努力は足りないとする国と、現実的には最大限実行してきたという国の意見が激しく対立する結果になっている。
そのうえ、最近の状況はさらに悪化してきた。トランプ政権はオバマ大統領時代と違って核戦力の増強に熱心であり、2018年2月に発表した核戦略見直し(NPR)では、新たに小型核弾頭を開発する方針を表明した。小型核は一種の「使いやすさ」があるだけに危険性が高いと見られてきた問題の兵器である。また、米国は今年2月、米ロの中距離核戦力(INF)全廃条約から離脱を通告した。
一方、ロシアのプーチン大統領はトランプ政権の成立以前から核兵器の必要性、有用性を肯定的に見る立場を何回も表明している。
国連軍縮部門トップの中満泉・事務次長は世界の核軍縮状況の悪化を懸念し、今回の会合で、「残念なことに(NPTの)安定性、信頼性を促す対話は次第になくなってきた。国際的な安全保障環境における昨今の動きは、冷戦後に確立された取り決めを脅かしている」と訴えた。
今回の準備委員会は第3回目であり、過去2回とも対立状況は解けなかった。率直に言って、今回の準備委員会で「勧告」が採択される公算は高くない。次回再検討会議まで1年しかないが、日本政府には現実的でありながら、核軍縮を前進させる方策を何とかしてひねり出してもらいたい。
核不拡散条約(NPT)再検討会議の準備委員会
2020年、NPTの再検討会議が開催される。そのための準備委員会が4月29日、米ニューヨークの国連本部で始まった。準備委員会といっても191の国と地域が参加し、5月10日まで2週間かけて開催される大会議である。再検討会議の開催期間は準備委員会の約2倍の長さである。再検討会議にはオブザーバーとしてNGOも多数参加する。
再検討会議は1970年の条約発効以来、一度も欠かさず5年ごとに開催されてきたが、会議の結論が出せたのはその半分にも満たなかった。大きな会議であればあるほど人も資金もかかるのだが、会議を廃止するのは核兵器の拡散を防止する観点からもっとひどい結果になると考えられている。NPTで激しく対立している核兵器国と非核兵器国もこの点では考えが一致している。
NPTには成立当初からいくつか矛盾があった。最大の矛盾は、一部の国、すなわち米国、ロシア、英国、フランスおよび中国の5か国は核兵器の保有が認められているが、それ以外の国には認められていないことであり、NPTは不平等条約である。
なぜそんな条約を作ったのか。もともと核兵器を世界からなくしてしまおうという交渉が始められたが、どうしてもそれは成立しなかった。かといって、各国の核開発を野放しにするとあまりにも危険なので、次善の策として核兵器の拡散を禁止することとしたのであった。核兵器の完全廃棄を理想とすれば、拡散の防止は「次善の策」どころか「三善の策」くらいかもしれないが、ともかくそれしか現実的な方法はなかったのである。
NPTには拡散防止の効果があったと見られている。北朝鮮以外、NPTの加盟国で核兵器を開発した国はない。
北朝鮮の場合も条約違反とは言い切れない面がある。北朝鮮は、NPTに入っていたが、1993年に最初の脱退宣言、2003年に確定的な宣言をしていたからである。ただし、加盟国の中には北朝鮮の脱退宣言を認めざるをえないとする国とあくまで認めない国があり、我が国は認めない国の一つであるが、米国は認めている。
イスラエル、インド、パキスタンは核兵器を保有しているが、条約違反の問題はない。最初からNPTに参加していないからである。
南アフリカ共和国はかつて一時期核兵器を開発・保有していたが、のちに放棄してからNPTに参加したので、やはり条約上の問題は起きなかった。
肝心の核兵器の廃絶問題については、NPTはあきらめたのではなく、核兵器保有国に廃棄を義務付けた。しかし、期限は記載されておらず、また、条約の実際の文言は違っている(複雑)が、完全な世界政府が成立が条件になっていると解する余地がある。そのため、核兵器国による廃棄の努力は足りないとする国と、現実的には最大限実行してきたという国の意見が激しく対立する結果になっている。
そのうえ、最近の状況はさらに悪化してきた。トランプ政権はオバマ大統領時代と違って核戦力の増強に熱心であり、2018年2月に発表した核戦略見直し(NPR)では、新たに小型核弾頭を開発する方針を表明した。小型核は一種の「使いやすさ」があるだけに危険性が高いと見られてきた問題の兵器である。また、米国は今年2月、米ロの中距離核戦力(INF)全廃条約から離脱を通告した。
一方、ロシアのプーチン大統領はトランプ政権の成立以前から核兵器の必要性、有用性を肯定的に見る立場を何回も表明している。
国連軍縮部門トップの中満泉・事務次長は世界の核軍縮状況の悪化を懸念し、今回の会合で、「残念なことに(NPTの)安定性、信頼性を促す対話は次第になくなってきた。国際的な安全保障環境における昨今の動きは、冷戦後に確立された取り決めを脅かしている」と訴えた。
今回の準備委員会は第3回目であり、過去2回とも対立状況は解けなかった。率直に言って、今回の準備委員会で「勧告」が採択される公算は高くない。次回再検討会議まで1年しかないが、日本政府には現実的でありながら、核軍縮を前進させる方策を何とかしてひねり出してもらいたい。
最近の投稿
アーカイブ
- 2024年10月
- 2024年8月
- 2024年7月
- 2024年6月
- 2024年5月
- 2024年4月
- 2024年3月
- 2024年2月
- 2024年1月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2023年10月
- 2023年9月
- 2023年8月
- 2023年7月
- 2023年6月
- 2023年5月
- 2023年4月
- 2023年3月
- 2023年2月
- 2022年12月
- 2022年11月
- 2022年10月
- 2022年9月
- 2022年8月
- 2022年7月
- 2022年6月
- 2022年5月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年10月
- 2021年9月
- 2021年8月
- 2021年7月
- 2021年6月
- 2021年5月
- 2021年4月
- 2021年3月
- 2021年2月
- 2021年1月
- 2020年12月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年7月
- 2020年6月
- 2020年5月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年9月
- 2019年8月
- 2019年7月
- 2019年6月
- 2019年5月
- 2019年4月
- 2019年3月
- 2019年2月
- 2019年1月
- 2018年12月
- 2018年11月
- 2018年10月
- 2018年9月
- 2018年8月
- 2018年7月
- 2018年6月
- 2018年5月
- 2018年4月
- 2018年3月
- 2018年2月
- 2018年1月
- 2017年12月
- 2017年11月
- 2017年10月
- 2017年9月
- 2017年8月
- 2017年7月
- 2017年6月
- 2017年5月
- 2017年4月
- 2017年3月
- 2017年2月
- 2017年1月
- 2016年12月
- 2016年11月
- 2016年10月
- 2016年9月
- 2016年8月
- 2016年7月
- 2016年6月
- 2016年5月
- 2016年4月
- 2016年3月
- 2016年2月
- 2016年1月
- 2015年12月
- 2015年11月
- 2015年10月
- 2015年9月
- 2015年8月
- 2015年7月
- 2015年6月
- 2015年5月
- 2015年4月
- 2015年3月
- 2015年2月
- 2015年1月
- 2014年12月
- 2014年11月
- 2014年10月
- 2014年9月
- 2014年8月
- 2014年7月
- 2014年6月
- 2014年5月
- 2014年4月
- 2014年3月
- 2014年2月
- 2014年1月
- 2013年12月
- 2013年11月
- 2013年10月
- 2013年9月
- 2013年8月
- 2013年7月
- 2013年6月
- 2013年5月
- 2013年4月